戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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ノーブルレッドや棺の出番はもう少し先となります。


#138『/失*○◆+☆?■〜#‎★』

「お邪魔するデスよ!」

「邪魔する」

「半年も経ってねえのに何年も来てなかったような感覚だわ。霊体と肉体の違いだなきっと」

「……ただいま、父さん(ソロモン)

 

 閑静な住宅街、小金持ちが住んでいるその区画に切歌、クリス、奏、流は来ていた。四人が入った建物は轟流が住んでいたとされている一軒家。

 

 最近になって、流は珍しくクリスに怒られながらソロモンを祀るための仏壇を買った。クリスほどしっかりしたものでは無いが、毎朝手をつけて挨拶はしている。

 そして今日の朝、流が仏壇に手を合わせている時、クリスはソロモン(流の父親)のこと、そこから轟流としての実家があることを思い出し、流が風鳴になる前の家に行きたいと言い出したので来ていた。

 

「全然汚れてないんだな。もっと先輩()の部屋みたいになっているかと思ってたわ」

「風鳴が人を出して維持してくれているからね」

「……地下の基地は吹き飛んだはずなのに、傾いたりしていないのな。施工の段階で異端技術を使ってたってことか」

「地下の基地ってなんデスか!? 詳しく教えて欲しいのデス!!」

 

 以前この場所に来た時、流と霊体の奏とセレナの三人で来ていて、地下にあったD計画を実行していた基地に入った。ソロモンより遺されていたビデオレターが再生されたあと、機密保護のために自爆をしたはずなのだ。しかし家の地下が爆発しても問題なくこの家は残っている。

 その事を切歌に話すと、まだ行けるかもしれないから行ってみたいと言い出すが、流が位相をズラして地下を見てみても瓦礫で埋まっているだけだった。

 

 あとクリスの端末に翼から『常在戦場』というメールが届いていた。昔のクリスなら何故この場に居ないのにまるで聞いていたかのようなタイミングで連絡が来る!! 緒川か? 忍者が居るのか!? とビビっていた所だが、翼の汚部屋の写真を送ることで撃退した。

 刀とバイクの手入れは出来ても、下着すらまともに片付けられない女、それが世界のアイドル風鳴翼。

 

「ソロモンからしたら施設を再利用されて神の器を新しく造られたくはなかったんだろうな。量産される俺の肉体とか嫌すぎる」

「んなことよりも、やっぱ生活していた痕跡はないな」

「……そんなことよりもって。大事なんだけどなぁ」

「さーて、探すか。お天道様が寝ちまう前に終わらせるぞ!」

「およよ?」

 

 この家はただのカモフラージュであり、実際には流は暮らしたことはなく、轟轟もほとんど使っていない。不自然にならない程度に家具は置かれていても、写真もなければ特徴的な家具の一切もない。

 伽藍堂という言葉がとても似合う内装となっている。

 

 そんな中、切歌はなにかを見つけたのか、はたまた何かに()()()()()()、およおよおよよーと言いながら二階に向かっていった。

 

 切歌が抜けた三人は買ってきた昼飯をキッチンに置いたあと、ついでとばかりに思いついたあるモノを探すために部屋の中の捜索を始める。

 錬金術やアースガルズ(了子の紫シールド)はあれど、物探しに役立つような異端技術は存在しな……いや、知られていない。フィーネだった風鳴了子ならば知っているかもしれないが、流もクリスもそんな異端技術を教えてもらっていない。

 

 普通の家なら目星もなくあるかも分からない物を探すには多大な時間が掛かるが、この家は物がほとんど無い為、畳の裏まで探したとしても昼前には終わった。

 

「やっぱりねえか。あったらラッキー程度だったししゃあなしか」

「あのソロモンなら()()()の在処を遺していると思ったんだけどな」

父さん(ソロモン)はカストディアンに害のある行動を規制されていたからな。自分の存在を贄に無理やりとかじゃないと無理なんだろ。俺を救ってくれた時みたいに」

「閻魔様にでも土下座して上手くやってくれないかね」

閻魔様(カストディアン)だし無理だろ」

 

