あとXDを始めたため遅れました。
アダムの登場にサンジェルマンや弦十郎がなにかを言っているが、アダムは聞く気がないため無視して話を進める。
今の彼では
「聞く気がないのさ、君たちの主張はね。S.O.N.Gの潜水艦の艦上にアルカノイズが居るはずだから、精密度合いを上げて索敵してみなよ。劣化ディー・シュピネの結界に護られたアルカノイズが居るんだ……いけるはずだよ、S.O.N.Gの高精度なノイズ探知ならね」
「……エルフナインくん、索敵してみてくれ」
本来なら敵の誘導に従うべきではないが、現状全ての装者がこの風鳴宗家に出撃しているので、アダムが言っている通りなら詰んでしまっている。
アダムがアルカノイズの存在を口にした時点で交渉をする気があることが窺え、弦十郎は部下を見捨てて敵を討つなんて方法を取ろうとしない。
『……ほ、本当にいました! まるでS.O.N.Gのノイズスキャンの性質を知っているかのように、巧妙に検知されていなかったみたいです!』
「まだ転移で戻れば被害を出さずにアダムと戦うことも出来るわよ? こちらにはそれだけの戦力が揃っているのだし」
「ふむ……」
アダムは弦十郎がS.O.N.Gの本部である潜水艦に連絡を取っている内に、流を岩から掘り起こし、いつでも帰還できる準備は整っている。以前はしていなかった黄金色のマフラーをアダムは見ると、響のガングニールに酷似していることが分かる。
今もこの場には錬金術による転移の阻害結界が張ってあるが、魔力量が統制局長の時点に戻ったアダムにとって、少しだけテレポートの邪魔程度のものでしかない。力無き者が力在りし者に力で押さえつけられないのと同義だ。
いつでも帰れるアダムはあえて相手の交渉を待っているのだが、アダムの知る弦十郎はここでは悩まない気がする。仲間が第一であり、すぐさまに戻ると思っていたのだ。しかし現に悩んでいることから、これもアヌンナキによる改変のせいなのか? と顔には出さずに情報を集める。この世界の状況をアダムも詳しく分かっていない。ただ
当の弦十郎も実際はその判断をしたいが、デュランダルのエネルギー波形に酷似した爆撃を何度も世界は受けていて、その実行犯を逃がすべきではないと風鳴としての弦十郎が囁く。
「73795。サンジェルマンはこの数字に聞き覚えはあるかな?」
「……もう貴方の言葉には騙されないッ!」
「確かに僕は……きっと君の知る僕も騙していたのだろう。でもね、この数字は君が、君自身が背負うと決めた……今の君には失望したよ」
ティキを愛するようになった元神のアダムはサンジェルマンを人類の中では一番好いていたのだと気がついている。ひたむきに本当にひたむきに、サンジェルマンは支配のくびきから人類を解き放とうとしていた。故にその過程で犠牲になった人、犠牲にした人達の数をサンジェルマンは数えていたのだ。
それ即ちその数字こそサンジェルマンの覚悟であり、それを
「貴様に何がわかる!!」
「サンジェルマンはもういいや。風鳴弦十郎、君の答えは出たかい?」
「……ああ、装者数人をキャロル君と共に戻し、俺たちはお前を倒すッ!!」
「子を忘れた哀れな超人よ、君の答えは想定内だよ」
弦十郎が闘気を漲らせ始めたのを見て、アダムは指パッチンを一回する。すると、それに合わせたように了子の持っていた端末に電話が掛かってくる。正確に言うと弦十郎から預かった端末に電話が来た。
了子は戦いの最中のため無視を決め込もうとしたが、アダムが手を挙げて、出ることを推奨したため、仕方なく警戒を続けながらスピーカーモードにしてコールに出た。
『なんの為、貴様らに
「今はその国防のための戦の最中ですので」
この場にいる全員に聞こえるような声量で
『貴様らは何の為に歌で戦っておるッ!! 特異災害から国を護るためであろうッ! 何故儂は今、ノイズに囲まれているのかを説明せよッ!!』
「な!?」
