チートサイキッカー八幡   作:モブキラー

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今回はかおりんの登場です。
うん。一回で複数キャラ投下はもう諦めた。
タイトルにもありますが、折本が比企谷を振ってない世界線の話になります。
振ってバラしてないから、楽しくラブコメできそうな感じでGOOD!


ハチマンパトロール①【折本かおりは未だ比企谷をフってない】

 

 

 

 

【折本かおりは未だ比企谷をフってない】

 

 

あざとい後輩に絡まれて少し調子を崩したが、俺はパトロールを再開した。

相変わらず中空から鳥瞰しながら、チェックポイントを一つずつ見回っていく。

俺達以外の島民は、ベースキャンプを拠点にして行動をしているようだ。

 

先ほど一色と出会った場所は、ベースキャンプがある北の森である。

この島に来てから二日目にベースキャンプ付近を調査したが、静さんに重傷を負わせた例の怪物は発見できなかった。今の所は北の森にも危険な肉食獣や動物もいないようで、一安心と言ったところだ。

 

(怪物の現在の居場所は、恐らく……)

 

この無人島は、総面積・約80平方キロメートル程の休火山島である。

東京ドーム約1700個分のサイズ。無人島の中でもそれなりにデカい部類に入るだろう。

森林地帯は逆Cの字を描くように、ハチマンパレスのある山岳地帯をぐるりと取り囲んでいる。

 

この島の森林地帯を大まかに区分すると、北・東・南が存在し、それらは繋がっていた。

恐らく怪物は、本来の棲み処に帰ったのだろうと思われる。

要は、この島の西部か北部、もっと言えばベースキャンプ付近で狩猟活動をするなら、比較的安全なわけだ。だが……。

 

(この情報を島民にどう伝えるか)

 

この情報を知らせるという事は、結構リスキーなのだ。

実は俺にとっては、皆に恐れられている現状の方が、好き勝手が出来て楽だったりする。

だが、島民に貢献する姿を見られてしまったら、比企谷八幡は皆の味方であるという風に捉えられてしまうだろう。

そうなれば一気に島民は堕落するし、俺個人の安定した生活も脅やかされてしまう。

どうにか俺に、損が少ない手段を選びたいものだが。

 

(それと、島民の動きも危うくなってきてるからな……)

 

飛行機が不時着してから二十日が過ぎた。

当初は、謎の怪物の存在もあり、島民の多くは動かずに救助を待つ道を選択していたが、食料も尽きかけて救助もやってこない今、島を探索しようという動きが活発化しているのだ。

島民が好き勝手に行動を始めたら、対処しきれなくなる。

 

(……あの方法でいくか。少し不安だが)

 

そんな風に、今後の動向ばかりに頭を悩ませていたせいだろう。

不覚にも――――認識阻害の力が弱まっている事に気付かなかった。

 

 

 

「お~~~~~い!」

 

「はっ!?」

 

自分のミスに頭を抱えたくなるが、時すでに遅し。

舌打ちしながら、声の聞こえた方を見ると……野原から元気に手を振ってこちらを見上げる、かつての同級生の姿があった。

 

「やっぱり比企谷じゃん!」

 

「お、折本!?」

 

折本かおり。中学生時代の同級生。

俺の――――初恋の相手でもある。

結局、ろくに喋った事も無ければ、その想いを伝える事も無かったが。

 

それにしても、何故単独で行動しているのだろうか。一色もだが。

まぁここ(危険地域外)なら問題無いと思うが。何かワケアリなのかもしれない。

少し思案してから、折本の傍に着地する。

 

「マジ空飛んでる。ウケるし」

 

「ウケたか。そりゃ良かったな」

 

昔と同じように、気さくに話しかけてくる折本。

中学時代の俺は、そのフレンドリーさに色々と勘違いされられたものだ。

 

「でも比企谷が超能力者とか……信じらんないんだけど!」

 

「どっこいこれが現実だ。それで……何でお前がここにいる?」

 

そうなのだ。折本は総武高から程近い、海浜総合高校に通学しているはず。

当然、総武高校主催の修学旅行に来ているわけがないのだが……。

 

「いや~抽選で旅行に当たったんだよね。でも不時着とか……ウケる」

 

「ウケねぇよ」

 

