『大丈夫かい? 人間は自分の認めたくないことを認識するのに時間がかかる生き物だけど、君はそんなことないだろ?』
ソロモンは指パッチンをすると、金のテーブルと椅子が現れて、流にそこに座るように促した。宙に椅子が固定されていたり、何故指パッチンで家具を出せるのか分からなく、更に流の頭が痛くなる。
『あっ! そうか。君が体調を悪そうにしているのはアレのせいか。ならしょうがないね。私達はそういう存在だから』
『勝手に納得して勝手に話を終わらせないでくれ』
『いやいや、私も言語化できないという呪いは……掛けられていないけど、話していい事と悪い事があるからね』
とても胡散臭いように思えるはずだが、何故か初めの印象の、取っ付きやすそうな良い人という印象から変わらない。
『なら、何を教えてくれるのさ。あと勝手に俺の肉体を使うな』
カ・ディンギルの時に、流の体を操ったのはソロモンのようなので、それを咎める。ふと周りを見るも、奏もセレナもいない事に少しだけ寂しさを覚える。
『私は君に教えてあげたんだよ。聖遺物とはどういうものかとね。感覚的に分かるようなっただろう? あれは元々使えたのに、君が認識してなかったせいで使えなかったモノなんだよ』
『もう少し具体的に言ってくれ。あれっていうのは聖遺物を操れる力。それはなに由来なんだ?』
『教えない』
良い人という印象は変わらないけど、流は怒りを覚える。こいつはまともに話す気がないのだろうと気がついた。いつの間にか出現させていたワインを、美味しそうに飲んでいるし。
『どうせほとんど教えないで通す気だろ? 帰らせてくれ。俺は意識を失って寝てるはずだ。ソロモンと話しているよりも、奏とセレナのいる前世の部屋に行ったほうが楽しい』
『あれは本当に、
顔が見えないのに、おちょくられている事がなんとなく分かる。
『は? どういう事だ』
『私が君に色々教えようとすると、対価が必要なんだよ。君にデュランダル及び聖遺物の使い方を
想い出の焼却。それは錬金術師キャロルが用いるリソース生成方法だ。何故お前が使えると言おうとしたが、思い出す。
ソロモンといえば、よく耳にする魔法使いマーリンと同等の偉大なる魔法使い、
『お前は本当に初代、歴史上の人物だったソロモンなのか?』
『多分そうじゃないかな? 外との関係や神との関係を重視しなければならなくなり、内の民を蔑ろにした暴君なのが私だ』
『……神とはなんだ?』
『統一言語を与えてくださった偉大な方だよ』
顔が認識出来ないけど、こちらから顔を逸らした気がする。流はソロモンを睨み続けると、彼は立ち上がって流に背を向けた。きっと神に対してあまりいい印象がないのかもしれない。
『……あー、これは言っても大丈夫かな? 君がもし異端技術、とりわけ魔法……君が知ってる技術で言うならば、錬金術のようなモノを修めたいなら、ペンタクルを用いた方がいいよ。それを利用するなら、星の流れもしっかり覚えないとね。七つの惑星に七つの力、そこに真理があるからこそ、神が好んでこの星に降り立った。それを利用するといい』
ソロモンはゆっくりと後退し始めた。この場でのお話は終わりだと告げるよう。
流はまだ聞きたいことがたくさんあるが、一つだけ、どうしても聞きたいことがある。
『待ってくれ! まだ聞きたいことがある。死者蘇生の法を教えてくれ! 対価ならいくらでも!』
『君がもっと
後退する速度がどんどん早まり、ソロモンは彼方へと消えていった。流は死者蘇生獲得のチャンスを見逃した事を嘆いた。
追いつけないとわかると、途中で追いかけるのをやめて、目を閉じて考え始める。
「……俺は統一言語が使えた。俺が使えるようになった、初めて使った時は奏が死んだ次の日だ。奏達を認識出来ているのはこの指輪のおかげのはず」
