海軍大将 白狐   作:汎用うさぎ

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遅くなりました。9話です。


9.七武海

シルヴィアとエース、2人の攻防が進むにつれ、スペード海賊団のクルー達は戦場から離れて2人の戦いを見ていた。近くにいると船長であるエースが本気を出さないと知っているからである。それは正解で、エースも本領を発揮し、猛炎を撒き散らし攻撃の苛烈さを増して行く。

 

「オラァ!!」

 

それでもなお、シルヴィアに攻撃は届かない。猛攻するエースと対照に、シルヴィアは攻撃に関して消極的だった。数回手にする刀を振っただけで自然系(ロギア)のエースには通用しなかった。

 

「うん、攻撃力は上々…、自然系(ロギア)だから攻撃もただ切るだけじゃあ当たらないか…。うんうん、これなら偉大なる航路(グランドライン)は余裕そうだね。」

 

観察するように、品定めするに姉貴は俺の動きを見てブツブツ感想を述べ、その表情は余裕に満ち溢れていた。

 

「じゃあ、これはどうかな?」

 

姉貴は剣を納刀すると何を血迷ったか素手で殴り掛かってきた。俺はいつものように受けに回って次の攻撃に備えるべく体を炎に変える。

 

姉貴の拳が眼前に迫り、俺の体をすり抜けーー

 

「ブベッ!?」

 

なかった。姉貴の拳は吸い込まれるように俺の右頬を捉え、碌な受け身も取れずに地面へとめり込んだ。

 

馬鹿な…!!俺は自然系(ロギア)だぞ!?何故殴れる…!?

 

「おー、まだ覇気を知らないとなると新世界は辛いねぇ…」

 

ハキ…!?俺がやられたのそいつせいか!?

 

「おい!“ハキ”ってのはなんだ!?」

 

「んー、秘密。というか知る必要ないヨネ。ここで捕まる訳だし」

 

「捕まってたまるか!!“火拳”ッ!!」

 

もはや何度放ったか分からない、自分の異名ともなるほどの技。右手から放たれた火拳は姉貴へと真っ直ぐ進み、直撃した。

 

「外れ。私の姿、ちゃんと見えてる?私は“此処”だよ?」

 

いや、姉貴に直撃したはずだった。しかし、直撃した姉貴は煙のように掻き消えて気付けば姉貴は俺の後ろに立っている。これで一体何度目だ…!?

 

「クソ…ッ!!」

 

落ち着け…何か種があるはずだ。直撃して消えて背後に現れるってことは、自然系(ロギア)って線もねェはずだ。それじゃあ一体何だってんだ…?

 

「ん?もうギブアップ?」

 

姉貴が俺の周りをクルクルと回って「ん?ん〜?」と非常にウザい煽りを入れてくる。

 

「んなわけあるかァ!!“炎戒”!!」

 

煽る姉貴を振り払うように、俺の周囲を焼き尽くすべく炎を展開した。業火が地を這うように広がり、それに姉貴も巻き込まれるも先程と同じように掻き消えーー

 

「粘るねぇ…あちっ!?」

 

「ん?」

 

再び現れた姉貴が苦痛の表情を浮かべて手に息を吹きかけていた。

 

「あ」

 

姉貴は一頻り手を振った後に俺の微妙な視線で自分の失態に気づいたのか短く声を漏らした。

 

そういう事かよ…!!よく分からねェが、あの姉貴は偽物で本物はこの近くに居る…ここら一帯焼き払ってやれば当たるっぽいな。なら話は簡単だ!!

 

「エ、エース?島が燃え尽きちゃうからやめようね?ね?」

 

「やなこった!!“蛍火”」

 

その名の通り、蛍のような淡い光を放つ小さな炎が無作為にばら撒かれ、姉貴はこの戦いにおいて初めて焦りを見せる。

 

「ちょ、待って…」

 

「待てと言われて待つかよ…“火達磨”ァ!!」

 

俺は合図を出し、蛍火を一斉に起爆させる。視界の全てを爆炎が占領する。チカチカと点滅するような眩しさが通り過ぎ、炎の勢いが弱まった頃合いに、姉貴の姿を探す。

 

 

 

 

 

しかし、立ち上がる黒煙を払った先には姉貴はいなかった。

 

「…いねェ!?どこへいっーー」

 

「ーー死ぬ覚悟は出来ていますか?」

 

ゾクリ、背筋が凍るような殺意が上から降ってきた。自然系(ロギア)だから避ける必要はない、はずなのに体が勝手に動いた。頭上に襲来する剣は避けなければならないと本能が告げたのだ。

 

「う、うぉぉぉぉぉぉぉおおッ!??」

 

鋭く振るわれる剣は刀身が黒く変色していた。そしてその剣からは途轍もなく嫌な感じがする。海楼石と似た感覚ではないが、同等の危険度があるのだろうか。それとも姉貴の言う“ハキ”ってやつなのか…!?

 

それにあの剣…姉貴のやつに似てるな…っぶね!?

