チートサイキッカー八幡   作:モブキラー

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精神的合法ハーレム。それをどうやって成立させるか……それが私の長年の研究のテーマでした。ラブコメにおいて、ハーレムはやがて(ほぼ)必ず崩壊するものです。けれど、私はその運命に逆らいたいと思ったのです。
ある時、ふと考えたのです。ライオンがハーレムを維持できているのは何故だろうと。

※今回は、キャラ崩壊注意です。特にはるのん。


爆誕!八幡ハーレム!!

ベースキャンプから離れ、砂浜までやってくる。

あと1時間もすれば、日が暮れるだろう。それまでには、問題を解決する必要がある。

椰子の木陰にシートを敷いて座り、無言で連いてきた彼女に着座を促した。

 

「平塚先生……さっきのはどういう事ですか?」

 

そう。平塚先生の教師辞める宣言。

彼女にとって、非常に重要な問題のはずだ。

 

「八幡。私はもう先生じゃない。その呼び方は止めてほしい」

「う……」

 

やりづらい……そして、八幡呼びは固定なのね。

それにしても、先生の意思は固そうだ。

だが撤回すべきだ。

客観的な意見だが、先生にとって教師は天職だと思う。それを辞めるだなんて。

(しかも……俺の事を愛してるだって?) 

そりゃあ、平塚先生みたい美人に(残念な所もあるが)愛の告白をされたら嬉しいが、それよりも今は困惑の方が強い。それに俺を好きになる理由が分からない。

 

「細かい事は後でいい。まずは、私の話を聞いてほしいんだ」

 

不意の平塚先生の微笑みに、不覚にもドキッとしてしまった。

(たまに変な行動さえしなければ、本当に美人なんだよなぁ……)

照れる俺の視線を優しく受け止めながら、平塚先生は語り始める。

 

「前に、八幡を屋上で抱きしめた事があったろう?」

「ああ、はい……」

 

「何それ!? 聞いてないんですけどー!」

 

横から陽乃が割り込んでくる。いたのか。

というか、何で連いてくる? 力を貸す意思が無い事は伝えたはずだが。

陽乃も、イマイチ何を考えているのか分からない。

 

「言ってないからな。必要もないし。もうキャンプ帰れ」

「むーっ! 比企谷くん、私に対して冷たすぎ~~!」

「陽乃、少し黙っていてくれ。大事な所なんだ」

 

「……ううう。邪知暴虐の王と恐れられた私が……なんと惨めな役回り……」

 

平塚先生に窘められ、陽乃はしぶしぶと引き下がる。

そのまま膨れっ面でしゃがみ込み、いじけたように『の』の字を書き始めた。

何か、どんどんやり手のお姉さんのイメージから遠くなっていくなぁ。

 

「こほん……それでなんだが」

 

咳払いをし、先生は会話を再開する。

恥ずかしそうに、横目でこちらを見つめながら。

 

「八幡。私だって聖人じゃない。誰かを特別扱いくらいするよ」

「は、はぁ」

「す、少なくとも……どうでもいい相手を抱きしめたりしない」

「えっ?」

 

平塚先生は、あの時俺を抱きしめてくれた。

それに――――恋愛的な意図があったと?

 

「つまり、だ。春の時点で私は君に惹かれていたんだ」

「ええと……あ、ありがとうございます」

 

――――マジかよ。

ロクに恋愛をした事が無いせいか、全然分からなかった。

先生は頬を朱に染めながら、それでも今度は真っ直ぐに俺を見つめる。

そして、熱っぽい瞳で告白を続けた。

 

「……あの時から、ずっと君の事が気になっていたんだ。どういう感情なのかは、初めは自分でも分からなかった。寂しそうな君を見て、庇護欲というか、母性本能が働いたのだと思った。そもそも、恋愛感情だと認めるわけにはいかなかったからね。私と君は、教師と生徒だったから」

 

「……俺も、勘違いしないように、自分に言い聞かせてました」

 

「でもね。さっき、君に別れを告げられた時、とんでもないショックを受けたんだ。教師としての義務とか、そういう事じゃない。単純に君を失いたくないと思った。苦しむ君を癒してあげたいと思った。私がずっと傍にいてあげたいと思った」

 

