「なるほどね。マリア達を殺し、日本政府の情報源を潰す。NASAの報告が虚偽である事を公表しても、情報源をあやふやにする。NASAの報告自体、アメリカを陥れる日本政府の仕業にする気なのか。無茶苦茶だな」
「あ、ああ。俺はこの部隊の長だからこそ教えられていた。だから、祖国に、俺の国にノイズをばら撒くのはやめてくれ!」
**********
マリアを家に置いてきたあと、エージェントが把握していたアメリカの工作員をすべて捕らえ、バビロニアの宝物庫に拉致してきた。
まず初めに下っ端っぽい奴を、ノイズ達にゆっくりと体の端から炭化させた。ノイズに炭化させる能力を弱めさせると、こんなことも出来るようだ。
次にありきたりな拷問をしたが、受けている奴らもそれを見ている奴らも口を割らなかった。
「わかった。君達はとても優秀な工作員のようですね。なら、手法を変えます。大抵工作員は未婚の方々ばかりですよね? だけど、君たちは祖国のために戦っている。その祖国には友達はいるし、仲のいい異性もいるはずだ。親もいるし、親戚もいるだろう。私にはノイズをこの不思議空間から召喚して、命令することが出来る。今からアメリカに大量のノイズを召喚しようと思います。諸君らが喋らないから、アメリカの同志達はノイズに抗えず死ぬ。君達は死んで情報を守ればいいと思っているだろうけど……だが違う! 君達の身勝手な行動でアメリカの人々が死ぬ! 君達が守るべきアメリカの自由も人も全て消え去る!」
唯一聞き出した情報でリーダーを絞り込めた。リーダー以外を様々な方法でノイズに炭化させ、リーダーの目の前にアメリカへと続くゲートを開く。
バビロニアの宝物庫は地球とは、位相も空間も違う場所にあるので、開こうと思えばどこにでもゲートを開ける。融合した流なら尚更うまく使えるだろう。
ゲート先を見て、項垂れるだけだったリーダーも悲鳴や神への祈りをし始める。
「汚いアメリカの言葉を話さないでくれよ。俺はアメリカが嫌いなんだ。見えるかい? あれはホワイトハウスだ。君もわかるだろ? アメリカのトップ陣がいる場所だ。まずあそこに大量のノイズを召喚しよう。次に空港や港だ」
四肢をもがれ、色々削がれている顔で更に絶望するリーダー。口だけは無事で、何とか話せるようにしてある。死なない程度に手加減してあるからだ。
「君達はほとんどバレている作戦の情報を流せば、ホワイトハウスや、その他色んなアメリカの名所は救われる。アメリカの人々も、君の英断で救われる。君は話すだけで英雄になれる。アメリカが機能不全に陥ると、世界が混乱するだろう。君にはその引き金を引いて欲しくない。どうだろう、君が正義の味方になってみないかい?」
リーダーは只でさえ極限状態なのに、流はフィーネがクリスに使っていたような誘導を行う。それを何度も何度も刷り込むことで涙を流しながら、その男は話してくれた。
そして冒頭のやり取りがあった。
「素晴らしい! 君の行動で世界は救われた!」
流はホワイトハウスの映るゲートを閉じる。
「そして君は死ね」
デュランダルのエネルギーを使ったブーストを使って、その男の心臓を綺麗に踏み抜いた。骨を砕く時に少し足を痛めたが、流なら寝れば治るだろう。
「アメリカも本腰入れ始めたら面倒だな。父さん達を急かそう。にしても臭い」
服が汚れたので全て脱ぎ、ゲートを玄関に繋げて家に直接戻った。F.I.S.組とリビングで遭遇し、一悶着あったが、マリアが一番乙女な反応していたと彼は語る。
**********
「さて、皆も集まったことだ。話を始めたいと思う」
弦十郎の掛け声で、フロンティア計画についての話し合いが始まった。
この場にいるのは6人のシンフォギア装者と未来、弦十郎と緒川と了子、ウェルとナスターシャ、スタッフから友里と藤尭、霊体の奏とセレナ、そして流が集まっている。弦十郎の横には、パソコンが置いてあり、今も蕎麦を食べている日本国外務省事務次官、
どう考えても小日向未来は場違いなのだが、流がこの場に招待したので、何かあるのだろうと弦十郎達はスルーしている。流が説明しないのはいつものことだからだ。
