アダムは地面に倒れ、ディバインウェポンのメインパーツとなっていたティキは胸の下を破壊され、上半身と下半身に別れて地に落ちた。
アダムは今回の敗北をその身に刻む。
フィーネの時は自分の実力を出し切れずに負けた、フィーネがカストディアンの巫女だから負けたなど、本来の戦いが出来ていれば負けることは無かったと思って
だが、今回の戦いでアダムは真に敗北し、自分の完全性を自ら否定した。
「……ああ、これが敗北か」
「お前の負けだ、アダム」
ディバインウェポンはティキを失ったことにより、その巨大な部分を神の力へと戻して宙を漂っている。ティキが包み込まれていた神の力が最も凝縮された結晶の欠片はそこらに落ちている。
「清々しいものだな、負けを認めるというのは」
「……どうでもいいわ。お前は殺す」
愛無き者には改心の余地なし。アダムの蛮行はカリオストロとプレラーティをボコボコにした時、一度見逃している。流は仏でもないので、一度しか見逃さない。諸葛孔明のように捉えた敵を三回も見逃すほど人も出来ていない。
流は身体構造の違うアダムでも顔面を破壊すれば壊れるだろうと当たりをつけ、倒れているアダムに拳を構える。
「アダ、ム。痛、いよ……ア、ダム、ど、こ?」
体の半分以上壊されたティキは、都合のいい人形としか思われていないのに、それでもアダムを愛するために呼び続ける。
「……流、話したいことがあるんだ、僕は君に。聞いてくれないか? 死ぬ前にさ」
蛮行一度目の敵ならば聞いてやるし、装者達を傷つけていない存在ならば、このタイミングでもいつもの流なら聞いてあげる。しかしアダムはやり過ぎた……だが。
「いいだろう」
『流さん!? アダムは何をしてくるか分からない敵なんですよ!』
『ティキの愛に免じて、辞世の句くらいは言わせてやるだけだから』
『……そうですか』
セレナと奏以外は聞いてはいるが、慈悲なしの流を見たことがない。逆にセレナと奏は一度見逃した敵、身内に引き入れる気のない敵を即倒さない流に違和感を覚える。
流はたまに遊ぶ癖があるが、それは自分しかいない時だけだ。なのに今は装者がいるのにこのような行動を取った。
「……ありがたいねぇ。だけど、見せない方がいいよ、カストディアンにはね。もうすぐ彼らは来る、この地球にさ。その時は消し去った方がいいよ、ヨナルデパズトーリのように、黄金錬成のようにね」
「そんなにカストディアンは強いのか?」
「分からないんだ、僕は。彼らを理解出来なかったからね。でも、生みだした存在なんだよ、彼らが人類を。完全で完璧
アダムは言葉にすることによって今までにはない感覚を覚える。敗北を認め、その敗北を活かそうとする成長の兆し。
アダムが変わりつつある中、流も変わりつつあった。神の力を拒絶している流であったが、神の力の中にあるある意思が流へ流れこもうとしている。その力は濃度を薄め、知覚されないほど希薄になって、流に少しずつ流れ込んでいる。
「聞いてもいいかい、愛という感情について。分からないんだ、僕は。でも、原動力なんだろう? 君にとっては」
「……そうだな。
見守っていた装者達の中で、今の言葉の意味を理解している奏は流の下へ一気に近づき、流の記憶の共有を止めさせるためにぶん殴った。
流は奏達の痛みの愛を拒絶しないので、そのまま吹き飛ばされて地面を転がった。
「馬鹿野郎! 自分で言ってたじゃねえか! 俺の力の源は愛だって。なんで力の源を与えようとしてるんだよ!」
「……あー、そうだな。すまん。油断してた」
「油断? いやいや、それは見下しているだけだ。やめろ!」
「ごめん」
一気に変えると流本人にバレてしまうので、少しずつ流を変えるように方針を変えたある意思だが、それは周りの少女達によって
流は頭を下げてからまたアダムの側へ行く。奏はすぐ側で流がまだ馬鹿をしないか監視をして、クリスやマリアは壊れかけのティキをすぐに倒せるように構えている。
その時翼や調と切歌がこの場に着いた。未来はそこにはいなかったが、まだ宝物庫の中にいるのだろう。