 もういくつ寝るとお正月……ではなく、あと一月ほど経てば雪音クリスの誕生日だ。

 アダム・ヴァイスハウプトとの戦いが終結してから数ヶ月が経っているが、未だにアダムが警戒するべきだと言っていた神の棺を見つけることが出来ないでいた。

 

 了子は様々な異端技術を行使したり、全世界のデータベースにハッキングしながら探したりもしたが、どこにも警戒すべき棺はなかった。

 何も成果はあげられなかったが、故に棺は今のところ海中か地中などの人の目の届かない場所にあるか、キャロルが別空間にチフォージュ・シャトーを隠していたように別空間に隠されているかのどこかになった。悪意ある存在が隠しているのならともかく。

 

 現在は国連の協力のもと、海中や地中を探し回っているのだが、痕跡のこの字もない。

 

 今回クリスの気まぐれでこの場所に来たが、あの神から解放されたがっていたソロモンならば書き残しているのではないか? と思い、この家を捜索してみたが成果はなし。まず既にこの家は了子の指示の元調べられているため、結果など最初から分かっていたことであった。

 

 ライフラインが止まっているため、この家では調理がまともに出来ないので、出来合いの物で昼食を摂ることにしたのだが、お昼になってもあの子が戻ってこない。

 

「切歌! お昼だぞー!」

「……いつもなら真っ先に食らいつくのにどうしたんだ?」

「ずっと漫画を読んでたよな? てかさ、なんでこんな何も無い家にあんな昔の漫画があったんだ?」

 

 奏が訝してんでいるが、ただソロモンが現代の娯楽を楽しんでいただけなのだが、その娯楽を切歌はずっと読んでいた。

 もちろんほとんど何も無いこの家に置いてあった書物なので、奏やクリスが中身をさらっていたが、別段特別なことは書いていなかった。1900年代後半にいたとされているリーゼントのヤンキーが喧嘩をする漫画で、切歌の好みとはあまり合っていないように見えたが、楽しそうに読んでいたので誰も止めなかった。

 

 呼んでも反応がないのに少し苛立ちを露にしたクリスが、大股歩きで切歌のいる二階に行こうとしたが、流はその場で位相をズラして天井をすり抜けて二階へと飛ぶ。

 

「ひっく……な、流!」

 

 そこには心底疲れ果てた顔をして、静かに涙を流している切歌がいた。

 

 切歌は手に持っていた漫画を投げ捨てると、流に向かって飛びかかる。当然流は優しく抱きしめ返す。彼の胸の中で静かに泣き続ける切歌を見て、流の目の色が真紅(神の力)に染まりそうになるが、何度か深呼吸をして落ち着ける。この力は感情のままに振るえば災厄が待っているのだから落ち着かなければならない。

 冷静になった流はすぐに切歌の思考を神の力をほんの僅かにだけ使って読んでみたが、ただ漫画の結末が悲しかったのかな? 程度しかわからなかった。

 

 サンジェルマン達のような積年の大望への強い思いや、死にたくないなどの刹那の大きな感情の発露、そして流への想いならばある程度詳細に感じ取る事が出来るが、それ以外の思考は如何に神の力を行使しても読み解くことは出来ない。

 もしこの世界の人々にバラルの呪詛が施されてなく、月もなければ、最初の流の名を呼ぶ言葉だけで全てを理解出来ただろうが、この世界にはバラルの呪詛があるのでそんな現象は起きない。もしくはアダムとの戦いの時のように、十全に神の力を行使していればあるいは。

 

「どうしたの?」

「……読んでた漫画の終わりがとっても、とっても悲しかったのデスよ。最後に鎌を使う仲間だけが生き残って、剣で戦ってた人も銃で戦ってた人も、死んじゃって、ちょっとだけみんなに重なっちゃったみたいデス」

 

 切歌は胸に頭を押し付け、その頭を流が優しく撫で続ける。切歌は最後のあらすじを飛び飛びになりながら話すと、心の整理がついたのかいつも通りの笑みを浮かべた切歌に戻っていた。