流は利き手ではない方の親指を見る。もちろんただのシルバーリングに見えるものがハマっている。
「聖遺物で統一言語の封印をくぐり抜ける事が出来るのか? それが出来るならママも使っていると思うんだけどな」
統一言語については分からないことだらけなので、一度放置することにする。
「想い出という代償を払えば、俺に関することを知ることが出来る。だけど、払える想い出の余裕はないから、これは利用できない。奏や皆との想い出は消したくない」
流は昔のことを思い出そうとしても、思い出すことが出来なかった。バーベキューに行き、ノイズに襲われて、両親が死んだところからしか、思い出すことが出来ない。
「次に俺の前世の部屋……だと思っている場所。あれは俺の部屋だよな? ソロモンは本当に俺の部屋か? と聞いてきたけど、記憶ではそうなっているしな」
もしその記憶が弄られているなら、3期までの記憶も弄られてる可能性が高い。だが、今まではアニメの知識は役に立てている。ソロモン自体、流の味方なのかわからないので、これも放置することにした。
「最後に、ペンタクルと占星術を使って異端技術を行使しろ? 七つの惑星に七つの力。
流は了子に様々な知識を授けられてきたが、星についてとシンフォギア以外の異端技術については
「わかんねえ……」
急に眠くなり、ゆっくりまぶたを閉じていく中、遠くに
**********
「……ここは、潜水艦か」
ソロモンと名乗る男と会話を終わらせたあと、少しして眠りについたと思ったら、目を覚ました。
ここがどこなのか確認しようと、体を起きあげようとするが、物理的に拘束されていて動けなかった。首だけを動かすと、どうやらS.O.N.G.の治療室に寝かされているようだ。
『二人ともいる?』
『おはよう。こんなに寝たのは初めてじゃないか?』
『五日も寝続けていましたからね』
『そうだな、セレナはここにいてやれ。あたしは指令室にいく』
奏はそれだけ言うと、セレナを置いて部屋から出て行った。奏がとても素っ気ない感じだったので、セレナと何かあったのかもしれない。
『どうしたの? 喧嘩でもした?』
『いえ、あまり戦況が良くないので、気になっているのだと思います』
『戦況が』
セレナの言葉の意味を聞こうとした時、寝かせられている部屋の扉が開いた。
「……起きたのね」
疲れた顔をした了子がそこには立っていた。
「おはようママ。なんで俺は拘束されてるの? しかも抜けられない縛り方されてるんだけど」
大型の獣を拘束するためのテープで、ガチガチに拘束されている。この拘束には緒川も関わっていることを理解した。
「あなたをここから出さないためよ。これはS.O.N.G.の総意」
了子は流のベッドの横に座り、何やら書いている。
『了子さんは日に何度も来て、ずっと心配してたんですよ? 少し部屋から出ていますね。そちらの方がいいと思いますし』
セレナは気を使ったのか、部屋から出ていった。流石にこれで盗み聞きをしていることはないだろう……セレナなら割とありそうだと流は思ってしまったが、それはセレナの日頃の行い故だ。
「怪我をしないで帰ってくると言ったのに、ボロボロになって、聖遺物の侵食を進めてるようだけど、申し開きはある?」
「……ないです。約束破ってごめんなさい」
ベッドに拘束されたままの状態だが、流は了子に何とか頭を下げた。了子はいつものようにため息をつく。
「あのね、確かに装者と流が1対1で戦ったら、流が勝つわよ? だけど、防御力は向こうが上、戦術もシンフォギアの方が色々組める。流が無理をする必要は無いの。何度も言っているけど」
「ごめんなさい」
了子が言っている通り、相性最悪の未来と絶唱を使った切歌以外には勝てないことはない。だが、それはよーいドンと合図を合わせて戦いを始めた場合であり、敵が組織的に動いている場合、流はそこまで役に立たない。