そういえば、そんな話を聞いた気がする。

雪ノ下建設のはからいで、近隣の高校にも友好目的で声をかけたとか。それにより抽選で選ばれた他校関係者が20名ほど参加していたはずだ。運がいいんだか悪いんだか。

 

まぁ、そんな事はどうでもいい。聞きたい事は他にある。

 

「……なぁ、折本は俺の事が怖くないのか?」

 

その問題をクリアしなければ、友好的な話など出来はしない。

だが、折本の反応は意外なものだった。

 

「えっ? 何が?」

 

「い、いや……超能力を使った所をお前も見ただろう?」

 

「あ~~……最初はびっくりしたけど。でもアレって皆を助けたわけでしょ?」

 

「お、おう」

 

「やるじゃん。ありがとね、比企谷!」

 

感謝と供にこぼれたのは、久しぶりの折本の笑顔だった。

フレンドリーというか、無邪気というか、短絡的というか……。

 

「ねぇ、それで他に何が出来んの~~?」

 

いや「単純にサイキッカーって面白そう」って思ってるだけだコレ!

 

(本当にこういう所、変わってないよな)

 

――――中学時代の折本かおりを思い出す。

いつもクラスの中心にいて、大勢の友達と笑いながら過ごしていた折本。

誰に対しても気さくに話しかけて、すぐに友達を増やせるミュ力の高を持っており、まさにリア充を絵に描いたような存在だった。

かくいう俺も、そんな彼女に憧れを抱いていた一人である。

 

だが悪く言うなら、ノリ重視の八方美人で軽薄な女の子。

明るく楽しく過ごせるならば、それ以外の事はどうでもいいのである。

俺に対しても、フレンドリーに接しつつ、裏で小馬鹿にしていた事も知っている。

それを知った時は、ホントマジで三日間寝込んだけどな。苦い失恋の記憶だ。

 

だが。所詮は過去の恋愛話。

今の俺には護るべき大切な人たちがいる。

そういう事実一つで、心持ちとは劇的に変わってしまうものなのかもしれない。

 

 

(……さて。思い出に浸るのはこれくらいにして、やるべき事を続けるか)

 

パトロールには、食料提供や防衛以外にも目的がある。

ぶっちゃけてコネ作り……からの情報交換だ。俺の最も苦手な分野だ。

だが、八方美人の折本ならば、ある程度の協力関係を結べそうな気がする。

超能力者である俺に、悪感情を抱いてはいないようだし。一色にも言える事だが、こういう相手は大切にすべきだと思う。

 

「おい、とんでもなく上手いアメがあるんだが……いるか?」

 

そう言いながら、俺はハチマンドロップを取り出した。

 

(くっくっく……餌付けしてやるぜ!)

 

人間は実利に弱いものなのだ。特にこの食糧難の無人島なら尚更の事。

何だかんだ言ったって、美味しい思いをさせてくれる相手を無碍にする奴はいないだろう。

折本は、俺のそんな思惑に全く気付かないようで、嬉しそうにアメを受け取る。

 

「いるいる~~! マジ助かるんだけど!」

 

「あと、これを俺から貰ったっていうのは、内緒にしとけよ?」

 

「え、何で? 秘密とかウケるんだけど」

 

「これ、すげえ美味いアメなんだわ。取り合いになっちまう」

 

「あ、なるほどね。ラジャー」

 

軽く同意した後、折本はアメを口に放り込んだ。

 

「……んッ? んああああああああああああ~~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!???」

 

悶え狂う折本の絶叫を聞きながら、俺は今後どうやって折本と友好的な関係を築いていこうか思案していた。はぁ、気が重いなぁ。

 

 

 

 

「折本は海浜総合だったよな? そいつらとツルんでるんじゃないのか?」

 

ニルヴァーナから折本が帰って来てから、気になっていた事を質問してみる。

それを聞かれた折本は、少しだけ具合が悪そうに笑った。

 

「いやー、今ウチんとこ、ちょっと空気が悪いんだよね。今はみんな冷却期間って感じ」

 

「何かあったのか?」

 

「うちの生徒会長も来てるんだけどさ。ちょっとめんどくさい人なんだよねー。話し合いをするより行動した方が良い場合ってあるじゃん。でも、いちいち持論を語り始めるっていうか? ズルズル議論を先延ばしにして、時間ばっかり取られちゃうっていうか。ウケないっつーの」

 

「なるほど。確かにめんどくさいタイプだな」

 

