戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

43 / 155
#41『あれの正体』

 ソロモンの杖の起動反応を検知したS.O.N.G.は、急いでその発生ポイントであるリディアンに人材を派遣した。学校が閉まっている夜だったが、リディアンは二課とその後続のダミーカンパニーなので、変な手続きをせずにすぐにその場に到着できた。

 

 真夜中なのでS.O.N.G.には装者達は居なかったが、コンバーターの修理及び、シンフォギアの改造を寝ずにやっていた了子は一緒に来ていた。

 

「……なんて無茶をしてるのよ」

 

 了子は流の状態では他の医療スタッフは役に立たないことがひと目で分かり、病院ではなくS.O.N.G.の本部である潜水艦へすぐに搬送させた。

 搬送の途中に了子は、ウェル博士を招集するように命令させて、流の体を触診する。

 

 天羽奏やF.I.S.で行われたような、無理やりな適合実験を受けた人間と同じく、全身の至る所から出血した痕がある。右腕はデュランダルのような紋様が()()()()に描かれていて、閉じられている瞳の黒目はデュランダルの金色と水色で(いろど)られている。

 目元には隈がくっきり出ていて、背中には大きな火傷の痕が()()()()()()()()()()()()()()()を起こしている。デュランダルの『不滅不朽』で、正常な状態に治そうとして、治りきらなかったのだろう。

 

「……なにやってるのよ。なんであんたがこんなになってるのよ」

 

 流をデュランダルに見立て、了子は聖遺物デュランダルの機能を停止させた。少しずつエネルギーが分散していって、問題なく停止させることが出来たが、瞳も右腕の紋様も消えなかった。

 

 

 **********

 

 

 S.O.N.G.に流は搬送されると、すぐにlinkerの除染装置に繋がれて、体内のlinkerの汚染を洗浄された。その後流を機械にかけて検査し、今はベッドで睡眠薬が含まれた栄養剤を点滴されて寝かされている。睡眠薬は常人には強すぎる量だが、弦十郎と流には丁度いいくらいの量になっている。

 

「何故流がlinkerを打っている。その前にどうして持っているのか、説明してくれ。ウェル博士」

 

「こんな夜に呼び出すなんて一体何を」

 

「早く言いなさい」

 

 無理やり起こされて来たウェルは文句の一言でも言おうとしたら、瞳がフィーネになり、ブチ切れている了子に押し黙らされた。

 

「linkerは本来適合率をあげるものじゃない。聖遺物の力と人体を繋ぐための物であって、その効果によって適合率が上がるのはわかっているね?」

 

 ここには緒川とナスターシャを除く大人の主要メンバーが揃っている。そこにエルフナインもいるが、遠慮して端っこに座っている。エルフナインも含めて、全員がlinkerの仕様を理解しているようで頷いた。

 

「流は僕のところに来て言ったんだ『俺の力じゃ来るべき敵には勝てない』ってね」

 

「流くんは今回の襲撃を知っていたんですか!?」

 

 

 現在、日本はキャロル・マールス・ディーンハイムという錬金術師に襲われている。アルカノイズによって()()以外の装者は皆、シンフォギアを強制解除させられ、コンバーターが故障してしまった。直すだけならすぐに出来るが、同じように壊されても困るので、了子はあえて改修最終段階で止めている。

 

 未来の纏う神獣鏡は魔の力を浄化する特性を有しているため、オートスコアラーが直接襲い、神獣鏡の攻撃を受ければどうなるかわからない。相手方も未来との戦いは避けている節がある。その代わりにもう一人の壊されていなかったシンフォギアを持つ響が、オートスコアラー4体に襲撃され、コンバーターを破壊された。4体の攻撃は凄まじく、響は今集中治療室で眠っている。

 

 了子は壊れたシンフォギアのその修理と、アルカノイズ対策、そしてエルフナインが持ってきたダインスレイヴという聖遺物を使って、エルフナインと共に『Project IGNITE』という人為的暴走制御機構を作ろうとしているが、そこで了子の手は止まった。

 

 エルフナインが言うには、彼女には必要な記憶だけが複製転写されているらしい。ならば、何故彼女がイグナイトなどという機構を知っているのか、もしくはそれを考えられるだけの知識があるのか。何故都合よくダインスレイヴを盗むことが出来たのか。何故レイアという通常戦闘力でもクリスを圧倒出来た敵から逃げることが出来たのか。

 

 これらが気になって、ダインスレイヴによるイグナイトの有用性は理解しているが、機能追加に迷っている。

 

 

「もう少し考えなさい。それだけじゃないわよ」

 

 藤尭の言葉に了子は駄目出しする。その言葉を受けて、藤尭は少し考えて、改めて話す。

 

