戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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風鳴に天叢雲剣を出したのはデュオの為だったけどネタが被ってしまった。まあいいか。


#143『人類史の彼方から』

「またかッ!!」

 

 弦十郎は発令所の司令用のテーブルを全力でぶん殴る。彼が怒りのままに物に当たれば壊れてしまうのは必然であり、普段の風鳴弦十郎ならばそのようなことはしない。

 しかし彼は()()護れなかったのだ。

 

「弦十郎くん落ち着きなさい」

「これが落ち着いていられるか!」

「貴方が荒ぶれば、皆が不安になる。この子達を貴方の怒りに巻き込むの?」

「…………すまない」

 

 弦十郎の周りには先程出撃し、然れど間に合わなかった翼とクリス、パヴァリア三人娘以外の装者や錬金術師がいる。

 皆一様に弦十郎のことを見ており、組織の長としての立場を忘れて怒りに流されたことに彼は恥じる。弦十郎が怒りを忘れるほど、何度もある攻撃から世界を護れていないのだ。

 

「司令が怒るのも無理ないデスよ」

「私たちだって身長穏やかじゃない」

「調……今、心中穏やかじゃないって言おうとしたデスか? 身長と心中は違うデスよ?」

「……切ちゃん、その、耳鼻科行く?」

「絶対聞き間違いじゃないデスから!」

 

 調は()()()()()()()()()()()()()()が、それを逆手にとって、いつものお調子者切歌を演じてみるが、この場の雰囲気は改善されることは無い。

 

 既に両手で数えられないほど、各地でデュランダルだと思われるエネルギーによって世界は、そして日本は爆撃を受けていた。

 

 リディアン音楽院の爆撃はただの始まりに過ぎなかったのだ。ホワイトハウスからバッキンガム宮殿、中南海にクレムリン。あらゆる場所をまるで挑発するかのようにデュランダルエネルギー球が炸裂して、少なくない被害が出ていた。

 それでも内包されるエネルギーに比べたら、その破壊の威力は何故か小規模だが、それ故に各国には騒ぐだけの力が有り余っており、現在S.O.N.Gは異端技術と思われる被害を防げないとしてバッシングを受けている。

 

 弦十郎はそのバッシングに対してキレている訳ではなく、またしても一手遅れてしまい、少ないながらも死傷者を出してしまった己に怒りをぶつけていた。

 まるで世界が最適な行動を阻害しているかのように、一手遅れてしまっていた。

 

「ほら、あなた達は明日も()()があるのだから帰りなさい」

「了子さん……その、私たちは学校に行ってもいいんですかね? 私たちが呪われてい」

「響ッ!」

「あっ、ご、ごめんなさい。その、帰ります」

 

 この中で最も落ち込んでいるのは立花響だった。

 護りたい人達を護れず、護るために駆けつけても時すでに遅し。

 

『なんでもっと早く来てくれなかったんだよ!!』

 

 それでも装者達はデュランダルエネルギー球による爆撃があった場所で救助活動を行ったが、その時に響が助けた大人が、助けてくれた響自身にそう叫んだのだ。瓦礫の下の妻を助けようとした結果、片腕と妻を失ったその男が響に告げたのは感謝の言葉ではなく、呪いの言葉そのものだった。

 どんどん弱っていき、最近はご飯も一杯の半分程度しか食べれなくなっている響を励ますだけではなく、悪い点は悪いと指摘している未来の顔色も優れない。響があまりにも元気がないため、それに影響されるように装者達の顔に笑顔が光が灯らない。

 

 人々を護るためにアイドルをやっているマリアも、防人として人を防人たい翼も、ノイズ被害にあった人から歌が聞こえたおかげで諦めなかったと言われてから人を救うことも生き甲斐になっている奏も。皆がみな、心に影を落としていた……一人の怒れる乙女を除いて。

 

『……また、流のデュランダルに偽装した攻撃があったッ!!』

 

 狛ウサギが神社の至る所にある調神社の宮司さんの孫娘である月読調。正確に言えば彼女が記憶喪失になって月読調になる前の少女、調(ツキ)ちゃんが宮司さんの孫娘なのだが、今では偶に調神社へ調は足を運んでいる。そこでは月読調も孫娘同然に宮司さんに可愛がられている。

 そんな彼女は神殺しの力を持つ響ですら、風鳴流というこの世界では異分子の存在の記憶を保持していられないのにも関わらず、リディアン音楽院への攻撃があった日からずっと忘れずに覚えている。

 

『出来るだけ早く流さんかセレナさんを見つけないとね』

『そうだねツキ』

 

