戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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シンフォギアXVの要素が入ってきますので、まだ一話が未視聴の方はお気を付けください。


第5期 シンフォギアXVF
#136『喪失までのカウントダウン』


「「ハアアアアアァ、タアッ!」」

 

 二人の右拳が衝突すると、踏み締めていた地面が爆せ、舞い上がった砂埃も吹き荒れる拳圧によって吹き飛んでいく。

 ならばと黒き髪の青年が放った黄金の蹴りは、赤き髪の大男がもう片方の腕で受け止められながら、功夫(クンフー)では抑えきれない衝撃を地面に流すことでゼロダメージでやり過ごす。

 

 たった二度の接触で地面に巨大なクレーターが出来ている。二人が施設の中ではなく、外で戦っているのはその為だ。もしS.O.NGの潜水艦の中でこれをやっていたら、確実に床に穴が空いていただろう。

 

「……ちょこざいな!」

 

 赤き髪の大男、風鳴弦十郎は受け流したのではなく受け流させられたのだと、周りに再び舞ってしまった砂埃で気がつく。左腕を一閃することでその砂煙を消し飛ばすが、戦っている相手が視界の中にはいない。

 その弦十郎の影にはクナイが刺さっていて、『影縫い』という相手を拘束する技が掛けられていたのだが、ふすまを叩く程度の抵抗で弦十郎は無力化していた。あの立花響だったとしても、無力化するには爆振、地面を踏み締めた衝撃で地面を爆せる技を使わなければ抜け出すのに()()()()()なのだが、弦十郎には常識や不可能などの言葉は頭の辞書にあっても、行動には適用されないようだ。

 

(今回こそ倒すッ!)

 

 隠密で気配をなくして、風の錬金術を使って風を切り裂く音を無音にしながら、弦十郎の()()()()()()()風鳴流は攻撃を仕掛ける。

 上空の流は響の空槌脚、脚部のパワージャッキーを使ったカカト落としに似たような技を繰り出す。全身をデュランダル化させていたとしてもパワージャッキーなんてものは生えてこないが、デュランダルのエネルギー放出で加速を得ている。

 背後の流は正しき構えを取ってからの()()()()()()()()()()()。こちらもデュランダルのブーストを使っていて、更に風の錬金術を使っているので無音ではあるが、当然エネルギー放出なぞしてしまっているので、服がボロボロでほぼアダム・ヴァイスハウプト(全裸)になっている。

 

 弦十郎は気配や音すら感知できていないにも関わらず、ニヤリと頬を緩めながら眼を紅く光らせる。

 

「いつまで分身が忍者の十八番だと思っている!!」

「「!?」」

 

 弦十郎に同じタイミングで攻撃が当たる寸前に彼の体がブレると、空の流の攻撃は紙一重で躱されながら顔面に拳がめり込んでいた。

 空の流を迎撃したのなら背後の流の攻撃は食らう筈なのに、背後にいた流も弦十郎にぶん殴られて吹き飛んでいた。

 

 そう、弦十郎は同じタイミングの攻撃を()()? して迎撃したのだ。まさか弦十郎が分身? するとは思っていたなかった流は、攻撃を受ける構えすら出来ずにクレーターの外に吹き飛んでいった。

 上空の流はポンっという音と共に分身体が消え去っていて、背後の流が本体だったようだが、当然上空の流のカカト落としを食らえばダメージを受けていた。

 物理法則やエネルギー保存の法則も真っ青な技術であるが、忍術は異端技術ではなく、ただの秘匿技術なのが恐ろしいところだ。

 

 ちなみに弦十郎が分身している()()()()()()()()、ただ高速で動いて残像が残っただけだ。もし弦十郎が鍛え始めた時に観た映画が中華拳法ではなく忍者映画なら、きっと緒川を超えるようなファンタジーも真っ青なNINJAになっていたかもしれないってばよ。

 

「全力で動くのはやはりいいな! だが、流との()()は楽しいが、服や靴が毎回ぶっ壊れるのはどうにかならないものか。マッパで戦い始める訳にもいかんし、靴があった方が力が入る。了子くん、そこの所何とかならないのか?」

