存在を奪われた元赤龍帝   作:kind090daichi

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 そろっと一誠がいい具合にぶっ壊れてきますね。

 それにしても誠二は2日間でここまで状況をつくりあげるとは手際が非常に良いですね。


蝕まれたものはもう戻らない

~一誠 side in~

 

 目を開けると、そこは自分の部屋の天井だった。俺、どうしたんだっけ?

 

 布団を押しのけて上半身を起こす。

 

 頭がぼぉっとするなぁ。もう朝か。

 

「うぅ・・・・・・。気持ち悪い」

 

 ガンガンする頭を振って無理矢理脳の働きを正常に戻す。そして同時に、何があったのかを思い出した。

 

「あいつは一体何なんだ?どうして俺と同じ顔をしている?」

 

 口調は冷静で落ち着いているように聞こえるが、実際は得体の知れないものがいきなり自分の家族になったという体験が思いのほか精神にダメージを与えていた。そのせいか、体の感触を確かめるために開いたり閉じたりしていた右手は震えていた。

 

 そのことには当然、一誠も自分で気付いていた。

 

震える右手をなんとかしようと、左手でぎゅっと掴む。

 

「落ち着け、落ち着け、落ち着け・・・・・・。絶対にあいつを追い出してやる」

 

 俺の家族は俺が護る。

 

 何があっても、何をされたって耐えてみせる。

 

 みんなが俺を見放さない限り、守り続ける。

 

 自分の中で決意を新たにすると、自然と震えも収まった。

 

「よし、行くか」

 

 そう意気込み、バッとベットから跳ねるようにして起き上がると扉を開ける。

 

 まずは普通に生活して、あいつの正体を確かめてやる。

 

 1階へと降りた俺は最初にリビングに向かった。扉を開けて目に入ってきたのは、テレビを見ながら談笑しているあいつと両親の姿だった。

 

 いくら覚悟を決めたとはいえ、いくらばかりかはショックを隠せなかった。

 

 扉を開けたままそこに立っていると、お母さんが気付いた。

 

「あら、一誠もう具合はいいの?この前はかなり辛そうだったけど・・・?記憶が混乱するほど具合が悪いのなら、なぜ言わなかったの?」

 

 口ぶりからはとても心配している色がうかかえるが、どうしても一誠は素直に喜べなかった。あの新しく家に来た弟がこちらをみていたからだ。

 

 何でそんなににやついているんだ。いやな予感がする。

 

 おれの予感は見事に的中することになる。

 

 一誠は胸くそが悪くなるのを我慢しながら、出来るだけ自然に誠二に問いかける。

 

「どうしたんだ、誠二。そんなにうれしそうな顔をして」

 

 すると誠二は一瞬驚いたような顔をした。多分、話しかけてきたことに多少なりとも動揺したようだ。

 

「いや、なに、兄さんは大丈夫そうだったからよかったなと、ね。あんなことがあった後だから」

 

 しかし、すぐに誰かを本気で心配するような表情をつくるとそう言ってきた。

 

 どういうことだ?いきなりその言葉が出る意味が分からない。何か意図があるのか?

 

「どういうことだ?」

 

 だから直接聞くことにした。するとお母さんが話の輪に入ってくる。

 

「あんた覚えてないの?イリナちゃんと喧嘩して酷い別れ方をしたらしいじゃないの。しかもあんたが一方的に悪いって誠二が言っていたわよ」

 

 は?何言っているんだ?別に喧嘩などしていないぞ。

 

「お母さん。俺は昨日イリナと喧嘩なんかしてないよ?」

 

 そもそもする理由も見当たらない。

 

「昨日?何言ってるのよ一誠。あなたが倒れたのってもう二日も前よ?」

 

 まじか。嘘だろう?そんなに経っていたのか。しかし、ほんとに理由に見当がつかない。今日はイリナの所に行ってみるか。

 

 そう思いながら二日ぶりのご飯を食べた。二日ぶり?

