戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#15『サクリストDα』

『すまない。雪音クリスと街中で遭遇したが、既にシンフォギアでノイズと交戦中。端末はあるから要らないと言われてそのままどこかへ行ってしまった。追いつこうと思えば追いつけたが、あまり良くないしな』

 

「クリスのやりたいようにさせてあげたいからそれでお願い」

 

『それで流は雪音クリスと交流があったのか? 我々が捜索していることも知っているだろ』

 

「知らせない事を条件に知り合ったから。大丈夫、今度こそは守……」

 

 無理矢理寝始めて数時間後、弦十郎から連絡が来た音で目が覚めた。

 弦十郎と話していて、流は先のことを思い出してしまった。嫌なことを忘れるように封じていた記憶を思い出した。

 

「ごめん、切る」

 

『おい、ちょっとま……』

 

 

「俺がカ・ディンギルを撃つってことは、クリスの絶唱をぶち抜くって事じゃねえか!」

 

 クリスはだいぶいい方へ進んでいる。だからこそ、カ・ディンギルが撃たれた場合、率先して月との間に入って、絶唱で止めようとするかもしれない。

 

「守るとか言ってたくせにまた同じことを繰り返す……いや、あれがあったな。大丈夫、気合いだ」

 

 流はあることに気がついた。そのことについて考えていると端末に連絡が入る。その相手はフィーネだった。

 

『合流なさい。作戦を開始する』

 

「……契約の勝利条件は覚えているよな?」

 

『カ・ディンギル一発まではあなたは私に従う。あなたの敗北条件はシンフォギア装者三人が負ける事。私の敗北条件はカ・ディンギルの攻撃が狙い通りに行かず、カ・ディンギルが壊れ、シンフォギアや貴方達に負けた場合。これでいいのでしょう?』

 

「ああ、しっかり守ってくれよ? あともう一つだ。複数の完全聖遺物を融合させないもだぞ? 守らなかったら命を賭して母さんを殺す」

 

『あらあら、私の息子は怖いわね。守るから安心なさい。二課の技術部に来て』

 

 それだけ言うと、フィーネは通話を切った。電話が切られると奏が目の前に現れた。

 

『大丈夫なのか? まだ体がうまく動かないんだろ?』

 

「多分大丈夫。しかも、後の展開にも希望が見えた。完全聖遺物に言うことを聞かせた女の子(クリス)の事を思い出したし」

 

『まーた女か。どうせ胸がでけえんだろ?』

 

「ああ、奏くらいある」

 

 妄想の奏に頭を強く殴られたが、それはいつもの優しい痛み。準備を整えて二課に向かった。

 

 

 **********

 

 

「おはようございます」

 

「はーい、流ちゃんもおはよう。遅れて出勤ができる女の条件よ」

 

「了子くん、遅れるなら連絡くらいしてくれ。何かあったのではと心配したんだぞ」

 

「それはごめんなさいね。次からは気をつけるわ」

 

 流が二課に入ると、後ろから了子も出勤してきた。指令室を軽く見回し、モニターの監視カメラを見てみるも、シンフォギア装者が一人もいない。

 そして弦十郎は息子の心配は口にしない。息子が危険な場面など想定していないからだ。

 

「あれ? 翼とか響は?」

 

「翼、響、小日向未来の三人で遊びに行ったよ。翼もそういう事をまたしてくれるようになって安心だな!」

 

「誘われなかったり、断ったりが常でしたからね」

 

 緒川は翼がいなくても様々な仕事をしている。今は書類で管理しないといけない機密事項の整理をしているようだ。

 

 挨拶を終えて技術部へ行こうとする。その時二課内部でアラートが鳴り響いた。このアラートはノイズの出現が検知された時に鳴る音だ。

 

「場所はどこだ!」

 

「絞り込みはまだですが、山間部周辺です! 周辺に人があまりいない地点です!」

 

「響と翼に」

 

「いや、それはいい。俺だけでいく」

 

 弦十郎はノイズ反応の多さから苦い顔をした後、遊びに出ている装者二人を呼び戻そうとした。それを流が止めた。

 

「無理だ! この量は多すぎる」

 

「行ける。父さんの本気を受けれるようになったこの体なら!」

 

