戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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切歌の誕生日を思い出せない話はXVで来るのだろうか。
シンフォギアXVの8話のネタバレがありますのでご注意下さい。


#142『奇跡──それは残酷な軌跡』

「なんで……なんでこんなことに!」

「クソがっ!」

「……」

 

 響達は旧リディアン跡地であり、カ・ディンギルの跡地でもある場所に出現した『ビー』を掃討した。

 その『ビー』達はまるで響達をその場に釘付けにする為だけに現れたかのように、現リディアン音楽院の上空でデュランダルのエネルギー波形と酷似していた光の球体が炸裂したあと、その場にいた『ビー』は全て爆発した。

 

 ただ爆発したのではなく、自爆特攻紛いの『ビー』達の突撃もあったが、翼は【天ノ逆鱗】によって剣を巨大化させた盾に、サンジェルマンがトリスメギストスには劣るが、それでも高防御力の錬金術師のシールドで被害なしで切り抜けた。

 

 そのあと帰還する響達にS.O.N.Gからリディアン音楽院の上空で高濃度エネルギーの球体が炸裂し、リディアン音楽院が半壊したことを告げられた。リディアン音楽院の寮の一部も崩壊したことも告げられる。

 

「創世ちゃん、詩織ちゃん、弓美ちゃん……」

「綾野、五代、鏑木」

「先生……」

 

 響達が学校でいつも話しているリーダー的な立ち位置の安藤創世、おっとりしているがやる時はやる寺島詩織、アニメ大好き板場弓美の三人。

 気難しいクリスにいつも気を掛けてくれている綾野小路、五代由貴、鏑木乙女。

 

 そして今も響が補修や赤点でお世話になっていたり、翼も同じようにリディアン音楽院にいた時にお世話になった金髪の先生。ほかの先生方とは違い、響達の事情を漠然とではあるが把握しているのに、敢えて特別扱いをしていなかったリディアン音楽院の変わらぬ象徴。

 

 その先生と響や未来の友達、クリスの友達たちの皆が集中治療室で治療を受けている。寮の崩壊に巻き込まれたり、まだ学校で仕事をしていたのだろう。またリディアン音楽院に行けば会える。そんな日常が一瞬で消し飛ばされ、響達のいる病院の廊下には濃い血の匂いが未だに漂っている。

 

『調査に人を送ったわ。でもその前に錬金術師サンジェルマンとしての見解を教えてくれるかしら』

「あれは陽動。『ビー』をカ・ディンギルで利用した縦穴へテレポートで送ったようだ。わざとらしく錬金術のテレポート地点だと分かるような痕跡もあった」

『自爆特攻といい、痕跡を敢えて残したテレポート輸送といい……リディアンへの攻撃はやっぱり装者達に対しての精神攻撃なのかしら?』

「私は幼き頃より修羅を歩んできたからこそあまり分からないが、響達はリディアンを装者としての特殊な立場から離れられる、帰るべき場所だと言っていた。それを敵が読んだのなら……これ以上ない攻撃だろう」

 

 響達への謎の存在『ビー』での自爆特攻は威力偵察、あわよくばの侵略行為。南極で数多の氷の柱が出現しているのは、あの場でなにかが起こり、それを隠蔽するため。

 上記とは違い、リディアン音楽院への攻撃はS.O.N.Gや世界からしたら別段被害は大きくない。しかしそこに所属する装者達の心には大きな穴を開けた。

 

 翼やマリアはまだ何とか耐えられる程度の精神的なダメージで済んでいる。精神が成熟し、折り合いを付けられるだけの心の強さがあるからだ。しかしそれ以外の装者はまだリディアン音楽院に通っていて、友達や知り合いが()()()()()()()()敵に狙われて今も昏睡している。

 会議中に体調不良で帰った調とそれに付き添った切歌は未だにこの事を知らないが、次期に知ることになり、同じようにダメージを受けるだろう。

 

『わたしが居たからあいつらは狙われたんだ。わたしはこの場所に居ちゃいけないんじゃないか……?』

『……』

 

