戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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AXZ4話。なるほど、全裸の男を出すのは間違ってなかった。
うまく切れなかったのでいつもに比べて長めです。

そしてまた予約投稿ミスをやらかしました。すみません。


#22『憤怒のガングニール』

「やっぱり翼は一人でもうまいけど、二人の方が楽しそうだな」

 

『あたし以外と組む気がないのかと思ったけどよかったよ。でも、マリアって子は少し無理してて可哀想だな。誰かさんが脅してるから』

 

「ノーコメントで」

 

 アニメとは違い、無事にマリアと翼コンビの歌が終わった。メインの二人はまだまだ出番があるので、あの会場からマリアが帰ってくるのはもう少しかかる。

 

 今回はソロの時にはない、競い合って高め合うという気概を感じられた。流は翼が楽しそうでよかったと思うが、初期の翼と奏コンビよりもフォニックゲインが出ていないのも見てわかる。

 

「……質問しても宜しいですか?」

 

「どうぞ」

 

 パワーアーマー車椅子からただの椅子に座り直させられたナスターシャは、マリアと翼の出番が終わると、流の怒りを買わないように下手に出ながら許可を取った。

 

「ドクターウェルは死んだのでしょうか」

 

「生きてるよ。あの人がいないと、調も切歌もマリアだってシンフォギアで戦いたい時に戦えないし」

 

 了子はlinker研究をあまりしていない。正規や融合症例がいるのに、時限式の研究をしようとはしないだろう。

 

「あなたは三人を戦わせる気なのですか?」

 

 ウェルの時と比べて、少しだけ声が大きく強くなった。自分は戦わせる気だっただろうに、三人を戦わせることに対してあまり良い感情を持っていないようだ。

 

「いいや、知っているのに戦う術がない、戦えるのに戦えないというのは辛いからね。戦えるけど戦わないを選択するなら、俺はそれを尊重する」

 

「あなたの目的は?」

 

「み……マリアが来てからね、質問は終わりだ。口を滑らせてしまいそうになる」

 

 ナスターシャは会話で情報を抜き取ろうとする気が満々だったので、流は会話をすぐに終わらせた。

 

「私達を縛ったりしなくていいの?」

 

 調は指示通り流の側かつ切歌から遠い位置で質問した。みんな椅子に座っていて、ナスターシャが一番端で、その横に流と調、少し離れて切歌がいる。

 

「緊縛癖……とかは言わない方がいいか。縛られたいなら縛るけど、痛いの嫌でしょ?」

 

「うん」

 

「はい、はーい!」

 

「なに?」

 

「イガリマを返して欲しいデース!」

 

「駄目でーす」

 

「デース……」

 

 くぅー

 

 デスデスとやり取りしていると、隣から空腹を告げる音が聞こえた。そちらを見てみると、調が顔を真っ赤にして、目を逸らしている。

 

「……切ちゃんがお腹減ったって」

 

「私デスか!?……お腹が減ったデスよ、カツ丼を要求するデース!」

 

 調の擦り付けに切歌がびっくりするが、しょうがないなというような顔をしてから、切歌は自分の食べたい物の要求を出してくる。

 

「ここって食料と調理設備ある?」

 

「ある」

 

「なら作ろっか。マリアもまだ帰ってこないし……ウェルは縛ったまんまだったな、食ってからでいいか。調、調理道具と食料どこ? あと手伝って」

 

「なんで私が?」

 

「調理するのは調だろ?」

 

「なんで知ってるの?」

 

「秘密」

 

 切歌にはナスターシャが無理をしないか監視させる。既に彼女らが企てた計画のパーツは、フロンティア以外全てを取られてしまっているので、変な抵抗は無いはずだが、ナスターシャはOTONAだから注意する必要がある。あるにはあるが、弦十郎に比べたら純度の低いOTONAなので、流はそこまで警戒をしていない。

 

「肉ってある?」

 

「節約して使わないといけないけどある。切ちゃんの注文は聞かなくていい。昨日までは豪華な食事を食べてたから」

 

「それってマリアが持ってきてた料理でしょ? 美味しかった?」

 

「美味しかった……そういえば付き人ってあなた?」

 

「そうだよ」

 

「そう。料理ありがとう」

 

「どういたしまして。俺が作った料理を美味しいって言ってくれてありがとう」

 

「あなたが作ったの?」

 

「全部ね」

 