「だがな」

 

「翼があんな風に遊んだのって前はいつか知ってる? 奏が生きてた時以来なんだよ。それを潰させるかよ!」

 

『あたしが死んでからは、ずっと防人とソロアイドルとして生きてきたからな』

 

 いきなり真横に出てきた奏に驚き、仕草で消えるように指示するが拒否された。

 

「わかった。ダメそうなら装者に召集をかける」

 

「ああ!」

 

 流と緒川はリディアン音楽院の敷地内にあるヘリポートへ向かった。

 

 

 流はヘリ内で了子にメールをする。流は知りたいこと、お願いをしたい時は了子の事を母親呼びする。その方がお願いを聞いてくれる確率が上がるからだ。更に上の呼び方があるが、あまり使いたくないと思っている。

 

「これは母さんがやったの?」

 

『ええ』

 

「俺が現場についたら、俺を狙うように杖で命令できる? 無駄に広がられると面倒」

 

『それをして私にどれほどのメリットがあるの?』

 

「お願い、お母さん」

 

『メリットなし』

 

 致し方なし。流はさらに上の呼び方でお願いする。

 

「ママお願い」

 

『……しょうがないわね、コマンドで命令しておいたわ』

 

「ママありがとう、大好き」

 

 了子とのメールのやり取りを終えた。ママと書き始めた辺りで、流は恥ずかしさがこみ上げてきていたがやり切った。

 

「どうかしました?」

 

「あー、その了子母さんは可愛いなって」

 

「……えー、と。そう……ですね?」

 

 緒川は引き攣った笑みで何とか肯定した。あとで了子に言ってやろうと流はほくそ笑む。

 

 その日、緒川の顔にはヒールで蹴られた跡があったとか。

 

 

 **********

 

 

「あまり近づきすぎるとノイズの攻撃を受けますので、流さん……流なら大丈夫ですよね?」

 

「はい! ムササビの術なり、震脚なりで衝撃は無効化出来ます。行ってきます!」

 

「頑張ってください!」

 

 ノイズの攻撃が届かない上空でヘリの扉を開けて、縁に足を掛け、ヘリを蹴ってノイズの元にダイブする。

 

『本当に大丈夫か? 本調子じゃないだろ?』

 

「奏は心配しすぎ。さっきまで物凄く体調が悪かったのに、戦いだと思うとあの熱が力に変わったみたいに、身体中に力が入り始めた。今なら父さんとパワーで均衡できそう」

 

『それでも均衡なのかよ』

 

 流は軽く頷いてから奏に提案をする。ちなみに流は奏の事を現時点でも妄想の産物だと思っている。

 

「今回は数が多い。練習していたあれ、試してみない?」

 

『あれか、あたしらでノイズ共を殲滅してやろう!』

 

「おう!」

 

 空中で力を入れて一回転してから、地面にかかと落としを放って着地する。

 

「は!?」

 

 そのかかと落としは流の想定威力の数倍あり、地面がガタガタになってしまい、着地を失敗した。

 

「メチャクチャ強化されてるけど、侵食があるだろうしな……」

 

 ノイズの中心に落ちてきた流をその場にいる全てのノイズが覗き込んでくる。了子にお願いしてノイズに攻撃を仕掛けた人間を襲うように命令してもらったおかげだ。

 

「 ……ふん!」

 

 体を引き絞って突撃してくるノイズを、拳、肘、頭、背中、肩、腰、膝、足。全ての部分を使って、一撃必殺を心掛けて打ち込み続ける。

 流は後ろを警戒しないで前だけを見続ける。

 

 前から突撃するノイズ達を真似するように、後ろからもノイズが突撃してくる。

 

『右回し蹴り、右裏拳、飛べ!』

 

 流となら言語を介さ(. . . . . )なくても(. . . . )会話ができる奏が、後ろを警戒して長年見てきた流の体の動きを把握しながら命令を下す。

 

「どうしたノイズども! 人間一人殺せない癖に先史文明期の人類殺戮兵器気取ってんのか? 御笑い種だな!」

 

 決して人間の言葉を理解しないはずのノイズだが、その言葉を受けて攻撃の頻度が何段階も早まる。

 