「……あははは、ぶん殴られるんだね、圧倒的強者である君が」
「これも愛だ」
「分からないよ。自分よりも下等だと思っていた存在に対して、それだけの想いを抱けるなんてさ」
アダムは時間稼ぎが完了した。心の整理という名のアダムの覚醒の準備が完成してしまった。そしてアダムは想いを神のように知覚するであろう流に、悟られぬのように隠蔽していたので流も気が付かなかった。
「古今東西、言われているんだ、神が信仰を集めると」
「……」
「だけど既に死に絶えている、人類が神と呼ぶ存在は。そしてカストディアンが信仰を集めていたか分からない、僕にはさ」
「集めてんじゃねえの? もし集めてなかったのなら、ただの構ってちゃんだな。構おうとし過ぎれば呪いをかけて逃げる徹底ぶりだし」
「……そうか、集めていたんだね、
流は自分が
流が拒絶して殆どの神の力は空中に漂っていた。ティキは半壊しているため器足りえない。
神の力を受け取る権利のあるものは、魂に原罪と呼ばれているバラルの呪詛がない者にしか受け取れない。
流はまずこの世界の魂ではないので原罪はなく、それ以前に今は魂がない。ティキは魂がなく、恋乙女の概念が魂の役割をしていて神の力を受け取れる。
そして未来の想いでブーストした神獣鏡の凶祓いを受け、魂に刻まれた原罪を浄化、消し去ってしまった響にも神の力は
ある日の夕方、響が流の地雷を踏んで一度だけソロモンが表に出てきたことがある。その時、原罪のない響を認識し、このままでは神の力の器にされてしまい、その事件のせいで流が壊れたら堪らないので、彼が偽りの原罪を植え付けていた。そのおかげで響に神の力は寄り付かない。
宿り木のない神の力は宙に浮かんでいたが、流がアダムが言っている意味を理解し、殺そうとした時にはその力はアダムの元へ殺到した。
流が動き出した瞬間、アダムから放たれた強烈な力の放流を受け、後方へと吹き飛ばされる。
少し離れていた装者達はその場で踏ん張るのが限界だった。ティキは踏ん張ることも出来ず、遠くに吹き飛ばされていった。
「想いは力だったね、流が言うにはさ。なら、僕もそれを使うとしよう、悪魔として崇められている、この僕への信仰という想いを!!」
アダムの周りに神の力である赤い光が集まり、アダム本人が見えないくらい光り輝く。
「奇しくも同じ姿だったんだ、僕の本当の姿は、偶像の悪魔とね! ひどいと思わないかい? 完璧で完全なはずのあの姿を悪魔とするなんてさ。だけど、今は感謝しているよ、先程死んでいった信者も、そして世界で神を憎み、悪魔こそが神であると祈ってくれている人類を!」
流が神の力を拒絶していたように、アダムも自分の本当の姿が嫌いだ。自分の同族はおらず、人間しかいない環境で生きてきたアダムは、その感性も人間に近づいていたのだ。見下していた人間と同じ感情があるのも、環境によるものだろう。
あの悪魔の姿は醜く、決して人には見せてはいけない自分ではない姿。そう彼は思っていた。
だが、フィーネがまだ生きていることを知り、力を求めて、角を戴くあの悪魔のような姿を利用しようとし、利用した姿を悪魔崇拝の人々に見られた。
その人達のネットワークによって、悪魔を崇拝している数々の組織、そして神を憎む沢山の同志に『アダム・ヴァイスハウプトこそが我々が崇めていた本人である』という情報が一気に広まった。証拠付きで。
その結果、この世界の悪魔を信仰する人達はアダムイコール悪魔という想いが発生し、その想いは何千年と悪魔信仰によって溜まってきた信仰という想いがアダムに力を与えた。
そして悪魔と天使は表裏一体であり、天使と神は同一視される事が多い。その考えは現代には色濃く残っていて、悪魔であるアダムは天使でもあり、天使であるアダムは神でもある。
アダムはフィーネによって挫折を知り、流によって完全性を否定され、自らの本当の姿を受け入れたことにより、悪魔信仰により発生していた想いの力、そして同一視による影響で神の器にも昇華し、神の力を扱える存在に進化した。
「感謝しなくちゃね、人間達にはさ。好きになれたかもしれないよ、僕自身の本当の姿を!!」