「当然だろう? 君たちの拠点へのアルカノイズ強襲ならばテレポートで戻っての殲滅も可能さ。ならば、別の場所にも戦力を放逐する。何段にも構えるのは基本中の基本。君たちもやってきた事じゃないか」
アダムは全く表情を変えずに淡々と口にする。ここでニヤリと笑ったりしたら、それこそ悪意があると思われてしまう。今は何よりも再起不能になっている流を回収するのが先決であり、
お前はノイズに命令できるソロモンの杖を持っていないだろッ! とツッコミを入れる雪音クリスも居るかもしれないが、元々流はノイズと友好関係を築いてから、バビロニアの宝物庫への行き来がし易いように、宝物庫とこの世界の境界線を緩めている。なのでノイズ達はやろうと思えば、自然災害としてのノイズと同じようにこの世界に現れることも可能なのだ。
しかしそれをすると流やシンフォギア装者にボコられるし、自分たちが
ミカの機獣である『鳥』ノイズが勝手にミカの元に現れたりすることもあるため、一概には出てこないとは言えないが率先して出てこようとしない。
そして今回は
「統制……アダム・ヴァイスハウプト! どこまでも卑怯な手を!!」
「風鳴訃堂は国防の要だろう? 確かに死んだとしても国は存続するだろうが、少なくない時期荒れることになる。それを許容するのであれば、僕に拳を向ければいいさ。親を見殺しにしてまで手に入れる正義にどれほどの価値があるかは知らないけどね」
アダムは倒置法を使わず、風鳴弦十郎の目を真っ直ぐに見ながら口にする。ここで弦十郎がアダムを選べば、
「……なにが目的だ」
「それでいいのさ。僕は風鳴……ここにいる彼を持ち帰りたいだけだよ」
「アダムは撤退後に風鳴訃堂を殺すはずだ! 取引に乗っては」
『良かろう。貴様と貴様の連れが逃亡することを見逃してやろう。ただし儂、そして
「貴方は話のわかる御老人だよ。それじゃあ帰るから」
アダムは指パッチンをもう一度すると、テレポートの錬金術陣が展開され、流を米俵のように抱えたアダムはその場から消えた。
もちろんS.O.N.Gの潜水艦では、アダムのテレポート先を検知しようと探知範囲を広げたが、了子が作成した機器もキャロルが設置したシステムにも痕跡が映ることは無かった。
「蘇りしアダム・ヴァイスハウプト。それに謎のデュランダルの融合症例の青年……了子くん、デュランダルはフィーネである君とのあの戦いで、我々の認識では対消滅を起こしたと思っているが、了子くんがギリギリ消滅せずに済み、今は俺が纏わせて貰っているネフシュタンの鎧のように、デュランダルを復元することは可能なのだろうか?」
「可能ではあるけど、私たちがあの戦いの後にデュランダルの欠片一つ残っていなかったのは調査済みよ? 私たちの知らないデュランダルなのかもしれないわね」
「……もうひとつの、デュランダルか」
見当違いな会話をしていて、流を敵視している。そして何より、今の現実では
装者達が帰還する時に、異次元に隠しているチフォージュ・シャトーなら何かが分かるかもしれないとのことで、キャロルは彼女の巨城へと向かう。
サンジェルマン達はアダムが潜伏しているかもしれない場所の検討をつけるべく、昔の記憶や手元にある資料から探し始めた。
そして帰還した装者達は調を除いて、敵を討てずに悔しげな表情を浮かべていた。そこには憎悪すら浮かべている人もいた。
***
「少しずつ貴女が何をしたいのかが分かってきました」
「ほう……我の思考を読むか。良かろう、余興として聞いてやる。もしイヴの言葉が合っていれば、嘘偽りなく肯定してやっても良い」
そこは何処ともしれぬ赤い光が脈動している場所。
少し前まで胃に直接何かを流し込む為に繋げられていた管が外されていて、今も尚全裸で、以前よりも成長した樹、既に部屋と一体化したその樹に磔にされながら、セレナは脇腹から血と水を滴り落としている。
お腹は以前同様に妊婦のように膨らんでいて、臍の下の部分に赤い光が点滅した平仮名の『ひ』の口の部分に『Y』を逆転させたような、シェム・ハの紋様が浮かんでいた。
