サンジェルマンにある悲報が届いた。
アダムがカリオストロとプレラーティ、そして風鳴流に襲撃され、危うくティキが壊される所だった。そういうテレパスがアダムや部下から届いた。
サンジェルマンはその襲撃があった時、自主的に自らの生命エネルギーを使って、大祭壇の準備のために印を体に打ち込んでいた。それをするために周囲からの認識をずらす錬金術を使っていたため、アダム達の戦いの波動を感じることが出来なかった。
連絡を受けてすぐにアダム達の元へ向かい、アダムが高い頻度でいるジャクジーは巨大な何かに殴られたのかボコボコになっていた。
その後アダムの暮らしている部屋に行くと、いつもの格好をしているアダムが、ベッドで横になり、普通に本を読んでいた。ティキは『快傑うたずきん』という漫画を読んでいた。
「先程の知らせは本当ですか!?」
「本当だとも。僕だけじゃないだろう、その事を言っているのは」
「……」
パヴァリア光明結社はパヴァリア三人娘とアダムだけが構成員じゃない。ちゃんと他にも戦闘員もいるし、様々な組織でスパイ活動を行っている。
日本の中枢と風鳴、そしてS.O.N.G.はそういった者を一切受け入れず、忍ばせることが出来なかったが。
シンフォギアなどの戦力と戦えるのがその四人だけなので、今は四人しか居ないように見えるだろう。
その人達もアダムと同じように、アダムがその三人と戦っているのを見たと連絡が来ている。
アダムがカリオストロとプレラーティを呼び出し、レイライン上の神社を調べ始めた日本のエージェントを犠牲とすべく動くように指示をされた。
その後にいきなりカリオストロがティキに攻撃をして、アダムも応戦、アダムが二人を取り押さえようとした時に、流が現れてアダムと交戦し、どこかへ逃げていった。
アダム以外もそう言っているのだ。
カリオストロは流に執着していた。嘘をつきたくないと誓っていたのに、最近はその嘘をついているようにもみえた。
あの二人が裏切るわけがない。だが、状況は裏切ったと言っている。何よりティキを破壊しようとしたのはとても不味い。ティキは計画の中枢であり、それ故に本人の希望であり、最も強いアダムの元に置いているのだ。
サンジェルマンは苦虫を噛み潰したような顔をして、少しの間俯いてからゆっくりと顔を上げた。その顔には何の表情も映し出されてなかった。
「大丈夫かい?」
「……はい、大丈夫です」
「ならばいい。ただし、君で賄おうとするような蛮行はやめてくれよ? 大祭壇の設置のエネルギーをさ。支配なき平和な世界を見なくてはね、君自身で」
「……わかりました。私の生命エネルギーがギリギリまで使って、大祭壇の設置を始めたいと思います。その世界を見る程度には力を残すので大丈夫……そう、大丈夫です」
「そうか。いいんだよ、君の選択ならね。じゃあ、始めようか、僕達の戦いを」
「……はい、失礼します」
サンジェルマンはあの二人が裏切ったなど思いたくないからこそここでは考えることをやめて、感情を殺し、大祭壇設置をする神社へと向かった。
「ねえねえ。なんでサンジェルマンを生かそうとするの? 邪魔にならない?」
「そうだね。でも、見せてあげないといけない、平和な世界をね……支配によって成り立つ平和な世界を!」
「もう〜、アダムって本当に残酷ね。でも、そんな所も私は好きなんだけどね!」
「ああ。そうだね」
これで大祭壇の設置、レイラインの調整が完了する。この作業だけはサンジェルマンにやってもらわないといけない。前回のような、そう、400年前のようなミスはもう犯さない。
ティキをフィーネによって封印され、フィーネは転生して何度も蘇っているが、所詮カストディアンの巫女、人間でしかない。アダムはティキを封印された時にフィーネを殺すべく襲撃した。
パワーも魔力量もアダムの方が圧倒していたのに、気がついたらアダムは地面を舐めていた。無様な姿を晒したのだ。
「なかなか楽しかったから、命だけは許してあげる。でも、私の邪魔をもう一度したら、次こそは命がないと思いなさい」
フィーネはアダムを殺すわけでもなく、楽しかったからという理由で放置したのだ。その時アダムは自分が完璧ではないことを悟った。悟ったが、そういう風に作られた自分にはどうすることも出来ない。