『にしても、ズズズッ、見た目だけじゃそこに一国を滅ぼせるほどの、ズズズッ、戦力が集まっているようには見えねえな、ズズズッ』
「斯波田さんは蕎麦食うか、話すのかどっちかにしてくれない?」
『なんだ坊主? ズズズッ、お前のやんちゃを隠蔽してやってるのは、ズズズッ、誰だと思っているんだ?』
「仕事中に蕎麦を啜っていないイケメンな斯波田さんかな」
『ズズズッ、言うじゃねえか。まあ、今は控えた方がいいみたいだな。ちょうど食い終わったところだ』
斯波田は弦十郎の良き理解者の一人であり、流がこれまでやんちゃをしていても、お咎めが来ないように、流の有用性を盾に交渉してくれていたのが、アニメでいつも蕎麦を啜っている人。もう数人いるが、その人達は流を国防の道具としか見ていないので、流は好いていない。
流もよく美味しい蕎麦を食べさせてもらっているので、割とこの人を好いている。
「本当にこの人が事務次官なの?」
主にF.I.S.組が怪訝な目で見つめている。
「調達の思っている事はごもっともだけど、やる時はやってくれるのが蕎麦爺だから」
『その呼び方はやめろって昔から口が酸っぱくなるくらい言ってんじゃねえか!』
「なら通信中に蕎麦食うな」
『弦十郎、早く進めろ。坊主が急かしてくるからな』
斯波田は蕎麦湯で割った麺つゆを飲みながら、弦十郎に指示を出した。弦十郎は頷いてから、紙の資料をみんなに配る。斯波田の元にもそれはあるようで、紙に目を通している。
「ナスターシャ教授達が成し遂げようとしたのが、この『フロンティア計画』。神獣鏡という聖遺物が持つ、魔を払う力を使い、日本近海に沈んでいるフロンティアと呼ばれる遺跡の封印を解く。その後ネフィリムという生物型の完全聖遺物を動力源にしてフロンティアを起動させる。了子くんと流からの情報により判明した、フロンティアの機能で月の内側にある装置へフォニックゲインを送り、月の軌道を自動調整する装置を起動させる。それで地球への月の落下は防げるそうだ」
了子がフィーネだという事はまだF.I.S.組は知らない。なので、F.I.S.の装者達は何故そこに流と了子の名前まで出てきたのか疑問に思っている。周りを見ても、当たり前のように受け入れているので、首を傾げる。
『歌で月を動かせるなんて不思議なことだ』
「少々宜しいでしょうか?」
斯波田の言葉に皆が頷いたあと、ナスターシャが挙手をした。ナスターシャはここにいるが、ベッドに横たわったままでの参加になっている。弦十郎はナスターシャに意見を促す。
「まずその計画にはいくつもの綻びがあります。まず神獣鏡を機械的に起動しても、出力が足りず封印が解除できないであろう点、ネフィリムを起動するには多くのフォニックゲインが必要な点、ネフィリムを育てなければ動力源にはならず育てるには聖遺物がいる点、まずネフィリムを完全に制御できるかわからない点。こんな所です。フロンティアに関しては、そちらの方が詳しいようですので、ひとまず置いておきました」
流が座っている膝の上にはセレナが座っている。そのセレナは酷く怯えてしまっているので、クリスと
セレナの死亡原因は施設の崩壊に伴う落下物による圧死。だが、原因はネフィリムが暴走したことに起因し、アガートラームを纏い、暴走するネフィリムを目前に絶唱を歌った。
セレナはそのことに関しては後悔はないと語っていたが、自分達を死へと誘おうとしたネフィリムをもう一度起動させるという話を聞き、不安になってしまったようだ。
「その問題についてはママ……了子さんと既に話しています。その前に少し証明をしたいんだけど、調や切歌に俺を信頼してもらうために色々誓ったよね?」
「何でもお願いを聞いてくれるって」
「すき焼き美味しかったデース!」
「調に言ったことが真実であることの証明をしたいと思う」
「……フィーネの魂の器が私だけど、フィーネは復活しないこと?」
調は少し考えてから、的確に答えを導き出した。その横では昨晩の夕食に出されたすき焼きを思い出している切歌がいる。調にしっかりするように諭されていたが。
「そう。レセプターチルドレンとして、そこら辺の知識があると思うけど、大前提としてフィーネの意識はこの世にひとつしか復活しない。知ってるよね?」
