戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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多分あと何話かしたらシリアスさんが来ますね。


#99『彼の真実の吐露』

「ただいま!」

「構えろ流!!」

 

 流は訃堂とのやりとりが終わったあと、すぐにS.O.N.G.の潜水艦前に宝物庫テレポートしてきた。

 流は第一種特異災害特例になったのにS.O.N.G.に戻っても大丈夫か? と思ったが、八紘や弦十郎が何とかしているだろうし、訃堂も手を打ったようなのでそのまま帰ってきた。

 

 だが流は着いた瞬間、弦十郎が目の前まで迫ってきていて拳を振りかぶっている。流はそれに合わせるように生身の拳を弦十郎の拳に向けて放った。

 

「ふんっ!」

「ぐっ!」

 

 流は勢いのついた弦十郎の拳に競り負け、そのまま港を数メートル吹き飛んだ。不意打ちだったとはいえ、生身ではまだ簡単に吹き飛ばされることに少しだけショックを受けていた。

 

『……いやいやいや、流さんの体って見た目は生身でも、デュランダルくらいの重さがありますよね? エネルギーが補助してるとかで、不思議な方法で有耶無耶にしています。でも、なんでそんな流さんを簡単に吹き飛ばすんですか!』

『弦十郎父さんだって、簡単に吹き飛ばしてないさ。殺意がないけど弦十郎父さんは最近はいつも本気で当たってくれているからね』

『……本気で殴ればデュランダルを割ったり、競り勝てるってどういう理屈なんですかね。色々学びましたけど全然解かりませんよ』

 

 異端技術を一切行使していない弦十郎の人外度に、セレナは混乱し出すが結局諦めた。了子ですら『弦十郎くんだから』という理由で、匙を投げている案件なのでそれも仕方が無いだろう。

 

「もらった袴が色々酷いことになってしまったな」

「おかえり流、にしても酷ぇ格好だな。血濡れで腹の部分に穴が空いてるのがまた」

「ただいま父さん。見てたでしょ」

 

 弦十郎との挨拶を終え、弦十郎の差し出す手を掴んで流は起き上がる。弦十郎と流はよく話はするが、流は心の底を隠すのが得意だ、忍者故に。

 弦十郎と流は約束により、流が悪に落ちたら殺すというモノを結んでいるのでこうやって拳を合わせれば相手を理解できる弦十郎とよく拳を合わせている。

 

「お前が風鳴に捕まっていたなんて知らなかったんだ。すまん」

「ママは分からなかったなんて事はないだろうし、ママの判断なんでしょ? ならいいさ」

「……それで大丈夫だったか? あの人は国防の価値で色々測る故に問題ないが、他の奴らはお前にちょっかい出してきたんじゃないか?」

 

 どうやら弦十郎も流が牢屋にぶち込まれた事までは知らないようだ。もし知っていたら乗り込んでいたはずだし、流は内心胸を撫で下ろした。

 

「大丈夫大丈夫。訃堂は俺を使い勝手のいい国防の道具として見てるから、俺を損なうことは国防的観点で禁止されてるみたいだし」

『禁止されていても感情で動く大人もいますけどね』

『ノーコメントで』

 

 感情で動く人が半分以上いたのは驚きだが、名家や旧家故のプライドや誇りというものがあったのかもしれない。流はプライドも誇りも別にないのでどうでもいいが……だが家族や身内を穢されたら許しはしない。

 

「ならいい。皆がお前を待っているからブリーフィングルームへ行くぞ。やっと話せない色々が話せるようになったんだろ?」

「なったよ。多分色々驚くだろうね」

「いや、奏くんが復活した時点で開いた口が塞がらなかったぞ」

「でも予想はしてたでしょ?」

「この世に不可能はないかもしれないと最近は思い始めているからな」

 

 弦十郎は何故かげっそりしながらため息を一つ吐いた。夏休み前半の時、弦十郎が死にかけて、了子が凄くテンションが高い日があったがきっと色々あったのだろう。

 

 

 **********

 

 

 流は弦十郎に案内されてよく使うブリーフィングルームへと来た。弦十郎が先に流が入る様に促してきたので、それに従って入った。

 

「流ええええ!!」

 

 主人の帰りを待っていた子犬のようにクリスが部屋に入ったばかりの流に飛びついてきた。普段なら外ではこんな事()()()やらないのだが、やはり数週間離れていたので色々こみ上げてくるものがあったのだろう。

 調や切歌、響や未来達のように戦って対話をしたわけでもない。

 

