「俺が出る!」
「待ってください! 司令が出るのは!」
「あれは風鳴の問題だ。緒川、頼んだぞ」
「……わかりました」
流達が出撃したあと、他に寝ている装者達を起こし、説明をして既に現場へ向かっている。
弦十郎などの大人は流が開いた宝物庫経由のテレポートは使えないが、テレポートジェムですぐに本部へと戻ってきた。
了子はやる事があると言ってどこかへ消え、弦十郎はアダムと戦う流と奏のコンビネーション、久しぶりのその二人の動きを見て、年甲斐も無く涙ぐんでしまっていたところに訃堂の乱入。そして息子を斬りつけた。
弦十郎はこれを風鳴の問題とし、インカムやその他遠隔通信の道具を持って
「司令が公道を全力で走ると道が陥没して修繕が……緊急時ですからしょうがないですけど、また仕事が増えてしまいましたね」
「流くんが戦う許可は今回取らなくていいですけど、司令が戦う許可は降りないんですけど! どうすればいいんですか!」
「頑張ってください」
国連に問い合せても、司令の襲撃の許可を得られず、風鳴訃堂が出てきたから出撃したとも報告できず、藤尭は叫んでいた。
**********
流は訃堂登場の言葉を聞いて、あることを確信した。
「お前誰だ?」
「は?……ああ、そういう事か。訃堂は何者かに乗っ取られてるってことか!」
流はこの訃堂の言葉に正義を感じなかった。
訃堂はやってることを客観的に見て、流よりも人間性の面で屑だ。しかし訃堂は国防、そしてこの日本という大きな区切りで考えれば居なくてはならないほど有能な人物だ。
その訃堂は言葉の一つ一つに基本的に力強さ、自分の正義を抱いている。翼の事になるとその強さが少し弱くなるが、国防観点から見れば本当に必要な人材だ。
だが、目の前の男は訃堂の見た目をしているのに、人間性を捨てた正義を感じず、ただ不気味な雰囲気のみしか感じ取ることが出来ない。
「……危なかったよ。そのまま死んでしまうところだった、変に納得してね」
アダムは流が離れたため、すぐに起き上がり距離を話した。流のおかげで完全が成長できることを悟り、そのまま逝来そうになったが尚更この場で死ぬわけにはいかない。
「ふむ、アダム・ヴァイスハウプトか。よし、君は神の力の創造をやりたまえ。儂がこの二人の相手をしておいてやる」
「風鳴訃堂……ありえない共闘だね、本来ならば。でも、乗ってやろうじゃないか」
訃堂がアダムの援護をする宣言をして、アダムは流達の側から離れようとした。
「させねえよ!」
「いいや、させるさ」
流はアダムが戦線から離脱する事を許すわけがなく、まだダメージが抜け切ってないアダムに接近し拳を放つ。だが、鏡が流の前に立ちはだかりその拳を止めた。
「……デュランダルの拳を止めて平然としてるとかやめろよ」
「D! 折ってやろうじゃないか、君のそのカストディアンへの慢心を!」
アダムはそれだけ言うと神社の奥へと逃げていった。
奏はその間訃堂を観察していた。長い太刀は流すらも斬る切れ味、基本的に神獣鏡くらいの大きさでサイズが変わり、流の拳も奏のガングニールの槍も防ぐ鏡、そして訃堂の周りを周回している勾玉。その勾玉をずっと観察していたが、どんな力があるのかは分からなかった。
流は何度か鏡を殴るがびくともしない。無意味だと悟ると、すぐに後退して奏の元まで戻る。
「それで? お前は何者だよ。訃堂じゃねえだろお前」
「いいや、儂は風鳴訃堂、その本人だ」
「嘘つく意味なんてねえだろ! 訃堂はそんな風に邪悪な笑みを浮べながら、国防を害そうとする奴を行かせたりしねえよ。国防に得ならその笑みを浮かべるけどさ!」
「……まあ、そうだわな。訃堂はそういう人間だ。
訃堂は流という力を見つけた時、そして流と契約をした時に悪役が浮かべるような顔をした。しかしそれも全て国防を磐石させたいが為だ。だが、この訃堂はアダムを逃がしたのにその時と同じ顔で笑っていた。
「流!」
「済まない、遅れ……何故貴方がここに!」
流や奏はいつでも対応できるように構えていると、後ろからクリスと翼の声が聞こえた。そちらには振り向けないので、耳を向けたまま訃堂を見ていたのだがその訃堂の表情が笑顔になった。