「知ってるわ……待って、今流がそれを言うってことは!」
「そう、フィーネは死んでない。ね、フィーネママ」
F.I.S.組は流の視線にいる了子を見る。
「そうね、フィーネはこの世に一人しか存在できない。故に、月読調には復活することは無い」
了子は髪留めを外して、フィーネへと変身した。
本来ならば了子はF.I.S.の研究施設に了子としての姿で行くことがあった。だが、この了子は暗躍するのはフィーネ、弦十郎や流と楽しく暮らすのが了子と分けていたので、了子イコールフィーネだという事は、二課とその直轄の上司達しか知らない。
「俺のママである了子さんはフィーネでもあったのだ!」
「……私たちを騙したのね!」
マリアはその場で立ち上がり、ガングニールのペンダントを構える。流はマリアの横に瞬間移動して、ガングニールのペンダントを持つ手を抑える。
F.I.S.の非合法実験もフィーネの仕業という部分も確かにあるので、裏切られたと判断したのかもしれない。
動き出す時にセレナには、了承を取ったのでセレナも取り乱すことはない。セレナとも言語を介さない会話方法で許可を取っていた。
「フィーネが過去になんか色々してたらしいけど、そのフィーネは死んだ。納得出来ないかもしれないけど、今は俺のママである櫻井了子として生きてもらっている。無粋なことはやめてくれ。俺のママに刃を向けないでくれ、頼む」
『マリア姉さん……』
セレナは自分の声が聞こえないこともわかっているが、流と同じようにマリアの手を握る。
「…………はぁ、私は流に負けて、流を、この二課を信じることにしたわ。だから、これ以上の文句はやめる。ごめんなさい、感情的に動いてしまったわ」
「いいや、実際フィーネママが糞でゴミクズだっただけだし」
了子に戻ったフィーネは、流の言葉で落ち込み、弦十郎に支えてもらっている。好機と見た了子は弦十郎を襲おうとするが、緒川が影縫いで止めていた。この会議のあと、緒川は了子に蹴られていた。
マリアが手を下げたので、流は自分の席に戻ろうとしたが、切歌が笑うのを堪えていた。流は気になって聞いてみた。
「どうした?」
「ブッフォ! なんデスか! なんで流はその歳でママって呼んでるんデスか!! あははははは、面白すぎデス!」
「調?」
腹を抱えて爆笑している切歌の後ろで、後ろを向いている調にも流は声をかける。
「私は切ちゃんと違って変とは言わない……でも、ふふふ。笑っちゃってごめんなさい」
調は顔を押さえて笑うのを堪えながら、頭を下げてすぐに謝った。
「切歌は今日の夕食でメイン抜きね」
「デエエエエエス!!」
「調はすぐに謝ったから不問とする」
「ごめんなさい、ありがとう。ママ呼びをする流は可愛いと思う」
「褒めるのはやめろ」
切歌の必死の抗議が終わり、話はメインに戻る。話はメインに戻るが、切歌の夜飯のメインが戻ることは無い。
「元々、月を落とした後に私は神獣鏡、ネフィリム、フロンティアを使って世界の人々を支配しようとしていたわ。だから、その準備もある程度済んでいるの」
「フィーネは元々聖遺物の欠片を色々集めていた。だから、それで問題なくネフィリムを成長させることが出来る推測なんだ。まず先史文明期でネフィリムという完全聖遺物のバケモンを作ったのに、制御ができないなんてことが起こると思う?」
「F.I.S.でそれは実際に起こって、セレナは身を挺して守ってくれたわ。それがなければ私たちはここにいない」
マリアが苦々しい顔で反論した。だが、ここにいるのは先史文明期の巫女、その時代で特に聖遺物に詳しい人物だ。
「そうね。でも、あなた達って機械的にネフィリムを起動させようとしたわよね? もちろんフォニックゲインも与えたと思うけれど」
「そうです。F.I.S.は才能に左右されず、安定的に聖遺物を活用する方法を研究していたので、ネフィリムは機械的に起動させられました。まさか、それがそもそもの間違いなのですか?」
ナスターシャは了子の言った言葉から、自分達の間違いを悟る。