「流くんは何らかの方法で錬金術師キャロルの事を知った。多分F.I.S.の時の同じように、未然に防ごうとして失敗、戦闘に……いや、違うか」

 

 藤尭はキャロル自営に負けて、流は命からがらリディアンに飛んできたと考えたが、言っているうちに違和感を覚えた。リディアンに飛んできたことや、全ての装者が力を合わせても苦戦する敵から、負けても逃げられるという考えがまずおかしいのだが、それがここの常識になっている。

 

「錬金術師キャロルは日本で何かしらをやろうとしているのは分かっているわ。それなのに元々拠点にしていたはずの、欧州にいた流と戦う意味が薄いの。きっとキャロルは異空間に拠点を構えているはずだもの。流がやられたのは別陣営だと思うわ。未然に防ぐことに失敗して、何かしらあって、用意周到に流は嵌められて負けた……というのが有力よね」

 

 今ある情報だけで了子は、キャロルが世界を分解して何かを得ようとしていること。日本でやる理由は日本に張り巡らされているレイラインを使う気でいること。だが、レイラインマップの閲覧は了子と流とナスターシャとウェルとマリア以外の人はアクセスが出来ない。散発的に各地が襲撃されているのは、レイラインの把握のためだろうと認識している。

 これらはわかっているが、情報がまだ少ないので、全てが一本に繋がっていない。

 

「流に連絡がつかなくなったのは、その相手の工作という事か」

 

「クリスと調ちゃんに聞いたんだけど、情報収集のためにロンドンへ向かおうとしていたみたいなのよね。ロンドンで何かがあったか、ヴェネチアで何かがあったか。流がボロクソに負けたから、結構な強敵が複数いたのでしょうね」

 

 実際は全身がボロボロなのはlinkerの副作用で、右腕に紋様が浮かんでいるのは、デュランダルと流の間の境目が減ったためであり、瞳も同じくソロモンの杖が侵食していない所に現れただけなのだが、了子でも分からないようだ。

 

「……僕の話を続けていいかい?」

 

 linkerの話から、流が何故こうなったのかの考察に行ってしまい、話の流れが止まったところでウェルが話を戻す。

 

「流は力が足りないと言った。流は自分が最も早く強くなるには、聖遺物の力をさらに引き出せばいいという結論に至ったようなんだ」

 

「ウェル博士が流くんに与えたのは、試作型linker? それともmodel_Kでしょうか?」

 

 友里は流の拒絶反応状況から、完成度の低いlinkerを使ったのではないかと考えてそう言った。人に合わせて作られたウェル曰く『あなたに優しいlinker(ただの個別リンカー)』を使えば、ここまで酷い拒絶反応は出ないはずだ。

 

「いいや。僕が作りかけや愛の篭ってない劇薬を与えるわけないだろ。僕にだってプロ意識くらいある。もちろん流専用に調整したlinker model Nだよ。二人はパッと読めばわかるだろ?」

 

 ウェルは了子とエルフナインにだけ、linkerの情報が書いてある端末を渡した。情報をすぐ理解できるのは彼女達だけだからだ。

 

「確かに適合係数をあげるためではなく、人と聖遺物を繋ぐためのlinkerですね。あの、質問よろしいでしょうか?」

 

「なに? エルフナインちゃん」

 

 エルフナインは理解すると共に、風鳴流という男を見てから質問をした。

 

「彼はどんな聖遺物を持っているんですか? まずS.O.N.G.は聖遺物をシンフォギアで起動しているはずです。ですけど、彼は男性ですよね?」

 

 当たり前だが、シンフォギアは巫女が使うためのものであり、男性が使えるような事例は今までない。

 

「エルフナインちゃん。よく聞きなさい。私の息子は私の想いと自らの意思で二つの聖遺物を融合させたの。まず初めに完全聖遺物デュランダル。今はそれが大破して、欠片のみが体に残っている状態だけど、私が流に無理やりデュランダルを融合させたわ」

 

「……なんで自分の息子にそんな仕打ちをするんですか!」

 

 エルフナインはイザークが火刑に処される記憶を思い出し、感情的に了子を責める。

 

「あの時はあれが一番良いと思っていたのよ。それにあの時の私が思っていた愛の形でもあった。その事に関しては、後で記録を見てちょうだい。今はデュランダルの情報を見なきゃ」

 

 エルフナインが持っている端末に、デュランダルのデータとデュランダルと融合した時の流のデータを表示させる。エルフナインはありえないものを見るような顔で情報を見て、読み終わると続きを急かす。

 

「デュランダルの完全聖遺物融合症例からただの融合症例になった流は、完全な融合症例だった時の力を求めて、ソロモンの杖、これも完全聖遺物ね。杖を融合させた」

 