呼吸をする度に脇腹に刺さっている
彼女のヒーローは既にこの世界に戻ってきたのだから。
「まず貴女がカストディアン、アヌンナキであり……別のアヌンナキによって封印されていたということです」
「何故そう思う」
「貴女はパヴァリアの残党によって南極で貴女を封印していた依代、その腕輪が発掘された。アヌンナキという人類の創造主を封印できるのもまたアヌンナキだけですよね? その後に日本やS.O.N.G以外の……アメリカ主導だと思いますけど、貴女、シェム・ハを完全に解き放ってしまったんじゃないですかね?」
「……ふふふ、ただの小娘かと思いきや、存外に知恵が回る。
セレナはここ
ギャラルホルンは以前、フィーネと了子の二重生活をしていた時にフィーネが拠点にしていた湖の近くの拠点、その湖の底より更に下の秘密基地で安置されていた。
あの頃のフィーネはまだギャラルホルンの力を知らず、ソロモンの杖やネフシュタンの鎧に比べて優先度が低かったため、簡易な封印をされていた。
それをシェム・ハが暴き、言葉によって、構造式を書き換える力。彼女の持つ本来は生物の成り立ちや機能を作り替えるその力でギャラルホルンを強制起動し、
もちろんシェム・ハに襲われた時にセレナは流に助けを求めた。例え言葉が通じる距離ではなくても、流ならば感じ取れるはず。しかしバラルの呪詛がないからこそ、シェム・ハの改造に抗うことが出来ず、流を異世界に放逐するまで言葉を奪われてしまった。
それからシェム・ハが
「私にやらせたいことは貴女が言っている通り神を産むこと。物理的にでは無く概念的に。人の作り出した宗教観や積層された概念を利用するなんて、神様も随分と力がないんですね」
「今の我は力の半分以上を失っている。エンキに殺られた時にだいぶ持っていかれたが、貴様のような神代の時にも見なかった生体端末が居たことは僥倖だった」
「ただの人間相手に神様が自ら襲撃、しかも奇襲なんて恥ずかしくないんですか?」
先程からセレナは拘束されて、磔になっているのにも関わらず煽っている。その度に臍の下の紋様から痛みを感じるが、その程度で情報が手に入るのなら安いものだ。
どうやら神の力を使う流や愛で神になったアダムと比べて、シェム・ハは圧倒的に煽り耐性が低い。
『道具風情が……口を慎め』
そんなセレナの煽りに対して、シェム・ハは厭らしい顔でセレナの脇腹に刺さる剣を押し付ける。
「ただの人間? フフッ、笑わせる。我らの遣いとして一時期使っていた悪魔……化物そのモノである貴様が人なわけが無かろう」
「え?」
「気が付いていなかったか。我らが作ったただの道具たる人類は何ヶ月も栄養価のない果実のみを食し、血を流し続けて生きていけるようには創られていない。貴様はまさに化物そのものじゃないか」
「……ソ、ソロモンも酷いことしますね。でもちょっと頑丈な程度ですから問題は」
「神の器と交わっても子が成せぬ程度だ。心配する必要はなかろう」
「……」
別にセレナは好いた相手の子供が今すぐ欲しいなどという訳では無い。それでもカストディアンとの戦いが終われば、とりあえずは平和が訪れるはずであり、F.I.Sのような研究施設ではない、『普通』、物語にあるようなありきたりに年齢を重ね、子供を作り、好きな人と愛し合いながら普通に死ぬ。
特殊な環境で育ち、幽霊を経験したからこそ、普通を希求していた。そんな普通の少女がセレナ・カデンツァヴナ・イヴだった。
なのに今のセレナは既に普通を享受できない『化物』である。その事でセレナは心が折れ、シェム・ハの刻んだ紋様が定着する。
そのはずだった。
「何も分かっていないんですね」
「……なに?」
「流さんが、マリア姉さんが、皆がその程度で拒絶するわけがないですッ!! それに……そっか、シェム・ハ。貴女はフィーネにし、うぐっ!」
セレナが何かを言おうとした時、シェム・ハが右腕にしている腕輪からビームを発射して、セレナの胸を吹き飛ばした。吐血をしながら絶唱顔になるセレナだったが、コンマにも満たない間に