 調以外には見ることの出来ない精神的存在、調のすぐ横にふわふわと浮いているF.I.Sの時よりも幼い調がそこにはいた。

 ツキと呼ばれた少女は以前に宮司さんと流を通して会話をして、成仏したと思われていた存在。しかし彼女はイザークや雪音夫妻とは違い、遺せなかった言葉を伝えることが成仏のトリガーではなかった。

 

『お嫁さんになりたい』

 

 幼き子であるツキは小学低学年が抱くようなお嫁さんになることを夢見る乙女。その夢が果たされ、そして満足するまでは決して彼女は成仏することは無い。

 流に憑いていた奏やセレナ、並行世界(正史)でのエルフナインによってデータのように復元されたキャロルのような関係だと思えば分かりやすいだろう。

 

 調の体調が悪くなった日、あの時にやっと調とツキの回線が復活したのだ。体調が悪くなったのは記憶の同期によって脳を酷使したせいだったと後に調はわかる。

 何者かによる現実の書き換えが起こったせいで、本筋の歴史にはツキは登場しないため、二人の回線がぶっこ抜かれてしまい、ツキが調とコンタクトを取るのが遅れてしまった。

 

『この現実の書き換えは生きている人にのみ適応されてる。だからF.I.Sで月読調になったこの体の元の持ち主のツキは、死んだ人扱いだから現実の書き換えに巻き込まれなかった』

 

 調はちょっとアホの子ではあるが、頭の出来はむしろ良い方だ。流に翼、マリアにマム、了子にキャロルにエルフナイン。そして約二ヶ月の間に忍びの修行と共に勉強への忍耐力も緒川に習っていた。故に現状の考察も容易く行えて……

 

『って考えたのは私だよね、調お姉ちゃん』

『余計なことは言わない方がいい。切ちゃんみたいにアホの子扱いされちゃうよ』

『私はキクコーマンの濃口醤油をお供えに持っていこうとはしない!』

『……ツキの想い出と私の記憶を同期させることで現実の書き換えによる記憶の押し付けを乗り越えた』

『それも私が考えたやつ!』

 

 物理的な脳に記憶を保管している訳では無いツキは、忘れるということがないため、調よりも精神は幼いが頭は良い。彼女は想い出によって構成されているがために、その想い出を創意工夫をして扱う勉学は十八番だ。

 

 皆が今後の対策会議をしている中、調は現状を打破するための策を練るが、そういうことは流や了子が考えることであり、思考回路が似ているツキも同じく考えついていない。

 唯一分かることは、ここにはいない流、もしくはセレナと合流することで何かが起きるであろうことくらいだろう。

 

 ここにいる人たちは例え思い出しても、次の日には忘れてしまう。たまたま、また思い出した響と作戦を練った次の日に響が忘れてしまい、想い出を保持できるのは自分達だけなのだと泣きそうになったことは、今でも調の頭には残っている。

 

「絶対にみんなを取り戻す」

「どうしたデスか?」

「なんでもないよ切ちゃん」

 

 二人は顔を見合わせて笑いあった時、発令所でアラートが鳴り響く。画面には最近よく見るデュランダルの波形パターンに関するアラートではなく、アルカノイズの出現を告げるものだった。

 

「……俺たちは今、後手後手に回って守るべき人々を護れていない。だが、それだけに気を取られず、俺たちが本来戦うべき敵、ノイズとの戦いを忘れちゃ駄目だ。装者諸君、出撃の準備を頼む!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 その襲撃場所は風鳴宗家の屋敷、風鳴訃堂の住まう場所であった。

 

 

 ***

 

 

「ふっざけんなよ!」

「ありえないであります!」

「これは……ちょっとお姉ちゃんも予想外ね」

 

 ミラアルク、エルザ、ヴァネッサ。彼女たちは自分たちのことをノーブルレッドと名乗っている。

 後述される理由によりパヴァリア光明結社で実験体として扱われていた。しかしアダム・ヴァイスハウプトやサンジェルマン達がS.O.N.Gに敗北し、存在の消滅や拘束されている(事になっている)事により、パヴァリア光明結社は空中分裂したのだ。

 

 その隙に三人は力を合わせて組織から抜け出し、自分達の目的のため、そしてそれを叶えるために契約した契約主の依頼により、風鳴宗家に襲撃をかけていた。

 

 三人が登場時にアルカノイズを大量に発生させたのだが、この風鳴宗家の屋敷には沢山の人が居るはずなのに、ほぼ全ての人間に上手く逃げられていた。ヴァネッサがドローンを飛ばして確認したところ、ノイズに襲撃された時に逃げられるような仕組みの抜け道が至る所に作られていた。