「ネフィリムを支配するには、一人の力で起動させないといけないの。生み出すといった表現ができるわね。インプリンティングみたいなものよ」
「ですが! ネフィリムを起動させるには、相応のフォニックゲインやエネルギーが必要です。それを一人で賄うことなど」
「無理ね。私などの聖遺物を操れる人に限られるわ。といっても、完全に停止している状態では、私だって動かすことは出来ないわ」
「ネフシュタンの鎧のことか」
さっきまではマリアが苦々しい顔をしていたが、次は翼がゲンドウポーズで、了子の言っている意味を悟る。
「そうよ」
「翼さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。この場で暴れたりなどしませんので」
奏と翼の歌と観客の共鳴によって、発生したフォニックゲインで起動した、ネフシュタンの鎧の事を翼は口にして、緒川の言葉に目を瞑って落ち着こうとしている。
「現在のネフィリムは基底状態だけど、完全に停止しているわけじゃない。だから、この状態なら了子ママや俺も起動させることが出来る」
「はい! なんで了子さんだけじゃなく流先輩も起動できるみたいなことを言っているんですか!」
響の問に流と了子は同時に答える。
「「さあ?」」
「へ?」
「流はその聖遺物がどんな物か知らなくても、何故か知ることが出来るし、操作することも出来るのよね」
「理由は了子ママでもわかってないんだよ」
流は口ではそういうが、多分左手親指についている奏とセレナと流しか見ることの出来ない、指輪のせいだと思っている。デュランダルを使った時の謎の人格も、左手が光った時に現れたらしい事を、流はあとで奏に聞いた。
「ま、そんなことはどうでもいいでしょ。フロンティアは了子ママや聖遺物を扱っている人なら多分問題ない」
「それは私でも可能ということ?」
マリアはフロンティア計画には何らかの形で加わりたいようで、そう言ってきたのだろうけど、聖遺物を扱うというのはシンフォギアの事ではなく、ナスターシャやウェルの事を言っている。
「マリアは無理」
「……こんな時に言うのはよくないと思うのだけれど、流は私に対して、少しだけ厳しい気がするのは気の所為?」
マリアは調や切歌、他の装者を見て扱いに差があるよう感じた。少し前に夜空を無理やりだき抱えられながら、恐怖体験をしたことが頭の端にある。
「そんなことは無いよ? マリアがやりたいこと、欲しいこと、俺にして欲しいことなんかを言わないからそう感じるだけ。マリアがダダ甘で接してほしいならそうするけど、こんくらいがいいんでしょ?」
「甘すぎるのは好かないけど、ある程度優しくしてくれてもいいと思うのよね。何故厳しめにしていたの?」
マリアの質問に、流はセレナの方を向く。周りの人から見たら、そっぽを向いたようにも見える。
『マリア姉さんは鞭を振るわれた後に飴を与えられた方が可愛いと思うんです。もう21歳になったマリア姉さんが涙目になって甘えるんですよ! 可愛いと思いませんか!!』
流はただセレナの希望に答えているだけなのだが、それを口にすることは出来ない。
「マリアはマゾ寄りだと思ったから」
何人かが飲み物を吹き出し、ナスターシャは驚きのあまり腰を痛めたようだ。そして言われた本人は顔を真っ赤にして怒る。
「流石にそれは酷すぎる! 流は私の事をどう思っているの!」
「可愛いお姉さん」
「……続けましょう」
『マリア姉さん本当にチョロ可愛いですよね』
フィーネと同じ方法で、マリアも陥落した。以後、流がマリアの事をお姉さんという事は無い。それではつまらないとセレナに怒られたからだ。
「……こほん、流さんと了子さんの対策は分かりました。神獣鏡はどうする予定なのですか?」
「私は神獣鏡の機能的に特に訓練していない一般人に使う気だったわね。流はどう考えているの?」
ナスターシャの仕切り直し、了子が答え、皆の視線が流に向く。
「俺は未来、小日向未来をシンフォギア装者として仕立てようと思っている」
「……わたし?」
響の連れで関わってしまっているから、この場所に呼ばれた程度だと思っていた未来は理解が追いついていないようで、その横の響は流を睨んでいた。