 流はクリスを優しく受け止めて、そのまま抱いたまま部屋の中に入る。抱いている間にクリスを揉みくちゃに撫で回している。

 部屋の奥に向かいながら、その場にいる人たちを見たが一人足りない。

 

「キャロルは?」

「キャロルは体調が優れないとの事なので今は家にいますね」

「そう、後で果物を剥いて持っていこうかな」

 

 自分の席に座り、クリスを横の席に座らせようとしたら、膝の上に乗ってきたのでそのまま置く。

 

「……そういう事は家でやるべき」

「ここも家みたいなもんだからいいんだよ」

「なるほど」

 

 調の注意もすぐに受け流し、クリスは流の膝の上でそのまま寝てしまった。最近は流が見つからず、夜に外へ出て探し回っていたので睡眠が不足していたのだろう。

 流は大事な話をするつもりだったが、無理やり起こすのも気が引けるので次の機会に話すことにした。

 

「……この集まりって何するの? いきなり話してもいいの?」

「流が色々話すっていうから、主要メンバーには集まってもらったのよ」

「なるほど」

 

 流はみんなを見回す。

 

 対面にいるのは響でこちらと目を合わせてくれない。チラチラ見ているが、とてつもなく挙動不審になっている。その横の未来は流にあからさまに睨みつけている。

 調と切歌は普通にお菓子を食べて、特段何も考えていなさそうだ。流がいった言葉をそのまま受け入れる気でいるのだろう。

 

 翼と奏は隣同士で座っていて、翼が小声で話しかけている。本来ならこういう時は率先して黙り始めるのだが、今は奏の事しか頭にないのかもしれない。

 そしてマリアはとても複雑そうな顔をしている。流を守るためではあったが裏切りに等しい事をしたのに、無事であった事を喜ばれそのまま座っているのだ。もちろんナスターシャもエルフナインもいる。

 

 大人組はいつも通りで、ウェルが机の上にお菓子を大量展開しているくらいだろう。何かしら頭を使うことをした後はウェルは甘味を取りまくる。

 

「えーと、まずは何から言えばいい?」

「「「……」」」

 

 いきなり流の知りたいことと言われて、皆が考え始める中、マリアが立ち上がった。

 

「流は何故数ヶ月前からパヴァリア光明結社のカリオストロと会っていたの? 夏休みにも会っていたわよね?」

「リディアンの文化祭の時に街角でぶつかったんだよね。多分向こうは俺に接触する気だったんだろうけど、そこでアドレスをもらった。その時はパヴァリアだとは知らなかったね」

「流くんが街角でぶつかったという事はテレポートでもしてきたんですかね。もし普通に歩いてきていてぶつかったのなら、もう一度忍者修行を一からやり直す必要がありますけど」

「テレポートだったと思うから流石に一からは勘弁」

 

 緒川が途中でメガネを外しながら流に真顔で問いかけたが、そんな時間はないので拒否しながら本当のことを言う。

 

「その後はキャロルが欧米で準備をしている……とおもっていたから、向こうに飛んで色々調べる時にカリオストロに連絡をした。その時にパヴァリアだと分かったけど、俺はそんなことどうでもよかったから頼ることにした」

「どうでもいいって、流だってパヴァリア光明結社があの暗黒大陸を作り上げた元凶で、F.I.S.を武装蜂起させた結社だって知ってたわよね?」

 

 マリアが言っていることは世間的には合っているが、流にとっては違う。

 

「だって、パヴァリアは俺に益しか与えてなかったもん」

「え?」

 

 マリア以外にも疑問に思っている人はいるみたいだが、弦十郎達昔からいた大人はわかったようだ。奏は少しだけ不機嫌な顔になったのでわかったのだろう。

 

「F.I.S.が武装蜂起してくれたおかげで、マリアに調に切歌が日本に来てくれた。そのおかげでアメリカにあった神獣鏡とネフィリムが日本に来たし、フロンティアも手に入った。そう、パヴァリア光明結社のおかげで俺たちは出会えたと言っても過言ではないんだよ。俺にとってはみんなと出会えたことの方が重要だし、過去に極悪人だとしてもどうでもいい」

「流石にそこは気にするべきよ」

「そんな事気にしたらキャロルが捕まっちゃうじゃん。キャロルってあの見た目だけど数百歳だし、人も結構殺してるからね? 別に身内が傷つけられたとかじゃないなら関係ない」

『ただし、身内が傷つけられたら、別位相にだって追っていきますけどね』

『当たり前』

 

 実際、キャロルは錬金術の顧問として、その知識をこれから起きる特異災害に活かすのを条件で、国連や日本に今は見逃されているだけだ。S.O.N.G.が監視していることになっているし、流が若干脅している部分もある。

