「ようこそ! 特異災害対策機動部二課へ、皆も知っていると思うが、彼女が雪音クリス、イチイバルのシンフォギア装者で、頼れる仲間だ!」
弦十郎やその他スタッフの仕事が一段落し、クリスの歓迎会を行うことになった。
常に誰かがクリスを見張り、秘密裏に歓迎会の準備をした。それでも途中で違和感を感じ取ったのか、「あたしに秘密で皆が動いているよな? やっぱりハブられちまうよな……」など自虐的なことを言っていた。
「……よ、よろしく」
その秘密がこのことだったと分かり、嬉しいような、恥ずかしいような、感情がごちゃまぜな表情で、小さな声で挨拶をした。
「うんうん、やっぱり二課といえばこれだよね」
「立花の時と合わせて合計で三回ほどしか、歓迎会は開催されていないがな」
「そうなんですか?」
「ああ、か……奏の後に沢山のスタッフが入った時、立花の時、そして今回だ」
「私はその内の二回に出られたんですね!」
「響、料理取ってきたから食べよう」
「うん!」
翼と響が言っている通り、歓迎会
「ほんとあの二人は仲いいよな」
「父さん達に揉みくちゃにされてたけど、やっと抜け出せたか」
大人は大人しか飲めない飲み物を開けるので、お酒が飲めない組は皆この席に集まっている。クリスは弦十郎に連れていかれ、大人達に挨拶をさせられていた。流は酒を飲むと酷いことになるので絶対に飲まない。
「ああ……って、助けてくれてもいいじゃねえか!」
「嫌だよ。母さんが俺に酒を飲ませようとするもん」
「弱いのか?」
「流は凄いぞ。酔うと」
最近翼と流はやっと仲直りが出来た。奏が死ぬ前は友達として、奏に連れられて色々と遊んだりもした。その時、大抵翼が純粋すぎて遊ばれていたので、今になってそれの仕返しをしようとしたようだ。
「言うぞ?」
だが、翼弄りなら流や奏の方が数手上。
なのだが、流は翼の前で酒は飲んだことはなく、フィーネに電気ショックを浴びせられた時が初めてだったはずだと、少し気になるが、翼が知っている痴態を皆に晒させるわけにはいかない。
「……な、何をだ? 防人に言われて不味い事など」
「あっそう。何かあったっけか?」
『遊園地に行った日、一人じゃ寝れなくて三人で川の字になって寝た事とかはどうだ? お化け屋敷がトラウマになった奴。落ち武者で泣いたじゃん』
「なんだ何だ、こいつの恥ずかしい過去話か!」
「雪音やめろ」
「昔、遊園地」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
「げ!」
流が話そうとすると、昔のようにシンフォギアに変身し始めた。彼は奏が生きていた時は、都合が悪くなるとすぐに変身して妨害してきたなと感慨深く思う。
「そんなにやばい秘密だったのか!」
「いつものこと。翼は泣きそうになるといつも変身してたし」
「忘却させてやる! 覚悟!!」
フィーネ戦を終えXDモードを経たことにより、更に鋭さが増した刀を拳で迎撃しながら、彼女の気が済むまで受け流す。
「おー、やっとるやっとる。昔はよくああやって喧嘩してたな」
「おっさん、あれが喧嘩なのか! シンフォギアをガチで纏っているけど、本当に喧嘩なのか!?」
「落ち着きなさいクリス。あれくらいは日常的な光景よ」
「フィー、了子。そ、そうなのか、日常……シンフォギアと殴り合うのが日常?」
弦十郎達が観戦しに近づき、クリスの疑問に了子が答えた。クリスは了子が急に近づいてきたことに、一瞬敵意が漏れ出るが抑え込む。
「常在戦場、常在戦場……」
「おい! 魔法の言葉の連呼はやめろ! なんで言葉を言うだけで、攻撃速度が上がるんだよ。シンフォギアなら歌え!」
『あははははは、マジで言ってるよ! 翼は本当に純粋でいい子だな』
「いい子は対特異災害用の兵器を人に使わない!」
『でも、流って特異災害みたいなもんだよな』
「はぁ!!」
翼の渾身の突きを流はギリギリで避けた。
カチン
背後で金属を弾く音がした。
「痛ぅ!」