「翼! 翼じゃないか! ああ、本当に良かったよ。訃堂が勝手にDなんかに手を出す権利を与えやがったから、ヒヤヒヤしてたんだよ。手を出されていないようで、本当に良かった!」
芝居がかったモーションで、その訃堂は翼が流に手を出されていないことを喜んだ。
「……流、奏、あれ誰?」
「さあ?」
「誰何してるんだけど答えねえんだよ」
「なんだい? 翼も気になっていたのか、それなら答えてあげないとね」
この訃堂には既に翼しか見えていない。それくらい執着している。
「……いや、俺を語る前に翼は風鳴とは何なのかを知っているかい?」
「知らん!」
「そうだろう。訃堂はどうせ語らないからな」
訃堂の見た目をした何かは周りを滑空している鏡を椅子替わりにして座り、風鳴について語ろうとした。
「ふんっ!」
「やめろ。天羽奏程度では俺には勝てん」
奏は防御をしていた鏡に座った訃堂にガングニールを投擲したが、素手でガングニールの槍を吹き飛ばされた。槍は主の元へ帰るように戻ってきたが、あの訃堂は身体能力までも流や弦十郎並になっているようだ。
勾玉がそういう効果なのか? と流と奏は憶測を立てた。
「まず何故フィーネがカ・ディンギルをこの日本に建造したのか。何故フロンティアが日本近海にあったのか。何故レイラインがこんなにも集中しているのか。何故パヴァリアは神の力を創造するのにこの地を選んだのか……これらは全てこの地にカストディアンが降り立ち、この日ノ本の地をカストディアンを崇める地として作り上げたからだ」
「……で?」
「Dは黙っていろ。翼に聞かせている。Dはこの地で神々に届きうる技術の破壊者、そして器となるべく造り上げられた。それと同じようにある使命を帯びて、先史文明期からずっと同じ血族がある地を治めている」
ここにいる皆も、マイク越しに聞いている本部も、弦十郎も、そしてある場所から聞いている了子も言いたいことがわかった。
日本の話をしたあとの、ずっと続いているとされている血族など一つしかない。
「帝……」
「そう、この国の象徴たる天皇家……ではない! 我らに流れる風鳴の血だよ」
「……それはどういう?」
「風鳴は元々この地を守る為に造り上げられた血族。この地を守り、いつか再来するカストディアンを同じ地で迎える為の防人、それが風鳴だ。まあ、その事は何千年もの間に失伝していたのだがな」
流だけではなく風鳴は元々の起源はカストディアンに作られたものだった。だが、翼本人は生まれがどうだろうと別段気にしない。どうせ変わらないのだし、カストディアンに特別に作られたからといって困ることではない。
「もしかして風鳴訃堂が国防に拘るのは!?」
「……雪音クリスか。随分と知っている感じとは違うな、もっと狂犬のように噛み付く奴だったはずだが。訃堂の国防キチガイは本人の考えだ」
『え!』
『どうした?』
『今語られた性格はアニメのクリスさんですよ! あの人も原作の知識があるって事ですよ!』
この訃堂(偽)が今語ったのはアニメの知識を前提としたクリスだ。流は記憶が焼却されているため気が付かなかったが、その横にいるセレナ、それに奏も気がついた。
「何故天皇家に所有権がある三種の神器を持っているのか……剣、鏡、勾玉、それくらいは分かるだろう? 元々これらは風鳴がこの地を守る為に与えられたものだ。時代が移り変わり、一つの風鳴から別れた帝派と防人派は象徴としての機能のみを得る代わりに三種の神器を所有する帝派と、武力行使ができる組織を運営する防人派に別れた。だが、今までこれらの神器を扱えるものはいなかった。そう、俺が現れるまではな」
三種の神器。
これらはある神が地上へ降りる時、天照大御神がその神に与えたとされている。
だが、与えられたのが神ではなく、風鳴であり、与えたのがカストディアンだったのかもしれない。
「……さて、ここら辺で風鳴と帝、それに三種の神器の繋がりは分かっただろう? 翼」
「……何故貴方はその姿なのだ?」
翼はこの訃堂に目を向けられると、途方もない恐怖が湧いてくるが、情報を聞き出せれば聞き出さるほど、流や了子が色々と対策を考えられる。引き出すために質問を続ける。
「欲しがりさんだな。まあいいだろう。自己紹介をしてやろうではないか。俺は訃堂と同じ世代に生まれた風鳴の一人、風鳴
