戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#139『涙を重ねる度、証明される現実は』

 ここは関東にある国際展示場の一つ。

 この日、この場所には各国首脳陣が集まっている。朝から夕方までは首脳会議が行われ、正式に()()()()()()()()()()()()()()()()への制裁内容が決まる。他にもアルカノイズテロがあったバルベルデにどの程度の裁量を戻すか、パヴァリア光明結社の残党をどうするかなども話し合われることになっている。

 

 騒乱の中心である日本には、まだパヴァリア光明結社の残党が数多く潜んでいるかもしれないのに、首脳会議の開催国となったのには理由がある。風鳴流の報復を恐れたからだ。

 

 反応兵器を発射したあとに流に回収され、その時は特異災害認定されていた彼が国連と交渉()した。内容自体はS.O.N.Gに変なことをするな、特異災害認定を取り下げろなどのものだったが、その交渉時にバビロニアの宝物庫の入口越しから見えた反応兵器に各々は恐怖している。

 どこでもワープできて反応兵器を何時でも起爆させることが出来ると口にしていた流が本気になったら、どの国も抵抗ができない。だからこそ、今回の首脳会議は流の護ろうとした日本、しかもその首都近辺で行われることになったのだ。

 

 その首脳会議が行われたあと、立食の夕食パーティーが行われ、ありとあらゆる分野の著名人が呼ばれる宴が催される事になっている。それを指揮するのは風鳴訃堂。化け物と呼ばれていた防人であり、表の世界に出てくるのは特異災害対策機動部二課を退いてから初となる。

 当然警備も厳重で今回はサンジェルマン達やキャロル、了子の力すら使って完璧なる布陣を引いている。まだS.O.N.Gの潜水艦にアタックを掛けた方が楽と思えるほどの過剰な防御を施したが、その異端技術力に各国首脳は空いた口が開かなかったとか。

 

 今は日が傾き始め、もう少ししたら首脳会議が終わり、夕食パーティーが行われる時間になっていた。

 参加者の流と翼、護衛の奏とセレナは夕食パーティーが行われるホテルの宛てがわれた一室にて待機していた。

 

「……」

「奏さんとっても不機嫌ですね。なんでそんなにムスッとしているんですか? 口にだはない、いはいいはい(痛い痛い)、頬っぺが取れたらどうするんですか!」

「煽らないの」

「ごめんね奏」

 

 今回S.O.N.Gのメンバーでこのパーティーに参加するのは流と翼、あとはシンフォギアの権威として了子とナスターシャが参加することになっている。生化学の権威にして、シンフォギアに欠かせないリンカー製造の第一人者のウェルはどうしたかって? あの人は協調性というものがないのでお呼ばれされなかった。世界の英雄と呼ばれている歌姫マリアも呼ばれたが、政治に関わる気がないと断っていた。

 

 翼は天羽々斬の蒼と同じ色のイブニングドレスを着ていて、いつもは結っている髪を下ろしている。合流の時に流はそんな翼に見蕩れてしまい、奏に頭を叩かれてしまったが、刀を外してオシャレをすれば世界トップレベルの美人さんなので致し方ない。

 流は群青のスーツを着ていて、今回は武装を一切持ち込んでいない。その身が聖遺物だが、流石にそれを置いては来れない。

 

 今回、護衛として来ている奏とセレナのどちらも武装を持ち込んでいないが、有事の際に必要なので、シンフォギアのコンバーターは首に提げている。

 まず護衛の人選がおかしいのではないか? と思われるかもしれない。緒川家などの忍は緒川慎次のような表に顔を出している者以外は会場に散っている。その慎次は八紘の護衛についている。あと調も忍として会場入りしているそうだ。

 

 流と翼というTSUWAMONOに護衛は不要というのは置いておくとして、S.O.N.Gが用意出来る戦力の中で最も強いのはこの二人だったりする。

 シンフォギアを抜きにした場合、二人は生身で聖遺物の力を行使できる。奏はガングニールの貫く力を、セレナは力を操る力を生身で行使ができるため、護衛として呼ばれている。

 

