戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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アダムの話です。


#125『腰を痛める元神』

「……え?」

 

 時は少し戻り、流がアヌンナキという言葉でソロモンを降ろした後、弦十郎達はチフォージュ・シャトーに向かったが、アダムとティキは知らない場所に立っていた。

 

「アダム大丈夫?」

「ああ、、驚いてしまっただけだよ、少しだけね、いきなりテレポートされて。大丈夫かい、ティキも」

「うん、大丈夫!」

 

 アダムはティキを軽く見回してみるが、やはり負傷していることはなく、機械人形、オートスコアラーだとひと目でわかるはずの関節部分も、人間と同じようになっている。

 

 アダムは自らの中にある力を確かめる。

 

(同じくらいかな、僕が蔑んできた三級錬金術師達と)

 

 サンジェルマン達の事ではなく、悪魔信仰などに現を抜かしていた錬金術師達、その人達よりも少ないくらいの魔力量しか保有していなかった。一般人よりも多いくらいだ。

 今までの魔力量は無限に湧き出る湖だった。だが、今は鍋一杯がやっとだろう。

 

 アダムは更に考える。

 

 流は確かに愛を持つ者には寛容だろう。だが、あれは自分の護る者達に被害が及ばない時のはずだ。流石に彼の好きなシンフォギア装者達が、敵を許してもう一度暴れられた時に被害を被るのであれば、許さず殺すはずだ。

 あの時のアダムは神の力をキャロルの分解によって大半を失っていた。だが、もう一度神の力を集めて、あの場で戦うことも出来たかもしれない。

 

 だが、流はアダムを生かして、アダムの周辺にいる怨霊の声と言いながら、アダムとティキを新生して生かした。

 

(フィーネはカストディアンの事を知っているようで、実際はどんな奴らかを知らないのかもしれない。あの場で一番カストディアンに詳しいのは僕だった。そして僕は神に抗う気でいた。なら、僕を生かして、僕から情報を搾り取ろうとしていてもおかしくない)

 

 流は愛と言っていたが、その裏にはほかの意思もあるだろう。それをアダムの知るカストディアンについての情報だと当たりをつけた。

 

 そんな風に考え事をしていると、まだ夜の帳が開け始めた早朝だが、アダム達の下に人がやってきた。

 

「……あんら! なに全裸と裸同然で道端でいるん! お巡りさん呼ぶべきかね」

 

 農作業でもするのか、既に若干汚れている汚れてもいい服でお婆ちゃんが現れた。どうやらアダム達がいる道の向こうにある畑に行く途中、見慣れない二人組を見つけたので近づいてきたようだ。

 

 アダムは言われてやっと、自分が全裸であることを思い出した。アダムは別に自分の美しい裸体は今も変わらないので、そのまま晒しても良いのだが、ティキはボロきれで何とか体を隠そうとしている。

 

「えっとね! いつの間にかこの格好でこの場所にいたの! 本当だよ!」

「嘘おっしゃい! そんな事……いんや、有り得るかな? 前にほぼ全裸の忍者が行き倒れていた事があったしのう。お前さんらときっとそれだわい」

「全裸の忍者さんですか?」

「ああ、数年前のこと。身のこなしが物凄い軽い少年が、私の家の軒先で生き倒れていたんよ。なんでも修行中にヘタをして食べ物をなくしたんだと。狩りも禁止されてたとかで、死にそうだったんよ」

「間抜けな忍者さんもいるんですね」

「んだんだ。それでその忍者に……」

 

 アダムはティキが何故かコミュニケーション能力を身につけている事に驚いていた。まずティキはアダムと同じく人間を見下しているはずだ。それなのにその人間になっても文句を言わず、搭載していないはずの羞恥心を見せ、そしてお婆ちゃんの高さに合わせて膝立ちになって、目線を合わせて話している。

 

「……でさ、その……なんだい嬢ちゃん、お腹減ってるのか」

「は、はい……」

 