 1900年代のヤンキーは鎌や剣を使って戦っていたのかと、膨大な知識はあるくせに、学のない神の器は常識人(御供えはキクコーマン)の言葉をそのまま受け取る。

 

「かっこ悪いところを見せちゃったデスね」

「プールに行った時に家で水着を着てきたけど、下着一式を忘れてアワアワしていた切歌ほどはカッコ悪くなかったさ」

「その事は忘れてって言ったじゃないデスか! そ、それにあの時忘れたのは調で、私はしょうがなく貸してあげただけデス、デスデスデース!!」

「調のちっぱいじゃ、切歌のブラだとずり落ちるじゃん」

「……あっ」

 

 げに恐ろしきかな乙女の勘。切歌と調と流のグループチャットに調から一コメントだけ、今この瞬間にチャットが飛んできた。

 

『二人は今日の夜ご飯、白米をおかずに白米を食べてもらって、付け合せに白米、汁物に白米でデザートを白米にします。他の人は未来さんと買ってきたタン、ハラミ、カルビ、ロースとその他諸々で焼肉パーティー。本日は焼肉dayだけど、二人だけの特別メニューを作る』

 

「切歌のせいだ!」

「流のせいデス!!」

 

 そのコメントを見た瞬間、二人は調に殺到するように謝罪の電話やチャットやメールをする。あらゆる褒め言葉を駆使して調に謝罪するも、無慈悲な一言で締め括られた。

 

『もし外食してきたら、流もきりちゃんも嫌いになっちゃうから』

 

 その日、夜ご飯の時間に流と切歌は別室で一緒に白米を食べていた。調が気を使ったのか、はたまた復讐かは分からないが、数種類の銘柄のご飯が盛られていたとか。

 一方リビングで一番テンションが上がっていたのは何故かいたナスターシャだったとか。

 

 

 ***

 

 

「予約をしていた風鳴ですが」

「はいはい、暖簾の奥のテーブルがご予約の席ですので」

「弦、慎次、洸さん、奥の席のようだ」

「スーツを先に預かります。臭いがつかないように別室に置いてくださるはずなので」

「え、えっと、お願いします」

「ずっとあの子達の訓練を見るってことでジャージ姿で仕事が出来ないものかね。お偉い方への挨拶回りをする訳でもないのに着なきゃいけないなぞ堅苦しいったらない」

 

 旧リディアン近くにあるお好み焼き屋さん『ふらわー』、響たちがよく利用していて表に出ることは無かったが、当然お酒なんかも用意されていて、この日は弦十郎達が『ふらわー』に集まって飲み会をすることになっていた。

 誘われていたウェルキンゲトリクス、ウェル博士は当然拒否して来ていない。藤尭も誘われたが、

 

『モノを食べる時は誰にも邪魔されずに……そうですね、独りで、静かで、豊かに。今日はそんな気分ですので』

 

 なお誘われたのは数ヶ月前であり、別に当日に誘われた訳では無いが藤尭は来ていない。その場面を見ていたセレナは何故行かないのか? と聞いたが、藤尭は溜息をつきながらこう言った。

 

「心の平穏のため」

 

 きっと来れば一般人からしたら非常識なことが沢山起こり、精神に多大なダメージを及ぼしかねないとの判断だったのだが、セレナからしたら既に逸般人領域にいる藤尭。未だに本人は一般人だと思っているため、その意識が彼を疲労へと導いている。

 

 八紘の勤め先は日本だけに留まらず、世界を飛び回っている。そんな激務を極めているが、今日この日のために数ヶ月前から調整していた。

 同じく数ヶ月前から予約を入れていた立花洸だが、もうこのメンバーでの集まりは両手では数えられない程だが、一人は国のトップの人間、二人はあの特異災害対策を一手に引き受ける国連の組織の長とその部下。洸は響がガングニールを継承するきっかけとなった事件でやさぐれず、会社もクビにならなかったので、有名企業に在籍していて年の割に良い地位についてはいるが、未だに顔が引き攣っている。平たくいえば緊張している。