 

「あらあら、小賢しい虫ですね。さっさと潰されてくださいませ」

 

再び剣が鋭く振るわれる。それも正確に(タマ)を取りに来ている。もはや奴が振り回す剣が死神の鎌のように見えた。

 

「誰だお前は!?」

 

剣を観察していて反応が遅れたが、やっとここで剣の持ち主に目を移す。地面にまで届きそうな長髪、見たことのない意匠の服、ハイライトのない暗い目。

 

やはりおかしい、こんな奴は島にいるはずがない。島に居たのは俺とあいつら(クルー)、それと姉貴だけのはず…。少なくとも海兵ではないはず…。

 

「シルヴィア様の忠実なる下僕、桐代と申します。以後宜しくお願いしますわ…と言いたいところですが、すぐ死ぬ運命にある羽虫には必要のないことです」

 

「姉貴の知り合い?いやそれよりも何故俺を狙う!?」

 

「愚問です、貴方は私の主に火傷を負わせたのです。死で償ってもなお足りない罪を犯したのです」

 

「は?」

 

「許せない…私の主…火傷…あぁ!!許されない事です!!お覚悟、どうぞ…」

 

相対してから常に剣の柄に置いていた手がわなわなと震え、暗い目はより一層濁って禍々しい気配を放ち始める。

 

ここまで様々な悪意に晒されて生きて来たが、ここまで明確でヘドロのようにドロドロと絡みつくような殺気を浴びたことは無かった。

 

奴が剣を抜刀した。剣から銀の輝きが失われ、鈍く光る黒色に染まる。それだけで心臓を鷲掴みにされたような、一気に寿命が削り取られていく、そんな感覚に襲われて脂汗が止まらない。

 

「その腹を捌いて五臓六腑を引きずり出して燃やし尽くしてあげましょう。話はそれからです…」

 

ゆらゆらと幽鬼のように歩み寄る桐代、これまでは剣など恐るるに足らずと鼻で笑っていた。そして今日、姉貴に素手で殴られ、奴の剣を我武者羅で避けた。少し前の余裕や自身はとうの昔に崩れて消えた。

 

先程までは遊びだったと思えるほどの殺気。少しでも動けば手足のいずれかが斬り飛ばされるビジョンが脳裏を過る。

 

どうすれば切り抜けられる…この女、隙がまるでない…!!どうする…!?

 

「誅伐執行…」

 

何の策も練られず、桐代は目の前に迫り、手にした剣を天高く掲げーー

 

「桐代!!すとっぷ!!ふりーず!かむばっく!!」

 

「はい、お呼びでしょうか?」

 

姉貴の声が響くと同時に桐代は即座に納刀して姉貴の側へと駆け寄っていた。それも喜色満面で。

 

「私は守ってとしか命令してない。攻撃してなんて言ってないよ」

 

「私ったらなんて恥ずかしい…。至らぬ私をお許しください」

 

「はいはい許す許す。それとエースは私の弟だから殺しちゃ駄目。分かった?」

 

「…ご命令とあらば、この桐代、例えそれがどんなに我慢し難い事であっても従います…」

 

深々と礼をしながらも桐代は俺に殺意を浴びせ続けているので生きた心地がしない。あの女ヤバすぎるだろ…

 

「…さて、やろうか。さっきのはちょっと焦ったよ」

 

キリっとした表情で仕切り直す姉貴。薄々気づいてはいたが、先程までのやり取りでほぼ確信する。

 

「…なぁ姉貴、本当は俺を捕まえる気ないだろ?」

 

確証を得るために姉貴に質問すれば特に驚く様子もなく構えを解いて笑った。

 

「あー、バレた?」

 

「殺しちゃ駄目とか言ってる時点でバレバレだっつーの。それに戦いも見に回って碌な攻撃してこねェし、最初っからソイツけしかければいい話だったろ。」

 

「まー、エースの力を試したかったからね。結果は概ね良かったとは思うよ?」

 

姉貴は若干言葉を濁したように言った。

 

「…はっきり言えよ。俺は弱ェんだろ?」

 

「んー、エースは今のルーキーでは一番実力あると思うよ。このまま行けば新世界でもそこそこは通用するんじゃないかな?四皇には逆立ちしても敵わないと思うけど」

 

「…」

 

四皇、新世界の海を統べる4人の大海賊。新世界に入ってそいつらを倒せば名を上げられる。漠然とした目標だった。ルーキーの俺らには早ェ目標だなんて笑ってた。だが俺たちなら出来る、そう思ってこの海を渡ってきた。

 

しかし今となって思う、本当に俺たちは出来るのか…?

 

「海の広さを知ったエースに提案があるんだけど」

 

俯いていた顔を上げて姉貴を見る。表情は柔らかく、少し笑っているように見えた。

 

「…あんだよ」

 

馬鹿にされているように思えたのでぶっきらぼうに返事をした。

 

姉貴は俺の反応を楽しんでいるように見えた。そして、

 

「ーーエース、七武海にならない?」

 

「…は?」

 

予想だにしない提案に、俺は呆然と声を漏らした。




姉弟喧嘩にママが出てきた。(娘贔屓)
シルヴィアは幼少期から能力をエース達に見せていません。能ある鷹は爪を隠す、出来る女だから…ドヤァ(油断して火傷した)

シルヴィアの能力について補足。
・エースの攻撃が当たらず搔き消える→視覚を惑わす(幻覚)
・クルーの重傷→痛覚を弄る&幻覚でリアルに重傷負ったようにみせた。実際は怪我してない。痛みで気絶してるだけ

痛覚に関しては対象との接触が必要。物を介してでもよい(棒きれでも可)

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