戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#126『ツキとシラベ』

『……だから、カストディアンの巫女であるフィーネも僕や君と同じく、何かしらの呪いをかけられているのかもしれない』

『本当はママがカストディアンの事を知っていても、それを思い出せなくされている可能性もあるってことか』

『そうだ。君の人類に話すことの出来ない呪い、僕の新しい物を作り出せない呪い。それらと同種のモノがあるかもね。そして僕達はフィーネの呪いが何なのかを見破ることが出来ない』

 

 流は再入院をして数日後やっと退院できた。

 

 流が頭の上がらない看護師のおばさんは、流がデュランダルという人間とは違う物質になっている事を知っている人の一人だ。弦十郎は流を抑えられる人で尚且つ、秘密を守ってくれると確信した人に教えている。現状はその人くらいしか居ないが、知っているなら流を入院させる必要が無いことがわかるはずだ。

 

 だが、あのおばさんは流をただの人間として扱っているので、怪我に応じた人間の最短治療期間は流を入院させると決めているのだ。流の秘密を知っていて数少ない、そんな事は関係ねえ! と思っている人だ。

 ちなみに人間の最短治療期間の基準は弦十郎だ。聖遺物や異端技術を使わなくても、単純な再生能力もバグっているが、人間なのでその期間が使われている。

 

 流は入院したあとすぐに、S.O.N.G.の了子と弦十郎と流しか入る事を許していない部屋にきた。

 流から見て、了子は弦十郎のためにカストディアンと戦う気だ。チフォージュ・シャトーで神を解剖分析したデータと最近は睨めっこをしているので、流の予想も外れてはいないだろう。

 

 その時にふと思い出した。フィーネはカストディアンの巫女の筈なのに、カストディアンについてあまりにも知らない気がすると。

 了子がこの部屋に暗号化して保存している書類の中に、カストディアンについてというモノがある。流がカストディアンについてを知ってしまうと、変に神の器として覚醒してしまうので、禁止されていた書類だが、今は許可を得られたので見ている。

 

 しかしあまりにも情報が少なく、更に記載されている情報は曖昧でフワフワな事しか書いていなかった。

 

 

 流の次の仮想敵はカストディアンだ。今カストディアンが現れても、問答無用で殴りつける程度には流は敵として認定している。あとひとつ何かがあれば、流は位相操作で別位相への強制移動を不意打ちで使う踏ん切りがつく。

 まあ、流はカストディアンには位相の操作は有効打になり得ないと思っているが。

 

 敵を知ることこそ、勝利への第一歩だ。流は今回のAXZ事変は魔法少女事変以前の時とは違い、知識はなく、その結果色々な予想外な出来事が起きた。

 もし流がマリアの嫉妬による監禁中に、装者の内誰かが傷ついたり、最悪死んでいたら、流は世界を滅ぼしていただろうと思っている。

 

 なので、色々と調べ始めて、一番身近にいる了子に聞いたら、この部屋に纏められていると聞いたので、そのまとめを見たが不発だった。

 

 

 

 そのあとアダムの近くにテレパスを具現化させた流がいつも使っている端末を出現させて、今現在話している。

 

 アダムは元々新しいものが作れなかったらしい。だが、今の体では普通に作れているので、アダムはこれはカストディアンの呪いだったのではないか? と当たりをつけたらしい。そのあと流は解除した自分の話せない呪いの事を話し、冒頭の会話があった。

 

『他には?』

『今回は僕に呪いが掛けられてないかと聞いてきたんだろう? 情報のおまけはしないさ。どうしても必要になる情報は後日まとめて渡すから、とりあえずはそれでいいだろう?』

『そうだな。わかった』

『じゃあ、振込頼むよ』

『ああ、それは今やった』

『そうか。街に出るにもお金がかかるからね。この村はいい村だけど、外界との繋がりが弱いからね』

 

 アダムは流に協力する気だが、タダでは協力する気は今のところない。そして今はアダムとティキは資金不足。

 人間として全うに生きていくにはお金が必要だ。だが、アダム達は流の用意した多少の支度金以外はろくに持っていないし、今は居候させてもらっている状態だ。

 アダムは流がテレパスを寄越してきたので、これ幸いと情報を金で売った。

 

