戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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後書きにて補足がありますが、読まなくても問題はないものです。

そしてここの弦十郎は幼き頃より超人の片鱗を見せ、公安の時の色々で鍛えて覚醒した。という事になっていますので、よろしくお願いします。


#2『フィーネ怖い』

「……どこだここ」

 

 この世界に生を受けた時と同じような事を思いながら、彼は目を覚ました。目を覚ましてすぐに、何故知らない部屋で起きたのかわからなかったが、少しすると両親がノイズによって死んだ事を思い出した。

 

 自分の体はノイズに耐性があり、彼が盾になり、矛となれば守れていたかもしれない。全てを忘れて子供として振る舞わず、全てを打ち明け、共にあの場面で戦っていたら違っていたかもしれない。

 

「あああああああ!!」

 

 罪悪感などの自分を責める思いが湧き上がり、その場で暴れ始めた……が。

 

「……え?」

 

 寝ている流の体はその格好から動くことが出来なかった。腕は持ち上がらないし、足も胴も動かない。ほとんど動かない体を揺すってみるも、何かに固定されているようでまともに身じろぎすら出来なかった。

 

 そんな時、近未来的な扉が開く音がしたのでそちらを見てみると、思いっきり顔が引きつった。

 

 赤い髪の男と、髪を束ねた白衣の女性、黒いスーツの身のこなしが軽やかな男性が部屋に入ってきた。風鳴弦十郎と櫻井了子、緒川慎次だと彼にはわかった。彼は櫻井了子を見た瞬間。

 

(あれ? 何故かわからないけどノイズじゃ死なないって事をこの人に知られたらやばくね?)

 

 頭がパンクしそうになるが、弦十郎の声によって意識を取り戻した。

 

「すまない、君の身柄は拘束させて貰っている」

 

「……はい」

 

「君が(くだん)の不思議くんね……やっぱり見た目は普通の人間よね」

 

「了子君!」

 

「はいはい、わかってますよ。不謹慎だったわね。はじめまして、私は櫻井了子、最近技術職のトップに上り詰めた出来る女よ」

 

 流はこの時詰んだと思った。

 

 何故なら風鳴翼の共鳴実験が行われるまでは、櫻井了子も沢山いる研究員の一人だったと記憶している。翼と聖遺物の共鳴反応が起きた時、了子がアウフヴァッヘン波形を受けたことにより、フィーネとしての意識を復活させた。フィーネが元々知っている様々な技術を提供することにより重要ポジションについたはず。オーバーテクノロジーを作った時代の人なので当然であろう。

 

 彼の目の前にいる了子はアニメで残虐非道、目的の為ならなんでも行う、期が進むと『これも全部フィーネのせい』とまで言われるラスボスが目の前にいて、自分の特殊性を知られてしまった。(消される……)と流は内心怯えながら思っていた。

 

「俺は特殊災害対策機動部二課の司令官をしている風鳴弦十郎だ……と言ったが、司令官になったのは最近で、その前は公安をしていたんだがな」

 

 流は弦十郎の言葉を聞いて更に考え込む。流は作品のフレーバー情報も知っている状態で作品を見る事が好きだ。それ故にシンフォギアについてもある程度調べた。

 少し考え込むと、知りたいことを思い出すことが出来た。

 

 弦十郎が二課の司令官になったのは、前司令官がイチイバルを紛失させてしまった責任を取って辞め、その後釜として選ばれたからだ。イチイバルを盗んだのはフィーネであり、既にフィーネはある程度動けるくらいには、覚醒から時間が経っていることが分かる。

 更に自分の命の危うさに冷や汗をかいた。

 

「私は二課のエージェントをしています、緒川慎次です。よろしくお願いします」

 

 緒川さんは頭をこちらに下げてから、一歩下がった位置で待機をした。

 

「ここにいるメンバーの自己紹介が終わった所で、本題に入る前に……助けに行くのに遅れてしまい、すまなかった」

 

 弦十郎はその場で頭を深く下げて流に謝罪した。それは見事な最敬礼であった。

 

「なんで謝るんです。風鳴さんは悪くないですよ!」

 

「いいや、まだ慣れてないとはいえ、対応が遅れたのも事実だ。もしあと数分早くついていれば、君以外の……君の両親も助かったかもしれない。謝られても困るかもしれないが、ケジメとして重要な事なんだ」

 