 ただのノイズ対策ではなく、統率されたノイズの襲撃があったとしても逃げられるようなその抜け道に疑問が浮かぶが、ヴァネッサは一旦そのことを保留にした。

 

 何故なら他の人間をアルカノイズで追い回すのは陽動であり、彼女たちの本当の目的は目の前で袴の上を脱ぎ去って上裸になっているこの組織の長、風鳴訃堂の暗殺なのだから。

 

 しかし、その暗殺も全くもって上手くいっていない。

 

「ジジイがあんななんて聞いてないぜ!!」

「完全聖遺物が三つ……しかも全て操れているでありますよ」

「あいつら情報を出し渋ったか、それとも本当に知らないのか。お姉ちゃん判断に困っちゃうわね」

「儂を暗殺しようとする彼奴等限られてくる。その彼奴等は()()()()知っているはずなのだが、()()()()()()()()()()

 

 風鳴訃堂が持つ長剣は天叢雲剣。本来なら帝が継承し、受け継いできているものであるが、様々な理由により訃堂がそれを手中に収めている。そしてそれらは既に起動状態であり、素人が奮ったとしても鋼を切り裂き、達人が振るえば龍すら屠れる剣となっている。

 次に目につくのは首に吊るされた淡い光を放ち続けている勾玉、八尺瓊勾玉である。これもまた帝が持っているべきものなのだが、現在は訃堂が身につけていて、老衰で()()衰えている身体能力を向上させる。

 そして最後に彼の周りを周回している鏡、八咫鏡。この鏡は天照大神を映し出した逸話により、その鏡から反射せし光は真なる誠を映し出す。

 

 風鳴訃堂は目を赤く光らせながら、その身に日ノ本の三種の神器を携えて、ノーブルレッドと対峙していた。

 

「降伏せよ。今の儂に勝てるのは阿呆息子に馬鹿孫、それに次期防人……()()()次期防人くらいのものよ」

「さっきからゴチャゴチャと!」

「ミラアルクちゃん落ちついて。アルカノイズで」

「くどいわッ!!」

 

 三人は今までシンフォギア装者達が戦ってきた敵に比べてとても弱い。

 

 ヴァネッサは元々錬金術師ではあったが、サンジェルマン達のような戦う錬金術師ではなく、研究ばかりしていた。実験の際に不慮の事故で肉体を機械に置き換えてはいるが、そこまで戦いの心得はない。

 エルザはフランス、ロゼール県の出身の一般人であり、近親者による暴行・監禁事件の被害者。その後に待ち受けていたのが錬金術師の実験体というただの哀れな少女。

 ミラアルクもオーストリア、シュタイアーマルク州出身のこれまた一般人。旅行で訪れたスロバキアにて会員制拷問倶楽部にかどわかされた被害者であり、その倶楽部がパヴァリアに人身売買で卸された悲劇の少女。

 

 それぞれがそれぞれの悲しみを背負っており、いく所まで行ってしまった雪音クリスのようなものである。パヴァリアでの実験という名の改造によって戦闘能力は高くても、研究員に一般人のため戦闘技能はさほど高くはない。

 

 しかしそんなことは護るべき国に侵略されている風鳴訃堂にとって関係ないことだ。

 ヴァネッサの掌に穴が空いて、そこから大量のアルカノイズを召喚する結晶を地面に放ってアルカノイズを出現させる。

 

 それに対して訃堂が行ったのは天叢雲剣による横薙ぎの一閃、ただそれだけだった。

 

 たったそれだけでアルカノイズは流れゆく雲が晴れるように霧散する。エルザは改造された事によって埋め込まれた獣の嗅覚で生命の危機を察知して、『テール・アタッチメント』を自分達の前に展開した。

 そのおかげでアタッチメントは全壊してしまったが、彼女達は死傷から重症にまで負う傷が軽減された。

 

「たった一振でありますよ? それでこれって!!」

「化け物がッ!」

「一度撤退しましょう」

「儂がそれを許すと思うてか……それに」

「なにか来たであります!!」

 

 エルザの機転に反応して、ミラアルクもバイオブーステッドユニット『カイロプテラ』で両腕を強化して二人の前に立った。仲間を、家族を守った代償にその両腕から血が吹き出し、この場で腕をあげることは叶わなくなった。

 

 確かにヴァネッサ達には達成しなければならぬ目的があるが、それは三人が生きて達成しなければいけないものだ。例え契約先になにかを言われたとしても、完全聖遺物三つが待ち構えているなんて聞いていないと突き返すことも出来る。

 ヴァネッサは訃堂にありったけの武装による飽和攻撃をしながら、テレポートジェムで帰還しようと頭の中で作戦を立てた時、またもやエルザの獣の嗅覚で一難を避けることが出来た。