『二人じゃどうしようもない時に限り、手を貸すから』

『そんなことは決して起こらないさ。僕は元神だよ?』

『いつでも神に成れますが?』

『……振込をしておくように』

 

 アダムは不機嫌そうに通話を切った。

 

「予想よりも早くティキの感情が育っているな。やっぱり愛という強い想いが促進させているのかな?」

 

 ティキに感情を与えた流だったが、アダムの話では既に人間と変わらないくらいの感情表現をするのだとか。流の予想ではもう少し遅いはずなのだが、やはり愛し合っている者同士が同じ屋根の下でいるなら、色々するだろうし、その行為によって発展したのかもしれない。

 

「先越された……はぁ」

 

 フィーネは知っていても、まともにカストディアンの情報を扱えない可能性が高い。そしてアダムも緊急で言わないといけないことは、既に言っている。

 流は新しい情報を得るべく、自室へとテレポートして、()()()()()()()()、ある場所へとテレポートした。

 

 

 **********

 

 

 流は全裸で外にテレポートした。

 

「…………」

 

『独り言言っても空気がねえから声出ないよね』

 

 流は今、宇宙空間にいた。

 何故こんな場所に来たのか? それは地球を監視するように常について回っている月を調べるためだ。

 

 カストディアンを調べるのなら、カストディアンの遺したモノを調べればいい。フロンティアもカストディアンの遺したモノだが、あれば一度了子と共に調べたことがあるが、宇宙船や月に干渉する機能があっても、カストディアンについては全くわからなかった。

 その月に干渉するというのも、月を操作できるわけではなく、エネルギーを送信することが出来るだけだ。

 

 そして少し前までの流だと、単独で月にまで来ることが出来なかった。だが、今回の事変の間に、流は全身デュランダルに任意でなれる様になり、宇宙空間に出ても理論上は破裂しなくなった。

 

 いきなり体全てでテレポートして、重力環境での生活のために作られたこの体が破裂しても困る。初めは腕だけを宇宙空間にゲート越しに向かわせたが、問題がなかったので、今日は身体ごとテレポートした。

 服を脱いだのは単純に服が邪魔になるし、宇宙空間なら全裸でいても怒られないからだ。

 最近は家でも()に怒られるので、全裸で居ることが出来ない。流はフィーネの教育によって、そちらの方が好ましく思うようになっているので、ちょっとだけストレスになっていた。

 

 流は錬金術の飛行を使って、カ・ディンギルでぶっ壊した月の中が見えている部分まで飛んだ。

 近くで月の遺跡をいろんな角度で観察してみた。

 

『うーん……やっぱり見てもわからんな。月の遺跡で分かっている事は、フォニックゲインなら月の遺跡にアクセス出来るってこと。そしてフォニックゲインは統一言語を再現しようとした産物。なら、統一言語でも操作できるはず』

 

 流はそのまま割れた表面から見える、月の遺跡の一部に触れようとしてやめた。

 

『対策なしで触れて、精神が吹き飛んだらたまったもんじゃないよな。バックアップを取っておくか』

 

 月の遺跡は基本的に流の敵だ。この奥には流の体にインストールされるはずだった人格もあるはず。

 流はソロモンの指輪に命じた。聖遺物とは統一言語で操るのが最も最適な道具だ。

 

『俺の精神を丸ごとバックアップを取ってくれ』

 

 流が命令してすぐ、バックアップが終わったことを何となく察する。

 

『次にこれから三十秒後に俺の精神を上書きしてくれ』

 

 精神を上書きして、無理やり復帰など危険以外の何者でもないが、今の状態でカストディアンが来てしまうと、アダムに対するフィーネのようになってしまう。

 絶対に初見殺しはあるだろうし、それで負けるのだけは勘弁して欲しい。

 

 流は指輪に命令してから、残りカウント十秒を切ったあたりで、月の遺跡のむき出しになっている場所に触れて、デュランダルで作り出したフォニックゲイン由来のエネルギーを流して、内部と接続した。

 

『あっ、やば……』

 

 流の体は神の力を使って、神のようなものになっても、頭の処理許容量に上限はある。肉体がある限り、その限界は付き物だ。

 そして流は月の遺跡に接続した瞬間、精神が焼き切られた。

 

