もし前話を見ていない方はそちらからよろしくお願いします。
響は
「クリスがまだ寝ているようだから起こしてきてくれないかしら」
「了解です! その代わりにごはんを大盛りでお願いします!!」
「それはもう未来がやっているわよ」
今日はアイドルの仕事が朝から入っていないようで、キッチンにマリアも立っている。調はグリルやフライパンを使ってみんなの分の塩鮭を焼いていて、その横では一合の炊飯器をフル稼働させて炊いたご飯を未来がよそっている。オレンジ色の茶碗にこれでもかと白米が盛られている。
お味噌汁を人数分用意し、配膳しているエプロンを着たオカンなマリアの言葉に頷いた響は、リビングにあるマスターキーを手に持ち、クリスの部屋にノックもせずにいきなり開けて突撃した。
「クーリスちゃーん!! 朝だよ、早く起きないと朝ごはん食べる時間が無くなっちゃうよ!!」
「……んぁ? もう朝か」
「またクリスちゃんは
「ああ、だって気になるだろ? あの
「わかった! おはようございます!!」
響はクリスの両親の仏壇に一礼と挨拶をすると、騒がしく部屋をあとにする。
「了子もキャロルもサンジェルマン達ですら開けられない開かずの間。私はこの家を弦十郎のおっさんから借り受けてからずっと住んでるのに、いつあの部屋が出来たのかわかんねえ。あの部屋は何がなんでも開けないといけない、何でかそう思うんだよ。なあ、どう思う? パパ、ママ」
この家には開かずの間が二部屋ある。一つはクリス達と同じ間取りの筈の部屋。もう一つはそれよりもだいぶ大きい部屋で、もし了子がこの間取りで部屋割りを考えるとしたら、研究室を置くかもしれないと言っていた。
了子とキャロルとサンジェルマンという異端技術者のトップ陣が集っても、その開かずの間を開けることが出来ないでいる。
内部にテレポートも出来ないようだが、物理的に壁を破壊したり、この部屋はマンションの最上階なので屋根を壊して侵入することも出来るのだが、装者達は皆が
雪音クリスだけは毎日夜遅くに了子から学んだ色々で頑張っているが、異端技術者トップの三人が無理なものをクリスがこじ開けられる訳が無い。
クリスがリビングに行くとちょうど玄関が開き、奏と翼がジャージ姿で帰ってきた。
「飯くれ飯! パパっとシャワー浴びてくるからよろしくな!」
「私達はあなたの小間使いではないのだけど」
「とか言いながら、時間的に帰ってきてくるのを察して、あたし達の分もよそってるマリアには感謝してるさ」
「汗かいたままこっちに来ないで。翼はちゃんと下着はネットに入れるのよ? 体を拭いたタオルは洗濯機に入れていいから。むしろ絶対に部屋に持って帰らないこと」
「……むぅ、言われなくても分かっている」
「「分かってない(わよ)」」
毎朝の如く翼は言われているのに、いつの間にか家のバスタオルが洗面所の棚からストックを減らしていることがある。そんな時は大抵翼の部屋で
しょんぼりしながらシャワーへ行き、サッパリして気持ちを切り替えた翼は、この後仕事があるためか、軽く奏にメイクをしてもらっている。本当に軽くであるが、翼は元が良すぎるためかえってメイクをし過ぎると良くないのだ。
「では、頂きます」
「「「「「「「「「頂きます」」」」」」」」」
調の掛け声に合わせて皆が感謝を口にしてから食事を始める。
響と未来とクリス、翼と奏とマリア、調と切歌、キャロルとエルフナインは思い思いに団欒をしながら朝食を食べる。
「翼は仕事だから無理だが、他の奴らは学校が終わったあと、あー、具体的に言うと16時にはS.O.N.Gには来い。俺はそれまでに準備をしておく」
「サンジェルマンさん達と今後の対策会議をしますので!」
「夜ご飯はどうしよう?」
「弦十郎のおっさんに奢らせればいいんじゃねえか? 帰ってきてから作るのも大変だろ?」
「……翼さんはどうする?」
「ならば私も外で済ませてこよう。もし無理だったとしても残り物を少しだけ頂くかもしれないが構わないだろうか?」
「わかった」
調理しながら調は朝食を取っていたため、頂きますの言葉を口にして、お茶を飲むとすぐにシンクで片付けを始めている。それを見て、いつものように急いで切歌はご飯を食べて、調の手伝いに走る。