 S.O.N.G最強の戦力は風鳴弦十郎ではないのか!? と十人中百人が思うかもしれないが、弦十郎はこういった場に出ることが禁じられている。

 弦十郎という戦力は国際法で管理されており、やろうと思えば生身で会場にいる人を一分も掛からずに皆殺しにだってできる。やろうと思えばであり、弦十郎はそんなことをする気は全く無いのだが、出来てしまうのが問題なのだ。

 

 そんなこんなで黒いスーツ姿で仏頂面で黙っている奏はため息をついてから口を開く。

 

「あたしはずっと知っていたから今更何か言う気は無いさ。流はあたしが死んだ時には翼を他の輩に渡さないように死合いを続けていた。それを、その覚悟をあたしは邪魔できねえ。でもやっぱり翼はズリいよ」

「ず、狡いって言われても」

「最初は流のことを敵視して、私の友を取らないで! とか言ってたのによ」

「わ、私そんなこと言ったっけ?!」

 

 翼は顔を真っ赤にして奏に反応する。昔のことを出されるとどうしても翼は奏に勝てないのだ。あの時の翼は世間を知らず、ただひたすらに温室で防人たらんと育てられていた。そんな状況で初めて出来た友達()を後から来た流に取られそうになったのだから、翼じゃなくても言ってしまうはずだ。いっぱい意地悪もされたが、それも翼にとっていい思い出だが、それらが奏に勝てない要因でもある。

 

「言ったさ。その翼が先に結んじまうなんて…………今まで聞いてこなかったけど、翼はいいのか? 流なんかと婚約しちまって」

「なんかとはなんだ! 奏でもちょっと酷くない?」

「あ? 装者全員に愛を囁き、勝手に聖遺物と融合したり、錬金術師を引っ掛けてくる男がよく言えたな、アァ!? 世間一般的におかしいと思うなら土下座ッ!」

「……スミマセンデシタ」

 

 同じく流は基本的に奏には勝てない。今現在の流の感覚では好きという想いを隠したり、抑えたりする気は全くないが、それが世間一般的ではないことは理解している。故にその部分を突かれるとどうしても土下座を解放せざるを得ない。

 そんな流の背中ににセレナは楽しげに座り込んでくるが、奏のデコピンを受け、ベッドで悶絶している。

 

「大丈夫だよ。私は流を奏と同じように愛している。未来(みらい)の話になるけどちゃんと子も孕むつもりでいるから。無理やりなんてことは無い」

「そんなに素直に言われちゃ何も言えねえじゃん。まあ、でも良かったよ。どこぞの種馬を宛てがわれるかもしれないと思ってたしさ」

「お爺様からしたら流は最良の種馬であろう。なんせ神なのだから」

「神様にしては色々おかしいけどな」

「神の器なだけで、神じゃないけどね。てか、もうあんまり神の力は使いたくねえし」

 

 翼の覚悟をその耳で聞き、流はそんなにも思ってくれていたのかと目頭が熱くなる。確かに神の権能とでも言うべき力で、皆が好いてくれていることは知っていたが、それでも面と向かって口にされると込み上げてくるものがある。

 今なら神アダムにだって勝てる! と脳内シュミレーションをしてみたが、一時間程度で捻り潰されていた。積層していた神への信仰心を利用して、神の力を行使していたアダムには未だに勝てるビジョンが浮かんでこない。

 

 土下座をやめたあと、セレナがバタついているベッドに腰を掛けると、セレナが背中越しに抱きついてくる。そして話しかけてくる彼女の表情は真面目そのものだ。

 

「今回のこの立食パーティーは絶対に成功させないと駄目ですからね?」

「分かってるさ。俺が風鳴の次期当主との正式な婚約を発表される場だからね。これを邪魔出来たということは、俺が未だに翼の婚約者として未熟ということになってしまう。まーた死合をしないといけなくなるから勘弁だわ」

 

 セレナはその言葉を聞いて、更に抱きしめる力を強くする。そして首を横に振りながら耳元で話す。これは当事者の流と、ソロモンから色々と教えてもらったセレナ、それに知識の豊富な了子、あと対策を立てるために教えられているキャロルだけしか知らないことだ。

 

