またこの作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
流はこの世界が現実であることを受け入れた。彼は本来魂がないため生きていくことは出来ない。人は肉体と精神と魂が無ければ人たり得ぬが、愛によってその常識を超越していた。
しかしこの世界に流が愛する皆はいない。その事実を認識すると、彼の体は急激に力が抜けそうになる。
「……ふざけるなよ!!」
流は床を強く踏み締めて体を無理やり起こす。その過程で床にヒビが入ったが、壊れなかったことを逆に褒めるべきだろうか。
酷く汗をかいているが、それこそ人が生きている証拠。新陳代謝なぞ既に流の体からは消え失せているが、それでも人であることを捨てたくないが故にデュランダルな体が覚えた人間的な反応。
彼が思い出すのは皆との楽しい日々、そして直近にあったあの翼が防人としての自分すら顧みず、流に覚悟を示した唇への誓い。
「こんなことができるのなんてカストディアン、その中でもアヌンナキしかいない! 俺を平行世界でもなく、異世界に放逐した
愛する対象が居なくなったが故に絶望しかけたが、『だとしても』の精神で流は敵を見定め、部屋を出て行こうとしたが、今現在全裸であることに気がつく。
「全裸だったか。この家にある服は小さいけど……パツンパツンでもいいか」
弦十郎ほど発達した筋肉が表面に浮き上がっていないが、科学的に異端技術的に作り上げられた流の肉体は同じ背丈の人たちよりも相当分厚い。体がデュランダルになっているので筋肉だとかに意味は無いのだが、格闘戦をするときに肉体のバランスが崩れるのを避けるために同じ見た目を維持している。
以前流が食べ過ぎた装者達のダイエットに付き合ったことがあった。その時はほぼ全身デュランダルではなかったが、肉体による新陳代謝でさほど運動をしなくても体重が増えないことを装者達に話すと、数時間無視を続けられたこともあった。
「まずはこの世界が
着替え終わり、部屋を出ていこうとテレビを消すために目を向ける。そこには両腕を左右に広げているダウルダブラのファウストローブを纏ったキャロルの画面で止まっている。確かあの後は流の友人の一人であるウェルが嫌がらせで世界を救うはずだ。
「見終わってからでもいいよね」
今までなら部屋を出るだけで会えていた皆と当分は再開することが出来ない。本来ならば急いで情報を集めないといけないのだが、流は椅子に座って映像を再生させる。
『東京の中心とは、張り巡らせたレイラインの終着点。逆に考えればここを起点に、全世界に歌を伝播させられるというのも道理だ』
「……」
心の奥底で本音が囁く。
いつもは皆との触れ合いもあるので、触感も人間の肉体同様にしてもらっているが、装者達がいない今、そのようなことをする意味が無いのでやっていない。
「大丈夫だ。俺にはママ直伝の異端技術に、キャロルに教えてもらった
『嫌がらせってのは最高だッ!!』
流が共になったウェルではもうしないであろうゲス笑顔を浮かべるアニメウェルの表情に吹き出す。悩んでいた考えなんてものはそのおかげで吹き飛び、アニメに集中し直す。
そのあと何だかんだ流はシンフォギアAXZも最後まで見た。
「一発だけって言いながら何発も耐えてくれるガングニールに涙が出そう。本当に響はガングニールに好かれてるよな」
アニメでは愚者の石と呼ばれる融合症例現象が進んだ結果精製されたガングニールと響の融合異物を利用して、モードイグナイトがラピス・フィロソフィカスの輝きで解除されないようにしていたが、無効化後は反動汚染で不調を起こしていた。
そして最終決戦時にガングニールのギアが反動汚染で解除されていたが、皆の力を合わせて無理やり変身し、響の思いに答えたガングニールは反動汚染を抑え込んで、黄金のギアに変化して、更にオラオララッシュにも耐えていた。
聖遺物にも人間絶対殺す兵器なノイズや生物型完全聖遺物であるネフィリムよりも薄いが、意識と呼べるものは確かに存在する。
人には聖遺物との相性があるわけだが、それは聖遺物側の僅かばかりの意識が関係しているのではないか? と流は了子と研究をしている。
流はデュランダルと相性が
流の精神が鬱ってしまい、ソロモンの杖が
「俺の世界では響の代わりに俺という融合症例を使って、
イグナイトモジュールにはニグレドフェイズ、アルベドフェイズ、ルベドフェイズがある。アニメではルベドフェイズのままラピス・フィロソフィカスと戦う方法を考えていたが、流のいた世界では考え方がまた違った。
一気にルベドを解放し、それによって発生するイグナイトのエネルギーで錬金術的、科学的、その他異端技術的にシンフォギアに干渉し、飛行と念話以外が使えるようになる擬似エクスドライブモードのモードエリキという形態を作り上げた。
結局エリキは使われず、ネフィリムで増幅させたフォニックゲインを使うことによって、エクスドライブモードになれてしまったわけだが、その研究成果は他に利用されることになった。
「聖遺物はもちろん探すとして、レイラインにエネルギーがあるかどうか、まずレイラインがあるか。調神社も端末で検索した限りある。というかこっちの世界でも狛兎なのか。いや、こちらの世界の想いがあの世界を作ってるから……いやいやいや、あちらの世界を原作者が垣間見て…………辞めておこう」
