戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#46『フィーネのせい』

 何かをするたびに意識を失う流は、今回もどこかのベッドで目が覚めた。またS.O.N.G.の治療室で、今回は拘束などはされているわけではなかった。

 

「目覚めたデスよ!」

 

「了子さんを呼んでくる」

 

 ベッドの横に座っていた切歌と調は、流が目を覚ますと、調はすぐに部屋から出ていった。

 拘束されていなかったので体勢をあげる。

 

「切歌おはよう」

 

「おはよう……じゃないデスよ! 流がいなかったからすっごく大変だったんデスからね! 調が」

 

「それはすまなかった。切歌は何をして忙しかったの?」

 

 メールで調が弱音を吐くほど忙しかったらしい。ならば、切歌も何かしらを手伝ったはずなので、手伝ったことを聞いた。

 

「特に何も。調が忙しかっただけデス」

 

「……ん? 手伝わなかったの?」

 

「いえ、そのー。私が手伝うとデスね? 『手伝ってくれるのは嬉しいけど、切ちゃんには他にやる事があるはずだから、家事は私に任せて』って言われるんデスよ。だから、何もしてないデス」

 

 調は料理の味にこだわりまくる人だ。最近は料理以外の掃除洗濯もきっちりやりきる事にハマりつつある。そんな中クリスとマリアと切歌。それに流がいなくても当たり前のように遊びに来る響と未来、板場(アニメちゃん)達が部屋を荒らす。

 

 人が動けばホコリが舞い、作る料理の量も増え、流がいないとだらけ出す(クリス)などがいたので、その全ての忙しさを一人で捌こうとしたのだろう。もちろん切歌やマリアなどは手伝ってくれようとしたはずだが、調の完璧さには届かず、戦力外通告されたのだと何となしにわかる。

 

「戦力外通告されたのか」

 

「デスデス。なので、後で調を褒めてあげてほしいデスよ。調は流を気に入っていますからね。この前、流お兄ちゃんとか部屋でボソボソ言ってましたし」

 

「それは言わない方がいいやつだったのでは?」

 

 切歌の暴露に流は頭を傾げると、何人かが入ってきた。その中にはもちろん、人を呼びに行った調もいた。

 

「それは言わない方が良かった事実。切ちゃんは今日の夕飯のメイン抜き。絶対に撤回しない」

 

「調ぇぇえええええ!? 謝りますから、許して欲しいデスよ! 流が帰ってきたらお祝いをするって言ってましたよね? 豪華なメイン料理が食べられないのはひもじいデスよ!!」

 

「絶対駄目」

 

 調が顔を真っ赤にして入ってきて、切歌に私刑を言い渡した。切歌は調に泣きつくが、それすらも避けられた。あれは相当怒っているのが流にも分かる。

 何故流を兄呼びした事を知らせただけで、調がキレるのかイマイチ分からないが、触れたら流も怒られそうなので黙ることにした。

 

「……」

 

『なるほど。調ちゃんも女の子って事ですね』

 

『セレナはこういう話題の時に、ツッコミを入れられないと気が済まないのか? 乙女の秘密を容赦なく暴露するセレナはお仕置き!』

 

『あははは! 喰らいませんよ!』

 

 奏もセレナもベッドの横に置いてある、ガングニールのペンダントから、普通に出てきて、いつも通りセレナは奏の制裁を受けている。

 セレナのせいで調が何故怒っていたのか、流は理解出来てしまった。身近な人でそういう事をすることはあるらしいし、とそれっぽい事で頭の中で結論づけて、忘れることにする。

 

 調に続くように了子とクリスも入ってきていた。クリスの右頬には大きなガーゼが貼られていた。暴走流に殴られて切れた場所だろう。

 

「流の持ってたガングニールの欠片があんな副作用を起こすなんて分かってなかったわ。単純に私の見落としね。ごめんなさい」

 

 了子は入ってきてすぐ、流に頭を下げた。

 

「ママが謝ることじゃないよ。それにママの言葉を無視して戦場に赴いたわけだし」

 

「……そうよね〜。私は止めたのに勝手に行った流が悪いわけですし? まあよかった、無事で。勝手だけど、ガングニールの欠片を改造しておいたわよ。プロテクトを掛けて、イグナイトの暴走機構と共鳴しないようにしておいたわ」

 

 そう言って了子は流のベッドの横にある欠片を指さした。今までの欠片に何かが付属してついているのが分かる。

 

「それってガングニールと一緒に戦っても、便乗でフォニックゲインを得られないってこと?」

 

「そうね。そういった共鳴が起こらないようにしたから、多分得られなくなったわ」

 