折本なら大抵の意見に対しても「それあるー!」って話を合わせそうなもんだが。

今はその余裕すら無いという事なんだろうなぁ。

 

「それにさぁ……あ~~これ言っていいのかなぁ……」

 

折本は思案顔でこちらを窺っている。

見た感じ、内心に溜まったストレスを吐き出してしまいたいのだろう。

いちおう、妹を持つ兄として、それくらいの心の機微は理解できた。

 

「まぁ、俺で良ければ話くらいなら聞くぞ?」

 

「えっ?…………ぷぷっ」

 

「な、なんだよ」

 

驚いた顔をしていた折本が、突然噴き出した。

元ぼっちとしては「何かやっちゃったか?」と、不安になってしまう反応だ。

だが、折本の様子を見る限り、俺を馬鹿にするような様子は見受けられない。

 

「まさか比企谷に相談する事になるなんて……ウケる。面倒見良いじゃん」

 

なんと。まさかの好印象を与えていたようだ。

小町よ。お前のおかげで兄ちゃんの株が上がったみたいよ?

 

「……妹いるから、結構相談とかされんだよ。で? どうしたんだ?」

 

「ああうん。ウチの生徒会長なんだけど……どうやら私に気があるみたいなんだよね」

 

「マ、マジか。勘違いじゃなくて?」

 

「いやマジだってば。皆と険悪な状態のくせに、私にだけ絡んでくるし。私が他の男子と話してると、あからさまに不機嫌になるし。ヘタすれば私も皆からハブられるじゃん? かといって、強く突き放して揉めるのも面倒だし。はぁ…………マジ凹む」

 

「うわぁ……」

 

聞くだに面倒くさい人間関係だ。

八方美人の折本らしい悩みとも言えるが。

 

「まぁお前って、男を勘違いさせるような所あるもんな」

 

「は? 私が悪いって事?」

 

折本が軽く苛立ったような気配を見せる。

求められてるのは、相談じゃなくて同意。はっきりわかんだね。

 

「いや、もちろん勘違いする方が悪いに決まってる。そういうオープンな所はお前の長所でもあるわけだし。よくお前を見てれば、自分だけ特別扱いされてるんじゃないって気付けるはずなんだけどな」

 

「んー……。私はただ、皆と楽しくやりたいだけなんだけど」

 

「それで良いと思うぞ。ただ、コミュ症ってのは勘違いし易い生き物なんだよ。視野狭窄になると自分の都合の良いようにしか考えられないし……褒められたり同意されたりすると、すぐに有頂天になっちまう。ただでさえお前は、かわ……見た目は良い方なんだしな」

 

「えっ?」

 

おっと、何を口走りそうになった俺。

折本にキモがられてないかな俺? ないよね?

 

「ま、まぁとにかくだ。お前のやり方を否定する気はない。ただ、他者への対応の仕方を十把一絡げにせずに、個人個人によって変化させた方が良い。ケースバイケースを心がけろ。めんどくさいけどな。そうすれば、必要以上に相手に誤解を与える事もなくなってくると思うぞ」

 

「う、うん」

 

返事はするものの、折本は目を逸らして、しきりに髪先を弄っている。

口を滑らせたのがマズかったか。しかし、折本の顔が微かに赤くなっている気が……?

と、とにかく。ここまで来たら最後まで言い切ろう。ビジネスだと思え。

 

「ええ……なんだ。それでも上手くいかなかったら……俺に言え」

 

「えっ?」

 

「同中のよしみだしな。なんとかしてやる」

 

「っ!!」

 

――――よし、言い切ったぞ。

折本の顔が、一気に赤くなったのが気になるが。

 

俺には、人間関係を構築していくという目的があるわけで。

この提案は、折本にとっても損にならないはず。こうやって信頼を少しずつ積み上げていこう。

 

今までの俺に足りなかったのは、こういった己の実益に繋がる行動だ。

静陽コンビや、大切な人間達を護っていくには、今後こういう事だって積極的にやっていかなければならないのだろう。苦手だから嫌だとか言ってられない。

サイキッカーとか関係なく、俺だってまだまだ人間として成長していかなければならないのだ。

 

そんな風に俺が思案する間に、折本はずっと俯いていた。

しばらくして顔を上げた折本は――――珍しく暗い声を出した。何かを後悔するように。

 

「……私って馬鹿だなぁ……」

 

「え?」

 