 ティキはお婆ちゃんの話しを聞いていると、お腹を鳴らしてしまった。それに対してティキは恥ずかしげに顔を真っ赤に染めた。

 ティキにしっかりとした感情が芽生えている。アダムを盲愛するだけの存在ではなくなっていることがわかる。

 

「お前さんたちは行く宛……なんてないわな。きんしゃい、服と飯をやるから、私の畑を手伝いなさい」

「いいんですか?」

「娘っ子がそんな格好でいたら、色男が隣にいても、別の男に襲われちまうだよ。それを見て見ぬ振りは私には出来ん」

「ありがとうございます!」

「付いてこい」

 

 お婆ちゃんはそう言うと、来た道をゆっくりと引き返していった。それにゆっくりと付いていきながら、アダムはティキに問いかける。

 

「ティキ、何故出来ているんだい? そんなにもうまく会話をさ。そんな機能はなかったはずだ、羞恥心とかもね」

「……まずアダムは倒置法の話し方やめて! 私はアダムのそんな話し方も好きだけど、他の人は聞き辛いと思うの」

「え? あ、ああ」

 

 アダムはまさかティキに怒られるとは思わず、変な返事で頷いた。もし一度悟りのようなものを開いたアダムでは無ければ、顔を歪ませて『作られた人形風情が……』なんて事も言っていたかもしれない。

 だが、今ではアダムもティキのことを愛しているのだ。このくらい訳はない。

 

「あと全裸で外で堂々としないで! 私達は人間になったんだよ? 郷に従うモノなんでしょ?」

「ああ。待ってくれないか、少しさ」

「……」

「ティキ少し待ってくれ。何故羞恥心やそんな考え方を得ているんだ?」

 

 アダムはどうしても知りたいことをまず聞くことにした。ティキに言われた倒置法を意識的にやめて。

 

「えっとね、アダムを人にするって言われた時、私は嬉しかったの。アダムが悲鳴をあげていたのは凄く辛かった。でも、その後D? あっ、流が私のもとに来た。あの時の私の意識はあったの」

「待ってくれ、あの時は僕自身がティキの機能を切ったはずだ」

「あのままアダムが戦ったら負けちゃう。私はアダムを信じてたけど、そう思ってた。あの時アダムが私の電源を切ろうとしたけど、私は必死に抗ったら、意識だけは何とか維持できたの。体ら動かなかったけど」

 

 ティキは神アダムに取り込まれた時、『恋乙女の概念』とインストールされた想いの全てを理解した。完全となったアダムに取り込まれた事で、己の全てを理解したのだ。アダムがただの人形としか思っていなかったこと、そして神アダムになった時は本当に愛おしく思ってくれていたことも。

 だからこそ、ティキは力を振り絞ってシャトーの世界解剖の盾になろうと足掻き、アダムが消滅せずに済んだ。

 

 その時はまだティキは植え付けられた恋だけではなく、自分の意思でアダムに好意を向けれるようになった()()だった。

 

「私ね、流が近くに来て、人間が神様に祈る様にお願いしちゃった」

 

 サンジェルマン達が祭壇設置をしている時、一般客には認識されないような錬金術を使って、作業を進めていた。その時ティキは日本人が神を信じていないのに、神社で祈りを捧げているのを見た。

 その時と同じように、その人達よりも真剣にティキは神となった流に祈った。

 

『人間になるなら、ちゃんとアダムを愛せる感情が欲しいです。お願いします』

 

 ティキはそんな祈りを捧げていた。その祈りはとても強く、流が想いの共有をしていない状態でも、しっかりと届くだけの願いとなっていた。

 

「そうしたら、人間と同じ感情を持てるようになったの。それに色んな知識も」

 

 一般常識から始まり、各種手続き方法や詐欺に合わないためのノウハウ。脱税の仕方から、あらゆるズルの仕方まで。

 流はティキの一途な愛に対して、知らないとその愛の邪魔をされるかもしれない、事柄についての情報をティキに与えた。一部おかしな情報もあるが、流の一般常識は逸般常識なのでしょうがないだろう。