 今まで何だかんだお世話になっていたガングニールの共鳴は二度と起きないようだ。今の流はlinkerを使えば力が使えるので問題は無いが、linkerとかいう時限式強化ではない方法が使えなくなったのは少しだけ痛い。

 

 了子は必要なことだけ言うと、失くした端末の代わりを用意しておいたことと、その中に欠片の改修内容の詳細を入れておいたから、見ておくように言ってから、了子は部屋から出ていった。逃げるように部屋から出ていった。

 

「……」

 

「……ごめん」

 

「流ぇええ!!」

 

 クリスは俯いてその場に立っていた。流は無事に帰ってくる約束や、連絡を定期的に入れる約束、クリスを守ると言ったのに傷つけたことなど、色々謝ることがあるので、とりあえず一言謝った。

 すると、こみ上げていたモノが決壊したようで、クリスは叫びながら流に抱きついた。流はクリスをしっかりと抱き返して、クリスの背を擦る。

 

 クリスを受け止める時に上げた腕の内、右腕がデュランダルの紋様が浮かんでいるだけでなく、金属のままになっていることに気がついた。

 とうとう人間の皮膚には戻らなくなったようだ。この状態の方が丈夫だし、皮膚感覚もそのままなのでそこまで問題にはならないが、半袖のシャツを外で着れなくなったことは確かだろう。真夏に手袋もしないといけない。

 

「なんて無茶してるんだよ! 了子から聞いたぞ! ボロボロで日本に帰ってきたみたいじゃねえか! 死んだらどうするんだよ。パパやママと同じようにあたしを置いていこうとするな!」

 

「ごめん。ちょっと敵が強くてさ。疲れている時にlinker使ったら、ぶしゃーって血が出ちゃって」

 

「linkerは体調が悪い時に使うものではない」

 

「そうデス。とっても危ないことをしたんデスよ」

 

 linkerを使う調と切歌はしっかりlinkerの危険性を熟知している。体に無理を強いるlinkerという劇薬を使うには、常に体調を気にしていないと大変なことになる。

 今は洗浄方法やウェルによってlinkerが改良されたので、慣れていればそこまで酷い負荷にはならないが、それでも気をつけないといけない劇薬である事は、二人は忘れていない。

 

「それに腕だってデュランダルみたいになっちまってるし、目もデュランダルみたいな色。髪も金と水色が一房ずつとか、無理しすぎだ!」

 

 どうやら目もやはり治らず、前髪が一房ずつ金色と水色に変わってしまったようだ。どんどん日本人のカラーリングか遠ざかっている。

 

「ごめん」

 

 クリスがひとしきり流の胸で泣いた後、流に抱きつくようにしてベッドに上がっていたが降りた。クリスはベッドの横で、イチイバルを胸元から取り出した。

 

「え?」

 

「Killiter……」

 

 治療室でイチイバルを変身したクリスが何食わぬ顔で、ベッドに座っている流の上に跨って乗り、両肩を掴み、流の顔にクリスの顔が近くまで接近した。足にアーマーが刺さっていて痛いが、それを言える状況ではないことを理解する。

 

「な、なに?」

 

 クリスの目に光が映っていなく、流は久しぶりに本気でビビる。流の右腕は何故かこちらをガン見している調に握られ、切歌はそっぽを向きながら流の左手を握っている。

 二人はもちろんシュルシャガナとイガリマを纏っていた。

 

「クリス先輩に真顔で命令されたからデス。私は悪くないデス。あんな怖い顔でお願い(イチイバル)をされたら、誰でも聞いてしまうのデスよ」

 

 切歌がブツブツとそんな事を言っている。お願い(イチイバル)とはいったいどんな脅しなのか。これからそのお願いをされるのだろうなと彼は思った。

 

「今言ったことは全部許してやる。流が無理するのも、私達のためだって分かっているからな。でも、許せないことが一つある」

 

「えーと、クリスの胸を触った回数よりも、調の胸を触った回数の方が多いこと?」

 

 切歌が本気で怯えていることに流は危機感を覚え、クリスの気が逸れそうな怒られる案件を口にして、位相をズラして逃げようとする。

 

 だが、位相が何故かうまく変えることが出来ない。いや、位相自体は変えている。しかし位相がすぐに戻されているのだ。

 

「流が位相をズラして一度場をリセットしようとする事は分かってた。だから、了子に対策を講じてもらったんだよ。シンフォギアによる三重奏。シンフォギアでも調律出来ない位相まで持っていかれる前の位相で、調律をして、流を逃がさないようにする。一人だと調律が届く前に逃げられるけど、三人の調律なら理論上逃げられないらしいけど、うまく行ったみたいだな」

 

『……助けて。これ絶対に不味い』

 