 

「ていうかお母さん。俺はどうやってこの二日間生きていたの?流石に飲まず食わずは難しいと思うんだけど」

 

 本当に不思議だ。

 

「まーた、阿保なこと言ってる。あなた、寝ているって言うか茫然自失としていた感じだったから、呼びかけたら普通に食べてたわよ。もしかして、覚えてないほど落ち込んでいたの?」

 

 はい?余りのショックで意識のないままで生活していたって事?

 

 まぁ、気にしていたら先に進まないか。イリナには、ご飯を食べ終わったら会いに行くか。

 

 

 

 ご飯を食べ終わってイリナの家へ行く。

 

 着くと玄関のチャイムを鳴らす。

 

 ピンポーン

 

「はーい」

 

 ガチャ

 

 インターホンを聞いて来たのはイリナだった。都合がよかったので、早速身に覚えのない喧嘩をしたことを聞こうとするがダメだった。

 

「なんで一誠君がここにいるの?もう顔も見たくないって言ったじゃん」

 

 目が合った瞬間露骨にいやそうな顔をするイリナ。

 

 顔を合わせた途端に来た強烈な拒絶に言葉が出なかった。その代わりに目もとがピクピクと痙攣した。

 

「どうして君が怒っているのか知らないけど、僕が何をしたんだ」

 

 思っていることを素直に吐き出すと、イリナは激昂する。それはもう烈火のごとく怒った。

 

「何をしたかですって?!何を巫山戯たことを言っているんだ?!僕は知っているんだぞ!」

 

「何を?」

 

「君が僕たちで隠して育てていた子犬をいじめ抜いた後に殺したことを!!」

 

 いや、本当に知らない。確かに橋の下で捨てられていた子犬を飼っていたが、そんなことをするはずはない。俺は相当そいつを気に入っていたからだ。

 

「本当に知らないよ」

 

 これだけは本当にいえる。

 

「嘘だ!!誠二君が言っていたもの。君が笑いながら蹴って最後には首を絞めたことをね!誠二君の言うことに間違いは無いよ。だって確認しに行ったら本当に死んでいたんだもの!!4日前に世話したときには生きていたのに!!だったらこの3日間世話する予定だった一誠君がやった以外ないじゃないか!!」

 

 イリナは腕を組みながら俺を殺せるような視線を送ってくる。

 

 あぁ、そういうことか誠二。お前は俺から護るべきものを奪う気か。俺が、護らなくちゃ。

 

 俺はイリナの肩をガシッと掴みながら、俺が2日前に体験した出来事を告げる。

 

 が、しかし何も変わらなかった。いや、むしろ悪化した。

 

「そんな子供でもつかない嘘で誠二君をおとしめようって言うの?最低だわ。そこまでして実の弟を悪者にしたいわけ?」

 

 はぁ、身内からの暴言は堪えるな。しかし俺は諦めず、時間かけてイリナを説得していく。

 

 が、

 

「もう一誠なんて知らない!!もう2度と来るな!!」

 

 そう叫んだ。そして俺にビンタをかまして家の中へ戻っていった。

 

 叩かれた頬は熱を持ってかっかと熱く、手のひらから何かがこぼれ落ちていく感覚が一誠を打ちのめしていった。

 

「なんで、信じてくれないんだよ」

 

 誰も聞いていないことを分かっていたが、呟かずにはいられなかった。

 

 誠二によって親友を、護るべきものを奪われた一誠は、虚無感と孤独感を感じながら家へ帰った。

 

 今その顔を見た人は10人中10人が「今にも自殺しそうな顔」と答えるであろうほど絶望の淵にいた。もう一押しすれば戻ってはこれない深い谷に落ちる、そんな淵に。

 

 誠二がそれを陰から見ていて笑い転げていたのは、最早言うまでも無い。

 

 家に帰った一誠は、まだ昼だというのに自室のベットに潜り込み、現実逃避するために目を閉じた。

 

~一誠 side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 一応一誠の師匠枠は決まりました。

 登場まで楽しみにしていて下さい。

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