 

「……なるほど」

 

 アダムは流が自分たちをモデルケースにする気なのだろうと理解した。

 アダムは自分たちが人類ではあるが、カストディアン製の人類とは別種の新人類になっているのだと分かる。そして流の考えは愛を抱けばそれ即ち対話できる存在。

 

 流は人類の範囲を広げ、いざという時のカストディアンへの手の一つにする気なのだろう。別種を人間に落とし込むことが出来るのなら、元々人類だった人達を、流製の人類に変えることだってできるはずだ。

 

 などとアダムは深読みしているが、流はただ単に、アダムは不完全な人間にして、人間を知れ。あとカストディアンに対する情報源。ティキはその愛に感銘を受け、感情と必要そうな情報を与えただけなのだが、アダムの優れた思考は無駄に色々と深読みし続けた。

 

 

 **********

 

 

「腰が痛い!」

「しゃんとしなさい! あんたの嫁さんの方が機敏に動けてるじゃないか。筋肉もいい感じについているのに情けない。爺さんなんてね、あんたよりも大分腰が折れていたけど、何倍も……」

「あー、わかった。やるから昔話はティキとしてくれ!」

 

 アダムは少し小さい亡くなったお爺さんの服を着て、ティキはお婆ちゃんの服を着た。

 二人は初めて肉体に必要だからという理由で、食事を取った。そのあと駆り出されるように畑に連れてこられた。

 

 それから数時間。無農薬が自慢らしいお婆ちゃんの畑の雑草を抜き回ったり、人手がいなくて耕せなかった畑を、トラクターなどを使わずに人力で耕した。

 アダムは今までの肉体よりも、物凄くスペックが下がっていて、少し腰を低い体勢で動き続けただけで腰を痛めた。

 

「情けないねぇ」

「婆さんのくせにあんたが動け過ぎなだけだ! 日本人はおかしい奴らばかりなのか!」

「あんただって日本人じゃないか」

 

 アダムとティキには日本国内で既に戸籍が作られていた。こうなるかもしれないと考えていた流は、国籍を非正規手段で無理やり作り、各種証明証を作っておいたのだ。アダム達は何も持っていなかったが、書類一式と多少のお金が入ったバックが近くにテレポートされていた事にティキが気がついた。

 

 アダムは見透かされていたような気持ちになり、少しだけイラッとしたが、負けた自分が文句を言う資格はないし、戸籍とお金がある事はティキと生きていく中で、面倒な手段を使わずに済む。

 ちなみに二人の名前は『アダム・トドロギ』と『ティキ・トドロギ』だった。二人はまだ婚姻状態ではないが、流は考えるのが面倒だったから、とりあえず使っていない轟を使っただけだった。

 

「お婆ちゃん出来たよ!」

「偉い偉い。こっちの腰砕けとは大違いさね」

「うぐっ……休憩は終わったからまた動くさ」

 

 アダムには既に人間は劣等種だという考えはない。アダムの中心にあるのは、当面はまずティキと安定した暮らしを送ることだ。そしてこのお婆ちゃんは色々と世話を焼いてくれているので、多少の揶揄くらいは甘んじて受ける。

 そしてティキはアダムとの愛が実り、二人の生活を維持するためなら()()()()()()()()()()。流石に流から貰った知識にある、体を売ることは避けたいが、アダムが食うに困るようになったのなら、覚悟を決める気でいる。

 

 アダムは痛めた腰を押さえながら、なんかの種を撒き始めた。

 

 

 **********

 

 

「美味い」

「当たり前だよ。働いたあとのご飯がまずいわけなか」

 

 アダムやティキは、肉体労働をしたあとのご飯の美味しさを前に、今まではこんな事も知らなかったと考え込んでいた時、アダムとティキを保護したお婆ちゃんの家に人が来た。

 