『自分で作り出し修羅場なんだから、自分で処理しろ』

 

『こういうのって実際にあるんですね。どうなるのか楽しみです』

 

 いつも味方でいてくれる奏とセレナは、今回は助けてくれないようだ。

 

 流の位相変化はこの世界で人間が常にいる位相から、少しずつズラしていくものだ。だから、シンフォギアでは調律出来ない位相に持っていかれる前に、常に調律し続けるというのが弱点でもある。だが

 調律は常に発揮しているものではない。しかしその弱点をシンフォギア三人を用意することによって補ったようだ。

 

「私も結構怒ってる。家事が凄く忙しかった事はしょうがないけど、怪我をしないって約束を破ったのは駄目」

 

「そ、そうデス。決してクリス先輩のお願いと夕飯の為ではないデスよ?」

 

 調は割と頬をふくらませて怒っていて、切歌は脅しと買収に負けたようだ。

 

「どういう事だ!」

 

「クリス先輩のは大きいだけ。将来垂れるのが約束されてる」

 

「うるせえ、ちっぱい」

 

「……シュルシャガナの錆にしてあげる」

 

「風穴開けられても知らねえからな?」

 

 クリスは流から手を離し、調に銃を向けた。調はγ式・卍火車でヘッドギアから丸ノコを出してクリスに近づける。

 内心謝りながら流は手を離してくれた隙に逃げようとするが。

 

「二人共! 喧嘩はやめるデスよ! 流が逃げますよ!」

 

 その企みもここで切歌によって、振り出しに戻された。

 

「……っと危ねぇ、流の策略か」

 

「でも事実」

 

「調には後で訓練に付き合ってもらうからな」

 

「望むところ」

 

 クリスと調の戦いは後で決着をつけることになり、流から離れていた手が戻ってきた。流は逃走に失敗した。

 

「それで許せないことってのは、海外で女を買ったろ? もしくは手を出した」

 

「はい?」

 

「こんな所に噛み跡があるなんて……その、抱きついたり、キ、キスとかした時以外ありえないだろ!」

 

『あ〜! キスをしてから噛み跡を付けた方が良かったんですね』

 

『それをしたらあたしは本気でセレナをボコらねえといけねえ』

 

『謝りますから。本気の切れた顔で見ないでください

 奏さんのキレ顔は予想以上に怖いですから』

 

 この争いを作った元凶(セレナ)は奏を土下座させられて、反省させられている。

 

「いや。俺まだ童貞ですけど?」

 

「嘘つけ! それだけじゃねえぞ。何となく私達以外の女の匂い……臭いがする。これはどういう事だ?」

 

 クリスは鼻を働かせて、流に女の臭いがついている事を告げる。流は思い当たる節を思い出す。

 

(……? あー! え? もしかしてカリオストロがくっついてきた時? いや何日前だよ。あとはプレラーティを蹴り飛ばした時に一応接触したくらいか? クリスの鼻おかしいだろ! 犬じゃねえんだぞ!)

 

「敵がくっ付いてきました!」

 

「な訳あるか! 敵の臭いが付くくらいずっと腕に張り付いているわけないだろ!」

 

「マジだから!」

 

 流も言いながら、敵を臭いがつくまで接触させ続けるなんてありえないよね、と思っているがそれが事実だ。調も切歌も臭いを嗅いでいるが、頭をかしげているので、これが女の子のデフォルトスキルではないことはわかった。

 

「……わかった。それも信じてやる。だけど、この跡は許さない……少し痛いだろうけど、我慢してくれ」

 

「待って! 跡がつくまで噛まれるのは、痛えええええ!! 肉が抉れるから! それ以上はダメえええ!!」

 

『ああああ!! クリスさん、それは狡い!』

 

『まあ何となく分かってたけどな。セレナ、お前が言うな』

 

 クリスは噛み跡がある場所に噛みつき、肉を喰いちぎるくらい思いっきり跡を上書きしようとする。

 

「なんか右腕も痛いって、なんで調も噛んでるの!」

 

「面白そうだったから」

 

 調は右肩の金属化していない部分に噛み付いている。

 

「……流石に私は面白そうだからで出来るほど肝っ玉ありませんよ。恥ずかしくないんデスか?」

 

「切ちゃん、結構美味しいよ」

 

「マジデスか!?」

 

「お前もかああああああああ!!」

 

 首筋に二箇所の噛み跡、両肩に噛み跡。流は合計四つの噛み跡を付けられ、クリスの部分は肉が少しだけ喰われていた。四つ目の噛み跡は三人のテンションに乗ったセレナの犯行だ。

 

 

 

