チートサイキッカー八幡   作:モブキラー

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今回はさらっと。ゆきのんの話。
しかし、おかしいなぁ。今回はゆきのんだけじゃなく、他のヒロインたちも登場させようと思っていたのに。ゆきのんの抱えてる闇が大きすぎて、かなりの文量になってしまったゾ。流石は原作のメインヒロイン。めんどくさかわいいぜ。
書いてると、キャラの心情を想像してしまうせいか、どんどんと魅力を感じてしまいますね。


ハチマンパトロール①【雪ノ下雪乃は翻弄される】

 

――――チチチチチ……ピピピピ……。

 

小鳥の囀りに起こされるように、ゆっくりと目が覚めた。

窓に目を向けると、日は既に昇っている。時計を見れば、九時を回っていた。

 

「ううむ…………ん?」

 

ベッドから身を起こそうとすると、両腕に温かで心地好い重みを感じる。

右腕には静さん。左腕には陽乃。

どっちも腕枕で、気持ち良さそうに眠っている。

ちなみにタオルケットの下は二人とも全裸である。あぁ……悩ましい。

(ぐっすりと寝てるな……まぁ、当然か)

何せ昨晩は、明け方まで盛り上がってしまったからな。

今日のお目覚めは遅くなりそうだ。

 

(にしても……本当にこれは現実なのか?)

 

以前の俺は、一生孤独である事を覚悟し、日々を送っていたというのに。

この無人島に来てから、二十一日。

今はもう、この二人のいない日々は考えられない。

なんという心境の変化だ。自分の単純さに苦笑してしまう。

 

(静さん……陽乃……)

 

異端者の俺を、この二人は全力で愛してくれている。

ならば、どんな悪意からも。どんな敵からも。絶対に護ってやろうと思う。

俺は二人の頬に――――目が覚めないように、優しくキスをした。

 

 

 

 

 

【雪ノ下雪乃は翻弄される】

 

五十坪ほどの食堂の中央に、大きな円卓があり、それを囲むように数十脚の椅子が並んでいる。

その一つに既に先客が座っていた。

雪ノ下の妹の方……雪乃だ。

 

(…………おぉ)

 

眩い斜光の下で、穏やかに読書に耽る雪乃。その絵画的な光景に思わず息を呑む。

まるでガラス細工のように可憐な美少女である。

(姉も美人だが妹も相当だな……まぁ、胸のサイズは姉に比べて控え目だが)

なんてくだらない事を考えていると、俺の姿に気付いた雪乃が口を開いた。

 

「起きたのね。ヒワイガヤ君」

 

開口一番、いきなりの罵倒である。

バストサイズの事を考えていたのがバレたのか?

 

ここに連れられて来た時は、借りてきた猫のように大人しかった雪乃だが、今では隙があれば俺を罵倒してくるようになった。

陽乃いわく「こんなに好き放題言う雪乃ちゃんは珍しい。八幡の事がよっぽど気に入ったんだろうね」との事だが。本当かね。

 

「卑猥なのはお前の姉ちゃんだ。昨日、どんだけ俺が絞られたと思ってる」

「セ、セクハラ発言は控えて貰えるかしら、この変態エスパー。しかも、人の姉をダシにして反論するなんて恥を知りなさい」

「最初に人を卑猥呼ばわりしたのはお前だろうが」

 

ややシモい会話をしているせいか、耳まで真っ赤になりながら口撃してくる雪乃。

だが正直、このやり取りを楽しんでいる俺がいる。

万年ぼっちだった俺とすれば、この状況は新鮮なのだ。これも、コミニュケーションの一種と考えれば悪くない。

ただ、解せない。

何故、俺は卑猥だとかセクハラだとか、責められているのだろうか。

 

「とにかく、この城の防音機能を強化する事を要求します。ま……毎晩、あんな獣のような嬌声を聞かされるこっちの身にもなってほしいわ……いやらしい」

 

