戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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前話で編集点的な物を書いたまま投稿してしまい、誠に申し訳ありません。
次回より多分話が一気に加速する予定です。きっと、多分。


#104『その足で蹴る物は』

 流は釈放?されてからいつも以上に動き回っている。それも全て捕まっていた時に用があったり、今やらなければいけないことばかりだったので必要なことなのだろう。

 今回も相手が流に会いたがっていて、リディアン組が学校から帰ってくるとすぐに向かった。

 

 

「……ふーん。まあ、流が裏で色々やってた事は分かってたけどな」

『流さんって隠しているようで、割とガバガバですよね。緒川さんとか八紘さんにも翼さんの件が普通に知られていましたし』

 

 今はリディアンから帰ってきたクリスと二人きり……霊体のセレナがいるが、ほぼ二人きりで二課のダミーカンパニーだった総合病院へ向かっている。

 クリスはワインレッドのドレスの私服に着替えて、ルンルン気分で歩いているが、話していた内容は流が人を殺しまくっていたという話だった。

 

 クリスは争いが嫌いだ。紛争のせいで両親を亡くし、テロリストの色んな暴力を受けた。その傷跡は既に了子によって消されているが、心に受けた傷は簡単には治らない。

 流がやっている事もさほど変わらないが、自分達が平和に暮らすために行ってきた悪ならば、クリスは無理やり受け止める。それが流の行いなら尚更だろう。

 

「待って、なんで知ってるのさ。結構しっかり隠してたよ?」

「確かに、これに気がつける奴はあたしか調くらいじゃねえか?」

「……うーん?」

「流によくくっついてるだろ? 特にあたしはベッドの中に入ったりする。完璧に匂いも全て消せてたのなら問題ないんだが、僅かに臭いが残ってたからな。流以外の臭いが」

 

 死合や敵意や殺意のあるエージェントに色々したあと、流はしっかりシャワーなどを浴びたりして、臭いを落としていた。何回かそのまま帰ったことがあったが、人には会っていない。

 しかし、普段の流の匂いを知っている人だと、どうしても人の血の臭いが混じっていることに気がついてしまうらしい。

 

『本当に犬みたいですね、クリスさんって』

『そこも可愛いんだけどね』

『……ワン』

『後で撫でてやろう』

 

 クリスと会話をしながら、流はセレナとも会話をしているが、奏ともこんな会話方法を何年も続けてきたので、慣れたものである。

 

「調も割とわかってたのか」

「じゃね? 全く動揺してなかったしな」

「……わかっててクリスも調も待っててくれたのか。ありがとう」

 

 流は人が通っている道だが関係なくその場でクリスの頭を優しく撫で始める。クリスはスキンシップが好きなので感謝を示す時はこれが良い。

 

 クリスも家やS.O.N.G.、人が少ない所なら別に気にしない。しかし今は隣を通り過ぎた人や少し離れたところから、二人のやり取りを他人に見られている。

 

「い、家でやって……くれ」

「ん? ああ、わかった。ステファン達も待ってるしな」

「いや、そういう……まあいいか」

 

 クリスは流が他人の目など全く気にしないことはわかっているので、それを口にすることをやめた。まず全ての人を愛していると言っている流が、もし他人にも愛の行使を始めたら大変なことになる……自分との時間が減ってしまうから指摘は決してしない。

 

『人の目がある所でやるのは可哀想ですよ』

『……ああ、だから顔を真っ赤にしてるのか。潜水艦とか家ばっかだったから、特に考えてなかったわ』

 

 だが、セレナは指摘していた。

 

 

 **********

 

 

「お兄さん!」

「おっと危ねぇ」

 

 流とクリスとセレナはこの街にある二課の息がかかった総合病院についてから、すぐにステファンが入院している病室へと向かった。

 

 ステファンは足が千切れかかっていたが、それを除去して足を一から作り直された。この作業はキャロルがやったのだが、キャロルの転写体とは違ってそこまで一般人を凌駕したスペックにはしなくてよかったのですぐに出来上がった。