「もう色んな感情がゴチャゴチャになって……気が狂いそうで……涙が止まらなかったんだ。でもそれで、やっと気付けたんだ。君が……何よりも大切だって事に」

 

「平塚……先生……」

 

「そうだ八幡。私は君が好きだ。君の事が……愛しくてたまらない」

 

平塚先生の両手が、俺の頬を優しく包み込んだ。

俺に全て捧げるように、潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。

その瞳を見つめて……鼓動が高鳴り始める。

 

「でも、あなたは立派な教師で……あなたを慕う生徒がどれだけいると……」

 

「確かに教師である事に誇りは持っていた。教え子達だって大切だよ。でもこの感情の前には…………何もかにもが色あせて見える」

 

「――んっ!?」

 

不意をつかれた。

――――ふわり。

唇から、柔らかな衝撃が脳に響き渡る。

平塚先生に……優しく、情熱的なキスをされてしまった。

 

「……っぷは。一万人の生徒よりも、君一人の方が……愛おしい。そういう事だ」

 

ゆっくりと唇を離した先生は、どうにか昂ぶる激情を押し止めているようだ。

もしここにベッドがあったら、そのまま押し倒されていたに違いない。

(……ははは。こりゃ、逃げられねーわ)

こんなに想われてしまったら。もう受け止めるしかないじゃないか。

 

俺は、諦め半分で最後の問いかけをする。

どんな答えが帰って来るかなんて分かりきっていたが。

 

「俺の味方って事は、社会を敵に回すかもしれないって事ですよ?」

「ふふっ。ダークヒーローみたいで、燃えてくるじゃないか」

 

「どんな奴が敵に回るか分かったもんじゃないですよ?」

「……でも、君が守ってくれるんだろう?」

 

「あなたの家族にも迷惑をかけるかもしれませんよ?」

「大丈夫だ。私の両親なら、私の決断を理解してくれるはずだ」

 

「きっと、辛い道ですよ?」

「それでもいい。君の傍にいさせてくれ」

 

「平塚先生……」

「先生はもう無しだ。な、名前で呼んでくれると……嬉しい」

 

「なら、静……さん。静さんで」

 

「う、うん。いい感じだな。これからよろしくな八幡」

 

「……は、ははは。よろしくです」

 

「つ、ついでに……お嫁さんに貰ってくれてもいいんだぞ?」

「えっ……あー……ははは」

 

これは――ちょっと引いた。

だが、ここまで覚悟を決めて、静さんは俺に告白してくれたわけで。

もはや、プロポーズに匹敵するアクションなわけで。

 

 

 

 

(――――うっ!!?)

 

その時……強烈なピンク色の波動が伝わって来た。

これは静さんが、俺の読心力の防壁を突き破る程に、強い思念波を生んだという事だ。

(これは…………エロエロだ!!)

一気にイメージが流れ込んでくる。

それは静さんの、愛欲に忠実な心の声と妄想だった。

 

 

 

『教師も辞めた事だし、しばらくはバカンスもいいなぁ。バリ島なんてどうだろう』

 

『八幡と毎日、らぶらぶックス……いちゃいちゃックス……。うへへへへへ……!』

 

『八幡って変態的な責めをしてきそう。もしくは、超能力プレイとか!』

 

『あんな事やこんな事も……きゃあ~~~っ♪ やばいやばいやばい!』

 

 

 

(――――何だよ超能力プレイって!!)

そんな静さんの心の声に、俺は人知れず盛大に突っ込んだ。

ああもう。雰囲気ぶち壊しィ!!!

 

し、しかし……情熱的すぎんだろ。解き放たれた野獣かな?

まぁ、俺も若いし? まんざらでもないですし?

力の限り、どこまでもお付き合いしますけどね?

 

「む……八幡。どうかしたのか?」

「い、いえ。何でもないです」

 

訝しげに静さんが尋ねてきたが、何事も無かったフリをする。

うーん、涼しげな顔をしやがって。エロエロのくせに。

そのうち、俺のこの能力についても説明しよう。フェアじゃない。

ただ、今のタイミングはダメだ。静さんが悶死しかねん。

 

(しかし、嬉しいもんだな。他人から好意を向けられるってのは)

こんな風に俺を想ってくれる相手が、これから出てくるとは思えない。

なら、さっきの結婚の話。前向きに考えるのも、悪くはないんじゃないか?

