「まずは、ごめんね。僕はこの通り、三人目の男子なんかじゃないんだ。親にこうしろって言われてね、仕方なく…っていうのはちょっとズルいかな。」
そう言って覇気のない声で悲しげに笑う目の前の女子。
「ん?シャルルの親っていうと、確かデュノア社の…」
「うん、僕の実家のデュノア社、そこの社長である父親からの直接の命令だよ。」
「命令って…父親なら尚更なんでそんな事を…」
「それは…」
そう言って一瞬躊躇うシャルル。隠し切れない苦悩が浮かんでいた。
「一夏、僕はね、妾の子なんだ。父親の不倫相手の子。母親は二年前に亡くなってね。引き取られたんだ。直接会ったのは確か二回くらいかな?あの時は酷かったよ。この泥棒猫の娘が!って本妻の人に怒られちゃってね。僕に言われても困るのにね?」
明らかに無理して笑いながら語られた事実に、一夏は絶句した。流石に十五にもなれば盗んだバイクで走り出す年頃である。妾の子、不倫相手の娘と言われて意味が分からないほど純情ではない。
「それから少しして、僕には高いIS適性があることが分かった。非公式だけどデュノア社のテストパイロットにまでされてね。だけどすぐにデュノア社は経営危機に陥った。第二世代機で完全にシェアは取れたんだけど第三世代機開発が振るわなくて…そこで僕に白羽の矢がたった。どうせ非公式だったから三人目の男子として広告塔にしよう、ってね。」
要するに親に散々こき使われているのがシャルルの現状である。母親が急に亡くなり、茫然としていたところで突然現れた父親に連れていかれ、自分が妾の子だと知ると同時に盛大な罵倒を受け、ようやく取り立てられ、認められたと思ったら急に性転換である。
「…それで、これからどうするので?私達のデータはもう既に大なり小なり送られたのでしょう?そうなると、心苦しいですが黙って見過ごすことは出来ませんよ。」
そしてこの追い打ち。自分が黙っていれば大丈夫なのではと考え始めていた一夏、更に絶句。そう、この場には自分のような一般人ではなくきちんと国の代表候補生に所属するルイスがいるのである。流石に即110番にはしないだろうが、国のメンツというものもある。
となると、
「どうって…きっと僕は本国に呼び戻されて良くて牢屋行き、デュノア社は潰れるかどこかの傘下に入るかして消滅、かな。ルイスには本当に申し訳ないけど僕にはどうすることも…」
話がまずい方向に向かっている、と一夏は感じた。実際その通りである。切り札は先ほど思いついたのだが、それを提案するのはこの状況では虫が良すぎる。
では、どうするのか。
「…頼む、ルイス!このことはシャルルのことが解決するまで黙っててくれないか!虫が良すぎるってのは分かってる。でも、このまま放っておけないんだ!」
答えは単純、それでも精いっぱい頼み込む、である。
「い、一夏…?」
「…一夏様、何か策がお有りで?」
シャルルは一夏の意外な行動に戸惑い、ルイスは落ち着きながらも少し目を見開いている。
「ああ、IS学園特記事項第二一『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。 』。つまりシャルルが連れ戻されるまでにあと二年と少しは余裕がある。その間に何とか…!」
「…なるほど、時間は稼げるということですね。しかし、言いにくいのですがそれはあまりに不確実では?」
「それはそうだけど…でも!」
「そしてシャルル様、私は貴女が『どうなるか』ではなく『どうしたいか』を聞きたいのです。」
「ぼ、僕は…でも、」
「貴女は人に頼るということに慣れていないのでしょう、しかしここにいる一夏様は貴女を助けたいと本気で考えています。貴方は、どうですか?」
「…ありがとう、一夏。ありがとう、ルイス。僕は…!このままみんなと一緒に過ごしたい!だから、………助けて、ほしい…!」
涙ぐみながらの言葉。二年越しの、押し殺し続けた本音だった。
「シャルル…!ああ!絶対に助けるぞ!
…でも、ルイスは良いのか?いや、頼んだ俺が聞くのもアレなんだが…」
「ええ、私としても、個人として許していないのは、言い方は悪いですが末端のシャルル様でなくフランス国自体です。…幸い一番の証拠であるシャルル様はこちらに居ますし…微力ながら私もお力添えいたしましょう。」
そう言って笑うルイスだったが目だけは笑っていなかった。
その後の顛末を大まかに記しておくと、オルコット家からの情報提供を受けたイギリスがフランスを告発。これによりフランスは欧州連合の『第三次イグニッションプラン』(欧州連合第三世代機開発競争)から蹴落とされ、賠償金、要は世界に対する迷惑料を払わされた。
他にも様々なものを失ったフランスだが、その中にはちゃっかり『被害にあった優秀なISパイロットの保護権』もあった。彼女は今はイギリス国籍であるらしい。
また、一連の流れは全て半年以内に収まるという早期決着だった。
Q、一夏「あれ、あんだけ啖呵切った俺のやったことは?」
A、すいません、この流れしか思いつきませんでした(土下座)。
最後の『その後の顛末』については、この内容が二、三日で終わるというのは流石に無理があると思ったので半年がかりの出来事になっています。ややこしいので今後流れの仔細を書くことはありません。多分。恐らく。Maby。
久しぶりの次回予告。次回はその後の男子三人衆(うち男子(偽)一人)の様子、及びタッグマッチに対してのそれぞれの反応になると思います。
9/16追記
原作11巻にてここらの追求がされていることを本日知りました。本作がある程度キリのいいところまで進んだら原作未読部分を読むつもりです。それまでは一応このままとさせていただきます。