なるほど。そういう事か。

感極まって、静さんも陽乃もとんでもない声を出してたからな。

これは、全面的に非を認めねばなるまい。

 

「それはすまなかったな。防音はどうにかする」

「……お願いするわ」

 

俺の誠意が伝わったのか、文句を言う気が失せたようだ。

雪乃は立ち上がると、ガラス製のティーサーバーに手を伸ばす。

 

「比企谷くんも飲む?」

「……ああ。頼む」

 

無人島という状況下で『ここにあるはずのない』ガラスの容器の中に、『ここにあるのはずのない』紅茶のような液体が湯気を巻いて揺れていた。

 

 

 

「――――お。美味いな」

「ありがとう。もう本物と、ほとんど変わらないわね」

 

雪乃の入れてくれた紅茶(もどき)は上等な味だった。まるで本物だ。

俺の超能力の一つ――――『構成変換』による産物である。

ここしばらくの間、暇を見つけては構成変換を使い、そこらの雑草を茶葉そっくりに変換し続けていたのだ。

原因は、陽乃がダージリンティーを飲みたいとゴネたからだ。

俺には上手い紅茶というものがよく分からなかったので、雪乃の舌の力を借りながら、ひたすら本物の味に近づけていたのだ。繊細な味の再現は実に難しかった。

 

「どうだ? ここの生活は慣れてきたか?」

「ええ……むしろ快適よ。まさか無人島に遭難しておいて、お城でフカフカのベッドに寝れるなんて夢にも思わなかったわ」

 

周囲を見回しながら、雪乃が改めて驚きの声を上げる。

そう――――ここはハチマンパレス(静さんが名づけた)。

無人島の岩山の頂上付近に、削って建造した城だ。外観はヨーロッパ風にしてある。

 

建具や生活用具は、紅茶もどきの時と同じ要領で、構成変換によって、動物・植物・鉱物を変換して再現した。デザインはよく分からないので、女性陣の指示に従った。

 

水道、ガス、電気も確保しており、この城では現代日本と遜色の無い生活を送る事ができる。ただ、流石にテレビやインターネットは繋がらないが。

 

この島に来てからというもの、ハチマンパレスの建設にかなりの時間を費やしているが、未だに完成には程遠い。まぁ必要に迫られた場合に、増設していけばいい。気長にやっていきたいと思っている。

 

「そして、米や麦や調味料。衣服や寝具や家具……そんなものまで再現する事が出来るなんてね。昨晩もまさか……夕食にビーフステーキが出てくるとは思わなかったわ。しかも特上のものと何ら変わらない品質なんだもの」

「あれは元はネズミだけどな。哺乳動物同士であれば、大抵のモノに変換できるぞ」

 

牛。馬。豚。鹿。猿。遺伝子的に似ているもの同士の変換は、そう難しくない。

極端な話、猫から人間を作り出す事も不可能ではない。

悪趣味なので、やりたいとは思わないが。

一方、両生類から哺乳類に変換するような場合は、かなり手間取る事になる。

 

「……どんなものでも再現できるのかしら? 車なんかも?」

「ああ。触れた事があるものなら、大抵のモノは作れる。もちろん燃料もな」

 

だが、この構成変換。神がかった能力に見えるが、実は色々と制限がある。

自由に、何もかにもを作ったり変えたりできるわけではないのだ。

前提として、コピー対象に触れて解析をし、設計図を手に入れる必要がある。

我が城のように文明的な生活を築こうとするなら、地道にデータを蓄積していく必要がある。一朝一夕に行えるものではない。

今の俺の脳の奥底には、膨大な量の設計図が保管されているというわけだ。

 

小学生の頃から、目に入るものなら何でもかんでも解析していた。

生物はもちろん、工業製品、自然現象に至るまで。それこそ触れられるものなら全てだ。

ちなみに、最近はマックスコーヒーの再現に凝っていた。今では目を瞑っていても、土と空気さえあれば、マックスコーヒーを完璧に再現できる。ドヤァ。

 

