彼はいつの間にか金色の建造物の上にいた。
色がごちゃまぜな球体や金の残骸、黒や紫の混沌なる空間が広がっている。
ピコっピコっ
流の周りには様々なノイズが集まっていて、一様にこちらを見ている。大型ノイズも空中に浮かんでいて、こちらを眺めている。
「お前らは俺を襲わないのか……いや、杖の効果か」
彼はこの場所を見たことがある。ここはアニメ2期ラストに来たバビロニアの宝物庫の内部だ。ネフィリムノヴァを隔離し、爆散させたところでもある。流がいることによって、絶対に起らない出来事になったが。
「あれ? ペンダントがない」
ソロモンの杖の持ち主なので、この空間の主でもある流は、この場所に奏もセレナもいない事がなんとなく分かる。暴走した時に見た魂の光がこの場所にはない。
丸型ノイズが小動物のようにこちらに近づいてくる。確かにバビロニアの宝物庫を完全に閉めて、一応人を襲うなと命令しておいたが、襲わないで覗き込まれるとは思わなかった。
いつも殴り殺すだけだった丸型ノイズに触れてみると、ふにふにしていて、一瞬後には固くなったり更に柔らかくなったり、不思議な体をしている。
彼はそんなノイズ達がいる方を向き、話しかけているのか独り言を言っているのか、口から言葉をこぼす。ここには誰もいないからこそ、流は溜め込んでいた弱音を吐く。
「怖くなっちゃったんだよ。セイントっていう多分敵になる存在と出会って、しかも俺の求めている死者蘇生を知っている。あいつが言う通り、求めてしまいそうで、あいつらにみんなが殺されるかもしれない。俺はセイントやその組織からみんなを守りきるなんて多分出来ない。しかも、セイントとかいうのが従うほどの存在がいる。絶対に強い」
「まず今のままだとみんなの戦闘経験は、アニメに比べて大幅に少なくなるんだ。フロンティア計画は神獣鏡の装者を作り出し、フロンティアを浮上させる。ネフィリムを成長させて心臓を抉り取って動力にする。後は相応のフォニックゲインがあれば月は元の軌道に戻せる。今のままだと、ネフィリムノヴァとの戦いもないから、XDモードになることもないし、装者同士の戦いもない」
丸型ノイズの上に座る。流は今まで座ったどの椅子よりも座りやすく感じる。時々固くなるのを除けば。
「F.I.S.組はいい子達だ。しかも、やろうとしていた事は世界を救うこと。方法が限られていて、暴力的手段を取ってしまったけど、最終的にはあの子達が行動を起こさなければ、月の落下はギリギリまで分からなかったはずだ」
「だからこそ、可能な限りあの子達の負担を減らすために、俺は組織ごと吸収することを選んだ。でも、それのせいで相手と分かり合うための戦いがなくなり、戦闘が減った。シンフォギアは気合いや信じる心があれば戦えるけど、勘とかは戦わないと育めない」
よくシンフォギアに殺されている人型ノイズと目が合ったような気がする。流はその目が責めているように感じた。お前が言うべきことは違うだろとでも言いたげだ。
「……わかってる。これら全て言い訳だよ! 俺はただ怖くなった。俺は奏を好きで居続けなくてはいけない。それが償いだ。なのに、クリスの事も好きになりつつある。クリスの露骨なアピールに気が付かないわけないだろ! 鈍感って訳じゃねえ。弦十郎父さんや緒川父さんに育てられて、鈍感になるわけねえだろ!」
「響は俺を先輩と呼んでくれて可愛いし、未来はそんな響のために頑張っていて可愛い。翼は最近昔みたいな笑顔を少しだけ見せるようになって可愛い。調はなんか不器用な妹みたいで可愛いし、切歌は背伸びする妹で可愛い。マリアは年上なのに、ビルの上を駆け進みながらお姫様抱っこで運んだ時、シンフォギアを纏っていないからかキャーキャー言ってて年上可愛かった」
「これらは誰か一人が死ねば崩れる。みんなの傷つく顔が見たくない。悲しむ顔が見たくない。でも、俺じゃみんなを守って戦えるほどの力は手に入れられない。しかも俺のせいでみんなが弱体化してるはずだ。錬金術師が怖い」
口に出せば出すほど、彼は自分という存在の歪さを感じ取れる。流は自分が居なければ、キャロルにも確実に勝てるのに、既に流れを修正できないレベルまで変えてしまっている。