 特に深刻なのがクリスと響だった。

 

 クリスは以前に吹っ切れた、今の場所に騒乱を呼び込む自分がいてもいいのか? という悩みがここに来て再発していた。装者や二課の人達に助けられてから、世界を守る、自分の居場所に争いが起こらないように、起きても最小限の被害で収束するように務めてきた。

 それなのに今回のリディアン音楽院への襲撃は明らかに他の戦いとは違った。聡明なクリスはそれを察してしまう。今回のリディアン音楽院への攻撃は装者達が居たから行われたのだと理解してしまう。

 

 故に悩みが加速する。彼女の両親が死んだ場面がフラッシュバックして、彼女の顔から優しさを奪っていく。

 

 

 響は最初以降無言で、手と手を取り合う優しい拳を握りしめ、自分の握力に皮膚が耐えきれなかったのか、その拳の内から血を流している。当然未来はそのことに気がつき、響に話しかけているが彼女の耳にその言葉は入ってこない。

 クリスのように察しの良くない響だったが、帰るべき場所、戻るべき日常の象徴となっているリディアン音楽院、そして友達の三人が最新医療の装者達も使っているメディカルカプセルの中で死んだように眠っている姿を見て心がざわつく。

 

 

 今までの戦いで三人が巻き込まれそうになったことは確かにあった。登校中にオートスコアラーのガリィに襲われそうになった時。もっと遡ればカ・ディンギルが塔として姿を表した時に瓦礫に潰されそうだったとアニメちゃんは『まるでアニメみたい』と言っていた。

 しかしどちらも被害はなく、傷つく三人の姿を響は見たことがなかった。

 

 響にとって、戦いに巻き込んで傷つけてしまったことなんて、神獣鏡のフィードバックシステムを利用して、未来が利用された時……そんな記憶を思い出した時、響は疑問を浮かべる。

 

『あれ? 神獣鏡を纏った未来と戦ったのは間違いないよね? その後()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それならなんで()()()()()()()()()()()()()()()()……?』

 

 マリアの操ったミラーデバイスで収束された神獣鏡の光に、二人で飲み込まれた記憶がある。その後に思い出すのは未来との戦闘訓練の想い出。

 クリスが仲間になる前から未来と戦闘訓練をしていた想い出がある。しかしおかしいのだ。だって、未来にシンフォギア装者であることを隠していたからこそ、あの日に流れ星を見れなかったはず。

 

「あれ、流れ星を私は未来と見た?」

 

 あの日、確かにクリスがソロモンの杖でノイズを操って、響は出撃したはずだ。それなのに、未来と流れ星を見て、夜空をバックに写真を撮った想い出がある。

 響は何か大切な事を忘れているような気がした。急いで端末を取り出して、未来との思い出の写真フォルダを開く。そしてそこにあったのは、記憶にある砂埃でボロボロな響と未来が夕日に照らされた芝生が背景の写真だった。

 

 その写真を見た瞬間にある想い出がフラッシュバックする。

 二人で流れ星を見ながら、その星降る夜空を背景に写真を撮ったのに、光量不足で真っ暗な空を背景に、砂埃では汚れていない私服を着て、二人で笑いあったあの日の想い出。

 

 その想い出が蘇った瞬間、何かが割れるような音がした後に響の魂の底から想い出が溢れ出す。

 そして想い出には姿が()()()()()が何度も映り、その人がまるで弦十郎のような戦闘スタイルでノイズと戦っている光景がある。

 

 思い出した想い出によって様々なことが分かる。響は奏に助けられた。未来に誘われて初めて行ったライブ。ツヴァイウィングのライブにノイズが現れて、()()()()()使()()()()()()

 出撃前のサンジェルマン達とした、今までの戦いの振り返りの時に了子が言っていたあの言葉。

 

『奏ちゃんは死んだように見せかけて生かしておいたでしょ?』

 

 そんなことは無理だと響の魂が叫ぶ。目の前で自分を護るために、その他の人達を護るために歌ったあの歌(絶唱)の後、確かに奏は灰となって消えた。

 