アダムに集まっていた光が、ティキがディバインウェポンになった時と同じように辺りに拡散された。
そこから現れたのは金と黒の角を生やした存在、偶像のバフォメットに似た姿をしたアダムがいた。
本来のアダムの姿よりも、更に禍々しく、大きく、そして鋭く、神をも喰らえるほどの圧倒的なオーラを纏ってそこにいた。
「僕は堕ちたんだ、完全から不完全へと……いいや、初めから不完全だったのかもしれない、人間と同じね。でも、だからこそ! 僕は新たなる力を手にいれた、学習し、そして発展させた!!」
「……人の姿を捨て去ってまで」
「何をするつもり?」
アダムが叫ぶだけで地が揺れる。
本来の悪魔の姿のアダムではここまでの力はなかった。アダムのある思想がなかったら、悪魔崇拝をする人達の想いとここまで適合し、力を引き出せなかっただろう。
悪魔崇拝は神を滅殺し、自分たちの崇める悪魔の統一を願っている。アダムはカストディアンという神の支配から解き放たれ、来たるべきカストディアンの進行に対抗するために力を求めた。想いに違いはあれど、意味が同じであったが故に、アダムは強大な力を得れた。
「何のつもりだだと? 君たちは! 相手の正義すら知らずに、倒そうとしていたとでもいうのか! 彼ら、カストディアンが再びこの地に現れ、創造物の全てを支配しようとする。その時、カストディアンに対抗するために、僕は! 力を求めていた!!」
「カストディアンが来るなんて言葉を信じられるわけがないでしょう!」
「全てはフィーネのせいじゃないか! もっと遅かったはずなんだ、カストディアンがこの地に来るのは! 彼女が月に干渉しなければ、こんなにも早急な計画を進行せずに済んだはずなのに!」
「黙ってろ嘘つき」
アダムは自らに正義があると叫んだが、流の大声で無理やり話が途切れた。
「お前はママが居なくても、人類を支配しようとしただろう? そしてお前は皆を傷つけようとした。お前にどんな正義があっても関係ない。俺は別に正しさを求めないしな。皆を惑わしてんじゃねえよ。お前は敵で、俺達が倒す!!」
流は言っていた通り正義を求めてない。ただ皆と楽しく平和に暮らしたいだけだ。その為なら暗殺だって皆殺しだってやる。
流はスタートにもデュランダルのエネルギーを噴出させてトップスピードで動き出し、直線的動きにならないように、注意しつつアダムの懐に移動した。
「ハアアアアア!!」
そして今出せる全力でアダムを殴り、アダムもその拳に合わせるように拳を放ってきた。
「ガハッ!」
今回吹き飛ばされたのはアダム……ではなく流だった。
「流! 力押しなんてしようとしてんじゃねえ!……何笑ってんの? いや、言わなくてもいい。この場面で流が笑っているのはアホな事を考えているからだって分かるから」
吹き飛ばされた流を空を駆けて追いついた奏がキャッチする。
キャッチされた流は奏にキャッチされたから嬉しいわけではなく、力のゴリ押しでは倒せない敵が現れたことに笑顔を咲かせていた。
「いいじゃん。皆! アダムは物凄いパワーがあって、スピードもあるけど、父さん程ではない! よく見極めて攻撃してくれ!」
皆がいなければ流はタイマンで戦いたいが、それは装者達が望むことではない。本気で戦いたいだけなら弦十郎もいるので、流は素直に協力して倒すことにした。
「クリスはアダムの顔を狙って! 響とマリアは連携して攻めてくれ! 調は……わかるね? 切歌は無理をせず、翼と共に! 絶対に一人では攻撃を喰らわないように、ダメージは相当だ! 奏は俺に合わせてくれ」
流の言葉に皆が一様に返事をしてから、第2ラウンドが始まった。
「集中させないさ、僕だけにはね!」
アダムは周りにアルカノイズをばら撒き、神社の外へと進行するように指示を出した。アダムが今警戒しないといけないのは響と奏だ。
「……数ならあたしが!」
「いいえ、クリスはアダムに集中なさい。アルカノイズは我々、オートスコアラーが殲滅しましょう」
最も多数に有利なクリスが戦線から外れようとしたが、今度はキャロルのオートスコアラーである、ファラにミカ、レイアとガリィがテレポートしてきた。
