戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#144『英雄故事』

 流はあらゆる弦十郎が許容出来るであろう方法で異世界……いや、風鳴流が生まれたシンフォギアの世界に帰ろうと必死になって方法を模索した。

 しかし彼はそれを見つけることが出来なかった。

 

 故に彼は魔に堕ちたと言われても仕方の無い外法。最初から考えついていたが選ぶ気なかった方法で、生まれ故郷への帰還を()()()()()()()()()()()()()()成し遂げた。

 

 やっとの思いで()()()()()()()()()()()()()に帰ってきた。空間座標や位相の感覚、そして何より流が融合しているソロモンの杖がこの世界に、この杖に対応するバビロニアの宝物庫があることを告げてくれる。

 

「……か、帰ってきたあああああああ!!」

 

 どれだけの期間をこの世界から離れていたかはわからない。だが、目の前にいる装者達、特に成長期の調と切歌に身体的な差異がないことから、数ヶ月程度のズレで帰ってこれたのだと歓喜した。

 

 しかしこの世界の今起きている現実として、あらゆる場所を爆撃して、装者達の帰る場所であるリディアン音楽院をも攻撃をした存在こそがデュランダルの持ち主であり、怒りのままに響の神殺しの拳が流の片目を抉り飛ばした。アニメで響が黄金ギアでアダムの腹を【TESTAMENT】でぶち抜いた時と同じくらいの容赦なき一撃。

 

 今の流の顔は人間と同様の見た目だが、その内部構造はデュランダルで出来ている。響の手に伝わる衝撃は肉を殴った時特有の嫌な感覚ではなく、金属や()()()を殴った時のような感覚だ。

 

「くっ……響、俺だって俺! 流!」

「死に晒せッ!!」

「ちょっとま、奏!?」

 

【SUPERGIANT∞FLARE】

 

 ガングニールのシンフォギアを纏った奏は響が食い止めている間に空へと飛び、エネルギー球を上空に創り出してから、そのエネルギー球越しに上空から流に向けて槍を突き刺す。

 太陽のように輝く光線が流を貫こうと迫り来る。今の流はアニメの天のレイラインを解放した後の黄金錬成が使えないアダム・ヴァイスハウプトのようなものだ。世界に穴を開けての異世界転移というものは、例え体がデュランダルで神の力を行使出来たとしても負荷のかかるもの。

 

 故に今の流は弦十郎の拳はおろか、シンフォギア装者の攻撃をまともに受ければダメージとなってしまう。大半のダメージはすぐに再生できるはずだが、今はその再生させるためのエネルギーすらない状態。

 未だに再生しない左片目に奏の光線によって溶けた左腕。それでも彼は愛するもの達へと声を掛けることを諦めない。

 

「皆どうしたんだよ!」

「どうしたですって? デュランダル! 貴方が世界を、皆の帰る場所のリディアンを半壊させた。その貴方がどうしたと問うなんて!」

「いやいや、俺そんなことしてないから!」

 

 装者達を常に体の右側で捉えながら片腕と足で迎撃する。左目が潰されたのなら回り込まれないように立ち回ればいいだけだ。

 帰還が出来た喜びを感じている時の奇襲、その奇襲に心を乱されている時の奏の技は喰らってしまったが、冷静になれば()()()()()()()()()()()()()()()()との戦いにおいて、片目が見えずに片腕がない()()()()問題なく戦える。

 

 この場には翼とクリスとセレナ以外の全装者が集まっている。警戒しないといけないのは神殺しの響、ガングニールで防御を貫通してくる奏、絶唱やエクスドライブを使えば魂破壊が可能な切歌、聖遺物特攻のある未来だけ……ほぼ全員が警戒対象となってしまっていることに流は少しだけ冷や汗をかく。

 

 しかしこんな状況でも彼が冷静になれたのは調のおかげだった。

 

 流は神の力を使わない限り、人の心を読んだりすることは出来ない。唯一神の力なしで感じ取れるのは流への強い好意、愛である。

 奏も響もマリアも切歌も未来も、皆が復讐相手でも見るかのような負の感情を向けてきている。皆が皆、流を睨みつけ、倒さんと躍起になっている。

 そんな中、調だけ一筋の涙を流しながら切歌に合わせて、()()()()()()()()をしてくるその優しさに。やっと会えたと安堵していて、今すぐにでも流の胸に飛んでいきたいという調の愛に流は落ち着きを取り戻し、力が漲ってくる。きっと緒川に習った忍びとしての考えから、調は行動を起こさないのだろう。

 

「抜剣!」

 