「弦十郎さん、この子はまだ6歳なんですよ? 翼ちゃんみたいにあなたの言っていることの意味をしっかり理解できるとは限らないのだから、もっと簡単に言わないと。ご両親を守れなくてごめんなさい」

 

 了子も弦十郎に並んで頭を下げてきた。後ろの緒川さんも頭を下げている。フィーネのこの対応に流は顔がすごく引き攣りそうになったがなんとか抑えた。

 

「わかりましたから。今後は出来るだけ早く動いて、被害者が出ないようにしてください」

 

「ああ、全力で君の言葉を遂行できるように励もう」

 

 

 

 その後微妙な空気が漂ったが、緒川さんが拘束を外してくれ、全員に飲み物が配られた。流に渡された飲み物は温かいものだった。

 流はこの人達の謝罪が、まるで自分が両親に謝っているように見えて辛かった。泣き叫びたい気持ちも、怒り狂いたい気持ちも、全てを飲み込み、弦十郎達と次の話を始めた。

 

「君の事は調べさせて貰った。君の両親は我々の傘下の研究チームに参加していたようだ。至って普通の経歴。君も一部では天才と言われているようだが、頭のいい子はいるだろう。さて単刀直入に聞く、君は何者だ?」

 

 弦十郎が流の目を覗き込む。

 

「わかりません。ノイズの事は知っています。触れたら死ぬ事も。だけど、俺が触れても死なないなんて事は……知りませんでした。知ってたら母さんや父さんも……」

 

 これ以上言うと、更にマイナスな思考の深みにハマりそうだと思い直し、言うのをやめた。流は全部を話す気は無いが、本当のことだけを話すことにした。弦十郎と目を合わせていると、全てを見透かされそうに感じたからだ。

 

「まあ、分からないわよね。それでね、君の事を勝手に調べさせてもらったの。これはもし君が許可を出さなくても、強権を使って強制的に行われた事だから怒っちゃダメよ?」

 

「はい」

 

 二課に調べられた。流は自分が何なのかをやっとわかると思い、勝手に調べられたことなど些細な事だとして無視した。もし調べられていなかったとしても、今後自ら進んで調べてもらうつもりだったので、手間が省けたとすら思っている。

 

「難しい事を言っても分からないだろうから結論から言うわ。あなたは存在がズレていて、だからこそノイズの特殊な力が発揮されなかった……のではないかと思っているわ」

 

「ズレている、ですか?」

 

「ええ、位相というのがズレていると、物理的に干渉……触ることが出来なかったりするの。あなたは両親からノイズについて少しは聞いているようだけど、ノイズにはほとんど現代兵器は効かない。何故ならさっきも言った通り、ノイズは位相のズレを利用して、物理干渉を無効化してしまうの」

 

「俺はノイズなんですか?」

 

 流は位相差障壁を操ることが出来ないが、位相にズレがあり、結果的にノイズとも、この世界ともズレがあったため死ななかったと説明された。それはつまり自分は両親を殺したノイズの亜種なのではないかと思いつき恐怖した。

 

「いいえ、あなたは100%人間よ。多分魂とかそこら辺の解明できていない部分がずれているのかしらね。物理的接触は出来るのに、位相差はノイズの数十倍のズレ。こんなことも起こるのね」

 

 流はその言葉に少しだけ、本当に少しだけ納得したような表情をしてしまった。内心やってしまったと思い、三人を見てみると、こちらをじっと見ている。

 魂のズレに反応した事はしっかり見られただろう。

 

 何故流は魂のズレという言葉に反応したのか? 自分は異なる世界から転生した。身体や意識はこの世界にあるが、魂やその他は元の世界に跨っているのなら、ノイズと同じ位相差が起きているのではないか? と思ったからだ。

 

「……この事は後々解明していくわ。ここからは現実的な話をするわね。轟流君は親戚がおらず、祖父母も既に逝去している。天涯孤独という奴ね」

 

「はい」

 

「了子君、少し言い方というものをだな」

 

「いいのよ、多分この子は理解出来ている子よ。なら、しっかり事実を述べてあげた方がいいわ。そうよね?」

 

 了子さんの相手を慮らない言い方に弦十郎は異を唱えるが、流が了子の言葉に頷いたことにより、弦十郎が引くことになった。

 

「翼ちゃん並に理解力があるみたいで助かったわ。本来ならあなたの生活を支援しつつ、秘密保護がしっかり行われているか定期的に監視するだけなのだけれど」

 

「特殊だから近くに置いておきたいって事ですよね?」

 