「やはりこの神の器の廃棄個体ではこの程度か。疾く産むのだ、神の器を。さもなくば銀の置物になるぞ」
シェム・ハは銀色に輝いてしまっているセレナの左腕を見ながら笑う。銀への構造変換は既に肘を飲み込み、目に見えないくらいの速度でセレナを銀へと変えている。
それでもセレナは笑顔を絶やさない。それが流の願いだから。
***
そこは一般的な一軒家の二階にある一室。カーテンで光が遮られ、その部屋の中心には角張った水晶が設置されていて、今も淡い光で部屋を照らしている。
「以前、サンジェルマンにディー・シュピネの結界の構造を教えて貰っておいてよかったよ」
「いきなり仕事先から『今日から錬金術師に戻るから!』なんて電話がきてびっくりしたんだから!」
「すまないって。そんなに怒らないでくれよ、ティキ」
淡い光を放つ結晶は以前、この世界の本来の歴史でもサンジェルマン達が接触した、バルベルデの大統領が逃げ込んだ施設で稼働していた物の模倣品。しかし物を作れるようになったアダムが再現したそれは、本来のディー・シュピネの結界以上のものとなっていた。
これは元々アダムが錬金術師に戻る前からあり、夜な夜な行われるアダムとティキだけでやる運動会の音が外に盛れないようにと作られたものだった。
そう、アダムは
人に転生させるやり方は何となく理解していたのにである。
アダムとティキの視線の先には、水槽のようなケースの中に流が居て、口には呼吸器もついていて、胸が上下していることから意識がないだけであることが分かる。
アダムはアヌンナキへの対抗戦力が死ななかったことに安堵しながら、端末を取り出してある場所に連絡をする。
『よくやった』
「僕は別に君の頼みで動いたわけじゃないさ。でも報告して欲しかったんだろ? 連絡先なんて寄越してさ」
『我らが神の力、護国の力、儂の考えを変えさせたその力を、ただの神の策略になぞくれてやる道理はないッ!!』
アダムが先程ノイズを嗾けた相手、風鳴訃堂に電話をして、少しだけ親しげに話している。
アダムと訃堂は、アダムが人類に転生してすぐに繋がりが出来た。アダムは今はある会社のトップであり、それ関係でつながり自体はあった。
そして日本で暮らしている限り、訃堂に所在を隠していられるわけがなく、アダムがこの家に帰ってきた時には、暗号化がバッチリの秘匿回線に繋がる端末を持ったエージェントが家にいた。
そう、先程アダムが訃堂を脅していたが、裏では口裏を合わせていて、
「御老人。良くないんじゃないかな、嘘をつくのは」
『なんの事だ』
「自分好みな自慢の、血の繋がった
『なんの事かと思えば。理由は愛だの、女だのくだらぬが、我が息子である流の国防の意志は本物よ。自分の女が住まうこの神国をアヌンナキが侵略すれば、神殺しだって行う気概。やっと求めた先人達の意志を継ぐものができて、嬉しく無いわけがなかろう。その継ぐ者が死ななくて嬉しい。そんなにもおかしい事か?』
訃堂のその声は喜びに満ち溢れている。きっといつもは絶対に見せない万遍の笑みを浮かべているだろう。
「いいや。でもやっぱりそうなんだねぇ。あの不出来な風鳴……えっと風鳴
『真なる風鳴である翼。その遺伝子を使い、神を創るのであれば、あんな阿呆を素に使うわけがなかろう』
S.O.N.Gの知らぬ場所で巨悪であった者達が少しずつ集い始める。
ちょっと時間が空いているので軽いXDFのまとめ
・常に同期を取るように世界の上書きで流の記憶は抹消されている。
・S.O.NGメンバーでは調とセレナ以外は皆流を忘れている?
・弦十郎と了子は改変された現実では結婚していないけど、融合しているネフシュタンを預ける程度には信頼関係。
・アダムとティキと訃堂は記憶を保持。
・誰かがアダムに救援依頼を出している。
・おっす、シェム・ハさん。流の作られたプロジェクトデウスの廃棄個体を使って既に復活していて、物凄く人類や流を警戒している(でも無意識の慢心はある)。