そんな想いが脳裏によぎった瞬間だった。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい――――――ッ!」

 

 

 

その時、ついに眠れる邪知暴虐の王が立ち上がった。

戦々恐々と状況を窺っていた陽乃が、ついに爆発したのだ。

我は魔王也。ヒロイン也。静のワンサイドゲームに天罰を下さん!

 

「ダメよダメダメ! おかしいでしょ! 静ちゃんいきなり突っ走りすぎ! 比企谷くんも、こういう事は勢いで決めたら後悔するよ! もっと良い物件があるはずだよ、私とか!!」

 

割って入る陽乃は、いい感じで暖まった俺達のムードに全力で水を差す。

静さんが、不機嫌そうに陽乃を睨みつける。

 

「陽乃、君は黙っていてくれ。これは私と八幡の問題だぞ」

 

その通りだ。陽乃には関係の無い事のはずだ。

しかし、陽乃は全く引こうとしない。

 

「いや、ほら落ち着こう? 少し落ち着こう! 人生の大切な決断だよ? もう少しじっくり考えてから決めるべきだよ! クールダウン、クールダウンしよ~~!」

 

いや、お前が落ち着けよ。今の陽乃は明らかに変だ。

視線も落ち着かないし、意味不明だし、動きが無軌道だし、謎の焦燥感を感じる。

(――――むっ!!?)

その時、またしても強力な思念波が俺を襲った。

 

『――――ダメダメダメっ! 比企谷くんは渡さない!』

 

(これは陽乃の心の声か!?)

そのシグナルを皮切りに、次々と陽乃の心の声が聞こえてくる。

 

 

 

『比企谷くん絶対に渡さない! 例えそれが静ちゃんでも』 

 

『確かに私と彼は出会って一日も経ってない。共有した時間だってゼロに近い』

 

『でも……私の事を理解しくれる人なんて、今まで誰も居なかった!』

 

『私の汚くて狂った部分を見て……それを許してくれる人が他に何処にいるっていうの?』

 

『誰よりも強くて……誰よりも優しくて……誰よりも孤独な人……傍にいてあげたい』

 

『きっと……比企谷くんは私の運命の人。彼の傍に居たら、私は本物になれる気がする』

 

『誰かに本物を期待するんじゃなくて。私が本物になってみせる』

 

『比企谷くんとなら……きっと私は……!!』

 

 

 

陽乃から、俺を想う心の波動が押し寄せてくる。

静さんに負けずとも劣らない、強い意志が込められた純白の思念波だ。

まぁ、静さんはピンク色だったけども。

(それにしても……嘘だろ?)

陽乃の様子が変だとは思っていたが……。

驚きのあまり、俺はミスを犯してしまう。

 

「マジで……お前も俺の事を好きだって言うのか?」

 

通常では有り得ない問いを、陽乃に投げかけてしまったのだ。

陽乃の認識であれば『比企谷八幡は、陽乃の想いを知るはずがない』のだ。

つまり陽乃は、熱烈なラブレターを、心の準備も無しに相手に読まれたようなもので。

その羞恥たるや、想像を絶するものであろう。何か……すまん。

 

 

 

「な、何で……!? あ、まさか……は、は、はわ、はわ、はわああああ~~っ!?」

 

 

 

奇声を上げながら、陽乃の顔が一瞬で真っ赤になる。湯気を立てそうな勢いだ。

そしてしばらく、無言のまま震えていたと思ったら――――急にポロポロと泣き出した。

終いには、大泣きしながら俺の上半身をぽかぽかと叩いて来た。

 

「うわあぁぁぁぁぁ~~~~~~ん!! だから、心を、読むの、禁止って、言ったでしょおおおおおぉぉぉ!! ばか! ばか! ばか! ばかばかばか~~~~~~~!!」

 

アカン。陽乃が混乱しすぎて幼児退行を起こしている!!