「ほんと、今の子ってこんなに頭の回転がいいの? 6歳って侮れないのね」

 

「いえ、流君が翼さんと同等なだけだと思いますよ?」

 

 緒川さんのツッコミにコホンと間を置いてから、また話し始める。流は話の流れが読めた。絶対に保護者をフィーネにしてはいけない、そう心に誓った。

 

「回りくどい言い方を面倒よね? あなたはこの事件で死んだことになっているわ。既にあなたの新しい戸籍の準備も出来ている。さて、この大柄のむさい男の人と、そこの忍者っぽい優男と、この出来る女櫻井了子、どの人に保護者になって欲しい? 秘密保護の観点から、この三人以外の選択はNGよ? もちろん、さ」

 

「風鳴弦十郎さんでお願いします」

 

 胸に手を置いて、これでもか! とアピールする了子を無視して、流は頭を思いっきり下げながら弦十郎を選んだ。流は了子(フィーネ)だけは論外だと思い、一番いい環境で暮らせるであろう弦十郎を選んだのだ。他にも意味があるが、それはまた後日でいいだろう。

 

「……えっとこの中で一番若くて、お姉さんで、美しい櫻井了子お姉さん?」

 

「この中で一番強そうな風鳴弦十郎さんで」

 

「…………この中で一番子供好きで、色んな事を知っていて、我儘し放題で、いい思いができそうなお姉さんである櫻井了子お姉ちゃん?」

 

 内心流は(お前は色んな事知ってるよな、本当に色々と!)なんて思ったが、決して口にはしない。

 

「もうやめておけ。それ以上は悲しみを背負うだけだ」

 

 弦十郎は了子の肩に手を置いて、一回頷いた。

 

「おかしいじゃない! 私ってナイスバディーで美しい女性よ? なんでこんな大男を選ぶの? 女性を選ぶのが普通じゃないの?」

 

「そこの所どうなんだい?」

 

 了子が発狂しているのを横に、弦十郎は流に質問をした。

 

「現場で僕が倒れる時に、支えようとしてくれてましたよね? その時に安心できたので」

 

「選ばせる前から露骨な好感度稼ぎとかズルじゃない」

 

「別にそんな意図はなかったんだがな。だが、わかった。俺がお前の保護者になる。手続きが終わるまでこの場所にいてもらうことになるが、なにか欲しいものはあるか?」

 

 了子が弦十郎をベシベシ叩いているが、それを片手で完全に防ぎつつ、こちらに意見を聞いてきた。流は今後のお願いの下準備も含めて、こんな事を頼むことにした。

 

「そうですね……何でもいいので映画が見たいです」

 

「そうか! 俺のオススメをいくつか持ってきてやろう!」

 

 

 この数日後、轟流(とどろきながれ)風鳴流(かざなりながれ)に名が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、何故あんなイレギュラーがこのタイミングで現れる! これも神の妨害だとでもいうのか!! 位相差があるからノイズに強制的に接触できるのはいい。シンフォギアの要領で位相を合わせているのだろう。だけど、なぜ炭素化しない!!」

 

「……まあいい、あのような子供はいつでも殺せる。私立リディアン音楽院も数年で出来上がり、風鳴翼も歌手を目指し始めた。デュランダルもEUから預けられる手筈になっている。ネフシュタンは我が手に、ソロモンももうすぐ。今度こそ、我が悲願が叶う時! あははははははは」

 

 ある女性が高笑いをあげて慢心していた。その子供は彼女が最もイレギュラーと定めている男の元に行った本当の意味を知らず、数年後にはこの頃に殺しておくべきだったと後悔することになるかもしれない。




※補足

主人公はノイズ以上に今いる世界との位相差があります。これは魂の一部が元の世界にあるのに、肉体と意識と魂の大半がシンフォギア世界にあるからです。

ノイズが攻撃や接触をする時、シンフォギア世界に位相を近づけて差を無くします。そうすることによって、シンフォギア世界にいる人を攻撃できる。

その時の位相操作に主人公は巻き込まれて、シンフォギア装者がノイズに殴る斬るをする時に『調律』して位相を同じ位置にするのと同じように、主人公はノイズの影響を受けてノイズが調整した位相になっているため、ノイズに接触できています。

ノイズがいなくてもシンフォギア世界と物理接触が出来るのは、シンフォギア世界の人間としての肉体があるからです。あとは魂の分量とか。

何故炭素化しないの? というのは後に明かされます。


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