戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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終わってしまった……ライブとか劇場版とかの告知はないんですかね?
あと評価9のバーに色がつきました。とても嬉しいです。


#146『決死圏からの浮上』

『マジかよ』

「起きてたのかい」

『起きてるのわかってて話してただろ』

 

 流はアダムが訃堂に連絡を取り始めた時から起きていた。ならば何故声を掛けなかったかというと、シンフォギア装者が敵になっているなら、アダムもまた愛を忘れ、敵になっている可能性もあった。

 しかし先程のやり取りからアダムはティキを愛する、彼の知るアダムであることがわかったので声を掛けることにした。

 

 アダムが流を手で制し、彼の入るカプセルのボタンをいくつか弄ると、縦置きされた医療用カプセルの中の液体が少しずつ消えていき、前面のガラスが左右に別れる。 

 カプセルから出るとその身に流れるエネルギーが正常時まで回復している事から、アダムが外部からエネルギーを注入したことが分かる。

 

 カプセルから出た流はタオルを投げ渡されたり、下着や白いジャージをもらい、彼らに連れられながらその一軒家のリビングでテーブルを挟んで座る。着替えた時点で流の体は普通の人間と同じ色合いに戻していたが、抉られた左目とその周辺、それに溶かされた左腕の断面は未だにデュランダルの金色に水色のラインが見えている。

 

 ちなみに流がカプセルから出るところから着替えが完了するまで、ティキはアダムに目を塞がれていたのが微笑ましいと彼は思う。もうここには統制局長で人を黄金に変えるアダム・ヴァイスハウプトはいないのだ。

 

「そう言えば何故アダムは力が使える? 俺はその新しい体では使えないようにしたはずだけど」

「初めから使えたさ。君は人の可能性を開花させられても、アヌンナキのように押さえつけることは出来ない。君はきっとそういう風に出来ているのさ」

「曖昧な答えだけどその事はいいか。実際にアダムが力を使えたからこそ助かったわけだし」

「問題なかったさ、僕が居なくてもね。君の本当の父親が助けてくれたはずだよ」

「……訃堂の話はとりあえずいいから。この世界は今どうなっているんだ? 何故俺は装者に襲われた? 何故訃堂やアダムは記憶を保持している?」

 

 流はエネルギーが充填されたのにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()を指さしながら苦笑いで問う。

 

 流は神の力が使えるため、平行世界にダメージを移すという再生方法も使用出来る。しかし流はそれを発動してもダメージが平行世界に飛んでいかないのだ。どうやらあらゆる平行世界を見ても、風鳴流という存在はこの世界にしか居ない。故に平行世界の同一存在にダメージを流す神の力による再生は使用できない。

 

 神の力での再生が使えない流だが、彼の身は()()()()のデュランダルで出来ている。エネルギーさえあれば、正常な姿に戻るデュランダルボディーなので、本来ならば再生されてもおかしくない。しかし現実には神殺しの響に殴られた左目やその周囲、奏のビームで溶けた左腕の()()()()再生されていなかった。

 概念的な再生ではなく、人間の肉のようにデュランダルが物理的にかさを増しての再生なのに、その再生が上手くいかないことに流は内心首を傾げているのが現状だ。

 

「分からない。ただこれに尽きる」

「確定情報じゃなくてもいいから予想を教えて欲しい」

「そうだね……アヌンナキによる記憶の改変、これは確定だろう。どうやって、何処で、何が目的でというのは全くもって不明さ」

「俺という神の器、神の力を操る存在はアヌンナキにとって邪魔でしかないと。本来なら俺はアヌンナキの操り人形だった筈なのに神に届きうる異端技術の破壊を行わなかったから、異世界に廃棄処分されたって感じか」

 

 流を消し去るには手間が掛かるから寝ているうちに異世界に捨て去り、残った人達の記憶を抹消して都合の良いように改変する。とても合理的であるが、アヌンナキは風鳴流という愛に目覚めた神(アダム)にすら反逆する存在を甘く見ていた。

 

「…………やあ、初めまして我が同士。僕は数千年前にアヌンナキに棄てられた人間のプロトタイプさ。仲良くしようじゃないか」

「奇遇ですね。俺は神の意思通りに動く器として造られ、少し前に他世界に廃棄処分されていたんですよ。よろしくお願いします」

「……」

「……」

「「あははははッ!!」」

 

