原作開始は、ウルスラグナが冬木に慣れてから(三年後)です
無事に異世界への転生を果たしたウルスラグナは、今ーーーキャラ崩壊していた。
彼の記憶の中には、自分の戸籍があるにはあったのだが、自分の家が冬木にあったので、徒歩で冬木まで移動したのである。 権能の「神速での移動」を使うことも忘れて。
冬期までの道中、ウルスラグナは何度も警察に捕まって、何度も家族がいるかを聞かれ、家族がいないと言ったら、同情の視線を向けられて来たのである。
「我は神だぞ!?なのに何で何度も何度も警察に捕まらなきゃ行けないんだよ!?つーか、自分には親がいないと言ったときの同情の視線が地味にキツかったんですけど!イジメですか?イジメだよね?これ何てイジメ〜!?」
駅前で絶叫しているウルスラグナに、近づく影が二つあった。
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衛宮切嗣とその妻、アイリスフィール·フォン·アインツベルンは、駅前で絶叫している少年を見て、絶叫の内容から彼に家族がいないのだろうと推測して、彼を助けてやろうとして、彼に話しかけた。
「何か困ったことがあるのかな?」
「困ったことがあったら力になるわよ?」
そういった二人に、ウルスラグナは振り返り、涙目で言った。
「家がどこだかわからないのです」
その言葉を聞いた切嗣は、彼にまず、自己紹介をした。
「僕の名前は衛宮切嗣で、隣にいるのが妻のアイリスフィール·フォン·アインツベルンだ。君の名前は何かな?」
「草薙ウルスラグナです」
彼がとっさに名乗った名字は、彼を殺した草薙護堂の名字であった。
「よかったら、僕達が君にこの街を案内してあげようか?」
その提案は、ウルスラグナにとってありがたいものだったので、彼はその提案に乗ることにした。
「よろしくお願いします」
その言葉を聞いた二人は笑顔を浮かべて、彼を案内してやる事を決めた。
二人がウルスラグナに冬木を案内していたら夜になってしまったので、二人は彼を夕食に誘ってみた。
「もしよかったら、今日の夕食は僕らの家で食べないかい?」
受肉をし、食料を調達する必要があった彼にとって、その提案はとてもありがたいものだったので、彼はまた二人の言葉に乗ることにした。
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イリヤスフィール·フォン·アインツベルンは、なかなか帰ってこない両親の帰りを待っていた。二人が玄関に帰ってきた音を聞き、彼女は兄の衛宮士郎と共に、両親を出迎えに行った。彼女の両親は、道に迷っていた少年を案内していたのだという。
両親からその少年、ウルスラグナを紹介された彼女は、少しの間、彼に見惚れてしまった。
それも当然である。
まつろわぬ神として神話の中から現世に降臨したウルスラグナは、受肉しても神であることに変わりは無く、彼の人間離れした美しさは少しも変わっていないのである。
「俺の顔に何か付いているのか?」と彼に聞かれて意識を現実に戻した彼女は、食事の準備を始める両親を見て、
「何でもない」
と答え、両親のあとを追いかけてリビングへと入って行った。
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食事の席で、切嗣は、駅前での彼の叫びを聞いてからずっと疑問に残っていたことを彼に聞いてみた。
「君は、ご両親はいるのかい?」
「いいえ、いませんけど?」
それが何か?と言うように当然のように返された答えを聞いた彼は、即座に謝った。
「そうか、それは辛いことを聞いてしまったね」
「いいえ、この世界に産まれた時から両親はいなかったので、別に気にしてないんで大丈夫です」
辛い様子など全く見せず、当然のようにサラリと彼が発した言葉に、彼は絶句した。
それは、同じ食事の席に付いていたイリヤスフィールや、士郎も同じであった。
普通、自分には親がいないという事実は、子供にとっては重くのしかかるものである。
今ではすっかり衛宮家に慣れた士郎であっても、本当の親がいない、という事実は彼にもたまにのしかかる。
だが、目の前の美しい少年は、少しも淀む事なく、簡単に親がいないと言い切ったのである。
彼らは、ウルスラグナがとても辛いことに慣れてしまったのだろうと思い、哀れみを抱いた。
「君の家はどこだい?」と聞いた切嗣に帰ってきたのは、
「この家の隣です」
という答えであった。
そこに、イリヤスフィールと士郎が口々に、
「朝飯はうちに食べにきなよ!」
「風呂とかも気軽に使いに来ていいぜ!」
と、家族のいない彼に温かい言葉をかけた。
ただの同情心で言われているのならばすぐに断っただろうが、彼らが本気でそう言っていることを感じたのか、不思議と断ることは出来なかった。
「はい、よろしくお願いします」
と頭を下げた彼に、
「ママって呼んでね♪」
と声をかけたアイリスフィールに、
「はい、よろしくお願いします、アイリスフィールさん」
と声を返した彼は、「ママって呼んでよ〜」と繰り返しているアイリスフィールの声を聞きながら、家族というものの暖かさに生まれて初めて触れたのだった。
いささか設定とは違う部分がありますが、そこはご都合主義と言う事で。