 調と一緒に薄切りの豚バラを使ってミルフィーユカツ丼を作った。みんなの食事を作っていただけあって、調の手際は良く、とても簡単に調理ができた。料理も工程が少なく、ご飯は残っていたのですぐに完成した。

 

「凄い楽だったわ」

 

「あなたも悪くなかった」

 

 家でカツを作ると、奏が邪魔をして、クリスが味見と称してつまみ食い。響がいればお腹を鳴らしてくるので口に放り込み、未来は近くで見てメモを取る。楽しいからいいが、そういえば誰も手伝ってくれないんだよな……と少しだけ目頭が熱くなる流だった。

 

「シンフォギア装者は全般的に女子力……低すぎ!?」

 

「何か言った?」

 

「調はいいお嫁さんになるなって」

 

 調は少し考えたあと、流に変態を見る目を向けた。

 

 

 **********

 

 

「うまい。朝からなんも食べてなかったから尚更うまい」

 

「よく出来た」

 

「カツ丼デース!!」

 

「お肉ですか、いいですね」

 

 皆が思い思いにカツ丼に手をつける。

 

「あと切歌は野菜を食え。ナスターシャもな。調は言わないでも食べるみたいだけど、切歌に譲るな」

 

「……マリア?」

 

「そう、母親がお肉が好きでそれしか食べようとしない。妹のはもう一人の妹に食べ物を譲ってしまう。譲られた子は緑の野菜が足りないって嘆いてたよ」

 

 マリアに料理を渡すのが当たり前になり、野菜を増やして欲しいと言ってきたので、理由を聞くとこんな事を言っていた。

 

「調〜、今日はお肉の日じゃないはずでしたよね? 大丈夫なんデスか?」

 

「この人が」

 

「あ、流でいいから。調は気づいたし。付き人轟流だって」

 

「この人がそれにしようって。切ちゃん、私達って今脅されてるのわかってる?」

 

 流は無視された。

 

「……わ、わかってますよ? 調は変な事を言う子デスね。脅されてるのにその事を忘れる人なんていませんよ」

 

 切歌の視線が空を泳いでいる。そんな切歌を調はじーっと見てからくすりと笑う。

 

「ならいい」

 

「ちなみにカツのおかわりもある」

 

「お願いするデース!」

 

「お願いします」

 

 切歌と同じくらいの速度でお代わりを要求してくる病弱教授。流はマリアが母親が体調が優れないのに、アメリカンな食べ物ばかり求めて困っているということを言っていたのを思い出した。

 

「ナスターシャは駄目だ。病気なんだろ?」

 

「この程度問題ありません」

 

 流は隣の調を見る。

 

「駄目」

 

「だそうだ」

 

「……そう、ですか」

 

 マリアがいないからいけると思ったようだが、調によって止められてしまった。ナスターシャは遠い目をしながら、カツに思いを馳せる。

 

 

 **********

 

 

「マム! 調! キリ……カ?」

 

 マリアは何とか「QUEENS of MUSIC」でアイドルを演じきり、急いでいるが追手(ファン)を撒きながら、ユニット衣装のまま移動拠点に戻ってきた。

 

 数日前に風鳴翼の事務所が寄越した付き人。アメリカの組織であるF.I.S.から独立するにあたり、アメリカの人材を連れてこれなかったからありがたかった。

 その人はまるで日本のNINJAのようだった。風鳴翼のマネージャーがNINJAであることから、その事務所はこれほどのスタッフを揃えているのかと驚愕した。

 

 仕事中の欲しい物や知りたい事を、少しの仕草で理解しそれを解決する。仕事外の食事まで用意してくれ、調や切歌、ナスターシャに美味しいものを食べさせられたことに、マリアは感謝していた。

 

 だが、その男はマリア達の世界を救う計画の邪魔立てし、更に調と切歌から戦う力を奪い、ナスターシャをも人質に取った。

 マリアは後悔した。少しでも仲間以外の人を信じた結果、こんな事を起こしてしまった。自分の不注意で計画が破綻しかけていることに涙が流れそうだった。

 

 その男の言う通り、コンサートをやり遂げて移動拠点に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「おかわりデース!」

 

「切ちゃん食べ過ぎ」

 

「はいはい、少し待て」

 

 何故か犯人()が、人質(切歌)からおかわりを要求されて、配膳している場面にマリアは遭遇した。入口で叫んだため、皆の視線がマリアに集中する。

 

