海軍大将 白狐   作:汎用うさぎ

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8.スペード海賊団

「ルーキーにして自然系(ロギア)の能力を持つこの男は放ってはおけません!略奪等の目立った行為は起こしてはいませんが、海賊同士のいざこざでは連戦連勝。今最も勢いのあるルーキーです!!先日も懸賞首の海賊の一団を壊滅させたとの報告が入っております」

 

海軍本部マリンフォードの議事の間にて、1人の男が話題に上がった。その男の名はーー

 

「スペード海賊団、ポートガス・D・エース…」

 

自然系(ロギア)の能力者ともなればルーキーでも能力次第では海軍の脅威となり得る、それ故に議事に参加する将校達も真剣な表情で手配書を睨みつける。

 

「そしてこのルーキーにこのまま勢いに乗って新世界で暴れられるより、王下七武海として召集し飼い慣らす方が得策、というのが上の判断です。幸い居場所は現在特定出来ておりますので、使者を決め次第勧誘に向かう予定です。つきましてはこの議事において使者の選抜をーー」

 

エースに対しての今後の対応を説くブランニューは、将校達が並ぶ議席の中の1人が手を挙げた事で力説していた口を閉じた。

 

「…ブランニュー少佐、少しいいですか?」

 

「シ、シルヴィア大将…何でしょうか?」

 

挙手した人物は海軍大将が1人白狐のシルヴィアである。普段は会議に現れる事のない、大将が会議に参加し、尚且つ手を挙げた事で場の緊張感が高まっていく。

 

将校達の視線は全てシルヴィアに向かい、固唾を飲んでシルヴィアの言葉を待った。ブランニューも大将からの質疑応答である、非常に緊張してシルヴィアの一挙一動を目で追いーー

 

「火拳の勧誘、私が出向く。」

 

「…は?」

 

あまりの突拍子のなさにブランニューは口をあんぐりと開いて間の抜けた顔を晒してしまう。

 

「火拳に関しては全て私が受け持つ。邪魔が入ると面倒だから他の海兵は皆手を引くように、監視も必要ないです。」

 

「…わ、私の一存では図りかねますので至急上に確認を取ってみます…!」

 

「あぁ、その必要はないよ。私がセンゴクさんに直接交渉するから。じゃあ会議の途中で悪いけど私は行きますね。」

 

シルヴィアは手をプラプラと振って議事の間から出て行った。途端に場の緊張感から解放されて将校達は息を吐いた。

 

それと同時に、大将が直接動かせた火拳のエースという海賊の注目度は跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと?シルヴィア君が?」

 

センゴクさんにエース勧誘に私が行って良いかと正直に伝えたところ困惑までとはいかないが微妙な表情をされた。

 

「はい、駄目ですか?」

 

「いや、大将の君が動くような案件ではないと思っただけなのだが、何故 火拳に執着するのだ?」

 

理由は家族だから様子を見に行きたい、であるが馬鹿正直に言えるはずもない。海軍大将が一海賊に思い入れがあるなどあってはいけない。これは私も承知の上である。それでも何とかしてエース勧誘に乗り出したいのだ。

 

「うーん、勘ですかね。放っておく訳にはいかないと私の獣センサーがビンビンです。」

 

頭に耳、お尻に尻尾を生やす。耳はピクピクと動かし、尻尾はピンと立てる。流石の私でも獣娘とかあざといと思ったので普段は仕舞っているがここぞとばかりに主張させる。

 

必死の誤魔化しも虚しく、センゴクさんは更に訝しむような目を向けてきた。

 

「…“D”の男だ。シルヴィア君、奴について何か知ってるのではないのかね?」

 

「“D”に関してはさっぱりですが?」

 

これは事実である。私はDを冠するもの達がどういう者達なのかは知らない。私はキッパリと断言すると、センゴクさんは少しだけ手元のエースに関する資料を一瞥すると溜息を吐いた。

 

「…そうか、まぁいい。火拳の勧誘は君に一任しよう。」

 

取り敢えず許可を貰えた事に安堵し、足早に部屋を出ようとする。扉に手を掛けた所で妙案を思いつく。私は振り返ってセンゴクさんに提案する。

 

「あぁ、センゴクさん。失敗した時は、全員捕縛で構いませんよね?」

 

こうすれば私とエースの関係も誤魔化せるのではないのだろうか?仮に七武海の勧誘に固執したとしても捕縛に乗り出したという事実が良い感じに打ち消してくれるはずだ。

 

それにエースの実力を試したい、というのもある。

 

「あぁ、良い報告を期待しているよ」

 