「今までの流さんは私や奏さんが憑くことでこの世界との楔を得ていました」

「……前に言っていた、俺という存在の位相がズレてきてるってやつ?」

「そうです。今の流さんは少しずつ位相がズレてしまっています」

 

 流は元々異世界の一つの魂と数多の装者達への愛の集合体が、神の器の魂が収まるべき場所に収められていた。魂があった時は別段問題なかったのだが、今は魂は壊れてしまっていて、流の装者達への愛という名の想いを奏やセレナという憑いていた霊体の魂の形を模倣して、擬似的な魂として運用していた。

 

 しかし今は奏もセレナも憑いていないため、少しずつ想いの塊が魂の形から離れている。魂という楔がおかしくなって来ているため、流という存在の位相がズレてきているのだ。元々流には位相のズレがあったからこそ、ノイズに炭素変換されないという特性があったが、逆にそれが流をこの世界から引き剥がし始めていた。

 

「魂の楔が機能しなくなってきているからこの世界での契約、翼との婚約でこの世界との繋がりを強めようってことか」

「……はい。多少はマシになると思いますよ。これで万事解決という訳では無いので、今後も対策は講じる必要がありますが」

「だから今までこの事を言わなかったのか」

「ゆか喜びは良くないですしね」

 

 セレナの見立てだと10年以内にこの世界から完全に引き離されるらしいが、それくらいの時間があれば幾らでも方法は見つかるだろうと流もそこまで焦っていない。

 了子やキャロルにも既に伝えているらしいので、絶対に問題ないと言えるだろう。そしてセレナも焦っていない理由は確実に対処できる方法を既に考えてあるからだ。

 

「子供が出来ればこの世界に定着出来ますよ」

「……もう少し大きくなってからな」

 

 いつも子供っぽいセレナの口から出たその言葉は、妖艶というべき艶のあり、知識としては色々知っているが一人ですらまともにしない流には色々と毒だった……が。

 

「何してんだ? セ、レ、ナ」

「頭があああああ!! 離して離して離して、離して!! 暴力ばっかりだからスキンシップの回数がマリア姉さんに抜かれ、ぎ、ギブっ、()ひんじゃふ(死んじゃう)!!」

「トイレの鍵を閉め忘れて思いっきし見られたおっちょこちょいと一緒にすんじゃねえ」

 

 アームロックからのヘッドロックで完全にのされたセレナは、乙女が見せてはいけない表情でベッドに横になっている。

 そしてその横にいた流にも軽くヘッドロックを掛ける。奏ほどの持ち主が優しいヘッドロックをしたとして、果たしてそれは攻撃になっているのだろうか? 流は頬が柔らかさで幸せいっぱいだ。

 

「……何のつもりの当てこすり」

 

 セレナにすら負け始めた剣と書いてツバサと読む乙女は、勝手にダメージを受けているが、片翼はそれを無視して話を進める。

 

「気張れよ。ここさえ超えれば翼は自由みたいなもんだからな」

「おう!」

「それとセレナとなんか話していたこと、もし話しても問題ないならもうそろ皆に話しておけよ。お前が話してくれるのを待ってんだからな?」

「済まない。多分来週くらいにはちゃんと話せると思う」

「ならよし、頑張れよ流!」

「ゲホッ! ああ!!」

 

 外から夕食パーティーの案内が声を掛けてきた。バシンッ! と奏は気合いの張り手を流の背中に叩き込み、流は笑顔で奏と拳を合わせてから、翼の手を取り、部屋から出ていった。

 

「……あー、くっそ。ずっとあたしの方が一緒にいたのに、やっぱり狡いぞ翼」

「奏さんにしては珍しく引きずってますね」

「たりめぇだろ! 流はあたしのもんだ!」

「……ふふ、そうですね」

「なんだよその生暖かい目は!」

 

 セレナは奏を名闘牛士のように操りながら、自分たちの立ち位置へと向かう。明るい未来を想像しながら、彼女は流との()()の会話を思い出して、頬を少しだけ紅色に染めていた。

 

 

 ***

 

 

「少しは飲めば?」

「すまない」

 

 夕食パーティーが始まると、司会がプログラムを進めていく。流と翼の出番は後半なので、まだまだ暇なのだが、翼の周りには様々な著名人が挨拶に来る。流石は世界の歌姫風鳴翼、海外の名だたるアーティストと多様な言語で会話をしている。