「無理よ。もし弦十郎くんが服の完全聖遺物を身にまとったとしても壊しちゃうもの。拳圧でネフシュタンの鎧にヒビを入れた時よりも何倍も強くなっているのよ? フィーネである私でも弦十郎くんに耐える服も靴も作るのは無理」

「さ、櫻井了」

「風鳴、了子? Do you understand ?」

 

 流の体は子供を作る種を作る場所以外の部分は、全てデュランダルとなっている。そんな流の顔面をべこっと凹ませている時点で弦十郎に耐えられる服などない。例え不朽の概念が宿っていて、了子が知る中で一番硬いデュランダルを糸にして服を編んでも、弦十郎が全力で動いたら壊れてしまう。もちろん服の方が。

 

 弦十郎と了子は事も無げに話しているが、流は顔面を凹ませたまま倒れている。二人の()()を初めて見たサンジェルマンは顔を真っ青にして流を気にしなくて良いかと聞こうとしたら、旧姓で呼んだだけで殺気が飛んできて少しだけ泣きそうになる。弦十郎と了子が結婚して少し経つが、風鳴了子と呼ばれるだけで機嫌が良くなり、櫻井了子と呼ばれると機嫌が悪くなる35歳を超えた女、風鳴了子。

 

 ネフシュタンの残滓が残っていて、異端技術で若さを保っているため、二十代よりもピチピチなお肌であり、内蔵や生殖機能もまだまだ問題ないのだが、世間一般では第一子出産は35歳から高齢出産と言われるため、物凄く焦っていたりする。2045年を迎えていてもその常識は未だ変わっていない。

 櫻井了子と言われると石女だから風鳴姓が剥奪されたとでも思うのか、気が立ってしまい、パヴァリア光明結社最高幹部のサンジェルマンすらもチビりそうになるような殺気を放ってしまう。

 

「風鳴了子風鳴了子風鳴了子……それで風鳴了子、流はあのままでいいのですか? 顔が大変なことに……というか、何故あの神の力を得た悪魔アダムとすら殴り合えていた流と、ただの人でしかない風鳴弦十郎が全力で殴りあえている? 本気で戦っているだけではなく、加減なしの全力で殴りあっていたようだけど!!」

「普通ですよ普通。師匠はシンフォギア装者全員で囲んでも勝てませんし! 流石師匠ですよね! もっと私も鍛錬を重ねて、映画も見ないと……うおおおおぉ! 師匠、対打をお願いします!!」

「普通だとしても万が一を考えて見に来なさいよ!!」

 

 サンジェルマンの疑問は最もだが、響はS.O.N.G組の中で唯一、異端技術に触れた時から流と弦十郎のこの関係を見ているので、これが普通だと本気で思っている。胸に浮かぶ聖句を口ずさめばシンフォギアを纏えるのと同じように、翼の部屋が汚部屋であるのと同じように、いつもの日常だと実感している。

 

 常識が非常識に染まり掛けているマリアだが、弦十郎も了子も響も流の元に向かわないので、慌てて駆け出していた。サンジェルマンが口にするまでマリアもそちら(傍観)側だったように見えたのはきっと気の所為ではないはず。

 マリアはAXZ事変の時に流を風鳴に明け渡した。あの事変の後、マリアと流は仲直りをしたが、どうしてもマリアはそれを引き目として感じてしまっている。

 だからこそ、上体を起こした流にセクハラをされていても、それを拒否することは無い。まあ、セクハラ出来るだけ元気があるという事であるし、マリアも満更でも無いのだが。

 

「心配してくれてありがとう。父さんもママも顔が凹んでもこういう風に心配してくれないからな」

「礼を言いながらお尻を触らないで欲しいのだけど」

「マリアの胸の中はやっぱり落ち着くよ……陽だまりだね」

「そう……でもね、その言葉は胸がある装者みんなに言っているわよね?」

「実際落ち着くし」

 