「人為的な聖遺物との融合なんて成功確率1%もないんですよ! しかも、別の聖遺物を体に宿して更に融合させるなんて! 彼は狂ってるんですか!?」

 

 聖遺物にも相性があるから、もしソロモンの杖とデュランダルの相性が最悪だったら、融合させた時点で、流の肉体は弾け飛んでいた。

 エルフナインは流が狂人にしか見えなくなった。生身でシンフォギアと殴り合えると聞いていたが、そこから更に力を求めるなど、何を考えているのか分からなかった。

 狂人発言に皆がうんうんと頷いている。止めても止まらない狂人であることは皆が理解している。了子と弦十郎ともう一人を除いて。

 

「彼は英雄だからこそ成功させた! 僕がわからないことは、流に作ったlinkerはシンフォギアの適合係数を上げる必要性はないから、脳に作用する効果なども省かれている。融合個体である流なら、さほど副作用なく聖遺物の力を引き出せるはずだ。なのに何故こんなにバックファイヤーが来ている? 融合しているから、ここまで変な反応はないはずだ」

 

「ウェル、linkerは体調が万全、もしくはある程度良い状態の時に使うことが前提だったな?」

 

「ああ……まさか!」

 

 ウェルは見ていなかった流の検査結果を流し見する。

 

「なんで彼がこんなに衰弱しているんだ!」

 

「通話ができなくなった三日前から、ずっと襲撃をされて、睡眠と食事もまともに取れていなければ、流もここまで弱るだろう。俺や流は筋肉量がとてつもなく多い。俺と違って流は細身に見えるが、それは筋肉を完璧な配分で……」

 

「筋肉の話は後で二人っきりで聞いてあげるから、今は話を進めて」

 

 弦十郎が如何に流の体は管理されて作られたのかを説明しようとしたが、了子に咎められて先に進める。

 

「詳細は省くとして、俺や流は人の何倍ものエネルギーを摂取しないと、体が持たないんだ。動かせば更にエネルギーが必要になる。エネルギー不足、そして俺達は近接格闘しかできない。流はそこに忍術も使えるが、異端技術の行使者が複数いれば、弱っている流なぞ簡単に捻られるだろうな」

 

「流の事は私がどうにかするから、国連のエージェントを欧州、ヴェネチアとロンドンに送らせなさい。敵が錬金術師なら無駄でしょうけど、何かを得れるかもしれないわ」

 

「……国連エージェントを向かわせるには、ある程度の事情が必要ですけど、流くんの事を報告しますか?」

 

 前にも記述されたが、流はただの協力者、了子はここにはいない者とされている。前者は日本の都合、後者はフィーネ繋がりがあるので、存在自体を隠蔽されている。

 もし今回のことを報告すると、流の存在や流の特異性まで露見してしまうことになる。

 

「チッ。報告しなくていいわ……あと装者達にはまだ流が帰還したことは報告しないように」

 

「……何故ですか? 特にクリスちゃんは今不安定な状態なので、流くんと会わせた方が」

 

 クリスは気丈に振舞い、後輩達の前でもカッコつけているが、大人達から見れば、あからさまに弱っていることはわかる。

 

「流が正常ならそうでしょうけど、今は昏睡させているの。流が起きて、クリスが泣きついてみなさい。流はすぐに戦いに赴いてしまうわよ。あとイグナイトは精神の負の面を利用するシステム。あれを入れるとしたら、流が殺されかけたというのは、クリスや他の子にとってあまり良い影響にはならないわ」

 

「わかりました。ログなども消しておきますね」

 

 藤尭と友里は眠気を無理やり押し込め、流が戻ってきた情報の全てを隠蔽しに向かった。

 

「S.O.N.G.、二課からいたエージェントを何人か派遣しておく。注意させることはあるか?」

 

「アルカノイズは錬金術師として、ある程度の能力があって、レシピが用意されているならば、作れてしまうかもしれません。キャロルは外部の人間ともやり取りをしていたので、アルカノイズが出てくる可能性もあります」

 

「あとは戦わないこと。言い聞かせておきなさい。流が負傷した敵がいるから、絶対に交戦しないようにって」

 

「ああ、了子くんも少しは休めよ」

 

 エルフナインと了子の言伝を聞き、弦十郎も出ていった。この場にはウェルと了子とエルフナインだけが残る。

 

「エルフナインちゃんは私と錬金術の解析をしましょう」

 

「何か手に入れたんですか?」

 

「流の服のポケットにこんなものが入っていたの」

 

 流を検査のために服を脱がせた時、ズボンのポケットから赤い光が内部にある結晶を見つけていた。

 

「アルカノイズの召喚結晶ですか!?」

 