こういう折本の一面は初めて見る。

いつも明るいこいつでも、こんな表情をするんだな。

……それにしても。自嘲気味に語る折本だったが、何を言おうとしているのかさっぱりだ。

 

「はあ……マジ最悪。ぜんぜん分かってなかった。中学時代を無駄にした気がするわ」

 

「お、おう……?」

 

何か折本は、中学時代を反省しているらしい。

俺に関係する事を言っているのだと思うが……。

 

「っていうか、比企谷。私の事よく見てんねー。ふふっ、キモいんだけど」

 

「キ、キモっ……!?」

 

キモいは禁句ですよお嬢さん。思った以上にダメージが大きいから。

語尾に草を生やす感じで、笑顔で言わないでくれませんかねぇ?

 

「……ねぇ、比企谷さぁ」

 

「あん?」

 

ポーカーフェイスでショックを堪えている俺に、まだ何か酷い事を言う気なのか?

いいだろう……来るがいいさ。俺だって人間的に成長しているはずだ。

今度こそ、何を言われようが動揺しないぜ?

 

 

「比企谷って中学校の時、私の事が好きだって噂あったけど……マジ?」

 

「――――おぶっ!?」

 

無理だって! これを動揺しないとか絶対無理! だって本当の事だからな!!

……そうだ。俺はお前の事が好きだったよ。そして、告白しようとまで思ったよ。

けどな……ビビっちまって。最低にも俺は……。

 

 

(俺は……折本の心を、超能力で読んでしまったんだ)

 

 

折本は俺をどう思っているのか。告白して成功できる可能性があるのか。

それが知りたくて知りたくて。我慢が出来なかった。

 

 

【こいつなら、俺の事を理解してくれてるんじゃないか】

 

【だって折本だけは、俺に笑顔で話しかけてきてくれるじゃないか】

 

【メルアドも教えてくれたし。嫌いな相手に教えるか?】

 

【他の奴に奪われる前に、俺から告白すべきなんじゃないか?】

 

 

そんな、自分勝手な幻想は留まる事を知らず。

眠れない日々を送り。

折本に願望をひたすら押し付けた。

今思えば…………あれは恋ですらなかった。

 

 

(心を覗いた結果は……もちろん×だった。折本にとって俺は、路傍の変な石と同じだった)

 

 

恥ずかしい勘違いや思い込みを、一瞬で粉々にされた。

失恋のショックは大きかった。それから更に女子に接するのが苦手になったくらいだ。

だが、それよりも俺の心に傷跡の残したのは、エゴのせいで感情を暴走させた挙句、他人の心を勝手に覗いてしまったという俺自身の心の弱さだった。

 

確かに、折本に告白をしない事で、一時の平穏と自尊心を守れたのかもしれない。

けれどそのせいで、人として負わなければいけない痛みから、逃げ出したのだ。

たとえ告白の結果、トラウマを残す結果になったとしても、それは実に人間らしい。

でも、恋愛にすら超能力を介入させたら、俺はますます化物になってしまうだろう。

 

あの時俺は――――安易に人の心を覗かない事を誓ったのだ。

 

 

 

 

 

それはさておき。

折本がまたとんでもない爆弾をブッ込んできやがった。

何を考えてんだコノヤロウ。おまえも小悪魔か。一色なのか。

 

「中学時代の事なんて、今さら聞いてどうすんだよ」

 

「え? あ~~……そうだよね。ゴメン」

 

俺の苛立ったような口調に、一瞬だけ怯えたような顔をした折本。

しかしすぐに立ち直って、今度もまた妙ちくりんな事を言い出した。

 

 

 

 

「でもさ――――超能力者が彼氏だったら、ウケない?」

 

 

 

 

そのはにかんだ笑顔は……俺が見た中で最高に可愛いものだった。

 

いやいやいやいや、それどう意味よ!? ウケねぇよ!!

 

 

 

 

 

 




リア充を惚れさせたい願望ってありません?
っていうか、今のサブカル界では流行ってるジャンルなのかなー。ギャルとか。
しかし、渡先生は考えさせてくれるキャラクターを描くなぁと。八幡にせよ折本にせよ、リアルの人間ばりに自分の価値感持って行動してますよね。
どいつもこいつも魅力的なんだよなぁ……。

次の投下は川崎沙希になりますー。
リアルが忙しくなってきたので週1目標でー。

※いつも感想&評価ありがとうございます!

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