 流は眼を背けながらセクハラの手を止めながら口にする。この時、言われたことの無い装者三人は少しだけイラッとした。響を想う少女は別に流からどう思われても構わないが、少しだけ折檻することを心に刻んだ。

 

「帰ったら翼に刺されるわね」

「これも俺の愛情表現みたいなものだから。愛しているぞマリア!!」

「そ、そういうことは外で言うものじゃありません!!」

『愛しているよマリア』

「統一言語とテレパスを使って伝えなくても分かってるからやめてちょうだい! あとちょっとウェルっぽくてキモイ」

 

『へっくしょん!! ふう、また英雄たる僕の噂をしている人がいるよ……いつかきっと僕の力だけで英雄になってや、へ、へ、へっくしょん!!』

 

 愛を伝えれば装者の中で響と並んで可愛い反応をするマリアとイチャイチャしていると、響が優しくぶん殴られて対打が終わったので、二人で了子の元に戻る。

 もちろん弦十郎は本気は出しているが、全力では殴っていない。いくらシンフォギアを纏っていても、弦十郎の全力を受けてはケガをしてしまう。立場などの難易度を無視した場合、シンフォギアと弦十郎のどちらがより簡単に出撃許可が降りるかと言われれば、実はシンフォギアだったりする。

 

 シンフォギアを纏っている人には全力で殴らないのに、完全聖遺物の融合症例なだけの人間? には殴るのかって? でぇじょうぶだ、彼の体はデュランダル製だ。

 

 了子たちがいるこの場所は、整備が進んでいるが有事の際は戦闘場所として使われているため、未だに封鎖されている旧リディアン跡地。流と弦十郎と了子とナスターシャ、それに響とマリアとサンジェルマンがこの場所にはいた。

 本日は休日なので響がいる場所には未来も本来なら居るのだが、実家の問題で家に帰っているため不在。その他メンバーも、カリオストロとプレラーティ以外は用事があるため来ておらず、上記二人は準備が終わっていないのでこの場にいない。

 

 そして先程まで対打を行っていた響のガングニールのシンフォギアは、アダム・ヴァイスハウプトと戦った時と比べて見た目や性能に変化がある。

 

 アクシズ事変のあと、サンジェルマンが鬱状態から復活して少しすると、S.O.N.Gの全ての技術者を集めた。

 了子、藤尭、友里、ナスターシャ、ウェル、キャロル、エルフナイン、サンジェルマンというそうそうたるメンバーによってある改修が行われた。

 流は知識を深めるために研究はするが、基本は外に出るし、何よりサンジェルマンが流はそういう事はあまり得意ではないと思っているため呼ばれなかった。一方未だに一般人としての立ち位置を捨てきれていない藤尭と友里だが、もしアメリカにその身一つで向かったとしても、超がつくほどのVIP待遇が約束されるほどの技術を会得して()()()()()()

 そしてS.O.N.Gで改修といえばひとつしかないだろう。

 

 ラピス・フィロソフィカスを利用した錬金術方面へのシンフォギアシステムの拡張改修。

 

 サンジェルマンたちは()()自分たちで革命をするのを辞めている。響や了子が死んでも世界が良くなっていなかった場合は革命の狼煙を再び掲げるつもりでいる。今のところは協力するにあたり、不浄(イグナイト)による強化が行われているシンフォギアを改修することになった。

 

 元々櫻井理論に基づいて作られていたシンフォギアシステムだが、今はダインスレイヴを錬金術と科学を利用して強化パーツ(イグナイト)としてシステムに組み込まれている。更にラピスのイグナイト強制解除対策として、イグナイトのエネルギーをそのままギアとしてエネルギー固着するのではなく、そのエネルギーでシンフォギアのロックを解除して、パワーアップをするという改修も施している。

 

 イグナイトの呪いの旋律から発生する暴走とも言えるエネルギーは、本来ならフォニックゲインとは異なるモノであり、イグナイトのような使い方ならまだ出来るが、それを利用してのシンフォギアシステムのロック解除は出来ないはずだった。