流はシンフォギア装者をあまり戦わせたくないからと、独断行動が多いからという面もある。通常ノイズも流が抑えてしまっているので、最近はそのアドバンテージが活かされない。
「今は謝っているけど、どうせ何かを知ったり、誰かがピンチになれば、自分の命を顧みず戦うのでしょうけどね」
了子は最近増えたため息をもう一度吐く。流は了子に怒られている途中あることを思い出した。
「ママ」
「なに? 拘束を解いてというのは駄目よ」
「いや、謝らないといけないことがあって」
「錬金術師が戦いを挑んでくることをわかっていて、『錬金術を知らないと危険な場面になるまで、錬金術を覚えることはしない』という妙な約束をした事? それとも私を通さないで、ウェルに個別linkerを作らせた事? それとも錬金術師の組織と接触していた事?」
了子が言った全てが流が禁止されてたり、言い回しを誤魔化した、などをして了子を裏切ったものだ。
「それもマジごめんなさい。本当にごめんなさい」
土下座が出来るならしたいと思う程度には、流も反省の意を示した。フロンティアの時だって、世界を優先してくれたのに、流は嘘ばかりついている。
「私がついてきた嘘に比べたら、全然優しいものだけど、やっぱり少しだけ悲しいわね。で? 何を謝ろうとしたの」
了子は少し悲しい顔をしてから表情を直して、流に話すように促した。了子の準備は完了したようで、一度目を閉じてなんでも来い! と身構える。
「俺さ、何故か統一言語を話せてたみたいなんだよね」
「知ってたわよ」
「だから、その……え?」
「だから、知っていたと言っているのよ」
流は了子の言っている意味がわからなかった。知っていたとは、既に認識していたという事だ。少ししてやっと理解が追いついた。
「はあああ!? 俺だってつい最近知ったんだよ」
ビックリして体を持ち上げようとするが、拘束されていて、ガシャガシャ鳴らすだけに収まった。
「流は奏ちゃんとずっと一緒にいたでしょ。多分今も」
「……ああ」
流は答えると、何かが裂けるような音が体の中でした。今回は痛みを伴っていたため、顔が苦痛に歪む。
「あなたは分かっていなかったけど、奏ちゃんがバカなことをすると、流は優しく笑うのよ。翼ちゃんやクリス、マリアちゃんへ向ける表情とは違う。その表情を架空に向けていたり、その表情で独り言を言っていた。多分弦十郎くんも何かしら分かってるんじゃないかしら。あと流はこれ以上私の発言には反応しないこと。辛いんでしょう?」
流は少しずつ収まってきた痛みに安堵して、了子の言葉に何も頷かずに目だけを見る。
「私の時代にもいたわよ。シャーマンやイタコなんかはね。流はそれらの力を持っているか分からない。でも、奏ちゃんと話せるからこそ、あなたは壊れなかった……元々壊れてるかもしれないけどね」
「……」
「私は奏ちゃんが死んだ時、流は精神が死んでしまうのではないか? と思っていたのよ。それなのに次の日にケロッとしていたからびっくりしたわ」
あの時は仲が良かったのは、子供だと翼と奏しかいなかった。奏が死んだあと、やる事やったら塞ぎ込んで寝て起きたら、奏がそばに居たので、流は今まで通り普通に動けた。
「あっ、統一言語に関しては私はもういいの。流は恐らくだけど、あのお方に見張られていると思う。もしくはバラルの呪詛とは違う呪いね。流は私の目的がわかっている、きっとそれも監視検閲があったはずなのに、あのお方は何も言ってくれないのだもの。私はあの方にとって、その程度だったって事でしょうね」
「それは神が節穴だっただけ」
了子の悲しそうな顔を見ていられかった流は、神を否定する言葉を吐いたが、痛みなどはやってこない。
霊体関係は相手が知っていても、話すことはダメだけど、神の侮辱や否定程度なら問題ないようだ。