その後、響のそんな声が聞こえた。その声に正気を取り戻した翼と、やってしまったと思った流が響の方を見る。そこには鬼がいた。
「風鳴流さんに風鳴翼さん。今は歓迎会で、楽しく談笑したり、食事をする場ですよね?」
「「……はい」」
「み、未来? 私は大丈……なんでもないです」
響は二人を庇おうとするが、未来の一睨みで縮こまってしまった。
「決して剣を振り回したり、攻撃を紙一重で避ける場ではありません」
「「はい」」
「響の腕に、スプーンが当たったんですよ?」
「「ごめんなさい」」
「以後、気をつけてくださいね?」
「「はい」」
未来の迫力に、
アニメではなかった同年齢代の男性と、響が仲良くなっていて、少しだけ厳しくなっている
**********
「申請書を出していたが、何故必要なのか説明してくれ」
指令室で弦十郎や緒川、了子やその他の人が流を出迎えた。
「ソロモンの杖でバビロニアの宝物庫に鍵を掛ける。出来るかわかんないけど」
流は聖遺物使用申請書なんてものを作り、弦十郎に渡していた。
「了子くん、そんな事は可能なのか?」
「可能なのかと聞かれれば可能よ。出来ないけど」
「何故?」
「もし一時的に完璧に宝物庫を閉じれたとしても、時間で空いちゃうんじゃないかしら? 元々ソロモンの杖は開ける鍵だから、閉じるのにはそこまで向いていないってのもあるのよね」
流は出来るかもしれないから申請してみたが、了子曰く無理とのこと。
アニメではネフィリム・ノヴァを宝物庫に放り込み、内部でエネルギー臨界点まで膨張させて破裂し、宝物庫内部が傷つきノイズの出現率がほぼ0まで下がった。
流はそんな事を
「無理なのか」
「残念ながらね……だけど、何事にも例外があるわ」
了子は下げてから上げる、胸を思いっきり張ってドヤ顔で例外の説明をし始める。
「完全聖遺物の融合体となった事のある私か流なら一日程度なら出来るはずよ……でも、あまり連発してはいけない手だけどね。私達への負荷がひどすぎるから」
「了子くん、何故融合体になった者しか出来ないんだ?」
「肉体の質が聖遺物に寄ってるからとしか言えないわね。本当なら私しか出来ないだろうけど、教えれば流もできるんじゃない? 弦十郎くんも気合で出来そうではあるけど、ノイズ関係だし危険だから駄目」
了子の本心から弦十郎の体を気遣う発言に、緒川が苦笑いをして、了子に蹴り飛ばされた。
「なら、また今度付きっきりで封じ込めやるんで、よろしくお願いします」
『流が何故封じ込めをやりたいのかをまだ言ってないぞ』
奏の言葉に出ていこうとした流は立ち止まった。言った気になっていたようだ。
「……あー、何故封じ込めをやりたいのかというと、装者達が外に遊びに行ったりして、仲を深めた方がいいと思ったんだよ」
「それならまあ、二課が管理している時なら行けるな。上に問い合わせてみよう」
「ありがとう」
流はその部屋を後にした。
流がその場を後にしたあと、大人達の話はまだ終わっていない。
「流が死者蘇生の方法を探しているわ。シンフォギア以外の異端技術に関する事は彼に言わないように」
「死者蘇生……奏くんか」
了子の言葉に、奏が死ぬ前からいたスタッフは、皆が彼女の事を思い浮かべた。
「ええ、あの方、神は死者蘇生に対してとても厳しいわ。絶対に気をつけてね」
「……あの、私は奏さんのあの事件の後に入ったので分からないんですけど、流くんって奏さんとそんなに仲が良かったんですか?」
友里あおいが知らなくて当然の事を了子や弦十郎に質問した。了子はまだ幼く可愛いかった流を思い浮かべて、笑みを浮かべる。なお、その幼く可愛かった流は、洗脳によって知識と人格を抑制されていた時のものであり、流はそれを自分とは絶対に認めない。
「そうね、少し話をしましょうか」
彼らは想い出を話し始めた。
**********
「面倒くさい。翼とか響を連れていけば?」
「あいつらじゃ駄目だ」
「なら父さんとか母さん」
「おっさんでもいいけど……了子は嫌だ」
「今日は異端技術に関する本をひたすら読もうと思ってるんだけど」