 

 しかもこの『ふらわー』に来ることになったきっかけも、響とあのアイドルの翼が来たことがあるらしいと洸が前の酒の席で口にした結果であり、この人達の口に合うかと内心震えている。

 

 席に向かう途中、セルフサービスの水を人数分持っていこうとした洸の目の前に、既に四杯の水を手に持っている緒川がいた。

 店から真っ直ぐウォーターサーバーに来たので、四杯も入れる時間は無いはず。まず緒川は先程スーツを受け取って、それを片付けているはずなのだが……しかしこの立花洸は理解していた。このメンバーのやる事、言う事で一々考えていては精神が持たないということを。林檎が木から下に落ちるという当たり前のように、今から行われる宴では頭を空っぽにしなければならない。

 

 まず最近娘の響の言っていることも訳が分からないのだ。『(デュランダル)ノイズと()()()()()()けど、レイアさんが教えているからなのかな? 数で来られたら苦戦するかも!』や『最近やっと生身の拳で鍛錬用の木を破壊することができるようになったんだ!』など、洸だけではなく、立花夫妻や祖母は考えるのを辞めている。

 ちょいちょい機密情報が含まれているが、既に立花夫妻達は協力者の立場になっているため、真に話してはいけないこと以外は話せるようになっている。

 

「生四でおばちゃんオススメ……いや、響くん達がよく食べているお好み焼きを頼んます!」

「はいよー、そちらの方は響ちゃんのお父さんでしたよね? お久しぶりです」

「あ、はい! 娘がよく来ているようで、ご迷惑はおかけしていませんか?」

「全然。むしろ沢山食べてくれるから見てるのが楽しいのよ」

 

 他の客の注文も捌きながら、生ビールジョッキを四つ持ってきたおばちゃんは洸と少し話すとすぐに戻っていった。

 

「今日は兄貴でいいんじゃないか? 最近特に忙しかっただろ」

「そうだな。では、乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 あるバカ息子のせいで未だに日本で腰を落ち着けていない八紘の温度で四人は駆け込み一杯をキメる。

 

「いやー、男だけで集まってこういう風に飲むのはいい! 職場は女性人口高いからな」

「指令室にいる人の男女比は了子さんの趣味で偏っていますからね。私は外に出ずっぱりですし」

「……そうか、あの子(装者)達は女の子だから」

「ふぅ、シンフォギアを掠め取ろうとしている奴らがひしめく魔境(国連)に顔を出さずに済むのだからマシな方だろう」

 

『ふらわー』のおばちゃんがお好み焼きの具材からおつまみなどを持ってきたので話が小休止し、おばちゃんが去ると弦十郎がお好み焼きのタネが入っている器を手に取って焼き始める。

 

「一年ほど前までは栄養を気にしつつも、男の料理を口にすることも出来たんだが、最近は了子くんが作ってくれるからめっきりやらなくなったな。たまに牛肉を濃いめのタレで焼いて白米に乗っけてかっ食らうとかやりたいんだがな」

「どうですか? 了子さんとの新婚生活は」

「尻に敷かれっぱなしだな。この前も少しやらかしてさ、了子くんの機嫌を取るのが大変だった」

「……この前とは二週間前ですか?」

「そうだな」

「その時また了子さんに蹴られたんですよ。なんですか? 忍者に当たる蹴りって。異端技術を使っていないはずですよね?」

 

 緒川の言葉に弦十郎は申し訳なさげに頭を下げる。了子の機嫌が悪くなると、大抵緒川と藤尭と友里が被害を受ける。被害が周りに及んでしまうが、前提として弦十郎も余程の事がなければ了子を怒らせない。

 

「何をやるかしたんだ? 了子くんはお前にそんなに怒らんだろう」

「……言わないとダメか? 生追加!」

「私もお願いします」

「生二で!」

 