「それで流はどこの奴にやられたの?」
これ以上神の話をすると、いつ地雷を踏むのか分からないので、了子は話題を変えた。
「……あれ? 組織名知らないわ」
サンジェルマン率いる三人組の内二人とは、何度か会っているが、組織の名前を教えて貰ったことがなかった。
「はぁ? 馬鹿でしょ。敵の名前や行動理由、何故流を狙ったのかは?」
「……?……!?」
流は名前を言うことも、神に関する何かを行おうとしていることも、神に関することを行う時に流がいるとスムーズに行くから勧誘された。それらの事は一切言えなかった。
この世界で知って、ほかの人が知らないことを言っても問題なかったはずなのだが、今回は言えなかった。なにか別の法則があるのかもしれない。
「言えないのね。はぁ、その呪いは不便ね……そうね、レイラインマップ、エルフナイン、ダインスレイヴ。これらを
「言えるよ……えっと、
「……なるほど、わかったわ。」
言語化出来ない会話の抜け道がひとつだけある。例えばキャロル襲撃前にキャロルという名前や、レイラインなどの言葉を流が言うことが出来ない。だが、話の脈絡が全く関係なく、それでも相手は理解できるような会話なら、相手にそのことを伝えられる。
この方法は相手がある程度推察が出来ていない限り使えないし、意図を汲んでくれないとアホな会話になる。了子と流は何度も根気よく抜け道を探したのが、『私達の暗号化』だ。
流という存在はこの世界にとって、バグ以外の何者でもないので、呪い関係に不備が出やすいのではないか? と了子は語った。
ちなみに上記の言葉はレイラインマップは
「エルフナインはいい子?」
「響くらい」
了子はブツブツ言いながら、今得た情報をまとめているようだ。少しして、納得がいったのか頷いてから、了子は部屋から出ていこうとした。
「待って、今って戦況が割とピンチなんでしょ? どんな状況か教えてよ」
「は? 駄目に決まってるでしょ。今回は風鳴流という戦力は使わない。寝て起きて食べて寝るの生活を送ってなさい」
了子は当然とばかりに言い放ち、部屋から出ていった。それとすれ違うように、セレナが入ってきた。
『お話出来ました?』
「たくさん怒られちゃったわ」
『そうですよね。危険なことも沢山していますから』
「まあね。それでさ、今戦況はどうなってるの?」
了子は教えないと言ったが、キャロルとの戦いで後手に回るのだけは不味い。キャロルの残機を減らすのも不味いし、オーストコアラーをイグナイトで倒すのも不味い。エルフナインがキャロルに利用されることも、イグナイトが不味いことも了子は察したはずだが、それでは了子が一方的にキャロルを嬲ってしまう。
『ただいま』
丁度その時、奏が帰ってきた。
「おかえり。戦況教えてくれ」
『あんまり言いたくねえんだけどな。無理するし……ファラに翼とマリア、レイアとガリィにクリスと調と切歌がやられて、ペンダントにダメージを負った。その戦いの時にキャロルと戦いになったのが、響と未来だったけど、未来が神獣鏡を纏ったのを見て、撤退していったらしい』
「続けて」
『響と未来が分断されて、響はレイア、ファラ、ガリィ、ミカの四体と戦ってペンダントを大破させた。今戦えるのは未来だけだな。了子はペンダントをどこまで改造するか迷ってたみたいだぞ。イグナイトを弄って搭載するみたいだけどな』
「イグナイトシステムを弄るのか」
『みたいだな』
キャロルはこの時点ではレイラインを完璧に把握しきれていない。だからこそ、発電施設を軒並み襲った。そのあと譜面作成のために、自らの身をイグナイトに晒す。
「……よし、まずは聖遺物の確保だな。深淵の竜宮に侵入するぞ」
今後予定が立て続けにある事もあるので、更新が一日空いてしまう日もあるかもしれません。ご了承ください。
できる限りないようにはしますけど。