 流は翼の傍についているが、彼らの周りにアーティストは居ても、政治家は一人もその姿を見せないでいた。一時期特異災害認定されていて、今では反応兵器で世界に脅しをかけるやべぇ奴なので、よっぽどの物好きでもなければここには来ない。

 

「お久しぶりです、流さん」

「あなたはバルベルデの」

 

 しかしどの集まりにそんな物好きはいたりする。

 

 流の元に来たのは若きバルベルデを支える政治家の一人。正しい事を是として政治活動をしていたが故に、腐敗したバルベルデで冷遇されていた。しかしS.O.N.Gが腐敗していた膿を全て出してくれたので、彼のような正義と恩を重んじる政治家が表に出ることに出来た。

 更にこの男性は雪音夫妻のおかげで今があると言っており、クリスや流に感謝している。その彼の流を見る目は幼子がスーパーヒーローショーのヒーローを見ているよう輝きを纏っている。

 

「まだ詳しくは聞いていないんですけど、バルベルデの裁量はどうなりました?」

「未だ我が国は不安定ですので、多くの支援を頂くことになりましたが、中央政府の指揮権は大体が戻ってきましたよ!」

「それは良かったですね」

「流、あそこで貰える九条葱の天麩羅は美味しかったからあげる」

「ありがと調」

「……あれ? 今そこに人が居ませんでした?」

「居なかったよ」

「……そうですか。えっと、それもこれも日本が口添えをしてくれたからです! 本当にありがとうございます」

「俺はなにもしてないですから」

 

 流に話しかけてきた彼は、神の力を行使していてブチ切れていた流にお礼を言い出すほどのお人好しだ。そんな彼は流と日本以外の国連側のパイプ役としての役割も担っており、色々と融通されていると蕎麦おじいちゃんこと斯波田さんが言っていた。

 明らかに国連は流のご機嫌を伺うばかりなのだが、報復として反応兵器の使用だけは勘弁なので、ある程度時間が恐怖を和らげるまではこの状況が続くだろう。

 

 あと調は忍として巡回して見回っているはずなのだが、ちょくちょく姿を現して、流と翼に美味しかった料理のおすそ分けをしに来てくれている。見回りをしながら器用に食べているのかと思ったが、スーツ姿の調のポケットから『うまいもんマップ』という紙が見えたので、慎次が忍ということにして、会場に入れてくれたのだろう。何かあれば調の忍としての力は非常に役に立つので、有事に備えているとも言える。

 

「翼の隣にいる男性はどちら様ですか?」

「私の夫だ」

「……ファ!?」

 

 先程からマネージャーよりも距離感の近い男性が翼の隣にいたので、アメリカでも有名なアーティストがそれを聞くと、当たり前のように翼は答える。

 翼はアイドルだが、アイドルは歌を聴いてもらうための手段であり、アイドルの人気に固執していないからこそできる態度だ。

 

 その後二人は呼ばれて、訃堂が翼を正式に風鳴次期当主にすることを発表し、その翼の婚約者として流をつけることが宣言された。

 仲良しアピールかは知らないが、流と訃堂は軽く肩を組むという演出もあった。

 

「なんで八尺瓊勾玉を持ってきているんだよ。武装の持ち込みは禁止だろ?」

「存在そのものが武器である貴様には言われとうない。我が死ねば日ノ本は没落する。まだ我は死ねぬのだ。故に八尺瓊勾玉は常に持ち歩いている」

 

 ネックレスのように完全聖遺物を首から下ろしている訃堂に流はツッコミを入れる。確かに訃堂の言う通り、安全のために再生能力を得ることの出来る八尺瓊勾玉を持つのはわかる。

 

「何故すぐ近くの壁に八咫鏡が飾ってあるんですかねぇ?」

「展示物だ。本物ではない」

「……何故その反対側には草薙剣が展示されてるのか」

「龍を殺して生まれたあの剣は本質的に龍を殺す。この場に龍が現れても抵抗できるように備えているだけのこと」

「ただ他国に自慢したいだけだろアホか」

「存在自体が完全聖遺物には言われとうない!」

 