 

 まず母親が月を落とそうとした魔王、月の軌道を修正するためにテロ組織になろうとしたマリア達、想い出を使うために一般人から奪いまくったキャロル達、そして罪にはなってないが人を殺している流。この場には犯罪者予備軍及び犯罪者の割合が過半数を超えている。

 

 マリアは流の言葉で自分達が武装蜂起して色々やろうとしたことを思い出し、そのまま席に座った。

 

「えっと次はそうだな」

 

 流はクリスをゆっくり隣に座っている調に預けて、床に正座して土下座をした。

 

「本当にすみませんでした。俺は奏があの時に絶唱を使うことも、ノイズの襲撃があることも、響が迫害されてしまうことも知っていた。クリスの両親がバルベルデで死ぬことだって、了子ママがフィーネである事も、八紘が本当は翼を溺愛していることも知っていた。マリア達がF.I.S.に攫われることも、セレナが絶唱で死ぬことも、そして武装蜂起をして日本に来る事も初めから知っていた。俺はルナアタック、フロンティア事変、魔法少女事変……これはキャロルの事件ね。それらのバックストーリーも含めて全て知っていました。それなのに初めから介入せず、力が着くまで放置していた。本当にごめん」

 

 こんな事謝られても困ることはわかっている。これは流が今まで言えなかった故に溜め込んでいたストレスの解消だ。特にクリスの件とセレナの件と響の件は本当に今でも、何故あの時動かなかったのかと自問することがある。意味が無いことは分かっているが流は頭を下げ続けた。

 

「……流先輩まず座ってください。知っていたというのはどういう事ですか? 了子さんがあの事件を起こす事を知っていたから、そういう事ですか?」

「そうだがそうじゃない。みんなは俺が了子ママから知ったと思っているかもしれない。まず俺はこの世界の人間の魂を宿してなかった」

「え?」

 

 了子とエルフナイン以外は皆がハテナを頭の上に浮かべている。響の言葉で席に戻った流はクリスを抱きながら、どんどん秘密を暴露していく。

 

「まず体は簡単にいうと魂と肉体に分けられる。俺は元々別の世界の人間の魂だった……はずだ。それでこの世界で造られていた、神の器になるべくして製造された体と魂がリンクして、俺は生まれた」

「待って欲しいデス! 言っていることは分かりますけど、訳が分からないデスよ! それじゃあまるでおとぎ話や小説のお話デス。あと神の器ってなんデスか!」

「えっとまずは神の器についてだが……」

 

 流は轟流である時の家の地下で分かったことを話した。流石に父親が色々ぶっ飛んでいたことについては言わなかったが、自分の体は神、フィーネが求めていたカストディアン達に監視されていたことも話した。それが話せないという意味であり、話せなかったことについても謝った。

 その時に翼と調が落ち込んでいたので翼は奏が、調は流が慰めてた。

 

「……ねえ、流にパヴァリア光明結社から近づいてきたのよね?」

「うん、そうだよ」

 

 了子は流が人為的に作られた存在ではないかとずっと考えていたし、統一言語を使っているっぽかったし、色々と辻褄があったようだ。だからこそ何故翼の遺伝子を半分引き継いでいるのかがわからない。風鳴には何かあるのか? と了子は考えていて、そしてあることに気がついた。

 

「まずみんなにまだ言っていなかったと思うけど、パヴァリア光明結社は神の力と呼ばれる、膨大な力を手に入れようとしているはずなのよ」

「神の力ですか」

 

 翼は訃堂に言われた、神を斬れるようになれという言葉が引っかかってくる。あとで奏に相談しようと心に決めた。

 

「今までその力を使って何をしようとしていたのか分からなかったのだけど、流に接触していたのなら納得ね。流はパヴァリアに勧誘されたわよね?」

「何度もされたよ」

「なら、神の力を人……ああ、そういう事ね。前に藤尭達が命を懸けた映像にあったオートスコアラー。あれを使って神の力を降ろして、擬似的な神を作ろうとしているのね」

「神を人為的に創造するだと!?」

 

 パヴァリア光明結社はアニメに比べても全くと言っていいほど情報を出していないが、唯一パヴァリアがミスを犯したとすれば、アダムが気がつくまでフィーネが生きているとは思っていなかったことだ。

 フィーネの探知方法は簡単だ。特定の魂波形がこの世界にあるかどうか見るだけで済む。F.I.S.にだって、フィーネを見分ける方法があったのだから、パヴァリア光明結社にないわけが無い。まあ、その方法では今の櫻井了子(フィーネ)を感知できないのですが。