 アダムには今まで同族なんてものは居なかった。もちろんアダムと真に同族は存在しない。

 しかしアヌンナキ()の都合で創られ、アヌンナキ()の都合で棄てられる。それは誕生に一部人間の意思が絡んでいるとはいえ、流も同じなのである。そして何より流自身気にしていないが、人ではあるがひとにあらず。アヌンナキが器とする為に創られたこの世ただ一人の、人類であるのに人類ではない別種である。

 

 流はそんなこと気にしないし、今のアダムはティキさえいれば関係ないとばかりに笑って生活している。何にツボったのか二人は爆笑しているが、それでも二人のブラックジョークを横で聞いているティキは顔が引き攣る。

 

『アダム笑ってるけど、絶対アヌンナキを倒せる機会が来たって喜んでるよ』

 

 アダムの口にしない気持ちを完璧に読み取れる、セーラー服を着て女子高生をやっている元オートスコアラーのティキは空気を読んで黙っている。

 一つ思うのは、ティキはアダムにあまり危ないことをして欲しくない、ただそれだけだ。

 

「現状はまだアヌンナキが何をしたいのかがわからない。ただし俺を異世界転移させたこと、俺という存在を記憶から抹消されたS.O.N.Gのメンバーを見るに、以前のS.O.N.Gなら邪魔になると判断したんだろう」

「それは間違いないね。次に君が装者に襲われたのは風鳴流の記憶を消され、最近まで世界各国で無差別にデュランダルの波形パターンのエネルギー爆破が起きていたからなんだよ」

「……アヌンナキなら真似るくらい簡単に出来そうだな。しかもデュランダルって割とそこら辺に欠片が落ちてたりするし」

 

 流が弦十郎と戦う度にデュランダルのボディーが削れ、その破片は大雑把には回収されているが、全てを回収できている訳では無い。

 砂粒程度のデュランダルの欠片をS.O.N.G以外が獲得しても活用できないだろうが、神を自称するアヌンナキなら欠片から波形パターンを読み取るくらい訳ないだろう。

 

「神の目的は不明。デュランダルで陽動……俺が帰ってきても装者達、それに弦十郎父さんや了子ママと敵対するための保険か。とすると、アダムが記憶を改変されなかったのは、アヌンナキ達の定義する人類ではなく、俺が再定義した人類だったから。訃堂はなんでだ?」

「気合いだってさ」

「……は? とうとうボケたか」

 

 暇を持て余していたティキが持ってきてくれたお茶を飲み、流は耳がおかしくなったのかと思い、机に置いてあった紙に訃堂から聞いた記憶の改変から逃れられた理由を書いてもらう。

 

『護国を想えば気合いで乗り越えられるッ! 何するものぞ、アヌンナキッ!!』

 

「俺自身は化け物じみてると思っているけど」

「いや君は化け物そのモノでは?」

「……訃堂もなかなかに化け物だな」

「君は化け物そのモノでは?」

「仮にこの身が皆の為に完全な化け物に成り果てようとも、人の心を捨てぬ限りは人足り得る。故に俺は人だ」

 

 真面目な話をしながらも割と巫山戯ていたアダムだったが、流が真面目な声色で誓いを立てるかの如く真剣にそのコトノハを口にした。

 故にアダムは気がついていたが、指摘をしなかったことを口にする。

 

「でも今の君は心まで化け物……怪物になってしまっているじゃないか。何人、何百……いや、()()殺したんだい? その瞳で真に君の愛する装者達に愛を誓えるのかい?」

 

 流はこの世界に戻ってこれた時はまだ普通の見た目だった。今は左目やその周りが抉れ、左腕は肘すらない。しかしアダムが言っているのはそういうことでは無い。流は例え愛に目覚めた神アダムであっても、勝てぬと分かっていても希望を抱いて戦っていた。その時の瞳には確かな光が宿っていた。

 しかし今の流は話し方も思考回路も以前の流そのモノだが、その瞳にはデュランダルの水色と金の光が渦巻いてはいるが、黒目に光が灯っていない。まるで先のない未来を見ているかのように、流の目には希望という光が見えないのだ。

 

 アダムはこの目を見たことがある。パヴァリアで実験体にされて、実験が上手く行かず、もうすぐ死ぬと悟った人達の絶望の瞳であることを彼は知っている。

 

「俺は奏が死ぬ決断を、奏自身にさせてしまったあの日から、俺はもう絶対に皆……奏を翼を響をクリスを調を切歌をマリアをセレナを未来を。それに俺を本当の父のように慕ってくれているキャロルにエルフナイン、世界革命を一時的に辞めてくれたサンジェルマンをプレラーティをカリオストロを。父さんも母さんもS.O.N.Gの皆も、皆が護りたいと真に願う()()を、俺はこの手で護ると誓った。故に俺は本当の意味でも人間を辞めてしまったとしても、止まらない。止まれないんだよ」