 

「ハアアアアアア!!」

 

 空から舞い落ちてくるのはオレンジ色のシンフォギアを纏った少女。その少女の握りしめる拳は優しさが籠った暖かな拳。しかし今は敵意を持ってその拳を握っている。

 響は対話をしようとするが、とりあえずぶん殴って大人しくしてからという手法を取ったりすることもある。最近は特に彼女の志しに影を落とすことが増えたために、まずは敵の身柄を確保してからという思考に至ったのだ。

 

 回避をする時、ヴァネッサは訃堂が何故か背を向けているのを確認したため、胸や腹、腕から足まで全ての箇所の兵装を展開して全門斉射を空に向けて放つ。

 

「させっかよ!!」

 

【LAST∞METEOR】

 

 奏はガングニールの槍から放たれる竜巻を響を巻き込みながら放つ。その竜巻は響を護るように追走し、更にその後ろから続々とミサイルから飛び降りている装者達に攻撃が行かないような風の盾にもなる。

 

「ひっ……」

「えっ? なんで」

 

 訃堂は役割は果たしたと言わんばかりにそのままその場からフェードアウトしたが、フェードインしてきた響はエルザに支えられるミラアルクをその拳で殴り飛ばそうとしたが、こちらを見ていたエルザの顔を見て、ギリギリエルザ達に当たらないように拳をズラして着地した。

 何故か敵が攻撃を外してくれたので、ミラアルクが苦痛に呻くのを無視してエルザは装者達から距離を取る。

 

 (エルザ)は怯えていたのだ。今まで響が戦ってきたフィーネ、F.I.Sの装者達、キャロル達、パヴァリアの人達。皆が皆覚悟を決めていて、災害に巻き込まれて泣きそうになっている人と同じ表情を浮かべている敵なんて居なかったのだ。その記憶は本当に正しいのか? という疑問も浮かぶが、それよりも何故という疑問が頭を占める。

 

 何故アルカノイズを召喚して、翼の実家を襲ったような人達がそんな顔をするのか。何故自分の身を差し出したも仲間(ミラアルク)を護ろうとしているのか。何故まるで母親とはぐれてしまって、泣きそうな子供のような顔をしているのか。

 

「それじゃあ、私たちが悪者みたいじゃん!!」

「どうした響!?」

「なんでアルカノイズなんて使っているのにそんな、泣き」

 

 響の正義が揺らいでいて、今回の敵は強者ではなく、本質的には弱者であるからこそ、今の響は拳に力が入らなくなり、悲壮な叫びをあげようとしていた。

 

 しかしまるで彼は見越したかのように現れる。好きな女の子()が己の正義に迷っているなら、邪悪だと謗られるほどの独善的な正義を掲げている彼が、自分という反面教師を掲げ、あまりの酷さを目の当たりにさせて無理やり心を一度落ち着かせる。そんな事ばかりしているから、パヴァリアとの戦いではマリアに軟禁された訳だが、それでも彼は己の信じる誓いを胸に、再びこの世界に戻ってきた。

 

 例えその方法が()()()()()()()()()()、装者達との約束を果たすため、邪神に堕ちようとも帰ってくる。

 

「……か、帰ってきたあああああああ!!」

 

 唐突に響とノーブルレッドの間の空間に穴が空き、そこからは緑色の光が漏れ出ながら、一人の黒髪の男が飛び出してきた。

 

 ボロボロの黒いスーツを着て、髪は後ろ髪だけ肩よりも下に伸びてしまっている。そして何より、その瞳は真っ赤(神の力)に染っている。

 ガングニールを纏う響が武装としても使っているマフラーに似た物を首に巻いていて、口元はそのマフラーで隠れてしまっているが、その顔には涙と共に笑顔が浮かんでいる。

 

 その男を見た瞬間、響は唖然とした顔になる。だって、彼はS.O.N.Gが待ち望んでいた相手。

 了子や藤尭達に確認しなくてもわかる。響だからこそ分かる。()()()()()()()()()()()()()()

 

「な」

「デュランダルウウウゥゥゥゥ!!!」

「え? ぶへらっ!!」

 

 調の言葉よりも早く、()()()()()()()()()()()()響が、この世界に再臨した風鳴流の顔面をその神殺しの力でぶん殴った。

 

 流の顔から金属の砕けるような音が鳴り響く。




今回のまとめ
・調はツキちゃんというもう一人の私のおかげで記憶を保持
・響ちゃん、XVの翼並に心が折れかかっている
・訃堂ニッコニコ
・流帰還
・流の顔から鳴ってはいけない音が鳴る

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