 夏休み中盤にステファンは日本を訪れ、始めはS.O.N.G.の潜水艦の中の治療室で暮らしていた。夏休み後半の時期になると、足もしっかりと定着してリハビリが必要な程度まで治ったので総合病院に移された。

 

 ステファンはソーニャの都合でもう帰らないといけなかったのだが、どうしても流に会いたいとの事でS.O.N.G.のスタッフがソーニャの代わりに現地へ向かって支援活動を行っている。

 

 事前にこの時間に行くと連絡を入れていたが、流とクリスが病室に入った瞬間ステファンが流に飛びかかってきた。割と素早い速度で。

 もちろんキャッチをするのに問題はなく、ステファンを腕でキャッチして地面に下ろす。

 

「ステファン! ステファンがすみません」

「いえいえ。久しぶり、もう元気そうだな」

「こんにちは! もうすっかり良くなったよ。違うかな? 前よりも凄く調子が良くなったんだ!」

 

 挨拶を即終わらせて、ステファンは治してもらった足だけで、バク宙やその場で動き回り、足が好調であることを教えてくれる。

 

 ステファンはキャロルと流に物凄く感謝している。もちろんクリス達シンフォギア装者にも感謝している。だがアルカノイズの攻撃を握り潰してくれた流と、足を作り直してくれたキャロルには特にその想いが強い。

 そして何より流のその強さを羨み、自分も頑張ろうとリハビリに全力で励んだ結果、全く脚力の違う左右の足を器用に使えるようになった。

 

 今のステファンの片足は元々の足でもう片方の足は一般人以上逸般人未満といった感じであり、なかなかに高性能な足になっている。もちろん遺伝子情報もステファンのままだし、結合部もまだ治りきっていないのでくっきり分かってしまうが、同じような生活をすれば分からなくなるだろう。

 

「……なあ、キャロルやりすぎじゃね?」

「こんくらい平気でしょ。それにドーピングとかでもないし、サッカーも続けられる」

「お兄さんサッカーやるの!?」

「……やれるよ?」

 

 流も年下の男の子に好かれて割と悪くない気分でいる。マリアが姉呼びされて機嫌がよくなる理由がわかったようだ。

 あと流はもちろんサッカーをやった事がない。理屈もわかるし、ルールも知っているが、基本ボッチの流がやったことあるわけが無い。だが、ここでステファンの純粋な瞳を向けられて流は無意識に嘘をついた。

 

『だってしょうがないじゃないか! 小学校にすら行ってないし、俺の友達って20代前半(藤尭)20代後半(ウェル)の二人だけだよ? しかも一人は仕事が忙しいし、一人は研究が忙しいし』

『私の方が友達居ましたね。あれ? もしかして同性のお友達と、公園で遊んだこと……あっ、ごめんなさい』

『悔しくなんかねえし!』

 

 嘘をついた瞬間、セレナが流を容赦なく追撃して今回は流が負けた。

 

「なら、また今度やろう!」

「ああ、俺ならお前の故郷に簡単には行けるから、時間が空いたら行くよ」

「約束な!」

「ああ、約束だ」

 

 ステファンが手を伸ばしてきたので、流はそれを握って誓いを立てた。

 その後ステファンは最終確認とかで、看護師が来たので元気に病室から出ていった。

 

「あの子、凄くうるさくてごめんなさいね」

「あんくらいの子はあれくらい騒いだ方がいい。騒ぎ損なうと流みたいになっちまうからな」

「え?」

「だって、流はどうせサッカーやった事ないだろ? ちなみにあたしは学校の体育である。小学生だった時だってやってたしな」

『ステファンくんのお姉さんもあるでしょうし……サッカーはやった事ないですけど、ビーチバレーならありますから!』

 

 何故かクリスまでも追撃をして流は見事撃沈した。流が撃沈している間、クリスはお見舞いの品をソーニャに渡して、無駄に個人の病室に置かれた席に座る。

 

「……改めて。クリス、久しぶりね。バルベルデで助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい、あなたがテロ組織に捕えられたと聞いたのに助けることが出来なかったわ」