 そしてその時にあの黒い人は居た。

 

『お前は絶対に死ぬな! 奏の言葉を思い出せ!』

 

 あの懺悔するような、自分が助かったとでも言うような、縋り付くように響に叫んだ失意の籠った叫び声。涙を流しながら、後戻りは出来ないと灰となった奏に背を向けていた彼を響は忘れられるわけがない。

 幼い頃に未来と戯れで結構な頻度したモノを除けばファーストだった唇の触れ合いを忘れられるわけがない。

 

 響は顔を真っ赤にしながら、しかめっ面で床を見ているクリスの肩を掴む。

 

「な、なんだ!?」

「クリスちゃん! か○%先輩……♪ソ:。な、なんでもない。ちょっとだけ疲れちゃったから肩借りるね」

「お、おい! なんなんだよ! あと小日向怖ぇよ」

「クリス……後でお話ね」

「理不尽だろそりゃッ!」

 

 響は泣きそうな顔でクリスの肩に腕を回して俯く。

 彼女は確かに黒い人の名前を告げようとした。頭の中にはその人の名前も浮かべている。それなのにその名前を口にすると、まるで意味のわからない言葉になっている。

 

 いや、正確には『風鳴流』と言葉を口は発している。なのに口に出した響も、そしてそれを聞いていたクリスや未来も、その言葉の意味を理解できなかった。まるで()()()()()()()()()()()、その言葉を認識できなかった。人類が『風鳴流』という言葉を理解できないようにされているかのように、()()()()()宿()()()()

 

「響どうした?」

「奏さん……あの、私が奏さんに助けられた時のことと、なんか重なっちゃって」

「ふーむ、なるほどな……こうなったのは響のせいじゃないってのは肝に銘じとけよ? ずっとここで、あいつらが治るまで見ててやりてえとは思うけどさ。もしもの時にあたし達が気張れなかったら、これ以上の悲惨な未来が待ってるんだぜ? 泣いてもいいが、負けるなよ」

「……はいッ!」

 

 励ましてくれている奏だが、響は流と共にずっと居たらしい奏ですら忘れてしまっていることに顔を歪めそうになる。

 たが、励ましながら頭を撫でてくれているその手には、輝く指輪、ソロモンの指輪と呼ばれている実態のない指輪が見えた。

 

 その指輪こそが響の記憶以外に流が居た証明となる。流を生かすために消えたソロモン王の存在の証明であり、響の頭の中にある記憶には一切出てこない()()

 例え奏やクリス、皆が忘れてしまっていても、敵によって皆の頭から流の存在を、『風鳴流』というコトバノチカラを無くされたとしても、消えることのなかった証だ。

 

 

 ザババコンビ以外の装者達とサンジェルマンはずっと緊急治療室の前にいた。時刻はもう月も空に浮かび上がっている。

 奏の言葉にその場の時が進み、皆は一度帰り、次の日の昼からS.O.N.Gで対策会議をすることになり、サンジェルマン以外は同じ家に帰宅した。ちなみにサンジェルマンはカリオストロとプレラーティと暮らしてる。

 

 S.O.N.Gが用意してくれていたお弁当を皆で静かに食べたあと、未来といつも通りにお風呂に入り、寝る前に体調不良で先に帰ってきていた調の部屋の前に響は来る。

 

「調ちゃんはどうでした?」

「帰ってきてからずっと寝ているらしいわ。ずっと看病をしてくれていた切歌には無理やりご飯を食べさせて、今はクリスがお風呂に連れて行ってもらったわね」

「なら私が」

 

『看病します』と響は口に出そうとしたが、マリアの手でそれを遮られた。

 

「それは私の役目。幸い明日は仕事もないから朝まで私が看病するわ。明日朝起きたら、看病の引き継ぎをお願いするわね」

「わかりました! 看病中に居眠りしない為にぐっすり寝てきます!」

「……無理し過ぎないようにね」

「平気へっちゃら、ですよ!」

 