 しかし流の攻撃を逃れて、体に傷をつけられるノイズは未だなし。流と常に共にいた奏の指示を超えて、背中に鉤爪を立てられるノイズも未だなし。

 

 途中から一度の攻撃で何体かを巻き込んで倒し始める。前までは威力が足りず、一撃一体確殺しか出来なかったが、デュランダルのおかげか、日々行っている鍛錬のおかげか、一度に何体殺しても殺しきれないなどという事が起きない。

 

「こいこいこいこい!」

 

 ノイズの数が減ってきて大型が攻撃してくる。その攻撃を避け、腕を伝ってノイズの元に行き、ノイズの胸元に正拳突きを放つと灰となって消える。

 

『あははははは、流を死なせるかよ!』

 

 

 

 2時間が経ち、その場には無傷の流とノイズの成れの果てしか残っていない。

 

「シンフォギアなら1時間と掛からなかったよな」

 

『……まあな』

 

「翼の逆羅刹と千ノ落涙だったら30分と掛からなかったな」

 

『それ以上はやめとけ。完全聖遺物を融合させてても、力として使えないんだからしょうがねえって』

 

「だな」

 

 戦いが終わり正気に戻ると、悲しい現実を思い出してしまった。

 帰投した後、了子(. . )一人(. . )で身体検査をしてくれて、そのまま帰って良いことになった。デュランダルは絶対にバレてはいけない事の一つだから、検査は了子一人だったのだろう。

 

 

 **********

 

 

 翼が流にアーティストライブのチケットをくれた。

 オーディンに負傷させられ、長らくアイドル活動を休止してきたが、これを復活ライブにするらしい。

 

 翼にこのような気遣いをされたのは数年ぶりなので、彼は嬉しさのあまり抱きついてしまった。天羽々斬の峰打ちは痛かったと彼は後に語る。

 

「これ俺が行ってもいいのかな? 俺が翼を負傷させたけど」

 

『いいんじゃないか? オーディンと流は別物だろ? オーディンは死ぬんだから』

 

「なんか奏はズルさが増したな」

 

『あたしは今でも素直だろ。ノイズをぶち殺すってずっと言ってるわけだしさ』

 

「あたしの裸を見たから、修行つけろ」

 

『ぎゃあああああ!』

 

 公園のベンチに座り、奏と話していたら、顔面を殴られて吹き飛ばされた。周りからは変な目で見られるが、それを無視する。奏と外で話しているとこんなことがよくあるのでいつもの事だ。

 

「もしノイズの襲撃があっても、今回は響に頑張ってもらおうかな」

 

 アニメでは復活ライブ中にノイズによる襲撃があったので、今回は響とクリスに任せようと翼から貰ったチケットをニヤニヤ眺めながら思った。

 

 

 だが、復活ライブ中に襲撃は起こらず、響も翼のライブを見ることが出来た。

 ライブの後はすぐにラストバトルが始まる。猫のように逃げてしまっているクリスに一通のメールを送っておく。

 

 

 

 

「どういう事?」

 

「どういう事って何よ」

 

 フィーネに呼び出されて、流は嫌がらせのようにカ・ディンギルの放出角度の計算をさせられている。

 

「翼の復活ライブ中に襲撃をする気じゃなかったの?」

 

「流はライブ見たかったでしょ?」

 

 流はそんな言葉に手を止めフィーネを見ると、何を当たり前のことを聞いているの? と言った顔でそんな(フィーネっぽくない)事を言ってきた。

 

「うん。凄く見たかった」

 

「もし流のいる場所が襲撃場所に近かったら向かっていたでしょ? そしたらライブが見れないじゃない。楽しみにしてたみたいだからやめたわ」

 

「……」

 

 流は混乱した。最近フィーネの態度が軟化してきている事はわかっていた。だが、流という要素に遠慮するほど優しさを持っていなかった。

 それなのに、何故いきなり変わったのか。

 

「それ以外にも理由はあるんでしょ?」

 

「もちろんその理由が一番よ。強いて他に挙げるなら、クリスにはあなたについて疑心暗鬼のままでいて欲しいのよ」

 

 クリスに流が雪音夫妻が死んだボランティア活動の日程の把握。それとバルベルデでテロの起きる可能性を知っていた事、それらをバラしたと後から聞いた。更にクリスが流を信じられないように小細工をしたとも言っていた。

