「…一週間、早かったな。」
「なんじゃシルヴィ、もっとフーシャ村で過ごしたかったのか?」
「ううん、私もやる事出来たし。これ以上は此処に留まるつもりはないよ。」
「そういえば出航の時ルフィとエースが訳の分からん事を叫んどったな。ありゃあなんじゃ?」
「さぁ?私は分かんないや」
「そうか…」
「…」
『姉貴/姉ちゃん!!直ぐに名を上げてやるから手洗って待ってな!!』
「…ぷっ…くく。手洗ってどうすんの?洗うのは首でしょ…」
「なんじゃ?なんか言ったかシルヴィ?」
「ううん、何にも」
おじいちゃんは訝しむ顔をしつつも言及はせずに何処かへ行った。経験が活きたな…。
というのも以前、私に“何をしていたのか?今日は何を食べた”など数えるとキリがないほどしつこく聞いてきた時期がある。
それが一時のものであれば良かったが年がら年中その調子ではさしもの私も怒る。というかキレた。私を思っての事だろうしと自分を納得させて我慢していたが、流石に毎日の私生活全てを開示するような真似を続けていたらストレスが溜まってきた。
故に、おじいちゃんがしつこく言及してくる時に限って無視したところ精神的に来たのか質問攻めはやめてくれた。
遠回しに部下に確認させているとも噂で聞いたが、私には特に負担がないので気にしてない。
「…海賊と海兵かぁ…」
日が沈み、夕暮れに染まる海。船尾から臨む光景をぽーっと眺め、ボソッと呟く。
船は進み、段々とフーシャ村は遠ざかっていく。村が水平線に飲まれるのを見つめ、考える。
私の在り方、掲げる正義とはーー
▽
そして6年後ーー
「頑張れよー!!エース〜〜〜!!!」
「待ってろすぐに名を上げてやる!!!」
エース、出航。
その3年後ーー
よっしゃ行くぞ!!!海賊王におれはなる!!!」
ルフィ、出航。
そして、シルヴィアはーー
「…」
「失礼しますシルヴィア中将、お時間です。センゴク元帥より召集がかかってますので……シルヴィア中将?」
伝達事項を報告していたシルヴィアの部下の女海兵セラは
「…zzz」
椅子にどっぷりと腰を据えて爆睡するシルヴィアの姿があった。俯き気味の顔を覗き込んでも起きる様子はない。くーくーと可愛い寝息を立てている。
ーー寝顔も可愛い。これで30近くだなんて詐欺です…流石は合法少女…じゃなくて!!起こさなきゃ!!
「あ、あの〜シルヴィア中将?」
シルヴィア中将の目の前で軽く手を振ってみる。反応なし。頬っぺたを突っついてみる。み、瑞々しい…!
「…うぅん」
「お、起きた…?」
一瞬鬱陶しげに眉を顰めたものの、シルヴィアは目を覚ます様子はなかった。普段優しい上司の魅惑の頬っぺたに無意識に手が伸びる。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに…
「あらあらお前さん何やってんの?」
頬っぺたに没頭していた私は背後から近寄る男の存在に気づかなかった。
「うひぃ!?クッ、クザン大将…!?いえ、その、これは違うんです!!ちょっとした出来心で!!」
バッとその場から飛び退いて全力でブンブンと手を振って体裁を取り繕う。
いや、本当に出来心なんです!いつもは触れがたいシルヴィア中将に触れるチャンスだと私の悪魔が囁いたんです!!それで触って見たら魅惑の頬っぺたでもう止められなくて…だってぷにぷになんですもん!?
