今回はめぐり先輩といろはすが活躍しております。やっぱりラブコメって最高やね。
【城廻めぐりは興味津々である】
「おっ、めぐり先輩だ」
ハチマンパレスのエントランスを歩いていると、メイド服姿のめぐり先輩を発見した。
めぐり先輩+メイド服=メイドインワンダーランド。つまり宇宙的正義なのだ。
早朝の出勤時に、先輩の癒し100%の笑顔で「行ってらっしゃいませ。ご主人様~♪」などと送り出されるのを拒む日本男児がいるだろうか(いやいない)。
めぐり先輩は陽乃のお気に入りという事で、雪乃と同じく最優先でハチマンパレスに招待(拉致)する事になった。「めぐりも誘って、この城で一緒に過ごしていこう」という陽乃の提案に、最初は抵抗を感じていたが、本人と対面してみると否定的な気持ちは完全に払拭されてしまった。
めぐり先輩からは、明るく柔和で善良な人柄が溢れ出ていた。
一見、天然でアホの子に見えなくもないが、全てにおいて高水準かつオールマイティな能力を持ち、大局的な物の見方を出来る優秀な人だと思った。
現生徒会長らしいが、なるほど納得である。完璧超人の陽乃が気に入るわけだ。
何よりも、開口一番に墜落の件に対しての感謝と謝罪が心に響いた。そう言ってもらえるだけで充分救われたし、その気持ちに嘘は感じなかった。人柄も良いし、気配りも出来る。こうなったら嫌えるはずがない。何なら好きになってしまうまである。隣にいた陽乃から極寒の波動を感じたので、努めて冷静さを保ったが。
こうして、めぐり先輩には衣食住の提供を条件に、ハチマンパレスのメイド長をやってもらう事なった。家事は得意なようで、掃除はテキパキしていて、見ていて気持ちが良いし、料理はメチャウマだし、どこに出しても恥ずかしくない嫁になれるであろう。
ちなみに陽乃は、そろそろ本格的に八幡幕府を始動させるつもりらしい。
陽乃は執権、静さんは武官長、雪乃は文官長、との事。なかなか適任かもしれない。
ちなみに俺は「八幡は皇帝よ♪」とか言われた。幕府に皇帝っていたっけ?
(何にせよ……めぐり先輩がうちに来てくれて良かった!)
めぐり先輩の仕事姿を見ながらほっこりしていると、先輩が俺の存在に気付いた。
ぱたぱたとこっちに向かって駆けて来る。しかし、様子が少しおかしい。
「比企谷くん。ちょっとそこに正座してっ!」
どうしてか先輩はおこのようだ。だが可愛い。癒される。
怒られてるはずなのに頬がにやけてきてしまう。これがめぐりっしゅ☆パワーか。
めぐり先輩の可愛い説教を期待して、わくわくしながら絨毯の上に正座する。
「何でしょうか? めぐり先輩」
どうにか真面目顔をつくり、めぐり先輩に尋ねる。
すると、めぐり先輩は顔を朱に染めながら、遠慮がちに言った。
「ちょっと夜の……あ、あの声の事なんだけど……どうにかならないの?」
(ああ、雪乃と同じ苦情かな?)
余程、夜の営みの声が大きかったようだ。
雪乃同様、毎夜よっぽどストレスを溜めていたのかもしれない。
素直に謝ろうと思ったが、照れ怒っているめぐり先輩を見ていたら――――ちょっとだけ悪戯心が湧き上がってきた。めぐりんが可愛いのが悪い。
「はて。何のことでしょう? もう少し具体的に言ってくれませんかねぇ」
「う~~~っ!」
すっとぼけてみると、めぐり先輩はさらに顔を赤くして、地団太を踏んでいる。
具体的な内容を言うのに、かなり抵抗があるのだろう。
「だ、だからっ。夜にHな声が大きすぎるからっ! 寝不足で困ってるのっ……!」
涙目になりながら、めぐり先輩は文句を言い切った。
(おっふ……!)