 未だ目覚めぬ友達の前で取り乱し、更に戦闘も行った響をマリアは気遣う。響は背負いたがる系女子であることも理解しているので、ぐっすり休息を取った後に看病漬けにすることで、一時的にも悩みを忘れさせようとする。

 そんな気遣いをしてくれたことを響も分かっているので、元気いっぱいに頷いてからベッドへ向かった。

 

 二段あるベッドの下に未来と二人で入りながら、響は思い出したことを整理していると、居ない人が居ることに気がつく。

 

『セレナちゃんが居ない事もマリアさんは気にしていなかった。奏さんは思い出したら、無茶苦茶な無理やりな理由でここに居るのにセレナちゃんは居ない。私がこれからやるべき事は!』

 

 響は思い出した想い出と今ある記憶を比較して、セレナもここに何らか、例えば了子がフィーネとして何やかんや助けていた! という理由でここに居てもいいはずなのだ。しかしこの場にセレナは居なくて、F.I.Sの時にアルビノ・ネフィリムを止めるために絶唱を歌って死んだことになっている。

 きっとセレナはどこかで生きているのではないか? と響は思い至り、現状を変えられる鍵がセレナにあるのではないかと考えつく。

 

 意識が落ちる前に響は明日はセレナについて調べようと強く思い、未来に抱きつかれながら眠りについた。

 

 

 ***

 

 

 響が記憶を取り戻してから何度も何度も並行世界をこの世界に反映させ、『風鳴流』という存在の痕跡がない世界の記憶で上書いていた。ヨナルデパズトーリもびっくりするくらいの頻度で地球の横に並行世界の地球が映り、元ある地球に反映されていく。

 しかしその度に特異点たる『立花響』は並行世界反映をその身に宿る神殺しの力で無力化していた。

 

『ビー』で装者の一部を足止めし、並行世界反映を用いてリディアン音楽院への出撃を遅らせて実行された精神への攻撃は、逆に一人の少女に現在の世界への疑問に作ることになってしまった。

 しかし並行世界反映を実行していたその存在は焦ることは無い。

 

 立花響達が寝静まったその時、改めて世界の上書きを起こし、そして特異点たる『立花響』にも上書きが適用された。

 響の持つ神殺しの力は意志の力だ。無敵の力を誇ったヨナルデパズトーリや神の力を集めて神に至ったアダムに有効打を当てられたのは、響の強い意志によって神殺しの力を行使したからこそだ。

 

 しかし人は睡眠を取る時も強い意志を持っているかと言われればそんなことは無い。睡眠とは意志を芽生えさせる頭を休ませるための行為であり、肉体の疲れを取り払うためのものである。故に睡眠時だけはどうしても人は無防備になり、その結果響は再び『風鳴流』を忘れることになった。

 

 石版を操ってその力を行使したその存在は、この力を行使するために赤い実のある木に磔にされている人類の女を見る。

 

「傀儡によって造られしイヴよ。疾く我がシェムハの祝福を受け入れよ」

 

()()で橙色のセミロングの髪の乙女がそこには吊るされていた。口には管が通されていて、無理やり何かを口から入れられているようで、まだ15歳にも満たない乙女のお腹は妊婦のように膨らんでいる。

 体の至る所にサンジェルマンが鼓星の神門(ツヅミボシノカムド)を開いた時に描いていたような紋様が、その乙女の血によって描かれていて、それはある完全聖遺物の融合状態を安定させており、乙女以外のその存在が完全聖遺物の力を使って世界を書き換えている。

 

 並行世界反映による世界の書き換えが起こる度に、胃まで突っ込まれている管越しからでも分かるほどの、悲痛の叫び声が辺りの木霊する。そして叫び声をあげると、()()()()()()()()()()()()()()()()から()()()が吹き出す。

 しかし叫び声と共に開かれたその瞳には濁りも無ければ、未来を見据える光が宿っている。

 

『流さん、()()()()()()()

 

 その乙女、セレナ・カデンツァヴナ・()()は敵を睨み付けながら来るべき彼女のアダムを待ち続ける。




セレナが大変なことになっていますが、お腹いっぱいに何かを食わされているから膨らんでいるだけです。

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