 最初の響の拳と奏の技以降、全く攻撃が当たらなくなったことに業を煮やしたのか、響を皮切りに皆が()()コンバーターを押してイグナイトの最も強力であるが、制限時間が一番短いルベドに変身する。

 

 イグナイトになったのなら十中八九ユニゾンによるフォニックゲインの相乗を狙ってくるだろう。だが、それでもまだギリギリ今の流であっても対処が出来るくらいの余裕がある……いや、あったと過去形になった。

 

「俺も参戦するとしよう」

「もしかと思ったが、お前もか……キャロル!!」

「ほう、俺の事まで調べを付けているか。まあいい。とりあえず、死ねッ!」

 

 流のいる場所から数メートルの空間が割れ、そこからはダウルダブラのファウストローブを纏っている、幼き姿のキャロル・マールス・ディーンハイムが現れた。

 最近は幼き姿でも肋が浮きでない程度には脂肪がつき、太ったとガリィに煽られていたキャロルだが、そのキャロルが来たことで流は勝てないと悟る。

 

 今の流はデュランダルでエネルギーをほぼ生産できていない。異世界転移による負荷によるものであり、それはソロモンの杖にも当てはまる。今すぐにでもこの場から一度去りたいが、走って逃げたとしても補足される可能性が高い。ならばソロモンの杖でバビロニアの宝物庫へと思うかもしれないが、異世界転移で一番酷使したのは空間に穴を開ける役割を担っていたソロモンの杖であり、今使うと自壊してしまう可能性があるのだ。

 

 もちろん先程から錬金術でのテレポートを禁止する結界も張られていて、キャロルが現れる一瞬だけ解除されたことも感知した。しかし錬金術の頂きにいるキャロルのテレポート速度と後出しでの流のテレポートだと、どうしても割り込むことは出来ない。

 

 そして流が勝てないと判断した理由として、アダム戦後から始めた制限ありの戦いでキャロルと流は()()の戦いを繰り広げていた。

 流は敵の攻撃を敵に返したり、宝物庫に逃げられるソロモンの杖の禁止、位相差をズラして攻撃を避けるのは禁止、神の力の行使は禁止、ノイズを使うのは禁止などなど、禁止は多いが拳と過剰ではない忍術のみでの戦い。

 キャロルは記憶の焼却の禁止と体に負荷のかかりすぎる戦い方も禁止。

 

 そんな条件で戦うと、流はダウルダブラの弦で上手く近づけず、キャロルは流のデュランダルボディを突破できないため、勝負がつかないことも多かった。そして今の戦いは正しく鍛錬時よりも状況が悪い。

 

 

 

 

 流の腕や足を絡め取るように、彼の体の左側(視界外)からダウルダブラの弦が迫る。彼は見えない視界側から迫るそれを風を切る音で弦の位置を判断して紙一重で交わすが……

 

「いくよ切歌ちゃん!」

「いくデスよ、響さん!」

 

【必愛デュオシャウト】

 

 響だけのブーストでは達することの出来ない速度、切歌が響と靴を合わせ、イガリマの肩のブースターで加速を担うことによって、弦十郎や流の拳の速さすら越えられる二人のユニゾン技【必愛デュオシャウト】が流の体を殴り飛ばす。

 

「空蝉だ」

 

 しかし響が殴り飛ばしたのは流の着ていたジャケットとシャツであり、流はボス恒例のような上裸を晒すことで難を逃れる。

 

「その動き、何故貴様が緒川さんの忍術を……月読!」

「……」

「どうした月読!!」

「ごめん、なさい。まだ体調が良くないみたいで」

 

 空蝉を使ったのならば、連続使用は出来ないはず。いつの間にかこの場所に到着してバイクに跨っている翼が、調とのユニゾン技【風月ノ疾双】で追い詰めようとしたが、調は体調を悪そうにしながら変身まで解ける。

 調は皆には申し訳ないが、流の記憶があるので彼と戦いたくない。なので調に憑くツキちゃんが色々な記憶を調に無理やり流し込むことによって、擬似的に頭をパンクさせて体調不良に陥れた。

 

 空蝉で響と切歌の攻撃を避け、キャロルの弦の射線上に響達がいることによってキャロルは攻撃できない。

 

 会話すらできず、何らかの理由で流を調以外が忘れてしまっていて、更に敵対しているのなら少しだけ眠ってもらうのが1番手っ取り早いだろうと流は思考を切り替える。

 空蝉で浮かび上がっていた流は物理的に空気を蹴り、響達のもとに飛び込もうとしたが、またしても別の攻撃が流を襲う。

 

「遅れるなよ?」

「分かってるわ」

 