 翼が次期当主として話している間に、流と訃堂は小声で戦っていたが、どちらも正しく狂っているので平行線にしかならない。

 

「世界が私の世界に非道を行わない限りは、風鳴の掲げる防人としての覚悟を胸に、世界を護るとここに誓う。故に邪魔建てだけはしないで欲しい」

 

 弦十郎がある程度本気で戦う時に目が赤く光るのと同じように、流の瞳が金と水色のデュランダルカラーに輝きながら意気込みを語った。事情を知らない人達は目の錯覚か? と目を擦り、流がマジモンの化け物であることを知っている人達は体調が悪くなったのか、別室へと休憩に行った。

 

 その後は正式な次期当主となった翼に政治家も含めて挨拶に来て、流にも目を合わせずに挨拶を交わしていく。途中でうまいもんマップが完成した調が嬉しそうにしているのにほっこりしながら、当たり障りのない態度と対話内容で二人は次々に人を捌いていった。

 

 

 ***

 

 

「戦場で剣となるより数倍は疲れる」

「お疲れ様」

「ああ、流もお疲れ様」

 

 二人は同じベッドで横になり、手を繋いで目を瞑っている。婚約が発表されて、この年齢の男女が同じベッドで肌を重ねて何も無いわけがなく……なんてことも無く何事もなく二人は睡魔に少しずつ意識を落としていく。

 

 子供の頃はここに奏も入れて、三人で川の字になって手を繋いで寝ていた。一緒にお風呂だって入ったし、洗いあいっこだってした。

 しかし今では二人は婚約者である。それが翼にはむず痒さと安堵が心を占める。

 

「……寝る前に私が最近見る寝物語でも語ってもいいだろうか」

「どんな夢を見ているの?」

「流が居ない夢を見る」

「……え?」

 

 流はその言葉に体を起こそうとするが、絡められた翼の生足の魅力には勝てず、そのままの体制で彼女の見た夢を耳にする。

 

「アダムを倒したのに奏がいない。セレナもいない。サンジェルマン達も居なければ、了子さんも居ない。そんな世界で私は装者として戦う夢を見るんだ」

「居ない尽くしでも、響やマリア達は居るんだろ?」

「ああ。立花が居て、雪音が居て、マリアが居て、月詠が居て、切歌がいる。共に笑い、共に泣き、勝利を勝ち取るそんな夢。奏と了子さんは塵となり、ナスターシャ博士は星となり、キャロルは消滅し、サンジェルマン達は赤き光となって消えるそんな夢物語」

「夢さ、それは全部夢。現にママ(了子)は弦十郎父さんと結婚したし、ナスターシャは元気に焼肉食ってるし、キャロルはイザークの研究をしてるし、サンジェルマンは人助けをしながら笑顔を浮かべている」

 

 そう、翼が見たというその夢物語は全て起きたかもしれない夢なのだ。決してこの世界では起きない幻であり、流がいる限りは絶対に現実にさせない原作の物語。

 

「夢、そう、これは夢だ。私の弱き心が観せる()()……流は消えたりしない。そうだろ?」

「当たり前だ。俺は皆と愛し合って、添い遂げるまでは絶対に死ねないし消えられない。例え神様だって殺してみせるし、世界だって壊してみせる」

「……それは防人としてやめろ」

「は、はい」

 

 翼は先程までの穏やかな声から一転、ドスの効いた声で流に光の点っていない目で忠告をしてくる。翼は確かに変わったが、それでも防人である風鳴翼を捨て去ることは絶対にない。

 翼が横で身動ぎをして体を起き上がらせたようなので、流も起こそうとするが、翼がそのままで良いと止めてくるので、目を閉じたまま少しずつ今度こそ意識を沈める。

 

「防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさもの思ひもせず」

「防人歌なのは分かる。他人は良くても自分の夫が防人となるのは嫌だってやつだっけ?」

「意味等知らなくていい。ただ、私は、私たちは流を大切だと思っている、という意味だと思っておけば良い。私のために悪鬼羅刹と成り果てるような所業もしてきたと聞く。もうそのような事はしないで欲しい。するのなら、私に声を掛け、私も巻き込んで欲しい」