 マリアは一度車から出てから、目を擦り、周りを確認し、移動拠点を確認する。

 

「確かに私達の拠点だ」

 

 マリアは中に入ると、椅子に座っている調と切歌とナスターシャがいた。何故か和気あいあいとご飯を食べているということは無かった。

 

「……マム、頰っぺにご飯粒がついてるわよ」

 

「……」

 

 ナスターシャの頰っぺには何故かご飯粒が付いていた。

 

 

 

 

「一日ぶりですね、マリアさん」

 

「今更その様な仮面を被らなくてもいい! 何が目的だ! どうやって私達の計画を知った!…………ドクターはどこだ!」

 

 マリアは流に続けざま質問をした。最後の質問は思い出したかのように付け足されていた。

 

「どうして知ったのか、今の目的なんて言うわけがなかろう? ウェルはそこら辺の車で寝ているわ」

 

『お遊戯会』

 

「……」

 

 流は何となく、ワルぶってみたが、奏に言の葉で切り捨てられた。マリアはこの状況で、変身して皆を助け出し、尚且つ聖遺物を回収する術を考える。

 

「……マリアと戦って納得させるって!」

 

「そうデス! こいつにマリアが勝てば全てを返すって言っていたデース!」

 

「おい! それっぽい会話の流れでやろうとしてんだから、ネタバレすんな!」

 

 流は飯を食べている時に、情報をポロポロと口から零してしまった。流の中では、調も切歌もナスターシャも敵とは思っていないので、警戒が緩くなっていた。そこに、空腹を満たすご飯を摂取したので、情報をかすめ取られた。

 

 マリアはこんな敵(アホ)に不意を打たれたのかと、頭が痛くなる。ライブ前に打ったlinkerで結局変身しなかったので、まだいけるか? と計算する。

 

「まあ、ネタバレを喰らったが、俺は組織『フィーネ』の唯一の戦力であるお前を倒して、お前達を手に入れる」

 

「ゲスが!」

 

「待て、変な勘ぐりはするな」

 

「来い! 私がみんなを守る!」

 

 流の発言により、マリアに火がつく。流は決してあれな目的ではないのだが、そう聞こえてしまったようだ。

 相手も戦うことを望んでいるので、付いてくるだろうと思い、マリアは外に出て行った。絶対に勘違いされたことに気づき、溜息をつきながら外に出ようとすると、ほか三人もついてくる。

 

「お前らは変身できないだろ、危ないから外に出てくるな」

 

「嫌」

 

「デース!」

 

「私達の運命を決める戦いです。見させて頂けませんか?」

 

「……車から離れるなよ」

 

 

 **********

 

 

「あの子達が言っていた事は本当なのかしら?」

 

「ああ」

 

「あなたは私と戦うために、ここまで回りくどい事をしたの?」

 

「違う。マリア達が欲……必要だから」

 

「あなたもあの国と一緒なのね……」

 

 マリアの質問に答えていく。ぶっちゃけ流は今はどう思われようと構わないと思っている。第一印象は悪くない(付き人)ので、今後次第と思っているが、流石に性犯罪者を見る目で見られるのは堪える。

 

 今一番の問題は翼がここに来てしまう事だ。ガングニール関係は翼にとっても死活問題なので、早く終わらせたい。翼が来ると多分場が制御できなくなる。クリスが来てもキレて敵を殺そうとしてしまう。

 

「私はお前を倒して、何としてでも計画を進める! Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

 マリアは自分の決意を叫び、ペンダントを取り出して、掲げながら聖詠を詠う。

 流はガングニールの欠片からエネルギーが漏れ出ているのを感じる。響がガングニールを纏う時に感じる力と同じものだ。

 

 マリアは光に包まれて、そこから姿を現した。奏とも響とも違う黒いガングニール。黒いマントをたなびかせて、流を強く睨む。

 

「さあ、完全聖遺物でも何でも出してみなさい」

 

「いや、俺はこの肉体が武器だから」

 

「……そうか、私には使う価値すらないという事か」

 

「まじで最強の武器が肉体だから」

 

 マリアは仲間がやられた原因は何かしらの力で行われたと思っている。調や切歌だって色々な訓練を受けている。まともな抵抗すらできず、見た感じ怪我の一つもせず、二人から聖遺物を取り上げるなど、聖遺物による何かしかありえないと思っている。

 