【Change †he Future】

 

 マリアのギアが巨大な刃となり、クリスがそのマリアの後ろでギアを変形させて戦闘機でいう双翼とジェットとなる。二人のギアが合わさったことにより戦闘機のような見た目となり、エクスドライブモードではないと満足に飛べないという基礎理念をぶっ壊すユニゾン技で流に向けて突撃してくる。

 

 デュランダルの『不滅不朽』は動作せず、ソロモンの杖も使えず、空蝉も連続使用出来ない。しかし彼にはまだ力がある。

 

「……なっ! ノイズみたいにすり抜けただと!?」

「やっぱり俺が装者達の歌の影響(調律)を受けていても、短い時間なら位相をズラせることも忘れてるのか。俺の全てを焼却でもされたか? それとも原罪のように新たな呪いを植え付けられた?」

「人がノイズって……待って、あの顔はなに!?」

「あの腕もおかしいぞ! まるでアダム見てえじゃねえか!!」

 

 高速で移り変わる戦闘だったからこそ、マリア達は響に撃ち抜かれた左目付近を見ることが出来ていなかった。

 

 左目付近の抉れてしまっている部分を見ると、デュランダルの金色の金属が見え、血管のように水色のラインが光を明々させている。

 左腕が吹き飛んだ断面は顔と同じように血が流れていない。普段なら擬似的な血液は流れているが、その機構すらも停止させないといけないほど今は余裕が無い。

 

「オートスコアラーではないな。アダムのような機械でもない。お前はなんだ?」

「ただ聖遺物を融合しているだけさ……会話しようとしてるのに、ミラーデバイスを透明化させながら、本人も透明化して近づいてくるな! 爆振ッ!」

 

 流は透明化している神獣鏡のギアを纏った未来が近づきながら、流の周囲にミラーデバイスを展開して包囲しようとしていることは初めから見えていた。

 

 これは特殊な異端技術にあらず。ただ暗闇でも、姿が見えずとも敵を見定められるようにと緒川に習った忍術である。以前までは見てなかった透明化だが、長い年月を得たことによりS.O.N.Gでも感知できなくなる透明化神獣鏡の未来を愛によって見定める。

 

 流は足で地面を踏みしめた力を使って地中を爆発させ、舞い上がる砂煙と共にその場から引こうとする。今の状態で未来の神獣鏡の輝きだけは浴びるのは得策ではない。しかし流は装者や錬金術師だけだとタカをくくったからこそこうなる。

 

「……これは影縫い!? でも」

「司令と同じような戦闘スタイル。それなら抜け出せるのも分かっています」

 

【影縫いの術】

 

 一旦仕切り直そうとした流だったが、音もなくいつの間にか地面に縫い付けられていた。この技こそが飛騨人軍の忍頭の弟、緒川慎次の使う忍術【影縫いの術】である。

 影縫いだけではなく煙幕によって視覚を、スタングレネードによって聴覚を奪われる。緒川の習得している忍術は現代忍術であり、拳銃は当然としてミサイルから戦闘機まであらゆる手段でNINJAを行う。

 

 緒川が先読みしている通り、流は縫い付けられて動けない体で地面を踏み締め、その衝撃で影に刺さっていた弾丸を吹き飛ばす。

 

 流は緒川の口にしている通りに抜け出したくはなかったが、()()()()()()()()()()がしたので、速さ重視で抜け出し、力を振り絞り、飛行の錬金術を行使して逃げようとするが時すでに遅し。

 

【正拳突き】

 

 それはただの拳。キャロルのように、ある出来る女性がサポートしながらテレポートしてきた後、コンマにも満たない時間で影縫いから抜け出した流の下に踏み込み、その筋肉で発達した赤いシャツから覗かせる鍛え上げられた拳で放つ一撃。

 例え風鳴流(息子)を忘れたとしても常に鍛えることを辞めず、そうあれかしとシンフォギアが作品である世界で言われたその言葉、人類最強を体現するかのように人の身でありながら強さの上限がなく、ただひたすらに強くなれる祝福を息子に掛けられたその男、風鳴弦十郎は()()()姿()()()()()

 

 上裸の上に()()()()を身にまとい、肩周りには()()()()()()()()()()が巻き付けられていて、局部は黒いビキニのような物を履いている。

 そう、それは今は無きネフシュタンの鎧である。ルナアタックの時にデュランダルとの対消滅で無くなったはずの鎧。

 

 しかしここが流が知るはずの世界ならばネフシュタンの鎧が現存していることも納得出来る。

 