確かに流は了子に継いで異端技術に詳しくなってはいるが、多次元世界理論や並行世界に関することなんて理解していないし、何よりこれ以上考えたら深淵を覗きそうだと察したので辞めた。
「聖遺物、レイライン、あとは主要国が裏で異端技術を研究していないか、まずはここら辺から調べていくか」
こちらの世界の時の進み方とシンフォギア世界の時の進み方にどれほど差があるのかすらわからない。下手に時間をかけて何とか戻れたとしても、知っている人達は皆死んでいるなんてことも起きるかもしれない。
まず上手く戻れたとして同じ時間軸に戻れるかすら分からないのだが、そんな考えは想い出にして焼却した。
「調べるにしても資金と何より格好だな。スーツを買って、拠点はここでいいし……ここに住んでた奴が映像越しに世界解剖に巻き込まれたって事でいいのか?」
既に流の中にはアニメを見ていただけなのに世界解剖に巻き込まれた人の魂は残っていない。そして身内でもないし、身内とも仲良くないその魂の人物のことなど、流はすぐに忘れることにする。彼と自分は違う、流は既に決着を付けているのだから今更迷うことはない。
「あとは……あっ、そうか。原作者の二人にも何とか会って、最悪錬金術で催眠でも掛けて話を聞こう」
聖遺物の力が行使できるのもデュランダルで確認し、考えを焼却させられたので錬金術、異端技術が行使できるのも確認した。方針もとりあえずは纏まったため、流は部屋を飛び出した。
そして数十年が経過した。
世間ではフルダイブ型ゲームが一般家庭でも手の届く価格にまでなり、それで事件が起きたりしている。一個人が装備をすれば乗り物に乗らずとも空が飛べるようになってきたそんな時代。もちろん凧に乗って平然と空を飛ぶNINJAのことではない。
流は地球には居なかった。
『……』
彼はこの世界に飛ばされてからずっとシンフォギア世界への帰還方法を探していた。
この世界にはレイラインや龍脈と呼ばれる大地のエネルギーの流れは確かにあった。いや、あった痕跡はあったと言うべきだろう。
レイラインはあれど、その中にエネルギーが通っていなかったのだ。利用すれば神の力すら具現化出来たシンフォギア世界とは違い、レイラインや龍脈というエネルギーの流れはなかった。
この世界には聖遺物というものもあった。しかしシンフォギア世界のように、聖遺物が異端な力を持つほどではなく、聖遺物というよりもただの遺物だった。
石上神宮の一般人が入れない本殿には
神々が使用したとされている聖遺物はもちろん存在せず、コトバノチカラと呼称されている歴史と想いによって積層される概念武装にも使われる力がこの世界にはなかった。この世界では神への信仰はあるのに、その想いをアダムが使ったように利用することも出来なかったことからそう結論づけた。
原作者にも会った。
彼らが居なければシンフォギアは映像作品にならず、流の元となったアニメ越しに世界解剖に巻き込まれた魂がシンフォギア世界に現れなかっただろう。
そんな彼らに流は誠意を持って接したが、最初は狂人でも見るかのような目で見られた。
当たり前だろう。自分達が作った作品世界からこの世界に異世界転移されて、そこに戻りたいから知恵を貸してほしいなどと言われて、即頷ける人たちがいるわけがない。しかし流がデュランダルな体を見せたり、融合しているソロモンの杖をその場に出すと即協力してくれた。
だが、未だに流がこの世界に居ることからわかる通り、現実は
そして現在流は藁にもすがる思いで
シンフォギア世界は月こそが全ての元凶であり、全ての因果が絡まっているフィーネを生み出した象徴。シンフォギア世界にある最も精密で巨大な異端技術の結晶といえば月になる。
『何も無い。ただの衛星、ただの星だ』
流はこの世界では意味の無い統一言語でそう呟いた。その瞳には深い絶望が浮かんでいる。万策が尽きたのだ。
流がシンフォギア世界にいた年である2045年はとうに過ぎている。
フロンティアで見た、天を巡るレイラインによる神の力の顕現に適したアスペクトが示す星図。その星の配列通りの日もこの世界にはあったが、流の体にある
この世界は地球だけではなく、他の星々にも異端技術に関するエネルギーはない。そんな状況で分かってはいたが月に来て、前述した通り駄目だった。ただの星だったのだ。
青い星、地球を月から流は眺めながらどうにか次の方針を立てようとするが、流の知る異端技術、錬金術、デュランダルにソロモンの杖にソロモンの指輪を使っても帰ることが出来ない。
もし了子ならここから更に技術を発展させて帰れるかもしれないが、流に了子やキャロル、サンジェルマン達のような閃きはない。学んだことを最大限発揮はできるが、流は新しいものを発明出来る天才ではない。
故に流は考えるのを辞めてしまった。
この話を書くのに今までで一番時間が掛かりました。
そして今週のシンフォギアXVのおかげで最後のピースがアニメに出てきてくれました。
次回は装者達メインです。
またボチボチ蛇の夫という別作品も書き始めました。