「ソーニャも久しぶり。ううん、その事はもういいんだ。あれがあったから流とも会えたんだしな」

 

 クリスはもう()()()()乗り切っているので、問題なくその事を笑って返せていた。

 

「そう、そうなのね。ごめんなさい、クリス……」

 

 その明るいクリスの笑顔を見たソーニャは、クリスの手を取って、その手を胸に抱いて涙をこぼし始めた。

 クリスも釣られるようにソーニャに抱きついて、再開を喜び、過去を精算する涙をこぼし落とした。

 

 少しすると顔を少しだけ赤く染めたソーニャが流にまた頭を下げた。

 

「ごめんなさいねいきなり」

「いいんだ。それはクリスへの愛があるからこそ流れた涙なんだから、恥じる必要は無い」

「……そうよね。クリスを色々な意味で救ってくれてありがとう」

「俺はクリスが好きだから、構ってたらクリスが勝手に乗り越えてただけだしな」

 

 さも当然のように流はそう言い切ってから、流はお手洗いだと言ってから部屋から出ていった。

 

『……親しい人との再会はいつ見てもいいですね』

「何とかしてマリアと再会できるようにするから。今度はセレナの体で」

『何度も言ってますけど、焦らなくていいですからね? 私は流さんの幽霊である事に割と気に入っていますので』

 

 セレナはそう言って、流の横に移動して、自分よりも大きな手を握った。流もセレナが痛くないくらいの力で握り返す。

 

「でも霊体だと子供が作れないし」

『ぶっふ! まだ致してもないのにその言葉は色々凄いですね』

「好きな人を孕ませたいと思うのは生物として普通だと思うけどな」

『それを平然と口にする人はいませんから。少し空気を読んでください!』

「読めるけどあえてセレナとの間では読まないだけ」

『わーい、うれしいなー』

 

 この後検査が終わったステファンが流を見つけ、病院の敷地内でサッカーを軽く始めた。だが、ステファンは新しい足になって初めてのサッカーだったため、威力調整を誤り、植えてある木にボールがぶつかり、そのボールが破裂した。

 

「病院の敷地内なんですから、それくらい考えてください。なんで注意するべきお歳の貴方も一緒になって遊んでいるんですか。昔のようにやんちゃばかりでは駄目ですよ? それにですね……」

 

 流が小さい時は鍛錬に体が耐えきらず、何度も入院を繰り返していた。今のこの病院には流がいつ運ばれてきていいように、病室が開けられていたりする。その時に毎度お世話になった看護師のおばさんに、流とステファンは敷地内の芝生の上に正座をさせられ、説教を受けるのだった。

 

「あの、そろそろ」

「私がどれだけ昔にあんたの世話をしてやったのかわかってるのかい? 話を聞きなさい!」

「……はい、ごめんなさい」

 

 人外枠に収まる流だが、やはり勝てない人もいるようだ。

 

 

 **********

 

 

「なによ、サンジェルマンじゃなくてあーし達を呼び出すなんて」

「どうせくだらない用事なワケダ」

「アダムの行動にくだらないモノがあるわけないでしょ! ほんと三級錬金術師はダメダメね!」

 

 カリオストロとプレラーティはアダムがいつも入っているジャグジーに呼び出された。いつもならサンジェルマンが呼び出されるのだが、今回は二人を名指しで呼んできて、しかもその時サンジェルマンはいなかった。

 

 二人はその場に行くと、アダムとティキがジャグジーに入って、二人を待っていた。

 

「すまないねぇ、急に呼び出しちゃって」

「そういう前置きはいいわ。早く要件を伝えてちょうだい」

「ちょっとアダムに対して!」

「どうどうティキ。任せているからね、色んな仕事を。だから、怒っちゃいけないよ、この程度のことで」

「うん! アダムがそういうならそうよね!」

 

 アダムはティキの頭を軽くポンポンと叩いてから、ジャグジーの横に置いてある帽子をかぶって立ち上がる。もちろん何も着ていたいので全裸だが、関係なくジャグジーからティキを持ち上げてから出る。

 

