沈黙や平穏というのは、およそ唐突に破られるものである。だからこそ貴重であり、尊いものなのだといえばそうなのかも知れないが、やはり意図せず突然現れる喧騒というのは慣れる方が無理なものである。
コンコン。
「「「!?」」」
話がまとまり、ようやく一息ついた男子部屋一行の平穏もこうしてノック一つで唐突に破られた。
「一夏さん、いらっしゃいます?まだ夕食を取られていないようですが、具合など悪いのですか?」
「…と、取り敢えずシャルルは隠れろ!」
「一夏さん?入りますわよ?」
ガチャ。特に抵抗もなく開けられる辺りセキュリティはどうなっているのか。…あ、私が閉め忘れていました…とルイス、心の内で後悔。
「…三人とも何していますの?」
「い、いやあ、これは…」
※布団に包まるシャルルと、それに覆いかぶさる男子二人の図
「…シャルル様が少し体調が優れないようでして。こうして二人して看病しておりました。もう大分楽になったとのことですのでお二人でディナーを楽しまれてはいかがですか?ええ、その方がいいでしょう。」
「ゴ、ゴホゴホ!そうだね!行ってらっしゃい一夏!」
「お、おう、そうだな!じゃあそうさせてもらうよ!行こうかセシリア!」
「え、ええ…ですg、はぅ!」
「ごゆっくり、お楽しみくださいませ。」
ガチャン。即席のチームプレイにしては恐ろしく強引な早業であった。途中セシリアが追求しかけたが、一夏に手を握らせ、押し出した。これでチャラになればいいが。…なるだろう、多分。
「…行った?」
「ええ、もう大丈夫でしょう。」
「よ、良かったぁ…」
無事乗り切れたようである。
「ありがとう、ルイス。後で一夏にもお礼しなくちゃ…」
「ええ、そうですね。…取り敢えず、お飲み物を用意いたしましょう。」
そうしてまた始まる平穏。つかの間の休息ともいう。故郷の味ではないが、抹茶というのは心が落ち着くものである。
「…さっきの事もありがとう、ルイス。まだ解決したわけじゃないけど、なんだかすごくスッキリしたよ。」
「それは何よりです。先ほどは少し熱くなってしまいました。お恥ずかしい限りです。」
「そんなことないよ。とても嬉しかった。…でも、どうして?」
「どうして、ですか。…そうですね、昔の自分と重ねていたのかもしれません。私もセシリア様も、少し前までは同じような手合いを相手にしていたので。」
「あっ…そっか。」
おそらくは資料でオルコット家について知っていたのだろう。気まずそうに顔を伏せる。
「その、ごめん。嫌なこと思い出させちゃったかな。」
「いえいえ、過ぎたことですし気にしなくていいですよ。重要なのはこれから、です。プラス思考でいきましょう。」
「…うん、そうだね。えへへ、なんだかルイスはカウンセラーみたいだね。」
「おや、向いているんでしょうか。これは真剣に検討してもいいかもしれません。」
「ぷっ、なにそれ」
あはは、と笑う。シャルルに笑顔が戻ったところで、どうやらこの件はようやく落ち着いたようである。
因みにその後、多少疲れた様子の一夏が持ってきた夕食は洋定食の『半熟卵のカルボナーラ』であった。
平穏は破れるために、予告は裏切るために。…冗談です、キリが良かったんです。申し訳ない。
一夏さんは最初から手を繋がれ、覚悟を決めたため、疲労は最小で済みました。ですので、気を使って洋定食です。…食べさせあいっこ、三人での描写は作者にはハードルが高すぎました。