 女が三人集まれば姦しいというが、気心知れた友人や兄弟同士ならば多少突っ込んだ話も起こるだろう。

 洸も失踪せず、あの立花響を育てた父親であり、この三人のお眼鏡に叶ったため、既に気心知れた存在になっていた。

 

「皆は知っていると思うが俺は力が強いだろ?」

「弦はアスファルトの地面をぶち抜くからな」

「シンフォギア装者だけじゃなく、あの流とも殴り合いますからね」

「……え? アスファルトをぶち抜けるんですか!?」

 

 本来装者(異端技術)(神擬き)の方に洸は反応すべきなのだが、詳しく事情を知らないので、一般的に踏み抜けないはずのアスファルトに反応していた。

 

「俺が床で満足していないのではないかと言われてな」

「……あの了子くんも変わったな」

「もう少し私たちにもその優しさが欲しいですね。避けられるからっていきなり撃ってきますし」

「性の事情はしょうがない所はありますけど、やっぱり妻に夫を満足させられていないと思われてしまうのは良くないですね」

「ああ……だから本気を出したんだが」

 

 弦十郎はそっぽを向きながら続きを渋々話そうとしたが、新しいジョッキに注がれた生ビールを持ってきたおばちゃんが来たので話を切る。

 まさか錬金術やその他異端技術、了子の中に残留しているネフシュタンの鎧の力すら使って、弦十郎の全力全開の耐えきれるとは彼も思っていなかった。

 故に思った。自分には了子くんしかいないだろうと。

 

 その後は皆が思い思いに食べて飲んでを繰り返し、八紘が愚痴を零し、緒川が忍術で刹那の間にお酒を飲み干し、洸が八紘に仕事の助言を受けたりして時間が経過する。

 

「……はぁ〜、それにしてもこの中で独り身はお前だけだ。いい相手はいないか」

「私は忍びであり、表の身分を色々と持っていますからね。相手を選ばないといけませんし、司令もわかっている通り簡単にはいきませんよ。一番の問題は時間が無いことですね」

 

 弦十郎がいつも着ている赤いシャツと同じ色に顔が染っているが、ハイペースで飲んでいても意識が落ちることは無い。八紘は熱燗でちょびちょびとゆっくりと味わうモードに移行していて、洸は酔ってはいるがまだまだいけそうだ。慎次? 顔はいつもと変わらず、乾杯の時の勢いのままずっとビールを飲み続けているが、何故か()()している。

 

 流がフロンティア計画の時や、魔法少女事変の時にヤントラ・サルヴァスパを深淵の竜宮に盗みに入った時に女装をしていた話が酒飲みの肴になり、変装術を教えた緒川の方が実力は高いということで、いつも持ち歩いている変装キットによって女装をしていた。

 

 ロングの茶髪に伏し目がちな清楚な見た目。何故か変装する時に体からゴキボキと鳴っていたのが原因か、まるで骨格すらも変えているかのように見える完璧具合。しかも巨乳で、もしこの場に翼がいれば常在戦場。もしこの場に調がいれば予習した殺戮方法の行使。そして何より喋り方から動作まで完璧に女性だった。今は格好をそのまま(女装)にキャラは緒川慎次に戻している。

 

「慎次さんは顔もよく、高身長で地位も良い。性格だってすんごいのに勿体ない!」

「慎次の兄のこともあったから、弦よりも早いかもと思っていたが、まさか弦や慎次の息子の流の方が早く結婚……いや、婚約をするとは」

「俺は奏くんとそのままと思っていたんだがな。まさか親父(不動)とずぶずぶに繋がって、翼をずっと婚約という形で護っていたとは……気づいてやれていれば!」

「……え!? あの風鳴翼と流くんは結婚するんですか!?」

 

 声もだいぶ大きく、既に色々と広まると不味い領域の話にまで発展しているが、そこはできる女風鳴了子もうすぐ40歳が頑張ってくれた。彼らの席にディー・シュピネの結界という、確かにそこにあるものの、人の意識を逸らし、あたかも存在しないように認識させる人払いの結界に近いものを張っていた。しかも『ふらわー』のおばちゃんに内部の声が届くようになっている特別仕様。とてつもない無駄に洗練された無駄の無い無駄な異端技術。