「またその鉄のフライパンを使ったのデスか? 手入れが要らないこっちでいいと思うんデスけど」
「……ううん、
「そう言うと思ってたデスよ。他の片付けは進めちゃうので調はそれを早く片付けて欲しいデス!」
「ありがとう切ちゃん」
少し焦げ付きの跡があったり、まるで天羽々斬で斬られたような跡が残る不思議な鉄のフライパン。テフロン加工されたよくあるフライパンなどもあり、そちらの方が片付けは簡単なのだが、何故か調はこのフライパンを使いたいと心が告げている。
食べ終わった人から片付けをしていき、準備が出来た人から学校や職場、S.O.N.Gへと向かっていく。
「行ってくる」
奏は
緒川が置いているのか、はたまた弦十郎が置いているのか、シューズボックスの中にある黒い革靴を軽く磨いてから、翼とテレビ局に行くために玄関をくぐった。
***
「それじゃあ始めるわね。私達の振り返りと今後の方針についてを話していくわ!」
「待ってください
「あの子たちは後から来るから始めてってさっき連絡が来たわ。それよりも翼ちゃんはレコーディングがあったんじゃなかったかしら?」
「室内でもそれを付けてくれているなんて嬉しいなぁ〜。暖かいよねぇ〜」
「だぁー! うっさいな! ただ外し忘れてただけだ。誕生日プレゼントとしては、お前らがくれたマフラーが一番使いやすかったから使っているだけで、そんなに煽ってくるなら使わない!」
「ほら、クリスが拗ねちゃった。やり過ぎだよ響」
レコーディングが早く終わった翼もS.O.N.Gのミーティングルームには居て、
「今日集まって貰ったのは他でもない。我々はまだ互いの事を知らなさすぎる。我々パヴァリアの行ってきた事は話さない方がいいと判断しているが、お前達が行ってきた人助けの軌跡を今回は教えて欲しい」
「あーし達はF.I.Sを焚き付けたり、キャロルのシャトー建造を手伝ったりしたから大まかには知っているのだけど、当事者達に大雑把でもいいからその口でその時にあった事を教えて欲しいのよね」
「シャトー建造を手伝ったのは私であって、カリオストロは全く手伝ってないワケダ」
サンジェルマンだけはS.O.N.Gの制服をきっちり着ていて、他二人は胸がぱっくりと開いたいつもの服とゴスロリのいつもの服を着ている。
既に集められた人達は今回の趣旨を説明されているので、サンジェルマン達のお願い通りにまずは翼と奏が話し始める。
「私が天羽々斬を覚醒させ、その時に櫻井女史がフィーネとして目覚めた」
「あたしはその後にノイズ共に親を殺されて、復讐するためにリンカーをガンガン使って、無理やり適合者になったんだ」
「……えーと、私がこれ語るのって嫌なのだけど。ほぼ私が黒幕たちに関わっているわよね? というか、私自身が黒幕だったわけで」
部屋の前方に翼や奏の当時の写真やその時のデータなどが映し出され、奏なんかはリンカーで吐血している映像が流れ出したので、無視されて泣きそうな了子は映像を切り替えた。しかし切り替えた映像は奏が
「このライブで響の胸にガングニールの欠片が入って、あたしは死んだ……ことになった」
「このライブは櫻井女史がネフシュタンの鎧を起動させる為に仕組んでいた工作のひとつだったな」
「……奏ちゃんは死んだように見せかけて
翼と奏、それにサンジェルマンの鋭い視線に了子は平謝りする。二人のツヴァイウイングのライブは多数の死傷者を出して、絶唱を使った奏は確かに死んだはずだったのだが、どうやってか了子が助けていたらしい。
「細かく話してるとキリがないから、事件ごとに話していくわね。えっと次は……その」
「フィーネが暗躍して、最後はこの馬鹿の手を取った。それだけでいいだろ」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよクリスちゃん!」
「二学期の中間はもちろん赤点は無いよな? もちろん私はなかった」
「…………次はフロンティア事変でしたよね!」
カ・ディンギルによる月の破壊を目論んだ櫻井了子の体に
「私達は互いの正義を胸に戦ったわ。最終的に私達は響達と手を取り合って、フロンティアを吸収したネフィリムをバビロニアの宝物庫に幽閉して、何とか勝利を収めたのよ」