先程からアダムはテレポート阻害をしているのに、敵は錬金術ではないテレポートをしてきているので、その阻害を停止させて戦闘力に還元した。
ファラは扱い慣れてきたプロト・デュランダルと風の錬金術を使い、ミカは飛行型ノイズ鳥に跨ってカーボンロッドを乱れ打ち。レイアはファラの背中を守るようにトンファーとコイン打ちで対応し、ガリィは敵が抜けそうな所を潰している。
「まあいい。全て僕が倒せばいいことさ」
「「ハァ!」」
「どんだけ硬てえんだ!」
翼と切歌が左右から斬りつけるが、アダムはそれを見た目にそぐわぬ軽快さで避ける。クリスの数だけの銃撃はアダムの皮膚を貫通しない。ミサイルなどならダメージは多少通るだろうが、皆がいて使えない。
「うざったいんだよ!」
「効かないなら嫌がらせに専念するべきだろう?」
「私もそれを」
流はひたすら宝物庫テレポートを駆使して、アダムの顔面や関節などの殴られると動きが阻害される場所を、拳ではなく発勁で内部にダメージを与えていく。ほとんど体にダメージは残らないが、少しでも痛みを与えれば集中は分散される。
発勁などが使えないが、的確にアダムの関節を調は和装状態で使える手裏剣で斬りつける。影縫いなどは効かなかったので、地味な嫌がらせを続ける。
「貴様らはまず殺す」
「させないわよ!」
「私の拳でぶち抜く!」
「再生しても痛てぇもんは痛いもんな!」
アダムはほとんどの人を無視しているが、響と奏には殺意がマシマシだ。
アダムの攻撃はマリアが力を流して受け流し、一人では無理そうな時は流や調も手伝う。
そして皆が作った隙に奏と響が、槍と拳を突き立てる。
奏の槍はアダムの腕で弾き飛ばせたが、響の拳はアダムの悪魔のような尻尾で受けとめて……その尻尾は吹き飛ばされた。
「クソ! だが、すぐに再生……しない!?」
「……響をメインアタッカーに! ひたすらアダムの動きをみんなは阻害!」
アダムはディバインウェポンの時と同じように、平行世界にダメージを移したが、奏のガングニールとは異なり、尻尾が修復されなかった。
「ふざけるな! それは神殺しの力ではない! いったい何だ!」
「そんなことはどうでもいい! 私は皆を守るんだああああ!!」
全員がアダムの行動阻害に全力を尽くした。いくらアダムが威力もスピードも相当なものでも、ここにいる人達を捌ききるには手が足りない。
アダムのガードを奏が崩し、そして響がアダムに向けて右腕のギアを巨大化させてぶん殴った。だが、
「……もうそれは学習して、乗り越えたよ」
「ガッ!」
だが、アダムは神の防御機構によって、ガングニールの神殺し、そして響のダメージを残せた何かしらの力に対する抵抗を付け、逆に響を殴り飛ばした。
「……ぐっ」
流は響に任せたがばかりに、響がぶん殴られてしまった。それにキレて、更なる力を求めようとした。
『流さん、そんな力を求めては駄目です』
霊体のセレナが流を抱きしめ、ゆっくりとその怒りを押さえつけた。もし飲み込まれていたら、流も奇形の化け物になっていただろう……例えば赤き龍などに。
「無くなってしまったね、君たちの攻撃手段が! さあ、どうする? 殺されてもいいよ、このまま何も出来ずにさ!! あははははははは!!」
アダムは学習出来た事への喜びから高笑いをあげた。だが実際、アダムに攻撃を与えられる手段はもう無いのだ。いや、なかった。
「それはどうでしょう、局長」
「なっ!? サンジェルマンンンンンン!!」
高笑いしていたアダムの横にサンジェルマンが現れて、赤く輝く銃弾をサンジェルマンのスペルキャスターで撃ち込んだ。
アダムは目の前の敵に全力で戦うために、無駄なテレポート阻害を切った。敵を侮らなくなった結果、サンジェルマンのテレポートを許してしまったのだ。
流が微妙に慢心し始めた結果、敵の覚醒を許しました。慢心した理由は後日。
あと覚醒アダムの力やスピードが弦十郎よりも低いというのは、流が言っただけです。実際は速度とパワーだけなら弦十郎を超えています。