 

 まるでアヌンナキに復讐をすると誓っていた、フィーネに復讐をすると誓っていた昔の自分を見ているようだとアダムは思う。しかし流は元々アダムを説得した側であり、戻ってこれるだろうと信じるしかない。アダムの言葉はきっと流には届かない筈だから。

 

「もう僕は何も言わないさ……いや、一つだけ言わせて欲しい。今の君は装者達を愛している訳では無い。それは愛ではなく、執着……いや、呪いだよ」

「それでも俺はこれを愛と呼ぶ」

「……ねえ。私はもしアダムが私のところに帰ってくるために、その他大勢を殺しちゃったとしても、アダムに抱きしめて欲しいって思うよ?」

「ありがと」

 

 ティキのその言葉にアダムは照れくさそうに笑い、流はやっと本当に嬉しそうに、概念を付与されただけなのに本当の愛を手に入れたティキに頭を下げる。

 

 そして下げたまま左目に手を添え、顔を上げる時にその手を下ろす。更に溶けた左腕の肩から下の微妙に残っている左腕部分をバビロニアの宝物庫のゲートに少し突っ込んでから、ゲートはすぐに閉じられた。

 

「これで急場は凌ぐか」

「正真正銘の化け物みたいになっているけどいいのかい?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。親友が出来て、俺が出来ぬ筈がない!」

 

 流の左眼周辺の抉れていた場所は()()()()()()の大部分の素材である特殊な()で補強し、杖のコアとなっている紫の結晶が球状になり、左眼球の代わりを果たす。

 溶けた左腕は枯れ木のような黒に近い灰色をしていて、赤く脈打っている。これは彼がバビロニアの宝物庫の中にあるフロンティアで()()()()()ネフィリムを触媒に使った腕。もしウェルが同じような腕を持っていたならば爪やら人外な見た目をしていただろうが、色を気にしなければ人と全く変わらない左腕の形をしている。殴る時に爪は不要だからネフィリムにはつけないようにしてもらっていた。

 

 流は左手を握ってみる。彼自身にフィーネと同等の聖遺物を操作する力が備わっており、更にネフィリムも聖遺物を操る力がある。流がネフィリム(聖遺物)を操り、ネフィリムが(デュランダル)を操ることで、意のままにその左腕が動かせていることに満足する。

 左眼に関しては元々デュランダルで作っていた眼球と同じようにソロモンの杖のコアで造ったため、今までと同じように視界が確保出来る。

 

「細かい話は後から詰めるとして、今後の目的は()()()()()()()()()()()()()()()()()。協力して貰えないだろうか、アダム・ヴァイスハウプト……いや、今は轟アダムだったかな?」

「いいだろう。完全ではなくなり、愛を知り、人となった僕が世界を救う手伝いをしてあげようじゃないか」

「ティキも……えっと、ご飯作ったりして応援するよ!!」

 

 流が差し出す右手をアダムは弾き、ネフィリム腕となっている左手を強く掴む。ティキも遅ればせながらもアダムの上から手を握る。

 

「よろしく頼む」

 

 その言葉に続くように『ぐぅ〜』と音が鳴る。

 

 流のデュランダルボディーは無駄に人間の肉体機能を再現している。汗もかくし、見た目上は日焼けだってする。そしてそれは表面上だけではなく、空腹を精神が感じれば、それを告げる腹の悲鳴も同じく機能している。その音が早速ティキに飯を催促をする。

 

「締まらないねぇ」

「昨日ミカちゃんに貰ったカレーがあるから温めてくるね!」

「大盛りでお願い」

 

 

 ***

 

 

 流がアダムに回収され、医療用カプセルに投げ込まれたくらいの時まで時間が遡る。

 

 キャロルはワールドデストラクターであり、世界解析機でもあるチフォージュ・シャトーに戻ってきていた。何故かシャトーのある異空間の空模様を()()()()()()()が、問題なくシャトーが存在するので一度思考から除外する。

 それよりも問題なのは先程からテレパシーで連絡を取ってもオートスコアラーが誰一人として出ないのだ。

 そしてそれよりも更に奇っ怪なことがシャトーで起きていた。

 

「……なんだ、これは!?」

 

 テレポートジェムで戻ってきた王座の間は、本来ならばオートスコアラーのお立ち台があるだけで、それ以外に何も無いはずだ。

 

「何故コタツに机にキッチン、クローゼットから大型テレビ……それになんで巨大流しそうめんの土台があるんだよ!」

 

 季節感をガン無視したモノが所狭しと並んでいた。皆が思い想いに物を増やしていった結果、王座の間は混沌としている。

 まあ、主に知らない知識の収集をしているエルフナインがやってみたい、使ってみたい、欲しいと言ったものを流が買い与えた結果である。これも大体デュランダルを使ってるやつのせいなんだ! 