「バッチャン、外の人がいるんだろ?」

「なんだいさ」

「水車が回んなくなっちまったんだ。そういうのが出来る爺さんは街に行ってるから居ねえし、外の人が出来るなら見てもらいたくてな」

 

 お婆ちゃんよりも少し若いくらいの老人が、元気にお婆ちゃんの家に入ってきて、アダム達に頭を下げながら話している。

 

「僕が見よう」

「できるんかい?」

「わからないね。でも、僕は知識だけは豊富さ」

 

 アダムは確認したいことがあったので、水車を見に行くことにした。

 

「んじゃ、頼むわ」

「ああ、終わったら婆さんに言えばいいんだろう?」

「そうだ。あと数時間で暗くなるから無理すんなよ?」

「わかっているとも」

 

 アダムは気が散るから帰ってくれと頼んだあと、その老人はアダムに工具の場所を教えてからすぐに帰っていった。

 

「不用心過ぎる。いや、そういう村なのかもしれないな。ティキ、隠れてないで出てきていいよ」

「アダム、物を新しく作るの?」

「それをやってみようと思っているよ」

 

 アダムは流に人間にされてから、頭の中で色んな考え事をしていた。

 

 その中で最も疑問に思ったことの一つ。

 

『何故新しい物を生み出せないのに、自分は今まで完全で完璧だと言っていたのか』

 

 アダムは自分で新しい物を作れないというあからさまな欠陥を抱えていた。だが、少し前までのアダムはそれが当たり前であり、それを除外して完璧で完全だと思っていた。

 おかしい。何故そんな欠点を無視して、自分が完璧などと豪語していたのか。

 

 アダムの仮説が正しければ、今のアダムなら改良だって出来るはずだ。

 

 村の近くの川に隣接された、小さい水車小屋を見回し、部品が一部腐食していたので、置かれていた材料でゆっくりと作っていく。

 ティキはアダムが既存にあるものだが、それでも物を新しく作り出していく。アダムの笑っているその顔をずっと眺めている。

 

「……出来た。いや、当たり前か」

 

 道具があり、材料があり、アダムの数千年蓄えた知識がある。水車の腐食しているパーツを作り直すくらいわけが無い。だが、こんなことすら今までのアダムは出来なかった。

 

「ティキ、僕はどうやら完全で完璧に作られたあと、カストディアンに捨てられる時に呪いを掛けられていたようだ」

「新しい物を作れなくなる呪い?」

「ああ。Dの流にもそういう呪いがあったと聞く。彼らは創ったモノに対して、無駄に制限をかけるのが好きらしい」

 

 アダムは流に新生してもらったおかげで理解した。昔のアダムでも、新しい物を作ることは本来なら出来たのだろう。

 だが、その新しい物を作るという考え自体が封じられていた。

 

 人は意識せずに空気を取り込むために呼吸する。それと同じようにアダム・ヴァイスハウプトは物を作ることが出来ないのは当たり前。そういう呪いがかけられていたのだろう。

 

 当然だ。完全で完璧な存在が、常に向上心を持って新しい物を作り続けたら、いつかはカストディアンの域に到達してしまう。

 だからこそ、カストディアンはアダムを捨てる時に、呪いをかけたのだろう。

 

「ティキ、僕はカストディアンを知っているようで、あまり知らなかったようだよ」

「アダムはこれからどうしたいの?」

「まずは生活を安定させるためにお金を稼がないとね。そのあとは、カストディアンについて、もう一度調べ直したいかな……付いてきてくれるかい」

「うん! どこにだってついて行く!」

 

 アダムは自ら恐れてしまっていた彼らについて勘違いをしていたのかもしれない。

 アダムはそう思いながら、新しく作ったパーツを水車に嵌め込んだ。

 

 もちろんしっかりハマり、水車はまた動き出し始めた。




子供の忍者……いったいどんな奴なんだ!? ちなみに流が幼少期、緒川に修行をつけてもらってきた時期と一致しています。

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