「は!? 轟って、え?」
「そうだ、Dの父親、轟轟でもある。まあ、そちらは偽名だし、お前は俺が欲しい女を手に入れた時に、共に生きていく為だけに作った肉体だ……まあ、カストディアンが俺にやらせようとした神の器の製造方法を使ったけどな」
流は何故か分からないが、自分の全身が気持ち悪くなり、嫌悪感から吐いた。体を無理やり揺さぶられているような気持ち悪さ。そう、カストディアンが干渉してきた時のように無理やり自分の思考を歪められるようなそんな感覚。
『流さん!』
『大丈夫だから。奏もみんなも心配するな』
流がいきなり倒れだして吐いているので、周りは心配するが、今はそれどころではない。
「もしかしてプロジェクトDというモノは?」
「いや、それは元々あった。プロジェクトDはトップの人間にある者がリーンカーネーションして知識を共有し、その時代にあった神の器を作らせる。ソロモンとかいうクソ野郎がいたお陰で俺は色々と知識を得られて、天才になれたがな。まあ」
「死ね!」
流は吐くもの吐いて自分の中の父親から轟轟を消し去った。そして自分に力を与えてくれて、自分の犠牲になって散ったソロモンを侮辱された。そしてこいつが誰を目的として、流の体を奪おうとしているのかもわかった。
翼を奪おうとするなら轟は敵だ。しかも轟は翼と愛を育み、そして愛するのではなく自分にふさわしい道具としてしか見ていないように感じた。そんなものに流は渡すわけにはいかない。
流は蹲った状態から本気でスタートを切り、相手が訃堂の体だが関係ないとばかりに拳を振りあげた。
「無駄だ」
流は完璧に訃堂の顔面を捉えていたはずなのに、
「天羽奏、ロボット三原則は知っているかい?」
「……自己防衛、人間への安全性、命令の遵守? お前!」
「そう、俺がこの時代のプロジェクトDのトップなんだぞ? 作った器が反逆したとしても、襲えないようにするのは当たり前ではないか!」
流はどれだけ近づいて無理やり攻撃をしようとしても出来ない。リーンカーネーションをした轟を殴ることが出来ない。地面を蹴りあげようとしても、綺麗に轟にはかからない。
「邪魔だ。お前の体は生きている意味は無い。命令だ、自殺しろD!」
「…………あれ? 命令の遵守はどうしたんですか?」
「……解除されている? いったい誰に」
轟は翼を見るのに邪魔だから流に自殺をさせようとして命令したが、流は特に命令に動かされることは無い。三原則を適用した流なら簡単にそれで殺せるはずだった。
『あはははははは! 私の息子にそんなもんつけっぱなしにするわけないでしょう!』
轟が疑問を口にした瞬間、ここにいる人間の頭の中に、無理やり了子のテレパスが送られてきた。シンフォギアからの映像をどこからか見ているようだ。
「この声は櫻井了子、フィーネか!」
『そうよ。流が弦十郎くんの息子になった時点で、彼に暗示が掛けられている事は分かっていたわよ。だから、私が洗脳して、その暗示を上書きしてしまってるのよね。もう何年も前に。あと流! 気合いが足りないわよ! その程度の呪縛程度壊してみせなさい。それは問題ないわ』
昔に了子は流を洗脳した時期がある。その時はそれを消し去るのが目的で、上手く行けば自分の都合のいい駒を作れればいいなという考えて行われた事だった。
「チッ、カストディアンに選ばれず、未練タラタラと転生し続けてる糞女が」
「「は?」」
轟は一番簡単な手段を煽られながら解除されていた事を指摘され、苛立ちからか了子を糞女と言って
その瞬間流がキレた。
そして丁度響達よりも早く現地に到着した弦十郎もキレた。
「あははははははは。カストディアンに選ばれたとか抜かしている俺の製造主。お前あれだろ? 俺の原作知識を何らかの方法で盗み見たんだろ? ああ、それはいいさ。でもさ、俺の母親をディスって生きていられると思うなよ?」
「……俺は人を守るためにこの拳を鍛えてきたが、俺のパートナーを侮辱されて、この拳を納めろと言われても無理だ」
二人は本気の拳を握りしめ、轟をぶん殴るために歩き出したが。
「D、お前の母親はフィーネではなく、翼だろ? もしかしてそんな情報にすらたどり着いていないのか?」