 

「お前たち! この状況について説明しろ! 何故俺の城がこんなに混沌としているんだ! 無視してるんじゃない!! 居るのはわかっているんだぞ!!」

 

 キャロルは着ている服と同じくらい顔を真っ赤に染めあげながら、その場で叫ぶがオートスコアラーの反応は全くない。青筋を浮かべて辺りを見回すキャロルはコタツの上に可愛らしい便箋が置いてあり、表には『マスターへ』と記載されている。

 苛立ちながらもオートスコアラーが出てこない理由が分かるかもしれないと思い、その便箋を()()()開いて中身を読む。

 

『マスターへ

 

 マスターが〇? ★を忘れてもう三ヶ月くらい経ってるんだゾ。シャトーにも全然来なくなってミカはつまらないゾ。昨日はマスターの好きな甘口のカレーを沢山作ったけど、マスターは★が居なくなってからシャトーに来ない。悲しいゾ。

 ガリィがマスターは記憶をアヌヌナキって奴に書き換えられたって聞いたゾ。だから私が、私達がマスターを救って、また一緒にご飯を作るんだゾ。

 

 

 だからちょっとだけ痛いと思うけど我慢して欲しいゾ

 

 ミカより』

 

 最後まで読み終わるとその手紙が光り、すぐ側にあったキッチンのシンクに溜まっていた水が、キャロルを拘束しようと水の縄となってキャロルに襲いかかる。

 

「どういう事だ!」

 

 キャロルは風の錬金術で水を吹き飛ばすが、その瞬間足元が崩れ、落とし穴に落ちそうになる。それは飛行の錬金術で空に滞空することで防ぐ。

 しかしその穴は落とし穴に在らず。その穴から現れた()()()()()()()()()()()()()()()()を持つファラがキャロルに斬りかかるが、天体の条件は揃っていないがそれでも最高防御を誇るヘルメス・トリスメギストスで斬撃から身を守る。

 

「ファラ説明しろッ!! 俺を怒らせたいのか!!」

「そのまま空にご案内しますわ」

 

 再生する流の腕を何本か折って造られたプロトデュランダルのエネルギーを使い、ファラは巨大な竜巻を錬金術で作成し、ヘルメス・トリスメギストスを展開しているキャロルをそのまま空へと押し上げる。

 一度ならず二度も主に牙を向けてきたファラを機能停止すべく、ヘルメス・トリスメギストスを展開したまま、火風水土の四大元素(アリストテレス)錬金術をぶっぱなそうとして気がつく。

 

「ちょっと痛いけどマスターなら余裕ですよねぇ? だって最強の錬金術師ですし」

「『鳥』行くゾ」

「我が弟子達よ、派手に私に続けッ!!」

「これはマスターを思ってですので悪しからず」

 

「どういう事だと言っているだろうが!!」

 

 王座の後ろから舌を出して煽っているのは水や氷の錬金術を扱うガリィ・トゥーマーン。空から数多の氷の剣が降り注ぐ。

 

 赤い色の猛禽類のようなノイズに跨って、圧縮カーボンロッドを馬上槍のように扱いながらキャロルに突撃を敢行しているのは火の錬金術を司るミカ・ジャウカーン。

 

 巨大な王座の間の天井部の縁に立ち、周りに()()()()()()()()()()()()()()と並び、土の錬金術で造られたコインを一斉掃射しているのは、レイア・ダラーヒム。

 

 そして竜巻の中を登りながら、今のキャロルは見たことの無い金色の剣で突きを放とうとしている風の錬金術を操るオートスコアラー、ファラ・スユーフ。

 

 

 本来ならばキャロルを護る騎士である四人のオートスコアラーは()()()()()()()、主であるキャロルに反旗を翻した。




現在の本気モードの流の見た目。

・右目が真っ赤に染まりながら金と水色の光が瞳を渦巻く。
・肉体が金色そのものになる。多分全裸。
・左腕がネフィリム腕。
・左目はソロモンの杖のビームが出る部分の結晶と同じ色の眼球(紫色)、その周囲は銀色。
・デュランダルで作った響のガングニールのマフラーと同じようなものを首に巻く。

怪物ですね。

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