とりあえず自分を倒したフィーネを真似る様に、帽子をかぶることにした。その帽子は結社の総力をあげて作ったのは完全に八つ当たりだったが、今ではいい武器になっている。
今回はフィーネもいるし、カストディアンを降ろす可能性のある器もいる。だが、此度のタイミングを逃せば取り返しのつかない事になる。フィーネが月に干渉したせいでカストディアンは確実にこちらに向かってきている。
「サンジェルマンは完全に言う事を聞く人形になった……次は兵隊を完成させようか」
アダムはティキにすぐに戻ると言ってから、壊れたジャグジーへと向かった。
そこにはパヴァリア光明結社の証のついたローブを被っている人達が膝をついて待っていた。ギュウギュウ詰めで何百人もいることが分かる。日本に忍ばせている全ての構成員がここに集まっている。
本来ならテラスになっているのに、アダムが天井を閉めて、ジャグジーにはお湯を焚き、篝火なんかもついている。とてつもなく暑苦しく、篝火しかないため薄暗く、ストレスの貯まる場所になっている。
「やあ、皆。待たせたね」
「いえ、我らが主。アダム様があの方だったのですね」
パヴァリアには高位の錬金術師もいるが、そこまで強くない錬金術師もいる。その人達はある存在を崇め、奉り、そして自分達の悲願が達成することを祈っている。
パヴァリアとは元々悪魔信仰の集まりであり、それが時代によって形を変えて今の姿になっている。そしてカリオストロ達の戦いの時に、末端の構成員がアダムの変化した腕を見た。
あの巨大で真っ黒なまるで悪魔のような腕を。
「あれこそが我らが崇めていた方だ!」
今までは末端の構成員にまで無駄な美形扱いされていたがアダムが悪魔であることが分かると、中位以下のほぼ全ての日本に潜伏している錬金術師がアダムを本当の主として崇めるようになった。
たった数時間しか経っていないが、壊れたこの場所に集まったのが何よりもの証だろう。
「言っておこうか、君たちには僕の正体をさ。神という存在によって生み出されたんだよ、僕はね」
アダムは自分も忌み嫌う本来の姿の一部、片腕だけを本来の姿に戻してその場で晒す。
たったそれだけでローブを着ている人間が全て、その場で更に体を地面につけて崇め始めた。
「元々こんな姿ではなかったんだよ、僕は本来ね。僕がなんて言われているか知っているかい?」
アダムの質問に皆が黙る。聞いてきたとはいえ、無能などど言えるわけがないがある一人が別の言葉を思い出した。
「……明けの明星でしょうか」
「そう! 僕は明けの明星だ。さて、その言葉に当てはまる、神によって堕天させられた天使を知っているかい?」
皆が口々にルシフェルという最高位の天使の名前を出す。
アダムは自分の忌み嫌う姿を晒してでも自分に盲信する信者を増やし、此度の戦いで消費することに決めた。
まず自分が明けの明星と呼ばれるようになったのは黄金錬成を使えるようになってからであり、ここ百年くらいの話だが、ここにいる構成員は皆が完全な体ではなく百年も生きていない。
故にアダムは何百年も前から明けの明星、ルシファーやルシフェルと呼ばれていたという事にした。神聖や正義とはそれだけ人を惑わし、人を狂わせることは、十字軍という軍隊が証明している。
「今回の戦いは本来ならばあのカリオストロやプレラーティ達にも協力してもらうつもりだった。彼女たちは同志であり、同じ平等な世界を作り、君たちのように力の才能の差で、苦渋の飲まされた存在を無くすための戦いのはずだった」
アダムは笑いをこらえながら、必死な形相で語りかける。
「だが、彼女達は親友であり、我が右腕のサンジェルマンをも裏切り、敵に寝返った! これは許されざることである! そうだろう!!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
組織のトップである自分が、末端である彼らの事も考えているアピールをし、更にカリオストロやプレラーティに劣等感を抱いているそこを突く。
「君たちも本来なら、この聖戦を戦いたいだろう。だが、僕のこの腕のように呪いの如く、不平等がのしかかっている。だが、案ずることは無い! 僕にいい考えがある!!」