その無垢な可愛さに心が洗われる。聖女やぁ……聖女がおるで。
もっと色々なめぐり先輩の表情を見てみたいが、やりすぎると嫌われてしまいそうなので、今日はこれぐらいにしておこう。めぐり先輩に嫌われたら、ガチで凹みそうだし。
「気が付かなくてすいませんでした。雪乃にも伝えましたが、すぐに防音対策をしますので」
「……う、うん。お願いね。はううううぅぅぅ……」
誠意を込めて約束すると、一応は納得してくれたようだ。
けれど、まだ落ち着かない様子で、もじもじしている。
また昨晩の事を思い出してしまったのか、軽く混乱しているようだ。
よっぽど、衝撃的だったのだろう。AVの喘ぎ声なんてレベルじゃなかったからな。
「Hって……そんなに気持ち良いものなのかなぁ……?」
そのせいで、無意識のうちに心の声を呟いてしまったようだ。
「ぶっ!?」
予想外の発言に、思わず俺は吹いてしまう。
「はっ!?」
自分が何を口走ったのか、めぐり先輩は気付いたようだ。
「あ、いやっ、違うの! だから……そういう意味じゃないの! その、あのね……つまり……私が言いたいのは……ふ、ふええええぇぇぇぇぇぇ……!」
半泣きでかぶりを振りながら、必死に痴言を否定するめぐり先輩。
しかし、よっぽど恥ずかしかったのか、顔色がみるみるトマトのような赤になっていく。
さらには後方の壁に激突したり、すべって転んだり、周囲の物体を破壊したり。奇跡的なドジのドミノ倒しを開始した。
その先輩の焦りっぷりを見ていると、動揺がこちらにも伝染してくる。
(めぐり先輩、Hに興味津々なの!? っていうか、その感じじゃ処女っすよね!? つまり遅まきながらの性の芽生えがやってきたという事かっ!?)
めぐり先輩に対して、こんなゲスパイラル思考に陥っている自分が気持ち悪い。
これが罪悪感というものか。もう居た堪れない。
「パ、パトロールに行ってきます!」
「ふえぇぇぇぇ……聞いてよ比企谷くん! 違うんだから~~~~!!」
(ごめんなさい、何か汚しちゃって!!)
懸命に言い訳するメイドめぐりんを残し、俺はアン●ンマンが如く空へ飛び去った。
ピュアすぎる人間を安易に汚すと、こっちにダメージが来る。八幡、また一つ学んだよ。
【一色いろはは絶叫する】
空中浮遊をしながらのパトロール。
風を切って自由自在に空を舞う。南国の熱も吹っ飛んでしまう爽快さだ。
認識阻害の能力を使っているので、視認される事は無いだろう。ちなみに、ハチマンパレスにも認識阻害はかけている。見えていたら、今頃大騒ぎになっているはずだ。
パトロールの理由は色々あるが、簡潔に言えば、できる限り死者を出さないようにする為だ。
特に餓死者は防ぎたい。飢えた人間達が争い、殺し合う姿など誰だって見たくないはずだ。
人間だって動物だ。腹さえ満ちていれば、そんなに凶暴にはならないと思うので、人知れず食料の施しを行うようにしている。
ただ、大っぴらにやるのは良くない。できる限り秘密裏に行う必要がある。
俺が食料を与えるのが常態化してしまえば、誰も苦労して狩りなどしなくなるからだ。
300名分の食料を用意するのだって簡単ではない。そもそも、施しなどする義理もないのだ。ここぞとばかりに、当てにされては堪らない。
(とにかく、腹ペコな奴を探そう)
そんな事を考えながら森の上を飛行していると、あざとさの塊のような可憐な少女が、今にもへたり込んでしまいそうな様子で歩いているのが見えた。
「はぁ~~お腹空いたよぉ~~」
あざとい少女は、雨に濡れた子犬のように、儚げに鳴いている。
何はともあれ、腹が空いてるのは間違いなさそうだ。
(よし、声をかけてみるか)
驚かせないように、できる限り優しい調子で。
「これこれ。そこのお嬢さんや」
「はい……? きゃああああああっっっ!? ゾ、ゾンビ!?」
俺の声に気付いたあざといのが、振り返るなり悲鳴を上げた。
俺の気配りは無駄だったようだ。せっかくジェントルマン風に頑張ったのに。
っていうかゾンビって何だよ。地味に傷つくぜ。
「失礼しました……でも先輩も悪いんですよ? そんなに目が死んでるから」
しばらくして落ち着いた少女は、追撃して酷い事を言ってきた。
というか、俺を「先輩」と呼ぶのか。ならばこいつは、当然後輩なのだろう。
……まぁ、どうでもいい事か。
「腹がへってそうだから声をかけたんだが。必要無かったようだな」