「俺は山を殴ってシャトルを通すことなんてできない。相手の魂を殺すことなんて出来ない。空を飛んでいる敵を一発で粉砕なんてできない。頑張っても出来るようになんてならない」
「時が進むにつれて俺は守られる側の人になる。あの子達が戦っているのを眺めることしか出来なくなる。俺は人間なんだよ、成長には限界がきっとある。俺はXDモードには勝てない」
流は理不尽に天にいるであろう存在にキレる。この世にいるはずのカストディアンへ叫ぶ。
「俺は転生者なんだろ! 色んな転生作品みたいに無限に強くなれるようにしろよ! 原作崩壊させても問題ないくらいの力を手に入れられるようにしろよ! なんで俺を転生なんてさせたんだよ。俺はただの一般人だぞ。弦十郎父さんみたいに崇高な精神なんて持ってねえよ! 怖いよ! 死にたくねえよ! 死んで欲しくねえよ!」
「みんなが多少なりとも俺を思ってくれている。それが重い。それが怖い。期待に答えられなくなるのが怖い。そんな事を考えてたら戦えなくなった。なんだよ、なんでビルを飛び越えたり、分身したりって、アホじゃねえの。そんなの生身の人間がやることじゃねえよ。わからないわからない分からない」
弦十郎や流は体を鍛え、技を磨いているが、それだけではあの圧倒的な強さを手に入れることは出来ない。それらを兼ね揃え、最後に必要なのは気合いであり意思である。その最後のパーツを今の流は見失ってしまった。
「俺は異物だから、俺が変えたから、俺がやらないといけない。みんなの和解する場面を飛ばしたなら俺がそれを起こす。喧嘩して仲良くなるシーンがあるなら、俺がそれを起こさないといけない。見捨てたセレナだって、俺が生き返らせないといけない。奏に愛を囁いたんだから、それを通し続けないといけない。クリスを俺に依存させる方向に持っていったのなら、クリスの思いに答え続けないといけない」
奏とクリスの事は両立できないが、その矛盾すらも何とかしないといけないと考えている。
「そんなの無理だよ……俺はただのモブなんだぞ? 強くなったのだって、父さん達を騙して、俺が死にたくないからなんだよ?」
流はノイズ達に背中を預けて、このまま寝てしまおうと思った。両親の死から始まり、過酷過ぎる弦十郎や緒川の鍛錬、それを経ても変えなかった奏の死、知っていてクリスやセレナを見捨てたことなど。
全ての精神的負荷を流は乗り越えたのではなく、ただ溜め込んでいた。それが未知の強敵に合うことで破裂してしまった。
決して他人に言えない秘密からくるストレス。知っているのに無視した事実。周りからの期待。様々な想いに押しつぶされた。
『人は脆い』
目を閉じ、膝を抱えて、耳を塞いでいるのに、誰かの意思が伝わってくる。荘厳で、圧倒的で、神々しい声が聞こえる。
『人は強欲だ』
『人は我欲で○を侵す』
『貴様は方法を放棄して逃避している』
「うるせえよ! 俺が強くなる方法を放棄してるってか? 弦十郎父さん並に強くなって、それ以上を求める方か? そんなもんわかんねえよ!」
不思議な意思はいつの間にか途切れていた。
「わかんねえよ。聖遺物をどんどん融合させていくことか? それは人間を捨ててしまう行為だ。既にソロモンの杖で人間からズレてるけど。それに奏やセレナを縛っているあの指輪はなんだ? 俺はあんなもの持っていない。指輪だって持ったことがない」
流は目を開けて、自分の左親指を見てみる。入手経路を覚えていない指輪がそこにはある。
「あるけど外れないし触れない。本当に何なんだよこれは!」
いつの間にか周りにいたノイズはいなくなっていた。流に擦り寄ってきて、椅子になってくれた丸型ノイズもいない。
「……俺はどうすればいいんだよ。もう一人じゃ無理だよ」
金色の建造物に直接座り込み、完全に考えるのをやめようとした。
バキ、バキバキ
少し先の空間にヒビが入り始めた。
何となく流は眺めていると、空間が割れ、そこから赤いビームがバビロニアの宝物庫内部へ消えていった。
「は?」
**********
クリスは流にハメられて、響や未来達と遊園地に来ていた。遠い昔にパパとママと来た思い出が蘇り、何だかんだ楽しんでいた。