 流の体は月から弾き出されるように離れ、地球の重力に従って、少しずつ地球へと落ちていく。

 

 三十秒経過。

 

 大気圏に入る前にソロモンの指輪はバックアップされた流の精神を、流の体に反映する。今回は流が事前にソロモンの指輪に命令していたことをデュランダルやソロモンの杖も理解しているので、特にリンクのつなぎ直しはなく、流は落下の勢いを止めた。

 

『……無理! アダム達はどうやって月の遺跡の掌握をしようとしたんだ? サンジェルマンは鼓星の神門の事くらいまでしか知らなかったみたいだし、アダムは喋らないし……月は現状放置だな。もし月が存在するだけでやばいのなら()()()()()()()()()()()

 

 流はさらりとフィーネが何千年以上掛けてたのに、最後は二人の男に止められた月をなくす事を、いつでも出来ることのように呟いた。

 流は地球を生身で宇宙から眺めるという、人体構造上絶対に無理なことをしながら、色々と考え事をしていると、セレナから錬金術のテレパスが飛んできた。

 

『流さーん! 聞こえますかー?』

『聞こえてるよなに?』

『なにじゃないですよ。調ちゃんが流に連絡が付かないって血相を変えて相談してきたんですよ?』

『……あー、今全裸だから端末持ってねえ』

 

 物理的に邪魔になるので、服を脱いだ時に、一緒に端末を置いてきたことを流は今思い出した。

 

『全裸って外ですか?』

『ああ』

『露出で捕まっても知りませんよ?』

『絶対に捕まらない場所にいるから大丈夫』

『……まあいいですけどね? 調ちゃんがレストランの予約がキャンセル待ちで今日空いたから、一緒に行きたいそうですよ? 前に行けなかったから、今回は張り切ってますね。カリオストロと不倫しに行ったレストラン』

『不倫じゃないですし。その言い方流行ってんの?』

『はい、割と』

 

 流はセレナとその後もテレパスで話ながら、シャワーを浴びたあと、調の元へ向かった。

 少し地球に近づきすぎたせいで、炎に体を包まれ、少し燃えたあとのような臭いがした。

 

 

 **********

 

 

「本当に似合ってる?」

「似合ってないなら初めから言ってるさ。俺が調に恥をかかせると思うか?」

「たまに意地悪するから」

「それは家とかS.O.N.G.でだけ」

 

 流と調はスカイタワー近くの有名なレストラン、通称流がカリオストロと不倫したレストランが入っているホテルに来ていた。そのエントランスで調は普段着ないような高い服を身にまとい、周りの人は大人だらけなため、少しだけ気後れしている。

 今の調は薄いピンクのロングドレスを着た正装でここにいる。髪は下ろしていて、百人に聞けば百人可愛いと返すであろうその容姿だが、調は自信が無い。

 

 前に翼やマリアがこういった服装をしていた時、とても大人に見えたし、堂々としていたので、どうしても調は克服しかけている人見知りが発動してしまっていた。

 

「流は私達がどんな格好でも可愛いって言う」

『言うけどね? 今は服装が調に合っているか、場違いじゃないかって聞いてるんでしょ? なら問題ないさ。どこからどう見てもお嬢様だ』

「わかった。信じる」

 

 流はずるいとは思うが、統一言語を使って言葉の裏まで伝えた。他の人が使えないのに、統一言語を正しく使えてずるいとは思ってはいない。ただ口で表現したいと思っているだけなので、調の不安を取り除けるならバンバン使うつもりだ。

 

 調は周りを見てから、控えめに手を差し出してきた。流はその手を取って、ゆっくりとエスコートしながら店の中に入っていく。

 

 調がおめかししているのを他の人達は目ざとく見つけ、楽しみにしていた調は今回のことを話した。その結果、響と未来を除いて、一人ずつとこういった場所に行く約束をすることになった。響と未来はセット。

 もちろん流はウェルカムなので、マナーを翼から学んでおくように指示を出しておいた。

 

 

 流がカリオストロと来た時と季節も変わり、前回とは違うプロの料理に舌鼓を打った。調とはもっぱらその料理の作り方から材料当てなんかをしていた。調が料理に合うならお酒を飲んでみたいと言い出したが、流はその流れで飲まされたらたまったものではないので、説得もせず拒否をした。