「えっ!?何かくれるんですか? やだなぁ、嘘に決まってるじゃないですか~。先輩の目ってスーパーに売ってる魚の目みたいでユニークですよ!」
「結局、死んだ目じゃねえか! まぁいい。ほらよ」
俺はブツをポケットから取り出す。
それは――カラフルな包みに包まれた、ゴルフボールサイズの大きなアメ玉だった。
「ええ~~? アメですか~~~?」
露骨に後輩のテンションが下がる。
こいつ、本当にいい性格してやがんなぁ。
「反応が悪いな。別に、いらんなら他の奴にやるだけだ」
「う、嘘ですよぅ。ありがとうございます!」
多少は腹の足しになると思ったのか、後輩は奪うようにアメ玉を受け取る。
そして包みを開けると、無造作に口に放り込んだ。
――――次の瞬間。
「ふ、ふ、ふ…………ふひゃああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!」
あざとい後輩が、珍妙な叫び声を上げた。
「な、何ですかこれぇ! 脳がビリビリするぅ~~~!」
「ふっ……ふははははっ! これがハチマンドロップだ――――!!」
ハチマンドロップとは、一見はただのフルーツ風味のアメだが、俺の生命エネルギーを吹き込んだ最強の栄養食なのである。これ一つで、三日は生きていける優れものだ。
マ●オでいうス●ーみたいなチートアイテムだ。
「おおおお……よく分からないけど……全細胞が歓喜しているのだけは分かりますぅ~~!」
あざとい後輩は、感動したのか涙すら流していた。喜んでくれて何よりだ。
ハチマンドロップ……これはアリだな。どんどんバラ撒いていこう。
「それで……? どうして私に声をかけてきたんですか?」
ひとしきり騒いだ後、後輩が訝しげな顔で質問をしてきた。
確かに、無償の善意なんて信じられないのも分かる。この島の現状なら尚更だ。
「はっ、まさか!」
嫌悪感を顕わにした後輩が、身を庇うようにしながら後ずさる。
やめて! 身体とか狙ってないから! 罵倒されるより何倍も傷つくから!
「違ぇよ。まぁボランティアみたいなもんだ」
「……助けられておいて、先輩を化物扱いした相手にですか?」
あざとい後輩が切り込んできた。
今までのふざけ半分の態度はどこに行ったのか、真剣な目でこちらを見ている。
俺の内心を見極めようとしているのだろう。
……といっても、嘘など何一つ言っていない。
「確かに……ムカついた事は否定しねぇよ。それでも、餓死とかされたら嫌だろ。それと、さっきのアメをやった事は、絶対誰にも言うなよ? 変に甘えられても困るからな。お前も、今回の事で俺を当てにするんじゃねーぞ。あくまで自力で頑張るようにしろ」
「………………ぷっ」
「……何だよ?」
特に、笑われるような事を言ったつもりはない。
むしろ、しっかりと突き放したはずだ。だが、後輩はそうは受け取らなかったようだ。
「やっぱり比企谷先輩って想像通り、ちょろ……優しいんですね」
「おい。ちょろいって出そうになってんぞー」
「てへっ☆」
あざといのは、ペロリと悪戯っぽく舌を見せる。
ううむ、あざとい。あざといのは分かっているが防げない。
こいつは危険だ。このままでは幾人の男が犠牲になるか知れたものではない。
「んで、何で俺の名前を……って、知っててもおかしくないか」
大勢の前で、あれだけの事をしでかしたのだ。
知らない奴の方が少ないだろう。
「そりゃ、有名人ですからね。チートサイコパスだって噂されてますよ?」
「サイキッカーな? そうだよな?」
お願い否定して! サイキッカーとサイコパスだと意味が全く違うから!
チートでサイキッカーでサイコパスとか、問答無用で世界の敵に認定されちゃうから!
「まぁ、私はそんな噂は信じませんけどねっ! えっへん!」
後輩は、小ぶりな胸を張ってみせる。
その可愛らしい尊大さに、思わず口元が綻んでしまう。
おそらく、それもこいつの計算なのだろう。小悪魔めが。
「ちなみに私は、一年の一色いろはです。これからよろしくです。せんぱいっ♪」
あざとい後輩の名は『一色いろは』と言うらしい。
こいつとはきっと――――長い付き合いになりそうな予感がした。
めぐり先輩とメイド服ってマジで至高の組み合わせじゃない?
いろはすは制服という初期装備が最高の装備とかいうワケわからん事になってるけど。
※感想&評価いつもありがとうございます。元気貰ってます。