 その結界のおかげで人だけではなく、機械や異端技術による盗聴すらも心配しなくて済むようになったので、弦十郎も八紘も話してはいけないラインギリギリまで口を滑らせている。

 

 次の日、既に協力者ではあるが、いくつもの機密保持の書類に洸は()()サインすることになるのだが、()()()()()()なので既に緊張すらしない。慣れるくらいには八紘達とは会っているが、緊張してしまう小市民な響のパパさんである。

 

「今度日本……というよりも、風鳴訃堂主催の各国首脳や権力者、様々な著名人を集めての立食パーティーがあるんですよ。その時に流は正式に翼さんの婚約者として発表されるようです。現在、アメリカが色々あって権威を落とし、実質的にS.O.N.Gを所有している日本が覇権国となっていますが」

「……あれ? S.O.N.Gという特異災害対策組織は国連所属になったってテレビでやってましたよね?」

「異端技術ってのは本来各国で秘匿しながら研究するものだ。そして少し前までは異端技術は基本的に特異災害のノイズに対抗するために研究されていたが、成果が出たのは日本だけだった。そしてその戦力は全世界に公開されてしまった。世界のためというお題目を掲げて技術開示を求められ、組織ごと国連に移されはしたものの、日本とその他の国に同時に特異災害が起きた場合、当然日本を優先しなければいけない程度には切り離せていないんだ」

「当然といえば当然なことなのですが、この前までは何だかんだ国連所属として前向きに動いていました。装者や私たちのいる場所に反応兵器を発射されるまでは……ですが」

 

 アダムが真なる神になり、その姿に国連に詰めていた各国首脳陣は屈してしまった。そしてアメリカ先導のもと、破れかぶれの策として、S.O.N.Gの装者や人員がいたのにも関わらず日本に反応兵器を五発も発射した。

 それは流によって防がれ、その一件で完全にアメリカは失墜したのだが、それ以上に日本とその他の国々との明確な格差が出来上がった。

 

 特異災害や異端技術に抵抗できる戦力を国連が抗議してきたから所属を移させ、更に技術を開示したのにも関わらず、その組織や貸出元の日本に向けて反応兵器を国連の意思の元使ったのだ。アメリカが強引な方法で採決を取ったとはいえ、多数決で可決されたのだ。

 日本側と各国にはギリギリ修復できる傷ができ、アメリカとは修復不可能な溝が出来ていた。更には深刻なのは世界を護ると誓っていた弦十郎達にすら不信感を与えてしまっているのが、今の世界の状況となる。

 

「それでも響はきっと敵対している人と話し合おうとしますよ。大丈夫です。皆さんなら……きっ、と」

 

 洸は限界点までは余裕で飲めるが、いきなり酔い潰れてしまう人のようで、いうことだけ言ってそのまま気絶してしまった。

 

「……第三者意見というのは重要だな」

「ええ、S.O.N.G内部の国連への不信感を少しは払拭できるように動いてみます」

「私は今度こそ、政治で日本に無茶をさせないように励もう」

 

 世界への不信感という漠然とした悪感情を抱き続けてしまっていた三人だが、響のように理屈などを抜きにして信じてくれた友人の言葉を胸に、改めて人々の為に世界を護ろうと固く誓った。

 

 そして次の日、立花洸は()()酒の席で八紘や弦十郎に対して、大きな態度を取ってしまったことを思い出し、顔を真っ青にして謝罪の電話をするのだった。

 

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

 その叫び声をあげた数週間後、八紘のアドバイスによってプロジェクトが好転し、また昇格に近づいて胃がキリキリし出す男が居たとか。




ノーブルレッドさんは流とかいうアダムを人に変えた人?と会ったら即落ち二コマになってしまう。
カストディアンの情報が全然出てきませんが、オリジナルの内容で間は持つと思うので進めようと思います。

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