そんな最中、弦十郎から一通のメールが届いた。
『仮説二課本部第一運動場にて、風鳴流がガングニールの欠片を落として突如消失。流が近くに来ていたら、連絡をしてほしい』
「クリスちゃん、これって」
「すまん、あたし帰るわ」
「待ってよ、クリスちゃん!」
クリスは響達を置いて、遊園地を後にした。
クリス自身何故こんなに急いでいるのか分かっていない。異性に多大な恩を受けたら、体で支払うなどという了子のおかしな常識にも、何故か従う気になり行動している。この前は色々不安になり、流の入っている風呂に自ら入ってしまった。クリスは今考えても顔から火を吹き出しそうだ。
今回もそれと同じように、考える前に体が動いていた。現在の二課本部がある港へ行くには、タクシーやバスを使わないといけない。だけど、それでは遅い。
「Killter Ichaival tron」
遊園地から少し離れて、人がいない場所につくと、シンフォギアに変身する。
「速度マシマシの超特急だ!」
【MEGA DETH FUGA】
大型ミサイルが沢山展開される技だが、一機だけにして、それに飛び乗って二課本部へ向かう。歌っている歌も、自分を急かすような歌詞を口ずさんでしまい、更に気持ちが焦る。
「今朝の流はなにかがおかしかった」
ミサイルに張り付き、顔を隠し、空気抵抗を抑えながら、今朝のことを思い浮かべる。
マリアを送迎してきたと言っていた流の顔は、いつもに比べて少しだけぎこちない表情になっていた気がする。動作も何だか遅く、クリスがおめかしした時の褒める言葉もいつもに比べて弱かった。
体調は悪そうに見えず、精神的な何かだろうと辺りをつけたクリスは、
「しょうがねぇから今日は付いていてやるか」
と思っていたが、遊園地へ強制連行された。
クリスだって若い女の子だ。一度遊び始めれば、不安要素もあとに放置して楽しんでしまう。しょうがない事だ。だけど、クリスは自分を責める。
「先輩やバ、立花と戦う時ですらあんな不安そうな顔をしていなかった。おっさんや緒川と戦うと言った時も、あんなに弱った表情じゃなかった。朝に何があったんだ? ただスーパーに寄っただけじゃなかったのか?」
クリスは考えても分からないので、原因を考えることをやめて歌に集中する。一直線にミサイルで飛んできたおかげで、移動時間を大幅カットできた。
仮説二課本部である潜水艦上空でミサイルから降り、ミサイルは空中で周りを気にしながら起爆させた。
「クリス! シンフォギアを移動手段にするな!」
「なんかすげえ嫌な予感がするんだよ! 取り返しがつかない、そんな気がする。邪魔すんな!」
クリスは自分がネフシュタンの鎧を着ていた時の、ゆっくり侵食されるあの嫌な感じに近いものを感じている。
潜水艦から出てきた弦十郎を追い越し、第一運動場に向かう。そこには流が連れてきた月読調と暁切歌、その他スタッフがいた。
「雪音クリス」
「なんでシンフォギアを纏ってるデスか!?」
いきなり部屋に入ってきて、シンフォギアを纏いながらきつい目で見てきているので、二人は警戒する。いつでも変身できるように構えていると、クリスの視線はズレた。
「……流はあそこで消えたのか?」
クリスは空間の差異を何となく感じ、そこに指をさす。二人はそれに頷いた。
(ソロモンの杖を使ってノイズを出した時の感覚に似ているな。でも、何でだ? ソロモンの杖は流が回収したから、悪用されることなんてない。流が使ったのか? 何故? もしバビロニアの宝物庫で何かをする用事があるなら、それを言ってから行動するはずだ……)
「聖遺物の暴走か!」
クリスは自分なりの結論に到達した。周りを確認するも、了子がいない。
「了子はどこだ!」
「了子さんならこの場を見たあと、何かの計算をするとかで篭っちゃいましたよ」
藤尭の言葉で、クリスは了子も同じような考えに至ったと決めつけ、クリスは今やれることを考える。
「おっさん!」
「なにか分かったのか!」
「船が邪魔だ、少し離して欲しい」
「それだけじゃ分からんぞ! 了子くんも説明無しで篭ってしまった。説明をしてくれ」