 しかし錬金術エネルギーをフォニックゲインに変換するという方法は、キャロルのダウルダブラのファウストローブで同じことをしていて、想い出の焼却をして発生したエネルギーをフォニックゲインとして活用する方法を彼女が伝授した。

 

 それと同じようにラピスをシンフォギアに埋め込み、それを使っての改修が行われたため、ギアの見た目が改修前後で変化していた。具体的に言うと五期のシンフォギア装者のような見た目になっている。

 

 そして今回の改修はシンフォギアだけでは無い。

 

「風鳴了子、始めるぞ」

「はいは〜い、いつでもいいわよ」

「……アメリカでは一応シンフォギアの権威でしたが、いつの間にか錬金術まで習得することになるなんて。人生分からないものですね」

 

 解析する機材が持ち込まれている移動式拠点でナスターシャが遠い目をしているが、そんなことは無視してサンジェルマンが黄金のフリントロック式銃の撃鉄を打ち下ろした。

 

 紅き光に包まれ、その光が弾けるとラピス・フィロソフィカスによって構成されたファウストローブを身に纏ったサンジェルマンがいた。

 あの伯爵たる私が女の子な服装など着れるか! とキレる芸を持つサンジェルマンだが、()()()ファウストローブはハイレグな下半身が目立つ完全な女性の肉体を惜しげも無く晒していた。

 

 しかし今のサンジェルマンは以前のファウストローブよりも更に露出度が上がり、お腹をこれでもかと晒しながら、胸元を開きつつ襟のギアを作り出し、肩には大きな騎士の盾にも見えるものが装着されている。そして何より黄金の銃は元々仕込み刃を展開できるようになっていたが、今回の改修後のファウストローブからはロングソードよりもなお幅広な、ラピスの赤い輝きを放つブレードがすえられている。

 今までが遠距離戦をサポートする銃剣だったとしたら、今の武装は近距離戦をサポートする銃機構を持つガンソードだろう。

 

 装者達の近接戦闘の強さに弦十郎の一人稽古の時の迫力、そしてソロモンの杖によって発動させていた空間に入口と出口を作り、遠距離攻撃をそのまま返す流の卑劣な技を見たため、近接戦闘寄りになっているとかなっていないとか。

 アクシズ事変の後に改めてファウストローブを纏ってカリオストロとプレラーティと喧嘩をした時、二人に近接戦闘で嵌められたからとかでは無い……断じてないはずだ。

 

「これこそがラピス・フィロソフィカスの輝きに歌の力によって増幅強化させた新たなるファウストローブ、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブtypeⅡだ! 行くぞ、立花響! マリア・カデンツァヴナ・イヴ!」

「こういう純粋な対話がサンジェルマンさんと出来てやっぱり嬉しいです! サンジェルマンさんが本気なら私も本気で行かせて貰います! 抜剣、イグナイトモジュール、モードELIX(エリキ)!!」

 

 響はシンフォギアに再度変身したあと、胸のペンダントを()()押すことで至れる新たなモード。ニグレド、アルベド、ルベドを経由し、錬金術の秘奥である賢者の石、その石の液体はエリクサーやエリキシルなどと呼ばれる。

 今の形態は了子の櫻井理論から始まり、キャロルの四大元素(アリストテレス)の理論をベースに賢者の石(ラピス・フィロソフィカス)を反映させた姿なので、賢者の石から名前を借りてエリキとなった。

 

「行ってきなさい」

「マム……でも、もしもの為に私はここにいるわけで」

「もう自分を抑えなくていいのです。貴女は立花響とサンジェルマンと戦いたいと思っています。敵としてではなく、自らを昇華させるための訓練で歌いながら戦いたいと。もうあそこまでラピス・フィロソフィカスの新形態が安定しているのなら問題ないでしょう。マリア、胸の想いのままに」

「……分かったわマム。あの戦いに割って入るのなら狙うわただ一つ。勝利をマムに捧げるわ!! Seilien coffin……」

 

 マリアもモードエリキを使い、XDモード一歩手前までシンフォギアシステムのロック解除を行い、二人の戦いへと突撃して……。

 