 更に人質になっているのに、和気あいあいと食を共にする。普通じゃ考えられないことだ。絶対に何かをされたとマリアは思い込んでしまった。

 

『手伝うか?』

 

「いらん。相手はガングニールだぞ?」

 

『まあそうだな。頑張れ』

 

「おう」

 

「一人でごちゃごちゃと!」

 

 相手は人間だが、仲間を倒せるほどの敵だ。一般人として扱わず、倒す覚悟を決めると、マリアは流に近づきながらマントで攻撃する。

 

「ぬるい」

 

 流はマントによる攻撃をある程度の隙間を開けて避ける。このマントを迎撃するには、こちらに来ている全面を殴らないといけない。然もなく残った部分からこちらに近づいてきて、肉体が切り裂かれる事は()()()()()

 

「避けてばかりでは、私を倒せないぞ!」

 

「linkerで制限時間があるのはそっちだろ?」

 

「はあああああ!!」

 

 流の挑発にマントの攻撃頻度がだんだん上がっていく。とうとう避けきれなくなったのか、流の動きに決定的な隙ができる。

 

「決まりよ!」

 

「なわけねえだろ!」

 

【分身の術】

 

 マリアのマントによって切り裂いた流は、空中に溶けるように消えて、彼女の背後から声が聞こえた。

 流はマリアのマントごと、背中へ手加減して殴りつける。

 

「ぐああああ!!」

 

 マリアは攻撃を受ける瞬間、地面に触れていたマントで前に体を流したおかげで直撃は避けられた。だが、その攻撃はマント越しで流したにも関わらず、背面装甲にヒビが入っている事がマリアにはわかる。

 

「貴様は化け物か!」

 

「……早く本気出せよ。アームドギアを出さないで負ける気か? ガングニール舐めてんの?」

 

 流の目を真正面から見て、敵が本気で言っている事を悟る。生身なのに、アームドギアを使わせようとしているのだ。

 

「私に槍を抜かせた事を後悔させてあげるわ!」

 

 マリアは体の前で腕を合わせると、そこにあったアーマーが飛び出し、合体して伸び、一本の黒い槍に変わった。

 マリアは歌いながら、黒いガングニールとマントを両脇から出してニ本の槍とし、合計三本の槍を操り流を攻め立てる。

 

 マントの攻撃を避け、ガングニールの槍はうまく側面を叩き迎撃する。マントの細かい攻撃で動きを誘い、槍で貫こうとするも、うまく迎撃される。

 

「何故全ての攻撃を避けられる!」

 

「当たり前だろ? ガングニールの攻撃だぞ!」

 

「訳の分からんことを!」

 

 マントの同時操作や槍での攻撃を流は全ていなしていく。槍に接触するたびに流の腕に切り傷が増えていくが、どんどん流の顔は晴れやかな笑顔に変わっていく。

 

「傷ついているのにどうして笑う!」

 

「だってさ、俺が一番接してきた槍のガングニールと戦えてるんだぞ? もう彼女とは戦えない……マリアは確かに強い。だが、槍のガングニールについての知識は俺の方があり、槍のガングニールとの戦いなら俺は絶対に負けない! 負けてはいけない!!」

 

 結局ガングニールを纏った奏と流の演習結果は流の全勝だった。その戦歴を、奏との絆の一つを、他人に穢されていいわけがない。

 奏を観察し続け、その彼女の訓練相手も務めた。最もガングニールの戦い方や動きに詳しいのは、生きている中では流だろう。

 

 

 **********

 

 

 マリアは流の言葉で勝機を見出した。日本の槍のガングニール装者は、人々を守るために、linker不足の状態で絶唱を歌ったらしい。その人と仲が良かったらしい敵ならば、侮辱することによって、一瞬でも隙が生まれるはず。その隙に技を叩き込めば、人間の肉体では耐えられるはずがない。

 

 マリアは正義のもとに散った者を侮辱する事に抵抗を覚えるが、仲間を助けるためだと自分に言い聞かせた。

 

「確か天羽奏だったわね。linker不足の状態で絶唱を歌った……お馬鹿さんは」

 

 マリアは心の中で奏に謝りながら言葉を口にする。流はその言葉を聞いて、ピタリと動きを止めた。

 

「これで終わりよ!」

 

【HORIZON†SPEAR】

 

 ガングニールの穂先が展開し、そこから光線を発射する技。その技を人間相手なので少しだけ手加減して放った。それでも受ければ重症は間違いないだろう。

 