クリスは弦十郎に軽く説明して、流が消えた場所から潜水艦を離してもらった。
クリスは防波堤に立ち、流の消えた空間の射線上には、何も無い事を確認する。隣には調と切歌がいて、彼女を見ている。クリスは流の消えたただ一点だけを見続け、
「Gatrandis babel」
「ちょっと待つデース!」
クリスは絶唱を歌い出すが、切歌が張り付いてきて無理やり止めた。調も射線上に出たため、クリスはやめざるを得なかった。
「あぶねえじゃねえか! 前に出てくるな!」
「待って、なんで絶唱を歌い始めてるの?」
「流はあの向こうにいる。あたしが起動させちまった杖で、向こうに囚われているのかもしれねえ」
「それでなぜ絶唱デスか!」
クリスは連れてこられた二人の目が必死なことに気が付き、焦る気持ちを抑えて説明をする。
「今からあたしが流を救う。普通の攻撃じゃ空間の壁は突破できねえ。あの
クリスは攻撃されているのに手をあげなかったり、戦いよりも話し合いをしようと呼びかける癖に、物理会話がめっぽう強い響を思いだす。
「あのバカ?」
「もしそれしか無くても、絶唱は危険すぎるデス!」
「流はあたしのために完全聖遺物の融合実験を受け入れたり、手酷く手を払ったのに、何度も追いかけてきてこの手を握ってくれた。あたしは流がおかしい事を察していたのに、助けてやることが出来なかった。でもまだギリギリ間に合う気がするんだ。邪魔をしないでくれ!」
クリスの鬼気迫る表情に、何を言ってもこの人は止まらないと感じた二人は頷き、クリスから距離を離した。
「ありがとう。Gatrandis babel…………」
絶唱を口ずさみ始めると、アームドギアがカ・ディンギル時の大型レーザー砲よりも、口径を狭め、多数のエネルギーリフレクターを展開して、ビームを反射・増幅させていく。
「…………fine el zizzl」
(あいつの下に届けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
クリスの口から血が零れるが、想いを昂らせ、エネルギーの一点集中砲撃を開始する。カ・ディンギルの時よりも、圧縮されたその光線は流が消えた空間を通り過ぎず、その場で何かとせめぎ合う。
「いけえぇぇぇぇぇぇ!!」
ピキピキという何かにヒビが入る音が響き、その音が大きくなり、空間の一部が割れた。エネルギー光線は割れた空間の向こうへ吸い込まれていった。
クリスは巨大化させたアームドギアをその場に捨て、その穴に向かって飛んだ。
**********
「は?」
「げほッ、ゴホゴホ……自分だけじゃ帰れませんって感じじゃないな」
空間が割れたと思ったら、そこから吐血して疲れた顔をしているクリスが入ってきた。
「だ、大丈夫か! なんで血を吐いてんの!?」
「ここに来るためにちと無理しただけだ。流こそここで何やってんだよ」
空間の穴から入ってきた彼女の元に駆け寄り、ふらついているクリスを抱き止める。穴の向こうを見てみると、リフレクターが展開されていて、エネルギーの残滓が空中で蝶の形を作っていたことがわかる。
「なんで絶唱なんて使ってんだよ! 無茶するな!」
「流こそ無茶ばっかりしてるじゃねえか! 朝に何があったんだよ」
体勢と背丈の差で、クリスは見上げるような格好になっている。クリスは少し頬を染めるが、流が逃げないように背中に手を回す。
「……え?」
「了子やおっさんが流は何でも溜め込むって言ってた。あたしだってお前達に言いたくないことだってあるし、色々溜め込む。だけど流はそれが顕著だよな? 朝の流は自分で気がついていないと思うけど、酷い顔だった。何かに怯えて、それでもいつも通りにしようとしていたよな?」
「……」
流は隠せていると思っていた。バレるとしてもOTONAくらいだと思っていたら、クリスにバレていて情けなく思う。
「シンフォギア装者にも怯えない。おっさん達との戦いでも怯えない。そんな流が何に怯えていたんだ?」
「……言えない」
「言わないじゃないんだな?」
流は頷く。セイントという女の事を言ってしまおうと、口に出そうとするが、またいつものように言語化が出来なかった。