 

 翼は常に正しき防人としてその剣を磨いてきた。だが、ただ一振の風鳴の剣を求めて死合をしてきたそれに、今度また起こったのならば巻き込めと口にした。

 この日ノ本を守る防人である翼が、利己的な理由で殺し合いをする場に巻き込めと口にした覚悟は如何程のものか。

 

 最近の装者達は容易く流の覚悟の先を行こうとしてしまうので、困るのと同時に、とても愛おしさが溢れ出す。その衝動のまま翼を抱きしめようとするが、するりとその身を翻して避けられてしまう。

 その身のこなしのまま、流の唇に防人の妻として、防人の夫への初めての贈り物をする。

 

「私の覚悟を裏切るようなことはしないと信じている」

「ああ、翼の覚悟は受け取った。おやすみ、翼」

「おやすみなさい、流」

 

 

 

 

 

 

 

 /《*○◆+☆?■〜#‎★』

 

 

 

 

 

 

 

 流は目覚めると、とても狭い部屋にいた。本棚に机にテレビ、それにいくつものゲームが散乱していて、服もハンガーから外されてなく、外から取り込まれたままになっている。

 

「……あれ? 俺は翼とホテルで寝ていたはず」

 

 頭を捻る流がベッドから立ち上がろうと縁に手を着くと、たまたまそこに置いてあったテレビのリモコンのボタンに手が触れ、映像が再生された。

 

『どこまでも無限に、続く……』

 

 チフォージュ・シャトーから放たれる世界解剖の緑の光が地面にぶつかり、レイラインを通って世界へと広がっていく。『原作 上松範康・金子 彰史』というこの世界では見るはずのない原作者の名前のテロップ。蹲る響。そして、

 

『世界を壊す、歌がある!』

 

 ダウルダブラのファウストローブを身にまとって大人の姿で、まるで世界を壊そうとしているかのように叫ぶキャロルが、テレビという小さい機械の中で再生されていた。

 流が変えた歴史では起きていない戦い、呪いの旋律が完成したキャロルとの最終決戦。

 

「う、嘘だろ? 何故、何故俺は……異世界、転移? 有り得ない! 魂と想いという物理的な拘束がない状態ですら、億や兆分の一未満の確率でしか世界を超えられないんだぞ!! そうか、これは夢、ただの夢物語だ!!」

 

 夢なら覚めろと流は自分の腕をベッドに打ち付けると、ベッドが拳の威力に耐えきれなかったようでひしゃげて崩れる。改めて拳を開いてみると、焦っているからか肌色に色を変色させていて、皮膚感も作り出していた拳はそこにはなく、金と水色のデュランダルと化した掌があった。

 

 ベッドを破壊した時、そこから落ちてきたシンフォギアの世界ではあまり見なくなったタブレッド型携帯端末を手に取ると、スリープが解除されてその画面を見てしまう。流は弦十郎より育てられた勘によってそれを理解してしまう。

 

『繋ぐこの手には-(キミ)を殺す力がある。』

『戦姫絶唱シンフォギアXV』

『2019年7月より

 TOKYO MX、毎日放送、テレビ愛知

 BS11、AT-Xにて放送開始!』

 

()は、シンフォギア5期のタイトルなんて知らない。ここは、皆が生きている世界ではない? シンフォギアが創作、の世界? ……あは、あははは、あははははははは!!」

 

 この世界に来た(戻った)ことにより、焼却させてしまった原作知識、それらが全て、第5期目のシンフォギアのホームページを見ることによって思い出した。これは夢物語ではなく、ここは現実だということを理解してしまう。

 第六感も、肌を撫でる位相の感覚の違いも、ソロモンの杖によるバビロニアの宝物庫へアクセス出来ないエラー挙動も、いつでも繋げたはずのテレパスの送信先がないことも、全てがここが現実であることを確定させていく。

 

 現実を認識する度に狂ったように笑いながら、悲しみでは流すまいと決めた涙が金と水色に輝く瞳からこぼれ落ちる。涙が流れる度にここは装者や両親が居ない世界である事を流は確信していく。




次回は多分シンフォギア装者は出てきません。

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