「やるからには手加減なしで、『HORIZON†CANNON』!!」

 

 突撃する前に拳と剣を撃ち合っている二人に向けて、銀の左腕を巨大化させ、砲身にして白銀の砲撃をぶっぱなした。

 

「立花響!」

「はい!」

「「ハアアアアア!!」」

 

 一瞬前まで戦っていたのに、サンジェルマンの一声に響はおあ頷き、二人でマリアの砲撃を迎撃する。その隙に接近したマリアが短剣でサンジェルマンに斬りつけ、三つ巴の戦いが始まった。

 

「あらあら、あんなに楽しそうに戦っちゃってまぁ。戦いとは命の奪い合いであり、革命を起こす手段でしかない……なんて言ってたのに」

「サンジェルマンは無邪気に遊ぶ子供時代をすっぽかして大人になったワケダ。置いてきてしまった青春を取り戻しているみたいでこちらも嬉しくなるワケダ」

「遅かったじゃない。何やっていたのよ」

 

 装者三人以外が集まっている場所の横に、カリオストロとプレラーティがテレポートしてきた。

 その二人も今までのラピス・フィロソフィカスのファウストローブではなく、typeⅡと呼ばれる形態になっている。もちろん流はプレラーティのピッチリ上半身や、特にカリオストロの露骨なおぱーいを見ている。

 帰宅後にSAKIMORIやNINJA(調)などに襲撃されたのは言うまでもない。

 

「私たちが居たんじゃ、サンジェルマンが了子や響達と交流をあまり取らないでしょ? 確かに私たちは同志であり親友よ? でもね、依存なんてものは要らないの。サンジェルマンにはもっと、今の世界でも幸せはあることを知って欲しいのよ」

「新フォームに合わせたメイクをしていて遅くなった奴が良く言うワケダ」

「ちょっとー! それ言わなくていいじゃない! 言った言葉は本音しかないんだから!」

 

 子を見守る母親のような目をしてサンジェルマンを見る二人。ずっと無茶や無謀を重ねてきて、結果的に三人は生き残って負けてしまったが、負けたが故にこのように昔では考えられないほど穏やかなサンジェルマンが見られている。

 カリオストロやプレラーティはあの時アダムに反逆し、S.O.N.Gについたのは間違いではなかったと改めて思った。

 

「『我流鳳凰双燕衝』!!」

「『ALOOF†KNIGHT』!!」

「『ズィークシュトラール』!!」

 

 響は片腕に一点集中させたエネルギーを前方に拳を突き出すことで二人に撃ち出す。マリアは短剣を束ね、巨大な光の剣に変えて二人に振り落とす。サンジェルマンは何重もの錬金術陣を自分の前に展開し、カートリッジを換装してから必殺の一撃を撃ち出す。その攻撃が錬金術陣を通る度に威力を膨れあがらせて二人へと向かう。

 

 三人の攻撃は互いの攻撃を喰らい合い、対消滅しきれなかったエネルギーが爆発を起こして三人を巻き込んだ。

 

「……」

「……」

「あれには流石に混ざれんな」

「俺はデュランダルを剣として顕現させての『Synchrogazer』で混ざれるけど、放つよりも拳に集中させた方が威力出るからロスがね。父さんは拳圧で混ざろうと思えば混ざれるでしょ」

「全力手加減無用ならいける……か?」

「そんなことしちゃダメよ!」

 

 確かに生暖かい目で見ていたが、サンジェルマンがなんか高笑いをしながらぶつかり合っていて、文字通り必殺の一撃を訓練で放っていることに二人は唖然とする。そしてなんかただの生身の人間と、融合症例がおかしなことを言っているが了子がそれを止めた。

 

『そりゃダメよね。普通に()()()危険だもの。いくら近接戦闘なら装者や私達と渡り合えたとしても、拳圧であの攻撃に混ざれないわよ』

『ファウストローブでもなく、シンフォギアでもない剣を顕現させたとしても、流はその二つのように異常なエネルギー運用は神の力を使わない限りは出来ない()()ワケダ。それなのに混ざったら危険なワケダ。フィーネちゃんと止めろ』