 流は酔うとキス魔になるという事を、流自身最近理解した。セレナが奏に聞いたことを間違って話したおかげで、流は理解することが出来た。そしてその時、流は奏はもちろん翼ともキスをしている可能性が出てきたが、その話はまた別の機会に。

 

「美味しかった。色んな調理方法があったし、私は臭みを生姜とかで消す方法ばかり使っていたけど、ソースで消すのもやってみる」

「意識してなくてもやってたけどね。調は基本的に和食の作り方がベースになってるし、その影響だね」

「……」

 

 調は流の言葉を聞いて、いきなり黙り込み始めた。流は調だっていきなり考えたいことも出来るだろうと放置していたが、数分経っても反応がないので声をかけることに。

 

「どうした?」

「私は昔の記憶がないのは知ってるよね?」

「ああ。前に教えてくれたもんな」

「私は確かに記憶はないけど、容姿で日本人だってわかる。記憶をなくす前の私は料理を学んでいたのかな?」

「……どういう事?」

「私は料理の勉強は流の家に住んでからした。でも、その前から結構料理が出来た。記憶が無いのに、体が覚えてるって言えばいいのかな」

「…………」

 

 流は調(しらべ)調(つき)神社の宮司さんの孫娘である事を知っている。だが、宮司さんの孫娘の調(つき)ちゃん自体は先日成仏した。

 調(しらべ)調(つき)は流からしたら、別の人間だ。だが、調が最近自分の過去を調べていることも知っている。きっと流が何かを知っているのではないか? と鎌をかけているのかもしれない。ただ単に疑問を口にしているだけかもしれない。

 

 だが、流はもう極力、危険なこと以外は皆に秘密を持ちたくない。

 

「調は記憶をなくす前の調について調べてるよね?」

「……うん、調べてる。やっぱり知ってるの?」

「ああ。知りたいか?」

 

 想いは人の精神を歪ませる。良い歪みもあれば悪い歪みもある。確かに調(つき)はもう成仏したが、流のように調(しらべ)は記憶を焼却させていない。ならば、なにかの拍子、例えば消える前の自分を知ったら、思い出すこともあるかもしれない。

 調(つき)の記憶を思い出した調(しらべ)がどうなるのか流にも分からない。

 

「知りたい……でも、流は嫌なんでしょ?」

「ああ。記憶、想いは人を変えるから。調は俺の事を好きでいてくれているけど、もし前の調が別の人をそれ以上に強く思っていた場合、調の中の好きという想いは歪む。俺は教えたくない」

「わかった。()()()()()()

「……なら?」

 

 まるで流が嫌がることを進んでするような言い方を調はした。

 

「流が私達への想いで強くなったのと同じように、私だって、流や皆の役に立ちたいっていう想いで頑張ってきた。昔の記憶を思い出したくらいで、今の私は揺るがない」

「はぁ。わかった。まず、調(しらべ)の元の名前は調(つき)って名前で、月神社の宮司さんの孫娘なんだ…………」

 

 それから調には流が調べて知ったことから、宮司さんと調(つき)を成仏させたことまで教えた。

 

「うん、思い出したよ、全部」

「……」

「でも、ツキの記憶は私の邪魔をしないでいてくれるみたい。何となく、ツキがそうしてくれたような気がする。それで、流は私といつ結婚してくれるの?」

 

 調が一瞬トランス状態みたいになったが、すぐにその目は元に戻り、調は流に笑いかけた。

 何故かツキが最後に流に調を幸せにしろ、結婚しろという割と無茶振りをした事まで思い出していた。

 

「あははは」

 

 流は策を考えるための時間を稼ぐために、とりあえず笑ってから、先ほどウェイターが持ってきた食後のコーヒーをひと口飲んだのだった。

 

「あれ? なんでブランデー入り?」

 

 流は酒に負けて、その場で意識を失った。




神の器なのに酒に弱いとかよく考えたら有り得なくね? って思ったけど、設定が思い浮かんだ。

シラベの邪魔をしない(影響がないとは言っていない)。
これについての補足は次回にでもします。

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