「出来心?まぁいいか。それよりも、こーんな爆睡しちゃって。誰に似たんだか…。まぁいいや、シルヴィアはおれに任せて、君は行ってよし。お勤めご苦労さん」
脳内での必死の弁明は無駄だったらしく、角度的に私の愚行はクザン大将から見えてなかった。今更罪悪感に襲われるも、シルヴィア中将の信頼は失いたくないので私は即座に部屋を出て行く事にする。
「はっ!し、失礼します!!」
シルヴィア中将の頬っぺた…柔らかかったなぁ…もう一度あの頬っぺたをつつきたい…。
▽
「おーい、シルヴィア起きろ〜。起きないと色んな所触っーー」
クザンがノロノロとシルヴィアの胸に手を伸ばし、あと数センチの所で手を引っ込めた。
「指の骨折りますよ」
理由は私の“黒い”手だ。武装色の覇気を纏った手でクザンさんの伸ばした指をへし折らんと素早く振るった。本気と書いてマジである。
「おっとっと…冗談に決まってんだろ?」
それをサッと避けられる。余裕綽々なこの感じが毎度の事だがムカつく。(余裕そうに見えるクザンは内心冷や汗をかいています)
「それが冗談って言うなら、あなたは年がら年中冗談言ってることになりますね。冗談ばかり言ってると嫌われますよ。」
「ちょっとちょっと〜、ここ最近一層辛辣じゃない?」
「さぁ?というか話してる場合じゃないですよ。センゴクさんのところに行かないと。」
私は深く据えた腰を上げ、正義のコートを纏って廊下へ出る。クザンさんもそれに追随して歩く。
大将と中将が並んで歩く、それだけで視線は集まる。すれ違う海兵達はピシッと敬礼していく。それに軽く会釈しながら私達は廊下を進む。視線が集まって少し鬱陶しい。
「それにしてもさぁ、さっきまで爆睡してるもんだから君の部下困ってたぜ?えーと、セラちゃんだっけ彼女?」
むむ、彼女が起こしに来てくれていたのか。申し訳ない事をしたな。今度謝っておこう。
「時間管理はしっかりしてますので問題ないです。というか何で私の部下の名前を把握してるんですか?手を出したら殴りますよ」
「肝に命じておくとしよう。」
「着きましたね、というかいつまで付いてくるんですか?」
「あー、まぁまぁ俺のことは気にすんなって。俺もセンゴクさんに呼ばれるからさ」
「?センゴク元帥、シルヴィアです。」
私はクザンさんも呼ばれている事に疑問を抱きつつもドアをノックする。
センゴク元帥の「入れ」という声を受け、重い扉を開けた。
「来たか…まぁ掛けてくれたまえ。それとクザン、貴様には予定より早く来いと召集をかけたはずだが?」
「あれ?そうでしたっけ?まぁ一番大事な場面に間に合ったんだから良しとしましょうよ」
「どうした?座れと言うておるじゃろうが。さっさと座らんかい」
「オー、サカズキ〜そんなに急かすもんじゃないよォ〜〜シルヴィア君も固まってるじゃないか〜〜」
「…大丈夫だ、座れって。取って食われるってワケじゃないからさ」
元帥、センゴク。三大将、赤犬、黄猿、青雉。そして、私。あとカウントしていいのか分からないけど山羊1匹。
ーーえ?何この状況。
「え、あ、はい。」
状況把握が儘ならぬまま、クザンさんに促されて4人の前に座る。
「シルヴィア中将、我々がこうして集まったのは他でもない、君の意思を聞くためだ」
「…大将方が勢揃いということは」
ここで大方察する。
「そうだ、大将昇格の件についてだ。上層部と我々は君の功績を認め、シルヴィア中将を大将に据えたいと考えている。クザンからの強い推薦もある、他の2人からも反対はない。後は君の意思を聞くだけだ。」
4人の視線が全て私へと向けられる。
「私が海軍大将…」
ーーあの時の私なら、面倒くさがって迷っただろうけど。私は約束を反故にはしない。弟達との約束ならば尚のこと。
決断はとうの昔に済ませている。
弟達が悪行を重ねないように、重ねても直ぐ捕まえて更生させてやる。ま、海の平和も守る事を前提だけども。
「…謹んでお受けしましょう。」
今日この日この時を持って海軍大将に白狐が加わり、海軍三大将より海軍四大将となる。
セラ→シルヴィアの部下。オリキャラです。一応少将
・シルヴィアの大将昇格に対する評価。
センゴク→職務に忠実、実力も折り紙付き。クザンの推薦もある。文句なしに大将昇格は妥当と考える。
サカズキ→悪に対しては甘さがない。しかし、いざという時に非情になれない、疑わしきを罰せずという姿勢がある。反対はしないがあまり快くは思っていない。
ボルサリーノ→基本はセンゴクと同評価。しかし、単純な戦力の増強が嬉しいとかそのくらい。賛成派の1人。
クザン→言わずもがな。