 

 小声でカリオストロとプレラーティは話していて、それが聞こえたナスターシャは首を横に振る。そういうことでは無いと。

 

「私も参加したくなっちゃうじゃない! 家族三人で装者二人と錬金術師をぶっ倒そう! なんて二人だけでそんな()()をするのは反対よ!!」

「でもママは今は戦えないじゃん……いや、戦えるとは思うけど、ついて来れないよね?」

「了子くんがついてくるのなら最低でもネフシュタンの鎧を()()()()()()()()()()()()

 

 弦十郎がとてつもなく物騒なことを言っているが、流は対消滅で残滓程度しか残っていなかったデュランダルを、最終的には肉体のほぼ全てを置換できるほどまで復元しているのだ。

 デュランダルの不朽の性質とエネルギーを生産する力のおかげなのだが、了子(フィーネ)に不可能はない。

 

「……そうよねぇ。息子と夫は二人で楽しくバトルしてるのを見ていることしか出来ないのよね。はぁ、悲しいわー。息子が鎧の復元を手伝ってくれればすぐにでも出来上がるのに。私が戦える力を持って欲しくないのは分かるわよ? でもやっぱり二人だけ前線にって言うのはね」

「…………はぁ、分かったよ。でも無茶はしようとしないでね? 仲間を庇うためにママですら死んじゃう攻撃をその身で受けたりとかやめてよ?」

「もちろんよ。弦十郎くんと一緒に穏やかに人生を終えるのが最終目標だもの」

「そういう無茶をするのはお前だろ。流こそそういう無茶はするなよ?」

「父さんこそ」

 

 風鳴弦十郎一家による団欒が行われている横で、化け物でも見るような目をしながら、カリオストロとプレラーティは三人を見ている。

 了子によって色々と価値観がおかしくなった流、その流や了子がいた為、色々とおかしくなった弦十郎。何故そんな目で見られているのか分からないが、きっと疲れているのだろうと三人は響たちの戦いを肴に今後の研究についてを話し合う。

 

「S.O.N.Gでもあの組み合わせは深淵ですので勘違いしないで下さいね? あれらがおかしいだけですから」

「そ、そうよね」

「……映画を見てみることにするワケダ」

 

 ボロボロになってそれでも勝利を勝ち取った()()()が片手を強く握り締めて(そら)に掲げる。

 勝因は猪突猛進の響と、楽しげに狂戦士となっているサンジェルマンに合わせなかったところだろう。

 

「そういえばあれはどうだったの? まだ報告書を読んでないけど」

「駄目だったよ。奏とセレナと調べに行ったけど、フロンティアは星間飛行船だから星図はあれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「まあそうよね。地道に探すしかないか」

「早く探さないとね」

 

 アダムは流たちS.O.N.Gに『時の彼方より浮上する棺を破壊した方がいいよ』とお手紙を送ってきた。

 その棺はカストディアン関連のモノであり、間違いなく厄災の種なのでアダムも神になったら破壊する気でいたらしい。 カストディアンの遺骸が保管されている可能性が高いとのこと。

 

 だが、その棺の場所は未だに()()()()()()()。本来のアダムならアクシズ事変の最終フェーズにならなければ忙しくはならなかった。なので、ティキを使って割り出しは出来ているはずなのだ。しかしこの世界のアダムはフィーネを、人類を警戒していたため、裏で暗躍を続けた結果、ティキによる棺の場所の特定は終わっていなかった。

 今では人間になったティキに惑星運行観測機能なんてモノはないため、未だに棺の場所の候補すら特定出来ていない。

 

「……なにか起きる前に、最悪なんか起きても別位相に吹き飛ばしてやる」

 

 クリスの誕生日まであと数ヶ月のある、ある日の出来事。




2話で起こった事件はこの作品では絶対にあんな結末にはならないとは思いますが、だがらこそ敵に翼が何かをされたのでそれが分からないと話が進められません。

ですので更新ペースは少し落ちるかもしれません。

50万UAを突破しました。お読み下さりありがとうございます‪!

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