「それにしても、随分と準備がいいのね。この無人島生活に、おあつらえむきの能力じゃない」

「確かにな……俺も驚いてる。こんな機会がくるなんてな」

 

まったくその通りだ。ご都合主義にも程がある。

だがひょっとすると、俺にはこうなる予感があったのかもしれない。

 

「いつ世界の敵に指定されるか分からんからな。こういう状況も想定してたって事だ」

 

いつかは超能力の事がバレて、世界中から追われる身になる。

そうなれば、独りで生きていかねばならない。サバイバル能力は必須なのだ。

無人島はもちろん、シベリアやサハラ砂漠で暮らしていく事も有り得ると思っていた。

 

「……そういう事ね」

 

「無神経な質問をしてしまった」と申し訳なさそうに俯く雪乃に「気にするな」と言わんばかりに、できる限り明るい声をかける。

 

「まぁ、欲しいものがあったら言え。大抵のものは用意できると思う」

「……ええ。その時はお願いするわ」

 

こうして、ささやかなティータイムが終了した。

そろそろ島を巡回する時間だ。この巡回が、最近は日課になっている。

順路を頭に描いていると、食器の片付けをしていた雪乃が口を開いた。

 

「それにしても……あの姉さんが、あんなにも変わってしまうなんてね」

 

意味深な雪乃の言葉に、思考を中断する。

陽乃が変わった? どういう意味だろうか。

 

「笑顔がね……違うのよ。本当に今が楽しいのね」

 

複雑そうな微笑みを浮かべている雪乃。だが、姉を祝福しているのは確からしい。

ただ、そこには負の感情も見え隠れする。

怒り、寂しさ、憎しみ、焦り、困惑……そういったものが。

雪乃という人間にとって、陽乃という存在が重要である事は間違いなさそうだ。

雪ノ下姉妹には中々面倒な溝がありそうだが……今はそれに触れる時ではあるまい。

 

「お前はそういう浮いた話は無いのか?」

 

話を逸らしてそんな質問をすると、雪乃は不機嫌そうに答えた。

 

「……無いわよ。悪かったわね」

 

陽乃の話では、学校ではいつも孤立していたらしい。

むろん敵もいたが、彼女は抜群に優秀だった。そして、正しくあろうとした。

やがて真っ直ぐに、自分の信念と力だけを武器に、外敵を叩き潰していったのだ。

かつての俺の孤独とは質が違う……正しく戦い、勝ち得た孤独とでも言おうか。

そして辿り着いた孤高……。

 

「愛とか恋とか……そういうのって、分からないもの」

 

そう語る雪乃の背に、どうしようもない寂しさを感じた。

孤高など、雪乃の望んでいたものとは到底思えない。

彼女が気付いていないだけで、心の底には何か圧倒的な渇望が眠っているのかもしれない。

 

――――たぶん。

知らんけど。まぁ、余計なお世話か。

ただ、義理の兄(予定)として、少しは気にかけておいてやるか。

 

 

「まぁ、俺でよければ……悩みくらいならいつでも聞いてやる。そうだ、豊胸したい時は遠慮なく言えよ? 構成変換を使えば、貧乳を巨乳にする事など容易い」

 

――――がしゃーん!

無惨にティーカップが砕け散った。

しまった! 口がすべった!

 

 

「ふふっ、ありがとう。殺していい?」

 

親切で言ったはずなのに、何てこった。小町、兄ちゃんやばいかも。

微笑んでるくせに、殺人マシーンに冷たい目で見るのを止めてくれませんか。

 

あっ、ちょっ、そのナイフをどうする気だ――――ヤメロォ!!

 

 

 

 

 




Q、チートサイキッカーが努力したらどうなる?
A、城が作れる。ビフテキ食える。

次回はめぐり先輩と・折本・川崎を登場させたいです(願望)。他にも、いろは、由比ヶ浜、三浦、海老名、相模がヒロイン予定。静ちゃんと陽乃も含めて、メインは五名に絞っていきたいですね。さぁ……どうしたものか。

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