 解放されたあと、流はすぐに痛みは愛と豪語する変態(了子)の下へ行き、問い詰めた。

 何でも(先史文明期)に流行ったおまじない……御呪いで、無理をする戦士に歯型をつけ、呪いを施すことによって、その人に制限をかけるものらしい。しかも、歯型が多ければ多いほどいいとか。

 もろちん呪いは掛けられていないらしいが、それを教えた了子に八つ当たりする息子がいた。

 

 

 **********

 

 

「どうでした」

 

「聖遺物に体の一部を侵食されていたけど、何だかんだ元気そうだったわよ」

 

「そういうことを聞いているのではないと分かっているでしょう、マリア」

 

「マム……わかっているわ。流が()()()()()()()()()()()()かどうかだったわよね」

 

「そうです」

 

 流がマーキングをされている時、マリアはダミーカンパニーの病院へ来ていた。ナスターシャは定期的にこの病院に検査入院している。S.O.N.G.の本部にも機材があるが、やはりしっかりとした検査をするには病院に行った方がいい。

 マリアはナスターシャにお見舞いをするという名目でここに来ている。

 

「でも、マム。私は流と暮らしているけど、そんな素振りは」

 

「マリア、あなたはとても優しい。だからこそ、感情でどうこう言ってはいけません。この話をするたびに言っていますが、流は怪しすぎます」

 

 マリアを傍に座らせて、彼女の手を握ってナスターシャは、毎度の如く言っている事を言う。

 

「我々F.I.S.が武装蜂起する後押しをしたのがパヴァリア光明結社です。マリアがアイドルのライブをして、その場の観客の人達を人質にする。それが起きるまでは、我々の行動でバレる点はほとんどありません。あの場で宣戦布告をしようとしていたことを知っているのは、我々と光明結社だけです」

 

 杖の機能から、ウェルが杖輸送の時に自演していることを見抜き、ウェルから情報を盗み取られる可能性はあったが、流はウェルを拘束して端末を奪ったが、情報を吐かせてはいない。端末に情報を保存なんてことはウェルはしていない事も分かっている。

 

「ええ。マム達を事前に襲うなんて選択肢は、事件の全貌を大体把握していないとできないことだわ」

 

「確かに流は我々と交わした約束通り、月の軌道を修正して、世界を救ってくれました。それにはとても感謝しています。ですが、パヴァリア光明結社がフロンティアを求めていた……としたら?」

 

「私達に協力して、主導権を握った方がいいわね」

 

 マリアは苦虫を噛んだよう顔をする。救ってくれた恩人を自分達の仮想敵として、常に監視しているのだから、優しいマリアには苦痛以外の何者でもない。

 ナスターシャもマリアにこんな事をやらせたくないが、流が敵であった時の脅威は計り知れないので、やらさざるを得ない。

 

「既に流はフロンティアとネフィリムを手に入れました。そして今回の渡欧」

 

「流は怪我をして帰ってきたのよ?」

 

「それはブラフかもしれません。実際に大怪我をしているわけではなく、linkerの副作用です。やろうと思えばいろんな方法で、副作用を発生させることはできます」

 

「……マムはやっぱり、流がパヴァリア光明結社の人間だと思っているのよね?」

 

「思っています。()()()()()()は必要なものがあるから、あの場にいるのではないか? と疑っています。恩人を疑うという大変な役目を背負わせてしまってごめんなさい」

 

 ナスターシャは前に比べて動けるようになった体で、マリアに頭を下げる。

 

「いいのよマム。これも正義のためだもの。それにもし流が敵じゃないなら、笑って許してくれるわ」

 

「マリア、そしてあの二人が彼に好かれているからこそ出来ることです。私はあなた達で実験した人間。彼は丁寧に扱ってくれますが、心を開く気はないようですので」

 

 ナスターシャが言う通り、流はナスターシャに心を開く気がない。マリア達の母親として接しはするが、アニメではナスターシャについてあまり語られていなかったため、ナスターシャの心のうちはどう思っているのか。

 しかもセレナに聞いてしまった、ナスターシャの教育があまり良くなかったため、今はどれ位改心しているのかわからないのだ。

 逆にウェルはアニメでも何度も主張しているので、わかりやすくそれ故に、そういう人間だと理解して接している。ウェルは夢を追い求める天才なだけだからだ。

 

「マムはもう少し流と話してほしいわ。そうすればもう少し仲良くなれるはずよ。彼は……オープンスケベなただの男の子だもの」

 

「……そうですね。少し考えてみましょう」




2期の立ち回りに今回の渡欧は流石に怪しすぎじゃね?と思いました。原作知識なしであの立ち回りをするなら、パヴァリア側だと思われるのではと思いたち、話を追加する形になりました。

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