マリアは己の過去の失態を恥じるどころか、あの出来事があったからこそ今の自分があると半ば開き直りながら口にしている。その横では今日の夜飯は何を食べようかと調と切歌が話している。
「今夜はハンバーグの気分デスけど、
「響さん達と戦った? カツ丼……」
調は一瞬だけ疑問に思ってしまった。確かに自分は響に対して『その行いは偽善でしかない』と言い放った記憶はある。しかし
その音は何処かでなら聞こえたかもしれない音。
何かを展開するような音、その後に何かを巻き戻すような音。
もし月よりも更に遠くから地球を見る存在がいれば、地球の写った光の壁がいくつも地球の横に展開され、巻き戻る音ともに地球に戻っていくのが見えていただろう。
そう、まるでヨナルデパズトーリの『ダメージを無かったことにする』力にとてもよく似ていたと、知っている人が見ればわかったかもしれない。
「……うぐっ、了子さんごめんなさい。少し体調が悪いので先に帰ります」
「だ、大丈夫デスか!? 凄い汗デスよ!!」
調は脂汗をかきながら先ほどまでとは一転、とても顔色が悪くなっている。それを切歌が大騒ぎし出すが、慌てず了子は切歌に一緒に帰るようにお願いをして、二人はテレポートジェムで自宅に帰った。
「……どうしたんだろう調ちゃん」
「朝は体調悪くなさそうだったから、学校で風邪をもらっちゃったのかもしれないね」
「お粥とうどんだったらどっちがいいのかしら? やっぱりお粥? でもそれだとお腹が減っちゃうかもしれないし」
ここにいる人たちは根は優しい人ばかりだ。あの了子もとても心配げにしているが、この部屋に集まった時はあんなに体調が悪そうに見えなかったことから、この集まり中に体調が急変したのだと分かるが、原因が全くもって分からない。
調が大変だが、やるべき事はやろうとマリアが話を進めるように促したが、それに被せるように放送が流れる。
『至急了子さん、装者及び錬金術師の皆さん指令室に来てください』
友里のその言葉を無視していたら、もしかしたらと響達は思う。そんな意味の無いIFを考えてしまうほど、その後に起こった事件に響や未来は己の無力さを噛み締めさせられた。
***
「あれでいいんだよな?」
『はい、あれがいきなり現れた謎の存在です』
『蜂みたいですね』
『なら詳しくわかるまでは『ビー』と仮称しましょうか』
旧リディアン跡地、カ・ディンギルがあったその土地に、いきなり不明なエネルギーパターンの存在が現れた。
それはベースが茶色に二つの羽根が生えていて、羽根の付け根には緑の球体のある胴体、その胴体から生える先っぽが緑色の円錐型。パッと見、頭のない蜂のようだ。
そんな存在がカ・ディンギルを製造するにあたって、地下に縦穴を掘って隠していたその穴から漏れ出てきて、そこらに緑色のビームを撃っている。
今はまだ封鎖されている範囲内しか攻撃していないが、あと一時間もすれば旧リディアンの空を覆い隠し、それ以外の場所にも攻撃し始めるだろう。
「あれは錬金術で造られたようには見えない。パヴァリアの残党が関わっている訳では無いのか?」
「それでも分かることはただ一つ」
「あれは今すぐぶっ壊さないといけないってことだけだ! Killter……」
この場に出撃した響、翼、クリス、サンジェルマンの誰もが『ビー』はどんな存在なのか分からない。でも皆が思っていることはクリスが口にしたことと一緒だ。
クリスの変身を皮切りに全員がシンフォギアやファウストローブに変身する。真っ先に変身したクリスは
【GIGA ZEPPELIN】
空に上がった結晶はその身を分裂させていき、空から数多の結晶片が『ビー』に刺さって爆発させていく。
「数はいるが、脆えみたいだな」
「ならば次は私が押し開く!」
【千ノ落涙】
シンフォギア装者が使う技の中で広範囲殲滅力があるものを3つ上げよと言われれば、先程の【GIGA ZEPPELIN】と奏の使う【STARDUST∞FOTON】。そしてその技を模倣した翼の技【千ノ落涙】だろう。
【千ノ落涙】は正確に敵を貫きながら、空に浮かぶ『ビー』の数を減らしていく。