 流の肉体の大半を構成しているデュランダルが残っているのなら、了子が融合させたネフシュタンの鎧も残滓が残っていて、復元できることもまた道理。

 だが、まさか融合しているはずのネフシュタンの鎧を弦十郎に与え、弦十郎が完全聖遺物の力を引き出している状態で戦闘に出てくるとは流は思わなかった。

 

 シンフォギアは外部からシステムをロックすることも可能だ。想いの力でそれを無視したり、乗り越えたりもできるが基本的にそのロックは有効だと国連に思われている。故に国連はシンフォギアを自分たちで制御している兵器だと思っている。

 しかし弦十郎は生身でシンフォギアを圧倒出来てしまうのだ。制限を外部から掛けることも出来ないため、弦十郎は例えノイズが居なくても出撃許可を得るのに多大なしがらみが発生し、時間がかかるはずなのだ。

 

 そう、まるで走馬灯のように思考が加速した中で流は考える。目の前まで迫ってきた必滅の拳を喰らいながらも、現状打破の方法を考える。

 

「や、やめ……」

「イナズマを喰らえぇぇえッ!!」

 

 拳圧で周囲の地面や風鳴宗家の建物が裂け、踏みしめた地面には了子がフィーネの時に使っていたピンク色のシールド【アースガルズ】が使用されているが、それでもそのシールドは亀裂が走っている。

 そして殴られた流は腹に大きな穴を開け、体全身にヒビを入れながら吹き飛ばされる。風鳴宗家の庭にも設置されていた要石に野菜人の王子のようにめり込むことで動きが止まる。

 

 何とか上半身と下半身が繋がっているものの、アニメの壊れたティキのように全身がボロボロであり、人間としての外見も保てず、全身が金と水色のデュランダルカラーに戻ってしまっている。

 

「やべぇ……アヌンナキやるな。本気の父さんを出されたら勝てねえよ」

「さて、貴様には色々聞きたいことがある。お縄についてもらおうか」

 

 流にとって弦十郎は強さの象徴であり、優しさの象徴でもあった。そんな弦十郎から吐き気を催す外道を見るかのような冷めた目で見られていることに、今の流にはない左腕が震える。

 

 どこにアヌンナキが居るのかは分からない。

 流の予想では原罪がなく、ソロモン王に造られた肉体を持つセレナが囚われている可能性が高いと思っている。アヌンナキも復活には時間が掛かるはずだし、もし敵がアヌンナキでは無いのなら()()()()()()

 

 しかしその「何とでもなる」は了子やキャロル、サンジェルマン達による拘束をされた場合はその限りではない。流の強さは肉体的な強さと聖遺物に由来する。その聖遺物部分を抑えられると今の流は全くお手上げとなる。

 

 しかし悲しいかな、この世界に流の味方は調しかおらず、流は先程からこちらを見てきている調に憑いているツキちゃんに彼女を止めるようにお願いをしている。故に彼を助けるものはいな……

 

「アヌンナキも酷いことをする。悲しいと思わないかい? 殺させようとしているのさ、親に、子をさ」

「了子くん!」

「ま、まさか!!」

「何故貴方がここに……アダム・ヴァイスハウプト!!」

 

 いつそこに居たのか、流のめり込んでいる要石の裏から現れたのは白い()()()()を来て、無駄にパヴァリア光明結社時代に被っていた白い帽子に似ているモノを被っている。今は轟アダムと名乗っている元統制局長。

 

 アダム・ヴァイスハウプトとオートスコアラーのティキは最終決戦時に風鳴流によって、人間に転生させられた。その時にアダムの膨大すぎる魔力も、ティキの惑星の運行を星図と記録する機能も消されたはずだった。

 

 だが、今ここに現れたアダムは弦十郎の後ろでネフシュタンの鎧を制御していた了子に()()()で風の斬撃を放ち、装者達との間に分厚い氷の壁を一瞬にして生成した。これだけでもパヴァリアの上位陣と同等以上の魔力を感じる。

 魔力がない人間にはできない芸当、装者達の中では響の【TESTAMENT】で死んだはずの存在。そんな彼が岩にめり込んでいる流を一瞥し、少しだけ吹き出してから弦十郎に視線を向ける。

 

「哀れだねぇ、元人形たる僕が忘れず、愛や平和を胸に秘めていた君たちが流を殺そうとするなんて」

 

 本当に哀れだと思っているのか、サンジェルマンが見たこともないアダムの憂い顔に裏切られた記憶しかない彼女は顔を酷く歪ませる。




流は毎回力出せない時にボコられてるけど響が毎期心にダイレクトアタックを受けているのと一緒だな!

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