「……イ」

 

 流は攻撃が見えていないかのように、マリアの方へ歩いていく。目の前まで近づいてきたそのエネルギーの槍を、腕を振って()()()。弾いた右腕は水色と金色の金属のようになっている。

 

「はあ!?」

 

「カナデヲ、ブジョクスルナラ、イラナイ」

 

 流の黒い瞳は不自然に光を映さず、代わりに金色や水色の不思議な光が渦巻いている。人間味のなくなった彼はゆっくりとマリアに近づいていく。

 人間がシンフォギアの技を腕だけで弾いた事に驚き、先程までの流とは違う気配に恐怖し、攻撃のペースを更に上げる。

 

『流、落ち着け! 正気に戻ってくれ! 怒りに身を任せちゃ駄目だ!』

 

 流の視界はマリアとぼんやりとした光が()()しか見えなくなっていて、奏が侮辱された怒りにより暴走してしまった。もし流がシンフォギアを纏っていたら、全身が真っ黒に染まっているだろう。

 

 その流の前に立ちはだかり、奏は止めようと抑えるが、全く止まる気配がない。

 流を攻撃しながら後退していたマリアは、壁に背中をぶつけた。

 

「烈槍ガングニールがどうして通らない! お前は本当に人間なのか!?」

 

「キサマハシネ」

 

『やめてくれ!』

 

『……』

 

『わかった、流を頼む』

 

『……』

 

 奏は急に現れたある存在と会話してその人を頼った。

 

 流の視界にあったぼやけた光の内一つが彼を包み込む。すると、徐々に流の視界が晴れていき、強烈な憎悪も収まっていく。

 

「うおおおおお!!」

 

 マリアの決死の突きを流は後ろに飛んで回避する。

 

「あれ? なんでこんなにマリアを追い込んでるんだ?……俺は何をした?」

 

『流はあたしを貶されて、怒りに飲み込まれて暴走してた』

 

「うーん、俺はシンフォギアを纏ってないんだけどな。ありがとう奏、すまないマリア。意識を失っていた」

 

 後ろに回避した後、流は頭を振ったり腕の感覚を確かめたりしていたが、その間マリアは攻撃してこなかったので謝罪する。

 流は自分の体は特に問題なく、身体能力なども特に変わっていない。腕が金属っぽくなっていることも無かった。

 

「ふ、ふん。まだ戦いは終わっていない!」

 

「もし俺に勝てたとしても、俺よりも強いのが二人、俺と同等が三人ほどいるが、勝てるのか?」

 

 その強い人はノイズに触れないが口にはしない。流は当初の予定通り、自分の強さは見せられたはずなので、攻め方を変える。

 

「……私達たちならやれる! 何故なら、私はフィーネの名を継ぐものだから!」

 

「マリアはフィーネの器じゃないだろ。フィーネの器は調だ!」

 

「……」

 

「……」

 

「デデデデース!?」

 

「え?」

 

 まだ調子の取り戻せていない流は、爆弾を意図せず投下した。切歌と調は二人で手を繋ぎ、オーバーリアクションを取っている……切歌に引っ張られて調も大きく驚いている。

 

 そして流はやってしまった事に気が付き、開き直ることにした。ツッコミと交渉の開始だ。

 

「俺は異物だし、ズルしかしてない。好きな人を犠牲にしてここに立っている。だけど、言わせて欲しい。マリアは自分の思いで歌を歌え! F.I.S.から独立してネフィリムを育てるなら、ちゃんと餌の聖遺物を用意しておけ! 拠点をもっと用意しろ! 戦わないといけないのに、節約が必要とかふざけてるのか! 自分達が騙しているのに、ウェルが騙さないわけないだろ!」

 

「何故そんなに私達の計画を知っている!?」

 

「そんな事どうでもいいだろうが! いいか、マリアはもう無駄に背負うな。切歌や調はもっと子供らしくしろ。あっ、調はフィーネの器だけど、フィーネが転生してくることは絶対にないから安心してくれ。面倒くさい問題は全て異物に任せろ。異物の癖に流れを変えてしまった責任はしっかり持つ。だから、もう無理をするな!」

 

『お前が無理をするな』

 

 流は奏の言葉を意図的に無視する。

 

「お前だって私を騙していたじゃないか! そんな奴を信じられるか!」

 