「ええ。これさえあれば相当捗るわよね?」

 

「はい!」

 

「イグナイトは少しだけ待ってね。流の話を聞いてからでも遅くないから」

 

「わかりました。先に結晶を解析しておきますね」

 

「少しは寝るのよ」

 

「はい!」

 

 エルフナインは了子の黒い部分を先程まで知らなかったし、技術的な話が一番出来るのが了子なので、結構懐いている。

 そんなエルフナインを了子も可愛がり、心配する程度には了子も心を許している。ある警戒はしているが。

 

「何故僕を残したんだい?」

 

「更なる改良linkerのレシピは出来たの?」

 

 了子はエルフナインと接するキャラとは変化させ、寒気すら感じる冷徹な仮面をかぶる。

 

「流石に気が早い……と言いたいところだけど、ここには機材も装者も、そしてフィーネすらもいるからね。あと数日ってところかな」

 

「そう。これでlinker組は機能向上するわね……あと流に投薬実験を施しなさい」

 

「いいのかい?」

 

「流のあれはlinkerに慣れていないからこその拒絶反応よ」

 

「確かにそうだ。普通はlinkerなんて劇薬には体が拒絶反応を起こす。小日向未来が一発で使えたことが稀だからね。多分愛が副作用を凌駕したんだろうけど」

 

「私ですら脳の解析は完璧には終わってない。愛によるブーストは非科学的だけど、異端技術としてはありえるわよね」

 

「全ては愛によって成り立っているからね。それで流の投薬実験は薄めたlinkerから慣らせって事でいいんだね? 渡さないって選択もあるけど」

 

「それでお願い。どうせ流は渡さなかったら、model_Kなんかを持ち出すでしょうし」

 

「それは困るね。彼は良い……金蔓だしね」

 

 その後二人は流の方針を決めて、その場をあとにした。

 

 

 **********

 

 

 流は目を開けると、バビロニアの宝物庫のような場所にいた。空間の見た目は似ているが、ノイズが一体もいない。更に宝物庫の中であれば流はそれを察することが出来るので、ここはバビロニアの宝物庫ではないとわかる。

 

「あと俺は奏達みたいに浮けないからな」

 

 奏とセレナは霊体なので、宙を浮いている。武術も忍術も流は修めているが、空を浮くことは出来ない。だが、今の流は空中を浮遊している。

 

「……ん? なんだ?」

 

 遠くに白い何かが見えると思ったら、その白が目の前に現れた。白色の正体は布、白い服だった。トーガという昔の服だった気がする。

 その服を来ている人物は長身で筋骨隆々な男性で、なんとなく取っ付きやすそうな性格をしているような感じがするが、顔をうまく認識出来ない。

 

「あんたは誰だ?」

 

『うん? なんて言っているんだい? 私は日本語が分からないから、()()()()で話してくれないか?』

 

 奏やセレナと話す時と()()()()に、相手が口を開くと言葉が頭の中に響いてきた。

 

「待ってくれ。統一言語? 神に封印されてて使えないだろ」

 

 使えないと流は言ったが、相手が使っている雰囲気を醸し出している。そしてこの男性の会話方法は奏とセレナと話す時と同じモノだ。

 だが、流は自分の中に出来た考えを否定する。

 

『君は従っている精神生命体と会話をする時と同じ感覚を感じていると思う。悪魔や天使を使役しないで、人間なんて使役している風変わりな今代だけど、しっかり統一言語は使えているはずだよね?』

 

 精神生命体というのは奏とセレナの事だろう。悪魔? 天使? この男性が言っている意味がわからないが、流は当たって欲しくないと思いながら、自分の考えの下、統一言語を使ってみる。

 

『まさか、これが統一言語なのか?』

 

 口に出しては不味い場面で、二人と会話をする時に使う方法を使ってみた。

 

『やっぱり話せるじゃないか! 今代は統一言語をしっかり使えるんだね。まあ、そうじゃないと私が一時的にでも肉体を借り受けることなんて出来ないんだけどさ』

 

『待ってくれ。統一言語は神に封印されたんだろ? 俺は奏達と話す時に普通に使えてたぞ? これが統一言語なわけないだろ』

 

『いいや、これこそが統一言語だ。神様とも悪魔とも天使とも全ての種族と、誤解なく完璧に完全に会話を可能とする偉大なる言語。改めて、初めまして()()()()()()()。私は()()()()()()だ。私は君を流と呼ぶから、君は僕の事をソロモンと呼んでくれていい』

 

 流は顔が引きつっているのを自覚しながら、理解が及ばぬ事を言われて倒れそうになった。

 




封印されている統一言語か使える理由は一応考えています。次回に書かれると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。