「怖いのか」
「……怖い。俺じゃあれらには勝てない。でも、俺が守らないと!」
「わかった。流は色んなものを勝手に背負って潰れそうになっている。なら、あたしもそれを一緒に背負ってやるよ。流がみんなを守るなら、あたしは流が守りきれない人と流を守ってやる。勝てないっていうなら死ぬ気で力を貸してやる」
「死ぬ気は駄目だ」
「自分が常に死ぬ気の癖になに言ってんだ、アホか。あたしが流を一生面倒見てやる。だから、勝手に消えようとするな。先輩や了子だって悲しむぞ? ここにずっと居ようとしてただろ」
「……」
「答えなくてもわかる。抱え込んで考え込んで、全ての責任を自分のせいにしてるって顔だ。しかも色々と喋れない。大丈夫、あたしも背負ってやる。大丈夫、あたしが流を絶対に離さないから。もちろんあたし自身だって死なない」
小さな子をあやす様に、流の背中をゆっくり撫でる。流はそんなクリスに体重を預ける。クリスはしっかり支えてくれて、流の中の心の重さが少し軽くなった気がする。
「……ありがとう。その、よろしくなクリス」
今やっと奏が死んでから、流の止まっていた時が動き出した。
守る庇うと言いながら、無理をして、奏の元へ早く行こうとしていた無意識の考えが改まり、クリスの幸せのために生き、その幸せを少しでも長く、そしてみんなを幸せに。変わっていないようで、しかし心の持ちようが変わった流の表情は、とても晴れやかだった。
**********
「ママ」
「……出てきたのね。心配したのよ? ガングニールで空間ごと貫く計算をしていたら、まさかクリスが思いだけで無理やり空間の壁を破るとは思わなかったわ」
流はクリスに助けられた後、同じく色々やってくれていたであろう了子の下へ行くと言い、クリスと一度別れてきた。
地面にはたくさんの紙が散乱していて、位相を正す調律とガングニールの一撃必中の性質を利用して、流をこちらの空間に引き摺りだそうとしていたようだ。
「もう極力無理はしないようにするよ。クリスや他の人も悲しむだろうし」
「それがいいわね。本当に無茶しす……ねえ」
流の生き急ぎが治った事に安堵して了子は彼を見た。すると、了子の表情が酷く歪む。
「なに?」
「ソロモンの杖を融合させた?」
「したよ。ソロモンの杖がしたがっていたように感じるほど、相性がよかったからやってみた」
了子は頭を抑えて、悲痛な顔をしながら叫んだ。
「勝手にそんな事しないでって言ってるでしょ! もしやるなら私に聞いてからやりなさい! 何のために研究してると思ってるの! バカ息子が生き急いで力を求めたとしても、聖遺物関係なら何とかするためにやってるのよ! 私を母親と呼ぶなら、抱え込まないで頼りなさい!」
「ごめん。改心する前にやっちゃった事だからさ。でも、問題なく扱えるんだよ。後でママに検査してもらうつもりだし」
「当たり前よ。私が完璧に調べてあげる」
了子は溜息をつき、一通りの検査設備の予約を取っている。
「俺は皆と生きるために強くなりたい。だからさ、ママが使っている先史文明期の技術で発生させてる、シンフォギアでも錬金術でもない障壁のやり方教えて?」
「駄目」
流は了子の元へ近づき、すぐ側で土下座をしてもう一度頼む。
「お願いします。もう無力を感じるのは嫌なんだ」
「……足を舐め、はい、やめ! ジョークが通じない子ね。駄目って言っても、そこで土下座をし続けるんでしょ?」
流は言われた通り了子の足を舐めようとしたが、すぐに止められた。あの了子でも息子に足を舐めさせる趣味はないようだ。
「今度は本気だからね。もし駄目だったら、禁止されている錬金術を習得しようとする程度には」
「錬金術は発動媒体が危ないから駄目よ……はぁ、覚えられるかわからないけど、やってみましょうか。でも、錬金術は駄目」
「よっしゃ! 了子ママ大好き!!」
「はぁ」
了子は本気でため息をついた。ママと言われて少し喜んでいる自分に、もう一度ため息をついた。
何故セイントと会っただけでこんなになったのか、何故流がそんなにも錬金術を恐れるのか。当分先ですけど、書かれます。