 

「クリスと俺が協力すると困るのか」

 

「ええ、あなたと弦十郎くんは何を仕出かすか分からないもの。もしクリスが協力的ならメスと糸と針だけで心臓近くの爆弾を切除しました……なんて言われても信じちゃうわ」

 

「ちゃんとした施設がないと俺は無理。父さんは……出来そうだよね」

 

 ここにいるフィーネ改め、櫻井了子に医療の何たるかも叩き込まれているので、施設と助手がいれば流もそれくらいなら出来る。出来ることがおかしいのだが、それに流は気が付かないし、了子も周りも指摘しない。アホくさいから。

 

「フィーネ」

 

「わかってるわ」

 

 屋敷周りを監視しているモニターに黒い工作員服を着て、ライフルを持った男達が何人も映し出されている。

 

「だからこのタイミングで呼んだのかよ」

 

 意味の無い演算をさせられていた意味を悟る。面倒臭いから、流にアメリカの奴らを殺させようとしている。

 

「そうよ、私はか弱いもの。頼りになる息子に守って欲しいわ」

 

「それはいいけど、自分のことは自分で守ってね? 防御シールド的なやつとか使って」

 

「……もう何を知ってても驚かないわ」

 

 廊下から分厚い靴の足音がいくつも聞こえる。弦十郎クラスや流クラスでなくても、侵入者が来たことが分かるほど音を鳴らしている。

 

「それに何かがあった時のために人は殺しておいた方がいいわよ。初めての人殺しは多少はくるものがあるでしょうし」

 

「……こいつらは不正入国して日本の異端技術を盗もうとしてる奴ら。死んだとしても、殺した犯人はそこまで罰せられないとかか。国の闇に触れてるわけだし」

 

「そうよ。お咎めなしの殺していい敵」

 

 男達が部屋の入口から入ってくる。それと同じタイミングで窓から同じ格好の男達が突入してきた。

 そしてそのまま、何も言わずこちらに発砲してくる。

 

 アニメと違い、フィーネはフィーネのまま、そのままの格好(全裸)でシールドを自分の前だけに展開して弾を防ぐ。

 流は目元を腕で隠し、弾をそのまま受ける。

 

 侵入者の驚きの声が聞こえる。

 

 フィーネはシールドで弾を止めた。流は服がボロボロになるが、体に当たった銃弾はひしゃげて、そのまま地面に落ちていた。

 

「戦いになると体の硬度が変わるんだよ。エネルギーがデュランダルを完全状態に維持して、朽ちたり欠けたりしないようにする。デュランダルは折れない剣なんて言われてるのはそのせい。今は俺の体が剣として認識されてるから、朽ちず滅びない」

 

 今は流とデュランダルが融合していて、流の体が剣として認識されているので、体が朽ちることも傷つくこともない。今の流を傷つけられるのは聖遺物由来のものくらいだろう。

 

「ネフシュタンとはまた違って面白いわね」

 

 フィーネは硬質化した体を触るために、シールドを解除して近づいてきた。そこを黒服達が撃ち込んでくるが、流が体で守る。

 

「お前らさ、確かにフィーネは屑でゴミで最悪な人だけど俺の母親なんだよ……なに人の親に銃をぶっぱしてんだ、殺すぞ!!」

 

「屑……ゴミ……最悪……」

 

 キレた流は敵に近づきながら、拳銃で正確に敵の頭を撃ち抜く。逃げようとする奴は足を蹴り砕いたり、拳銃影縫いなどで足止めし、全てのアメリカからきた奴らを殲滅した。

 

「外の残ってた奴らは?」

 

「……ノイズでやったわよ。ゴミで屑で最悪な私が命じてね」

 

「逃がすと面倒だからね。怪我はない?」

 

 彼はひねくれたフィーネをスルーして話を続ける。

 

「私って協力してるだけの敵なのよ?……ゴミで屑で最悪だし」

 

「でも俺の大好きな母親でもあるよね、フィーネママ」

 

「……怪我はないわ」

 

 フィーネは顔を見せないでそれだけ呟いた。




フィーネはツンデレヒロインではないです。

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