「ナニを見せてくれるワケダ」

「見慣れているだろう? 虚飾と快楽に耽っていた君ならば」

「黙れ。用事がないなら帰るワケダ」

「ああ、待ってくれ。用事ならあるんだよ」

 

 アダムは錬金術陣に手を突っ込み、中から一枚の紙を取り出した。

 それには此度の計画の要である、レイラインの要所が書かれている。

 

「殺してきて欲しいんだ、君たちには、ここらを嗅ぎ回っている者達を」

「……そういうことはサンジェルマンを通してくれない? あーし達だけじゃ判断出来ないわ」

「そういうワケダ」

「サンジェルマンからは許可を取っているよ。サンジェルマンは今動けなくてね、僕がお願いした仕事によって」

 

 カリオストロはアダムが真実を濁しているが、嘘はついていないと思えたので、話だけは聞こうとプレラーティに目配せする。

 嘘に関しては自分以上の才があるカリオストロには、こういう判断を任せているプレラーティは軽く頷いてアダムに近づく。

 

 アダムが取り出した紙には計画に使われる神社も含めて、大人数を使って大規模に調査を行う予定が書かれている。

 

「……なんでバレてるのよ」

「わかっていたことさ、僕とサンジェルマンにはね。放置でもいいんだけどね、有象無象なんて。でも、ラッキーパンチほど怖いものは無い」

「そうね。もし万が一鉛玉を頭に受けちゃったら、あーし達だって無事じゃないものね」

「……これはサンジェルマンが大祭壇を設置する時に、物凄く邪魔になるワケダ」

「そうなんだよ。だからこそ、頼んでもいいかい? サンジェルマンの掲げる、支配なき世界を作る為に」

 

 カリオストロはアダムがサンジェルマンの理想を叶える気がないことはわかっていた。だが、アダムは簡単に勝てる相手ではない。なので、こういう時は従う気でいたが、今またサンジェルマンの理想を掲げて、嘘を呟かれた。

 その一言で、無理やり自分に嘘をついてでも落ち着かせていた心が爆発した。

 

「……わよ」

「なんだい?」

「ざっけんじゃないわよ! なに詐欺師の前で嘘をついてるわけ? あんたがサンジェルマンを利用するだけ利用して、捨てることなんてお見通しよ!」

 

 カリオストロはすぐに錬金術で水色の光線をアダムではなく()()()に向けて放った。アダムにとって絶対に必要であろうティキを狙った。

 

「想定済みだよ! 君が動き出すことは!」

 

 アダムは帽子を光線へ投げて、その光線を吹き飛ばす。アダムはすぐにティキを自分の背後へ移動させた。

 

「アダムのおかげで三級錬金術師は生きてこれたのに、なんでアダムや私に攻撃してるわけ!」

「アダムのおかげなんてことは一切ないわよ! 全部サンジェルマンのおかげ!」

「私も聞いていたワケダ。生命エネルギーの不足分は私、そしてサンジェルマンも利用する気なのはお見通しなワケダ!」

 

 本来ならまだ動かないと話をつけていたカリオストロが動いたので、プレラーティもすぐにアダムに向けて攻撃を開始する。

 

 アダムは二人の攻撃に対して、同じ攻撃をぶつけてどんどん無効化していく。

 

「無駄だよ、君たちじゃ僕を倒せない。まさかあんなものに頼るとはね、盗聴器なんてものに、錬金術師がさ!」

 

 アダムの手を振っただけで鋭い斬撃を放つなどの少しのモーションで発動する錬金術をプレラーティが防いで、カリオストロが攻撃に転ずる。だが、二人の攻撃はアダムに完璧に返される。

 

「しないのかい? ファウストローブへの変身をさ」

「いわれなくても!」

「やってやる訳だ!」

 

 二人はアダムが()()して手を止めたところで、ガマ口と胸から、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブを取り出し、二人は赤く輝く勝機を求めて打ち鳴らした。

 

 その行動にアダムは笑みを浮かべていたが、二人は纏っている最中だったため確認することが出来なかった。




病院の看護師のおばちゃん>弦十郎や流
何度もお世話になっているので、色々と逆らえません。

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