アダムは胸元から拳大の結晶を取り出す。前までは適当に持ちやすい形にしていたが、今は本来の姿にある角の形に変えている。
「これは僕の魔力を凝縮して置いたものだ。君たちは技術はある。だが、魔力量という絶対の壁があり、この結社内でローブを脱ぐことすら許されていない。そんな事は不平等であるが、正義のために致し方なかったんだ。だが、そのルールを作り上げた存在はもういない。この結晶を僕が君たちには与えよう。そして、共に戦ってほしい! 僕達の理想のために! 頼む!」
アダムは懇願する様に言葉を発し、そしてあのアダムが頭を下げた。
その事に構成員達は歓喜をあげて、涙すらも流しながらアダムを賞賛する声を上げ続けている。
アダムはこの場にいる何人かに手渡しで結晶を与えたあと、大量にその場に出してからむさ苦しい場所をあとにした。やるべき事は既に指示をしているので、問題ないだろう。彼らはもう完全なる奴隷だ。
「ただ暑苦しくストレスの溜まる場所でああいう事をやればいい。組織のトップも君たちを見ていると言い、劣等感や汚点を指摘し、そして理想を掲げる。ホント人類とはよく考えるよ」
アダムは部屋に戻ると、服を脱いでティキと一緒に風呂に入り始めた。あんなクソみたいな場所にいたから汗をかいてしまったし、サンジェルマン達ほど役に立たない劣等種と手を握ったので洗い流すつもりのようだ。
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「ごめんなさい」
流はまた土下座をしていた。S.O.N.G.の潜水艦の中、いつものブリーフィングルームでまた流は土下座をしている。
少し離れたところには拘束されたカリオストロとプレラーティがいる。
事の始まりは流がカリオストロとプレラーティを連れてきたことから始まる。
流はあの夜チフォージュ・シャトーに二人を寝かせてきた。体の修復は治ったが、血液や元気を取り戻すにはしばらく時間がかかると思ったので、一夜くらいは大丈夫だと思って放置した。だが、朝になる前に二人は元気を取り戻し、ここを抜け出そうとした。
「あーし達のファウストローブを取り戻さないと」
二人は不幸にも、魔改造を施されているチフォージュ・シャトーを勝手に歩いてしまった。
まず何故かノイズが掃除をしていたり、鬼ごっこをしていたり、逆に読めているのかわからないが本を読んでいるノイズがいたり。あらゆる事をしているノイズを見て、自分達は死んでしまったのではないか? と思った。
そのあとぐるぐる回っていたら、シャトー内飛行レースをしていたガリィとミカに見つかってしまい、まだファラから聞いていなかった二人が交戦してしまった。
二人はキャロルのオートスコアラーを侮ってはいなかったが、それでも逃げる程度には戦えると思っていた。
魔力がなくても、ある程度の錬金術を行使出来れば戦えると思っていた。
だが、ミカは飛行型の鳥の形をしたノイズ『鳥』に跨りながら、圧縮カーボンロッドを雨の如く降らせた。元々自分のエネルギーを燃やして、あまり柔軟ではない飛行しかできなかったミカだが、鳥に跨っていればオートスコアラーの中でも随一の速度を誇り、戦闘力はずば抜けてしまう。
更にガリィは映画で見た忍者という種族の技を水で真似て、色々やった結果、二人はボコボコにされた。
そしてファラと連絡を取り合う前に、S.O.N.G.へと厄介事を押し付けに行った。
朝、流は家に物理的に飛んできた弦十郎にぶん殴られ、気絶している間にS.O.N.G.へと連れてこられた。
「……という訳で、アダム・ヴァイスハウプトに殺されかけていた二人を助けて、治療のためにシャトーに置いておいたの! 娘が二人いるのに、こいつらが危険なら置いて行かないから。魔力が戻ってなくて、ファウストローブのない二人なら、武闘派ノイズ達でも鎮圧できたからね?」
流は土下座をしたあと、正座したまま説明を終えた。
「流、敵だとしても人助けをしたことはいい。だがな、敵であるはずの二人を保護したのなら、一言くらい連絡をしてくれ!」
「いや、俺もしようとしたんだよ? でもね、帰ったら皆に拘束されて、逃がさないように皆で川の字で寝たのね? 腕も脚も面白がって思いっきり締めあげられた状態で寝てたのよ。無理じゃね?」