 

 まず何故パヴァリアが今の時期に動き出したのか……もちろんティキの捜索に時間が掛かったが、それは別のことを優先していたためだ。そして本来ならもっと前にも出来たがフィーネというイレギュラーがいた場合、早期に作戦がバレてしまい、潰される可能性があったから地下に潜っていた。

 しかし本当ならまだ時間的な余裕はあるはずだったのにフィーネによって引き起こされたルナアタック。それのせいでアダムすらも敵対したくないある奴らが、人類が技術をつけたことを嗅ぎつけてしまった。

 

 そしてパヴァリア光明結社からしても困る、月の落下を食い止めるために月の遺跡を起動させてしまった。本来ならもっと後に起動させるはずだったのにだ。

 

 パヴァリアは色々なイレギュラーはあったとはいえ、全てがフィーネによってグダグダにされている。ティキの封印しかり、作戦を早期実行しないといけなくなったこともしかり。

 

 そしてそのフィーネによって、またもや邪魔をされることになる。

 

「まずヨナルデパズトーリは概念を付与された生命エネルギーによって擬似神として降臨していたの。だからこそ、神の不死性を再現した結果、キャロルちゃんの攻撃は全て無かったことにされた。同じように神の力を降ろすのに役立つ概念をオートスコアラーに付与して、オートスコアラー越しに神の力を扱おうとしているのでしょうね」

 

 そして今度は流の()()()色々と、S.O.N.G.の認識がずれる。

 

「了子さん、神の力を使って、パヴァリアは何をしようとしているのでしょうか?」

「予想だけど、そんな力があったら()()()()よね。まさか、私がクリスに教え込んだ争いのない世界を作るーなんてことは無いでしょうし」

 

 サンジェルマンと他二人は本当に目指しているのだが、了子は錬金術師はそんな存在ではないと決めつけているのでその考えを放棄した。

 

「……流を勧誘したのは、そのオートスコアラーよりも神の力を得るのに適しているからって事だったのか」

「でも、そんな事は私達が絶対にさせない」

「今度は私も戦ってやるから、翼も安心してな」

「……え? 奏は戦っちゃダメだよ! 安静にしてなきゃ! 奏が戦うんだとしたらリンカーを使うんだよ? その体に合うかわからないんだよ!」

 

 奏もパヴァリア光明結社が流を誘う理由が分からなかったが、その神関連なら納得できる。そして奏の戦う宣言に翼は慌ててやめるように促す。

 

「今のあたしには()()()()()()()()()()()()()()()()

「え? なんで?」

「まあ、それはまた今度な」

 

 了子は奏の言葉の意味がわかり、流を()()が、流はすぐに手を振って否定する。流が奏が嫌がるような方法をとるわけがない。

 

「……やっと全容が見えてきたわね。流の暴露会は終わり。今すぐ弦十郎くんはレイライン上にある神社の要石の状態の確認と、異端技術の反応があったら逐一知らせるようにしてちょうだい。これは一刻を争うわ。私達には神の器として作られた流がいても神を殺す力は無いはずだから、向こうの作戦を事前に終わらせるわよ!」

「待った待った。なら最後にあと二つ!」

「早くなさい」

 

 了子はレイラインを使って何かしらを行われる可能性があることは分かっていた。そして相手の目的がわかった。これは大規模な準備が必要なはずだから、すぐにでも動き出さば敵の動きを補足できるかも知らない。

 

 了子は伸び伸びになっている弦十郎との結婚式を行うべく本気で動き出すことを決めた…………弦十郎にアダムと確執がある事を責められ、もしかしたら了子のせいで色々と敵がやっている可能性があると言われた。なので、今回は了子自身の責任として動き出す気なのだ。もし弦十郎に嫌われたら星を壊して自決する気でもいる。

 

「えっと、皆には嫌われたくないけどこれだけは言っておく。俺は翼の婚約者になるために人を百人以上この手で殺している。マリア達を仲間にしたあと、暗殺をしに来たアメリカの工作員を何十と殺した。情報を奪うために拷問だってした。俺の手は血に濡れているけどそれでも俺と仲間で、身内で、家族でいて欲しいです。お願いします」

 

 流はクリスを持ったまま立ち上がり、その場で頭を下げた。

 その言葉を拒否する人はいなかったが、前向きに考えるから待ってほしいと言った人もいた。その中には翼もいた。




弦十郎のあの強さって何なんだろう。
セレナについては次回触れます。ちょっとミスって書く順番をミスりました。

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