流は自室で錬金術
「そんなのいつでも読めるだろ? いくぞ」
クリスに連行されるように、家から連れ出された。部屋の何かを掴んで抵抗しようとしたが、奏にその手を弾かれて、引き摺られていく。
「待って、仏具屋に行くんだよな? 買ったら輸送?」
「流なら持てるだろ?」
「……バイクに積む」
クリスは当たり前といった顔でそう呟いた。
流は最近自分の扱いが酷いことに顔を手で覆ってから、埃をかぶっているバイクを駐輪スペースから持ち出した。
「あれ? これって
「緒川さん経由で翼に聞いたオススメだったからね。翼は基本的に同じ型の奴を買うから、それを教えたんでしょ」
「なんで色は赤なんだ?」
「弦十郎カラー」
「なるほど」
クリスにヘルメットを被ってもらって、二人乗りで仏具屋に向かう。免許を取って一年未満だが、流は気にしない。
(身長の割にとても大きく柔らかかった)
流は背後から引っ付いてくるクリスの柔らかさを堪能しながら、少しだけ回り道をして指定の場所に到着した。
「よし、カッコイイ仏具を買うぞ!」
仏具屋の前でクリスは意思表明して、店の中に入って行った。
二人はあれこれ言いながら、無難にカッコイイ仏壇を買うことにした。値段を見ないで全てを決めたため、クリスは顔が真っ青になっていたのが印象的だった。
流はそのまま自分の金で購入して、バイクの上にうまく縛り付けた。包装はしっかりしてもらったので、落としたりしない限り破損することはないだろう。
「あたしが買わないと意味ねえから」
「なら借金な」
「ああ、それでいい。にしても、流ってあたし達に比べて給料が多いのは分かってるんだけどさ、いくつも家を持ってるよな? 金は無くならないのか?」
流がバイクを押しながら進んでいる横を歩きながら、クリスは前に教えて貰った給料を高額だったが、それ以上に流の金の使い方が荒い事を指摘する。
シンフォギアと違って、研究もする必要が無い、第二の特異災害対策、風鳴流はシンフォギア装者に比べてコスパがいいので、その分彼に金が渡されている。
「……秘密に出来る?」
「悪いことしてるとか言わないよな!」
「いやいや、ただ二課の余ってるリソースでシミュレーションしてるだけだよ。了子母さんと話し合って、株とかちょちょいと」
「……それ不味くね?」
「いやいや、ただ了子母さんと俺と数人でシミュレーターを作って、それで予測してるだけだから」
「フィーネを使うのはずるじゃないか?」
「了子母さんも人間ですし」
クリスはこれ以上はまずい気がして、この話をすることをやめた。自分にもメリットがあり、ギリギリセーフっぽいので、放置することにした。
そして一行は流の家に戻ってきた。
「……なんでここなの? 二課から家貰ったろ?」
「あっちの家は返した」
「は?」
「あの家にはプライバシーも何もないんだぞ!」
流はクリスが二課から貸し出されるはずの家を思い浮かべる。この街の一等地にあるマンションだったはずだ。クリスの国の扱いは軽めなので、プライバシーは守られる程度にはあるはず。
「その顔は分かってねえな。まず私の家の鍵を持っている奴は、先輩、バカ、小日向、おっさん、緒川、了子」
「多くね?」
「だから、プライバシーのプの字もないって言っただろ」
「クリスが嫌じゃなければいいか」
流は人の世話をするのが好きな事を自覚している。なら、クリスがいてくれた方が楽しいし、いいかと結論づけた。
「嫌じゃない!……あっ、違うぞ、あの家に比べてってだけで」
「わかってる。行くよ」
「……」
背後から睨まれている気がするが気にせず、流はバイクから仏壇を持ち上げて、家に運び入れ始める。
「あたしが頼んだけどさ、なんで仏壇を普通に持てんだよ」
**********
「いやはや、すみませんね。皆で翼さんの初バラエティーをこの時間に集まって見るには、ここしかなかったんですよ」
「家主のあたしは許可を出してない!」
「流先輩に貰いました」
「流ぇぇぇぇぇ!!」