「「「「「え?」」」」」
「わ、私は流を産んでいないぞ!」
「翼、流石にそれは知ってるから」
その場にいる一同はS.O.N.G.側では了子しか知らなかった情報に、皆が疑問符を浮かべて敵前であるが流と翼を何度も交互に見た。そして翼は当たり前のことを口にして、奏に突っ込まれていた。
そしてその時、辺りから大量の人間の悲鳴が聞こえたと思ったら、天に七つの星の配列を表現した陣、『神いずる門』が開かれた。
**********
アダムは戦略的撤退を行ったあと、すぐにレイラインを使った『神いずる門』の創造を行った。
既にサンジェルマンが必要な大祭壇を作り終えていて、あとはティキに『恋乙女の概念』を付与し、術式を発動すればレイラインを使った門創造は出来る。
本来なら概念付与はサンジェルマンにやってもらう所だが、もしもの時のために教えて貰っていたのでアダムは自ら行使した。
そして誰の邪魔をされることなく、『地の神いずる門』を起動した。だが、
「何故慎次なんだ」
「詳細を送りますから、まずは鍵を」
「ああ、しっかり説明してくれ。決議」
「「執行」」
レイライン封鎖作戦において、弦十郎以外が認証キーを持っているのは大変まずい事だが、八紘はそれを無視して八紘と司令代理の緒川によってレイライン封鎖作戦を執行した。
だが、このアダムはそれを想定していた。
「わかっていたさ、この地は君たちの土地だ。だからこそ僕は力を与えたんだ。クズ共にね!」
アダムは下級及び中級の錬金術師に、自らの魔力の塊を与えた。だが、アダムのその魔力は中級程度では、扱えるものではなく、それを無理やり行使すれば衰弱して下手すれば死んでしまう。
だからこそ、アダムは自らの魔力を与えた。
「役立ってもらうよ、君たちの命を使って!」
アダムの魔力を行使して、翼やクリス、そしてノイズに無効化されて弱っている、力を与えられた信者達はバルベルデの大統領と同じように、生命エネルギーへと変換された。
アダムは自らの魔力を持っているものを無理やり生命エネルギーに変換したのだ。遠隔操作故にその持ち主が弱ってでもいない限り変換はアダムでも出来ないが、ちょうどその人達は弱っている。
四方から集まってくる生命エネルギー、蓄積しておいた自らの魔力、そして微量だが、弱い錬金術師の魔力が全てアダムの元へと届いた。
「さあ、ティキ。やろうか」
「うん! アダムと結婚するの!」
『恋乙女の概念』を付与されて、いっそうウザさを増したティキを無視して、アダムは自らの消費なしで『神いずる門』を創造した。
天の星々のエネルギーを地球のレイラインと同じように収集し、それをティキへと赤き光の柱となって注がれていく。
「遮断出来まいよ、彼方にあっては」
アダムは空へと上がり、神の力を徐々に高めているティキを見ながらそう呟いた。もし今シンフォギア装者や流が来ても、速攻で黄金錬成を連発して時間を稼げるので神の力は確実に完成する。
だが、アダムはシンフォギア装者がこの場来ていない人もいる事を失念していた。
「うおおおおおおお!!」
「はあああああああ!!」
「なに!? 空間を割って!?」
未だ神の力を注いでいるティキの真横の空間がいきなり割れて、その中からガングニールの纏った響とアガートラームを纏ったマリアが勢いをつけながら現れた。神パワーを充電中のティキをぶん殴ろうとしてアダムは庇って吹き飛ばされた。
二人はすぐにティキの破壊もしようとしたが、錬金術をアダムが放ってきたので飛ぶことが出来なかった
「な、無茶苦茶が過ぎるぞ! 空間を割ってくるなど。テレポートは禁じたはずだ! 貴様達は人質が惜しくないのか!?」
「了子さんが言っていました。もし天の力を使われたら封鎖ができない」
「なら、その力を付与されるモノを吹き飛ばせばいいと言っていたわ。あと人質ならもう開放されたわよ。全て忍者がやってくれたわ」
二人はアダムの言葉に悠長に答えてしまい、唯一の機会を逃した。
「アダムになにをするのぉぉおおお!!」
ティキの叫び声が辺りに響いた。
割と説明回になってしまった。しかもまだ話すことがある。
一応流の父親が怪しいことと、ソロモンが流の父親を糞野郎扱いしていたのが伏線ですね。