 流は勢いで押し込もうとしたが、マリアが冷静に突っ込んできた。次は飴だ。

 

「まずここにいる皆には三食デザート付きで、一人一部屋、冷暖房完備で、欲しい物だって買ってやる」

 

「いきなり何を!?」

 

「これが」

 

「交渉デスか」

 

 マリアは流がいきなり変なことを言い出し、疑問を浮かべているが、流は夕飯の時に後で交渉をすると言ってあったので、調と切歌とナスターシャは意味を理解した。本当にただ交渉内容を言っているだけだと。

 

「ナスターシャやウェルの仕事先の斡旋もするし、ナスターシャは最高の医療を受けられるように約束する。ウェルはもちろんお菓子しか食べない偏食に合わせる」

 

 マリアが何かを言おうとするが、まだ流のターンは終わっていない。

 

「マリアはシンフォギアで戦ってもいいし、それをやりながらアイドルをやり続けてもいい。他のことももちろんやりたいならやれるように配慮しよう。調と切歌は高校とか入りたいなら入ればいい。俺は行ってないからわからん。もちろん聖遺物も返すし、やりたい事があるなら全力で協力しよう。学校に行かないで世界を旅したいとかなら、いくらでも手伝ってやる。俺もやりたい、俺がやりたい」

 

「アメリカが変なことをしようとしても、フロンティアの事で脅せばいいし、NASAで軌道計算を偽って公表したこと、マリア達レセプターチルドレンにやってきた事などをアメリカに突きつければいい」

 

「お前らがやろうとした月の軌道をどうにかするというのももちろん引き継ぐ。出来れば協力して欲しいけど、無理強いはしないし、経過が知りたいなら教えてやる! まだなにか必要か!!」

 

「お前がそれをやり遂げられる保証がない!」

 

 調や切歌は既に欲しい物を話し合っている。ナスターシャはマリアを見ている。

 

「……あー、俺の自己紹介を改めてしよう。轟流は旧名で、今は風鳴流と名乗っている。あの風鳴翼の叔父で、特異災害対策機動部二課の司令官の義理の息子だ。これでもダメか? 覚悟のために腕を差し出せとか言われても困るぞ?」

 

 流はマリアに二課のスタッフカードを投げる。こちらの事情を二課が知っているなら、マリアは何とかなるのではないかと思ってしまう。二課にはルナアタックの英雄がいるからだ。

 

「マム」

 

「あなたが決めなさい、マリア」

 

「それやめろって! ナスターシャも考えろ! あともういいだろうし、イガリマとシュルシャガナを返すわ。切歌! 調!」

 

 二人にそっと聖遺物を投げて返す。落としたとしても聖遺物がそんなに簡単に壊れることはないので問題ない。

 

「この場面で返すなんてただの馬鹿」

 

「ありがとうデース!」

 

「……彼が言った通り、私達の計画には無理があります」

 

 ナスターシャは二人を見て、一息ついてからマリアに話しかけた。

 

「でも、もし彼の言ったこと全てが嘘だったら」

 

「調と切歌の聖遺物は帰ってきましたが、あなたはもう限界のはずです。二人はまだlinkerを打っていない。彼ならその隙にまた奪い取れると思いますよ」

 

「分身とか出来るしな」

 

 流はその場で分身して、分身二人を調と切歌の背後に回らせた。

 

「奪われた時も思いましたが、どうやって分身なんてやってるデスか!」

 

「不思議」

 

「このように私達はもう負けたのです。ですが、この国の聖遺物研究機関が月の異常について認識しているのです。アメリカと違って、対策を施すようですし、委ねてみませんか?」

 

(日本はまんまとNASAの軌道計算に騙されて、全く対策なんてしてないけどね!)

 

「……わかったわ、マム。流! 私達を煮るなり焼くなり自由にしなさい!」

 

「それは嫌」

 

「グツグツは嫌デース!」

 

 流はマリアの承諾の言葉に大きく息を吐き、体から力を抜く。自然に体が強ばっていたようだ。

 

「マリアが頷いてくれてよかった。とりあえず場所を移動しようか」

 

 流は当たり前のようにマリア達の移動拠点の中に入っていった。

 




補足

マリアのガングニールのフォニックゲインを、欠片によって便乗取得していたため、デュランダルの欠片との精神的な隔たりが減り、フォニックゲインを通して流の怒りを欠片が感じ取り、あとは響と同じパターンで暴走しました。

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