センゴクさんは私の提案に対して悪い笑みを浮かべて送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)のとある島。

 

「せ、船長ォ〜〜〜!!大変です!!か、海軍の軍艦が一隻こちらに接近してます〜!!!」」

 

エース率いるスペード海賊団は食料や水などの物資を補給するためにとある島に立ち寄った。補給が終わり、出航まで休憩を取って宴会をしていた最中である。見張り役の男が汗水垂らし、切羽詰まった様子で宴会場まで走ってきた。

 

「…なんだと?」

 

長年の勘というのか、体に染み込んでいた酒がスッと急激に抜けていくのを感じる。

 

軍艦引き連れてまで態々俺を捕らえにきたってのか?ありえねェな、何か企んでやがるのか?

 

「やったなエース、海軍に目を付けられたとありゃ賞金首に箔が付くってもんだ!」

 

「ギャハハッ!違ェねェ!!」

 

クルー達はまだ酔っているのか事態の深刻さを飲み込めていない。陽気なクルー達と対照にエースは底冷えする程の嫌な予感を感じ取っていた。

 

「そんな呑気な事言ってる場合じゃねぇよ!!あの軍艦に“大将”が乗ってるんだよォ!!!」

 

それを裏打ちするように、見張りが衝撃の事実を発する。

 

「大将だとォ!?」

 

エースの驚愕の声が響いた瞬間、宴会場のど真ん中に正義と刻まれたコートを着た女性が現れる。騒がしかった宴会場は唖然とするクルーで埋め尽くされ、空気が凍りつく。

 

「ーーあなた達がスペード海賊団であってる?結構人数多いね」

 

「…なっ!?い、いつの間に!?」

 

「た、大将白狐…!?」

 

「まぁいいや。えー、海軍の正義の下にあなたたちを捕縛する。お前らの航海はここで終わりだ、ってやつ?」

 

酷く間の抜けた声が凍りついた宴会場に響き渡る。

 

「ふ、ふざけんなァ!!この野郎ッ!!」

 

逆上したクルーが手元の剣を抜刀してシルヴィアに斬りかかった。

 

「おい馬鹿!!!手を出すなァ!!」

 

エースが何もするなと叫ぶが“既に”遅かった。

 

「…いぎぃっ!?ぐぁぁぁあああ!?」

 

クルーの体は袈裟斬りにされて地面に崩れ落ちた。

 

「無駄な抵抗はしないで。手元が狂って斬り殺してしまうかもしれないから。」

 

ーーいつの間に剣を抜きやがった!?

 

シルヴィアが剣に着いた血を振り払って宣告する。仲間が重傷を負った、あるいはシルヴィアの剣技を目の当たりにしてクルー達の酔いは醒め、赤かった顔は色を変えて青褪めた。

 

「シルヴィア!!テメェッ!!」

 

エースが激昂し、シルヴィアの襟首を掴み上げた。それに意に介さずシルヴィアはニコリとエースに笑いかけた。

 

「やぁエース。久しぶりに試合でもしようよ。私の連勝記録を止められるかな?」

 

「お前らは手ェだすなよ…!!」

 

エースはシルヴィアの襟首を乱暴に離して突き飛ばすと体を燃え上がらせた。そして、右腕を突き出し手を構えて力を込め、解放する。

 

「“火拳”!!!」

 

海賊船を4〜5船を海に沈める程の威力も持つ豪炎がシルヴィアに殺到する。シルヴィアは特に動く事なく棒立ちしたまま豪炎に直撃する。灼熱の炎がシルヴィアを包み囂々と燃え盛る。

 

「やったか!?」

 

遠巻きに見ていたクルーの1人が叫んだ。盛大なフラグを。

 

「ーーいや、全然?」

 

豪炎の中に居たはずのシルヴィアはフラグを立てたクルーの腹に剣を突き立てていた。エースを含め、囲むように見ていたクルー達の誰もシルヴィアが移動した事を知覚出来なかった。

 

「あがっ…」

 

シルヴィアは剣を引き抜き再びエースに向き直った。

 

「やめろォッ!!仲間に手を出すな!!」

 

「仲間が大事なら守ってみせて。あなたの実力を私に見せて」

 

「ッッッ!!」

 

全身を炎に変化させ、エースはシルヴィアへ襲いかかった。火力の手加減はなく、迸る業火が島の森に引火して燃え盛る。

 

島一つを焼き払う苛烈な姉弟喧嘩が今始まる。

 




シルヴィアから漂う強キャラ感。次回シルヴィアの能力解放です。

捕捉するとシルヴィアが大将になったのはエース出航後、ルフィ出航前です。

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