それでは第九話です。どうぞ!!
ここはどこだ。なんで燃えているんだ?
透夜は今、あちこちで燃え続ける町の中にいた。
空は暗雲に覆われており、雷が発生している。
町の中には人ひとり見当たらない。こんだけ燃えていれば人は逃げ惑うだろう。死者も少なくないはずだ。
それなのに人がいない。死体すらない。
とりあえず移動しよう。
そう思って移動しようとしたとき一つの咆哮が響いた。
聞こえた方に振り返るとかなり周囲の建物より大きい影があった。
今まで自分の目の高さまでしか見ていなかった透夜はその存在に気が付かなかったのだ。
透夜はただ恐怖した。
燃え上がる炎は黒い鱗を映し出し、爬虫類を思わせる眼を光らせ、黒き翼を照らした。
これだけ見た目がわかると嫌でもわかる。わかってしまう。
あれは竜だ。ありとあらゆるものに破滅をもたらすものだと。
それくらいは透夜も憶えていた。消された記憶は思い出などの大切なもの、生きるために必要なことは憶えている。
あんなものに人間は勝てるのか。勝てる生物などいるのか。
そんなことを考えていると竜がこっちを向き、透夜と目が合う。
その瞬間、ただただ恐怖した。全身が振るえる。逃げようにも足が動かない。動こうとしない。
そうこうしているうちに、透夜に気づいた竜の口に雷が溜まっていき、透夜に向かって撃ちだされた。
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透夜は勢いよく布団から飛び起きる。
「はぁはぁ・・・夢か。」
かなりの汗をかいていたようで体はべたつくし、かなり不快だ。布団もかなり濡れている。
こんな状態で寝ようとも思わないため透夜は月華を片手に外に出た。
透夜は月華を振りながら考える。
何だったんだあの夢は。あんな場所は知らないし竜なんて見たこともない。
だけど、知らないにしてはかなり現実感があった。
「あら、何してるの透夜。」
「・・・紫か。」
能力を発動しているはずなのに話しかけられるまで気が付かなかった。
「いつからいたんだ?」
「今さっきよ。あなたが素振りしているのが見えてね。
それで、どうしたのよ。こんな時間に。」
「いや、ちょっと眠れなくて。」
「それじゃあ、私にちょっと付き合いなさい。」
そう言って紫はスキマから一本の酒瓶を取り出し、縁側に座った。
別に飲む気はなかったが透夜も隣に座る。
すると、紫は一杯勧めてきた。
「別に俺はいいです。」
「あら、遠慮なんてしなくていいのよ。」
「そういうことじゃなくて・・・」
「別にあなたぐらいの娘も飲んでいるから平気よ。」
そう言って俺に勧め続ける。
「それじゃあ一杯だけ。」
そして俺は紫からお酒の入ったコップを受け取り、一口飲んでみる。
「・・・おいしい。」
「それはよかった。」
実際、初めてだから、このお酒がどのくらい美味しいのかはわからない。だけどかなり美味しく感じられた。なんだか気持ちも落ち着いてくる。
「落ち着いてきたようね。」
「えっ」
「なんか心が不安定なように見えたから。」
「そのためにわざわざ?」
「大量のお酒は体にも心にも毒だけれども少量なら薬にもなるわ。
もう大丈夫そうだから今日はもう寝なさい。」
「ありがとう、紫。」
「おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
そうして俺は部屋に戻り、再び寝床についた。
今回はとても穏やかに眠りにつくことができた。
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朝、目を覚まし、朝食を食べていると、紫が起きてきた。
「珍しいですね。紫様が朝に起きてくるなんて。」
「何を言ってるの、藍。私だってたまにはしっかり起きるわよ。
それより、透夜。昨日はしっかり眠れた?」
「ああ、昨日というより今日だけど大丈夫だよ。ありがとな。」
「それならよかった。」
「なんの話ですか?」
藍は何の話か分からないようで首を傾げる。
「藍は別に知らなくても問題ないわ。」
「そうですか。」
「あ、あと今日は午後の修行はやらなくていいわ。」
「なぜですか?」
「透夜を霊夢のところに連れて行こうと思って。」
「なるほど、わかりました。」
「紫、霊夢って誰だ?」
俺は知らない名前が出てきたので紫に尋ねた。
「霊夢は今日の宴会の会場になっている神社の巫女よ。
幻想郷に大切な結界を管理しているわ。」
ほへー
俺はまだここしか知らないが、幻想郷ってかなり広いだろ。その結界を管理してるってすごいな。って
「宴会って今日なのか。」
「えぇ、いっておいたでしょ?」
「いや、近々としか聞いてないけど。」
「なら大丈夫ね。
それより藍は行くの?」
「私は待ってます。」
「そう。だとすると、多分橙は行かないから家からは私と透夜だけね。」
藍は行かないのか。少し残念だ。
「それじゃあ昼食を食べたら行くから準備しておきなさい。」