「あなたにはテレパスがあるでしょ」
『「……あっ!」』
「「はぁ〜」」
流は皆に構ってもらえるのが嬉しくて、報連相なんてことを完璧に忘れて、そのままみんなと寝てしまった。セレナも流に憑依したりして遊んでいたので完璧に忘れていた。
そしてその後数分の間、装者達による説教がまたあった。流は皆への説明で『男に襲われている女性組二人を助けて治療してきた』と説明していたのだ。あからさまにカリオストロとプレラーティであることを隠していたので怒った。
怒っている途中に奏が流が喜んでいるのを察知し、意味が無いからとすぐにやめることになった。そして奏は流に最もよく聞くお仕置きの方法を教えた。今日の夜はそれが実行されるだろう……最も流に効く無視というお仕置きが。
「それで了子くんの考えは当たっていたんだな?」
「……ねえ、私達ってそこまで情報を出していなかったわよね? でも、この予想って私達がフロンティアを出撃した日付には考えたことになってるんだけど」
「思いついたパターンの一つね。あなた達アホでしょ? レイラインマップがどうしても必要だからって、敵の場所で奪ったらそれを使いますよって言っているようなものよ」
カリオストロとプレラーティの目的は既にサンジェルマンの保護に変わっていた。サンジェルマンさえ取り戻せれば、もう一度時間がかかったとしてもやり直せる。
だからこそ、今回のアダムが考えた作戦は全て暴露してやった。
装者達はぶっちゃけ邪魔なので、大人組とキャロルとエルフナインを除く研究者組と流がここにいる。
「……了子くん、このオリオン座の配置を示す文献がある神社が見つかった。調神社という場所らしい」
「なら、そこに裏取りに行きましょうか。流も弦十郎くんも緒川も彼女達が嘘をついているようには見えないのよね?」
「うん」
「だな」
「カリオストロさんはあの詐欺師カリオストロならば、私達でもわからない可能性はありますけどね」
造り上げられた勘の持ち主、野生の勘の持ち主、忍者の勘の持ち主が二人が嘘をついていないとわかるが、それでも二人が持ってきた情報が本当ならレイライン一時停止を行わなければならない。
その手続きは弦十郎は行っているが、証拠がないためまだ承認されてなかった。
「弦十郎くんが上のアホどもを納得させるためにも、資料を見に行く必要はやっぱりあるわね……いい? これからは多分最終決戦に向けて走ることになるわ。だからこそ、その神社に遊びに行くみたいな感じで、装者達を休める意味を含めて……あれ? あんまり動いていない。流を休める意味を含めて文献を見に行きましょうか」
この情報がわかれば、こちらは一気に攻めに転じられる。攻めに転じれば、敵を倒すなりの何かがあるまでは突き進まないといけない。だからこそ、最近
了子は流の話を聞いて、カストディアンに近づいていると感じた。それは人間を愛する流にとって、あまりにも残酷な事である。了子は流が完全覚醒する前に、それを阻止する方法を探すためにも、オリオン座を模した扉について知る必要がある。
そして流が勝手に動かないように、イベントとして強制させて時間を稼ぐ。
「頼む」
「え? 弦十郎くんも行くのよ? 緒川が代理をやっていなさい」
なんて考えもあるが、仕事ということにして、いつもと違う場所へデートに行く気でもある。そしてそのツケはいつも通り緒川に行くことへ。
その段階になると、藤尭と友里、ウェルとナスターシャはその場から逃げた。これこそが最も優れた方法なのは、長年付き合ってきた藤尭友里より教えられている。
「待ってください! やる仕事は沢山あって、これから別所で動かないと」
「んなこと部下にやらせなさい。あんたは司令官代理」
「……わかりました。はぁ、調整してくるので一時間ほど待ってください」
「ええ。流は装者の子達にこの事を告げなさい」
「わかった」
皆が了子のペースに乗せられて、カリオストロやプレラーティもパシリながら、オリオン座の神の扉について知ることの出来る、
そして流はやはり前に見た調神社という文字は、アニメの知識なのだと理解し、確実にカリオストロとプレラーティとの死闘を装者達が行わなくて済むようになりつつある事に安堵した。