「今ドーナッツが焼き上がるから待って」
「あ、私手伝います」
「私達、あの男の人も女の人とも会ったことなかったけど、良かったのかな?」
「流先輩は騒がしい方が好きだから、友達もジャンジャン連れてこい! って言ってたから大丈夫だよ」
クリスはもっと他人と接点を持った方がいいという勝手な考えで、流は響に何かあったらこの家を使っていいと言っていた。何部屋もあって無駄に広く、クリスと流だけでは寂しいので、事前連絡があればいつでも遊びに来ていいと言ってあった。
普通、夜に男の家には来ないだろうが、風鳴弦十郎の弟子、立花響の兄弟子という立場なため、凄く流は信頼されている……この家に来るたびに、美味しいお菓子が出てくると刷り込みが行われた結果かもしれないが。
「夜にすみません」
「別にいいよ。クリスと仲良くしてくれるなら大歓迎。料理を作って美味しいって言われるのも嬉しいし、うちはクリスと二人じゃ寂しいからね」
「凄く大きいですもんね」
この無駄にでかい部屋のある家を買った理由は、奏がノイズを殺し切ったら、こんなでけえリビングで、皆とパーティーでも開いてみたい。そんな事をテレビのドラマを見ながら言っていたからだ。
もう奏はいないが、リディアンから少し離れていて、大きなマンションの階層を買い取り、部屋をぶち抜いて大きなリビングを作った。リディアンから離した理由は、フィーネによって崩壊させられる危険性があるから。
あの時の奏は絶対ノイズ殺すウーマンから、少しずつ変わっていた時期だったから、色々な願いを口にしていた。それを流は少しずつ実現させている。
「カロリー控えめドーナッツと、同じくカロリーを控えたお菓子が出来たから持っていけ」
「押っ忍!」
響は急いでこちらに来ると、お菓子の載った大皿を何枚も持ち、リビングに駆け込んだ。
「……胃袋かな」
「料理教えようか?」
「お願いします!!!」
こうして、この部屋の第三人目の鍵所有者が決まった。
「……でもよ、先輩はクイズなんて出来るのか? 常在戦場とか、お堅い言葉しか知らないだろ」
クリスが既に翼を先輩と呼んでいる。何故かというと、
「翼か翼さんか翼ちゃんか風鳴。どれかで呼んでもらおう。お前やてめえは私の名前ではない」
「確かに作戦行動をする時、そんな呼び方じゃ不味い」
「つばちゃんでもいいんじゃない?」
「フィーネは黙ってろ!」
「流〜、クリスが全く話を聞いてくれないのよ。どうすればいい?」
「自業自得だろ」
「流にまで捨てられたああああ!!」
「フィーネ、うるさい!」
流が作戦行動中に分かりづらい呼び方をして、反応に遅れたら問題だから、呼び方をしっかりさせた方がいいと弦十郎に秘密裏にチクった結果、クリスは呼び方を決めることになった。
「リディアンに入学するんだろ? それなら先輩でいいだろ」
こうなった。
「翼さんならいけるよ!」
「翼さんは孤高の歌姫って言われるくらい、実生活などが秘密にされていますし、どのような感じなのか想像出来ませんよね」
「アニメみたいに、シンフォギアで日夜ノイズと戦い続けるヒーローみたいな生活に決まってるじゃない!」
「ノイズってそんなに頻繁に出るもんじゃないでしょ」
流と妄想の奏も、翼の初バラエティーが気になっていた。大きな画面でいっぱいに見たかったが、妹弟子が来たいと言ったので、テレビ前のソファーを譲っている。
『難しい漢字と戦国系の知識問題くらいしか答えられないよな。家事系統なんて壊滅してるし』
「そうだね。あとはバイクくらいかな? だけど、内部構造についての問題なんて来ないしな。まあ、これで孤高の歌姫なんて呼ばれなくなるでしょ」
『孤高の歌姫(笑)にならなきゃいいけどな』
その日のバラエティーは視聴率がとても伸び、週刊誌などでは、予想外や孤高の歌姫の本当の顔、米は洗剤で研ぐ歌姫翼、などバラエティー的にも宣伝的にも大成功を収めた。
翼はもうバラエティーには出ないと宣言したが、緒川の巧みな誘導術により、どんどんそちらの仕事が入れられることになった。