そんな感じで朝食を食べ終わり、午前中の修行が始まった。
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「霊夢~来たわよ~」
透夜たちは今、博麗神社へ訪れていた。
「なんの用よ、紫。宴会は夜からなんだけど。」
紫が呼びかけると、神社の中から紅白の巫女服を着た少女が出てきた。彼女が霊夢なのだろう。
「ちょっと前に言った子を連れてきたのよ。」
「初めまして霊夢さん。黒凪透夜と言います。
なにとぞよろしくお願いします。」
そして俺は一歩前に出て自己紹介をした。
「紫から聞いてると思うけど私は博麗霊夢。敬語もいらないし、霊夢でいいわ。それと、よろしく。」
お互い自己紹介を済ませる。
「それで、なんで宴会前に連れてきたのよ。」
「知っている人が一人でもいたほうがいいじゃない。」
そう言って、紫はスキマを開いた。
「それじゃあまた宴会の時に会いましょう。
透夜はしっかり霊夢の手伝いをするのよ。」
「へ・・・ちょっと待てぇえええ。」
俺は呼び止めようとするが、スキマを閉じ、帰ってしまった。
「はぁ、霊夢、俺は何を手伝えばいい?」
「立ち直り早いわね、あんた。」
「しょうがないだろ。おいてかれたらどうしようもないからな。紫め、後で憶えてろよ~。」
「それもそうね。それじゃあ外の掃除をお願い。」
「りょ~かい」
俺は霊夢に頼まれたため外に出て掃除を始めた。
その時、猛スピードで空を飛んでいる何かがこっちに向かって突っ込んでくるのを感じた。
「わぁあぁぁぁどいてくれぇえぇぇぇ」
俺はそれをギリギリで避ける。
すると、飛んできたものは止まることなく地面に突っ込んだ。
心配して近寄ってみると、黒い三角帽子を被った少女が地面に突き刺さったホウキを抜こうとしていた。
「だ、大丈夫か?」
「わりぃ、ホウキを抜くの手伝ってくれないか?」
「お、おう」
「いや~助かった。ありがとな。そういやあお前、初めて見る顔だな。
私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。魔理沙でいいぜ。」
「俺は黒凪透夜だ。俺も透夜でいい。」
「よろしくな、透夜。」
「こちらこそよろしく、魔理沙。」
そう言ってお互い握手をしようとしたところでドアが勢いよく開かれ、若干怒ってる霊夢が来た。
「なんか大きい音が聞こえたと思って見てみれば、またあんただったのね、魔理沙。」
怒ってる霊夢を見て透夜と魔理沙は一歩後ずさる。
「いや、霊夢、これには深いわけが・・・」
「問答無用!!」
そうして俺と魔理沙は二人で頭にたんこぶを作る羽目になった。なんで俺まで・・・
「そういえばあんたたち、いつ仲良くなったのよ。」
「「今さっきだよなぁ(だぜ)。」」
「ふーん、まあいいわ。それより二人とも、掃除よろしく。」
霊夢が戻っていくまで真面目に掃除をしていた魔理沙は戻ったとたん話し始めた。
「いいか透夜、今ので分かったと思うが霊夢は怒らせたらダメだぜ。問答無用で武力行使してくるからな。」
怖いな、巫女さん。『素敵な巫女』って紫から聞いてたけど素敵じゃないじゃん。
「特にお金と食べ物は要注意だな。あいつ、賽銭箱を見るのと食べてる時が幸せを感じる時だからな。」
「そ、そうか」
「前に霊夢の楽しみにしてた煎餅を勝手に食っちまった時はヤバかった。スペカまで使ってきたしな。」
「それは魔理沙が悪いんじゃ。」
誰でも楽しみをとられたら怒るだろう。
「まぁ、確かに許可なく食べちまった私がわるいけどさぁ・・・煎餅一枚でスペカは酷くないか?」
「今仲いいんだったら別にいいんじゃない?
霊夢ももう許してるんだろ、友達を失うんだったらスペカ撃たれるほうがマシだろ?」
魔理沙は驚いている。まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったようだ。
「そうだな。よかったぜ。霊夢が友達のままでいてくれて。」
そうして、話しに夢中になっていて止まっていた掃除を再開しようとしたとき、ドアが開かれた。
もうわかっただろ?
霊夢が戻ってからすぐに話し始めたためあまり進んでいない掃除、箒で掃く手が止まっている俺と魔理沙、そしてそれを目にした霊夢。
そう、俺達には『鉄☆拳☆制☆裁』が待っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回9話にしてやっと霊夢と魔理沙が出せました。
本当はもっと早めに出すつもりだったのですが、1話をあまり長くしないようにしていたら二桁入る直前になってしまいました。
自分が好きなキャラが出るのはいつになるやら…
それでは改めて、ここまで読んでいただきありがとうございました。
次話は水曜日に出せるようにしますが、もしかしたらまた一週間後になってしまうかもしれません。その時はすいません。
それではまた次の話で。