『ビー』は装者やサンジェルマンにビームを放つが、どれも鎧袖一触の勢いでそれらを受け流しながら敵を屠っていく。特にクリスと翼のキルスコアは圧倒的であるが、響やサンジェルマンも負けてはいない。
そんな風に好調に戦いを進めていた時、ある場所に調査へ行っていた緒川慎次からS.O.N.Gに
「何があった!?」
『全滅していました』
「……全滅なのか? 生存者は一切無しだと!?」
『はい。
『……僕達に悟られず埒外物理学によって南極調査隊をぶっ殺したって事はちょっと不味いかもしれないねぇ。騒乱の臭いがしてきたぞッ!!』
緒川の顔の後ろには確かに逆星が頂点にある氷の柱が所狭しと立っている。後に判明したことだが、その氷はマイナス5100度という埒外、未知の異端技術の関与が調査によって判明した。
そしてそんな現状で逆に喜んでいるウェルキンゲトリクス、ウェル博士が色々口にしている。
「わかった。そちらには更なる調査人員及び埒外領域まで測定できる機材一式を送ら」
「何よこれ!?」
「今度はどうした!!」
弦十郎は友里の叫び声に装者達の戦闘画面を見るが、問題なく戦えているため、友里が叫んだのは別件だと意識を切り替えて何があったのか問いかける。
その問いかけと同時にアラートが鳴り始め、画面には
『ANALYZE WAVE PATTERN』
『DURANDAL』
デュランダル、そう画面に映し出された。
「私達が観測したデュランダルとの適合率は78%ですが、これはデュランダルです!」
「これはもうデュランダルというよりも、カ・ディンギルでは!?」
弦十郎の見る正面の壁に装者達の戦う画面、緒川との通信画面、そして三つ目の画面が表示され、そこには現在の私立リディアン音楽院が映し出されている。その上空にはデュランダル波形が感知された巨大な球体状のエネルギーが空に浮かんでいる。
藤尭や友里は決して忘れない。了子がフィーネとして月に向かって放ったデュランダルのエネルギー、カ・ディンギル砲の発射前の輝きに酷似していたため、藤尭は『カ・ディンギル』と口にしていた。
「どういうことだよ了子!! あの時ぶっ壊れたって言ったよな!!」
「ありえないわ! デュランダルは私の中にあったネフシュタンの鎧と対消滅を起こした。私がここに居られるのは奇跡なのよ? 本来ならネフシュタンと融合していたのだから、あの対消滅で消えていた。奏ちゃんだってデュランダルが消えたのは見たでしょ?」
「そうだけどよ。だったらあれはなんだよ!!」
了子は顔を青ざめながらそう答えている中、残っていた装者のマリアと奏は指令室から走り出そうとしたが、カリオストロとプレラーティに止められた。
「てめぇ!」
「こういう時こそ慌てるものじゃないわ。プレラーティ、キャロル、エルフナイン。座標固定じゃないから危険だけど、リディアンまでテレポートするから手伝っ」
その瞬間、また地球の横に光の壁がいくつも展開され、それが再び地球に戻った。
「邪魔すんな!」
「ご、ごめんなさい。私達も手伝うわ!!」
「奏くんとマリアくん、それにカリオストロくんとプレラーティくんはリディアンに出撃。キャロルくんと未来くんは何かあった時のために待機していてくれ!!」
奏は肩に置かれたカリオストロの手を叩き落として、すぐさま指令室を後にした。それに続くように三人は指令室から出ていく。
しかしそれから一分ほど経った時、波形がデュランダルと酷似している光の玉はそのまま弾ける。リディアン音楽院の窓ガラスは全て吹き飛び、秘められていた威力の割には軽微ではあったが、それでも校舎の一部と
「何が起きているんだ!? 至急救護班を送ってくれ、今すぐだ!! 装者達は人命救助と周囲の警戒を!!」
今までのどの事件とも始まりが違う初動に、弦十郎は苛立ちを何とか飲み込みながらも、すぐさま助けるべき人命のために部隊を動かす。
「『ビー』の出現、逆五芒星の氷の柱。そして今は無いはずのデュランダルの光。とうとう現れたというの……あの方々が」
今回の話の世界は流の居たシンフォギアの世界です。平行世界とかそういう訳ではありません。
また話が飛んだわけでもなく、時系列としては翼と流の婚約発表(誕生日前日)→クリスの誕生日→今回の話(誕生日数日後)という流れです。