強化外骨格をブチ抜いたら、その中身は豆腐のように柔らかかったという。

にしても……ダメージ受けすぎだろ。

普段は心を見透かされる事なんて無縁だったんだろう……チートでごめんなさい。

 

「不可抗力なんだ。強い気持ちは、油断してると見えちまうんだよ」

 

泣きじゃくる陽乃をあやす。

すると、今度は静さんの挙動がおかしくなった。

 

「こ、心を読む……!? そ、そういえば……さっき様子が変だったが」

 

あっ。アカン。バレた事がバレた。日本語って面白い。

みるみる静さんの顔が紅潮し、ダラダラと半端ない量の汗をかき始めた。

 

「じゃ、じゃあ……あの時、私が考えていた事も……?」

 

――――ぶるぶる! がくがく!

圧倒的な羞恥心のせいで、静さんは大地震のように揺れていた。

いかん、このままでは涅槃に行ってしまう!

 

「い、いや。男としては嬉しかったっすよ? 今度、バリ島に行きましょうか」

「ふえぇぇぇぇぇぇ……恥ずかしいぃぃぃ……!」

 

静かさんは耳まで赤くしながら、その場にしゃがみ込んでしまった。

一方、陽乃はもう完全にどこかの線が切れてしまったのか、手がつけられない。

普段から、よっぽどストレスを溜めていたのかもなぁ。

 

「馬鹿! 鬼畜! 八幡! もうやだあぁぁぁ~~~! うええええぇぇぇぇん!!」

 

いや、八幡は悪口じゃねえよ。一応それだけは突っ込んどくわ。

なんか、とんでもない事になってしまった。地獄絵図だよコレ。

やっぱり――――人の心を覗くって危険だわ!

 

 

 

 

 

 

 

「――――しかし、陽乃があんな風になるなんて……信じられんな」

「いや、俺の前だと、あんなもんですけど」

「君の前では、百戦錬磨の陽乃も形無しか。恐ろしい奴だな」

「ごほん、ごほん! 過去にいつまでも囚われるのは愚か者のすることよ!」

 

一番大騒ぎしてた人が言う事じゃないよね?

なんて突っ込んだら、多分とんでもない事になるので止めておく。

 

「さて、そろそろ……夜に備えるかな」

 

ペットボトルに残った最後の水を呷る。

だいぶ日も傾いてきたので、重い腰を上げなくてはいけない。

そろそろ寝床を確保する為に動かなくては。

 

「待って。少しだけ聞いてほしい事があるの」

 

何やら、陽乃が真剣な様子だ。

居住まいを正しながら聞くことにする。

 

「八幡。私は超能力者じゃないけど、予言するわ」

「よ、予言?」

 

いきなり、ワケわからん事を言い出したぞ。

そして、さらっと八幡呼び。別にいいけどさ。

 

「あなたは近いうちにモテモテになる。そして八幡ハーレムが出来上がるでしょうね」

 

「なにいってだこいつ」

 

八幡ハーレムって何だ。モテモテって何だ。

だが――ふざけてるのかと思いきや、陽乃は真剣そのものだ。

しかし、俺の疑念が解消される事は無く、話の方向が変わる。

 

「八幡はこれからどうするの? 確か自分一人だけなら、この島から脱出できるのよね?」

 

陽乃の問いに首肯する。

空中浮遊や瞬間移動を使えば、何千キロと移動が可能だ。

ただ、ハードな旅になる事は間違いなく、俺一人で精一杯だろう。

 

「脱出……? そうなのか?」

 

静さんは、新しい事実を知って驚いたようだ。

少しだけ不安そうな顔をしたので、微笑んで安心させる。

 

「俺だけ出て行く事はしないよ。静さんもいるし、陽乃の事だって……まぁ心配だし」

「八幡……ありがとう」

「む~~。引っかかる言い方だな~~」

 

島に着いた当初とは、事情が変わったのだ。

今は俺を想ってくれる人達がいる。

静さんはもちろん、陽乃から向けられた好意も素直に嬉しい。

彼女たちを、放っておけるわけがない。

 

「それに、謎の怪物がいるんだろ? それをどうにかしないとな」

 

そう、まずは怪物とやらを無力化しないといけない。

静さんと陽乃を心配するのは当然だが、他の遭難者も多少は気になる。

流石に危険生物を放って、この島を出てしまったら、どれだけ被害が出るか分からない。

ムカつく奴らばかりだが、さすがに死なれては寝覚めが悪い。

 

「……ふふ。八幡ならそう言うと思った。お人好しだなー」

 

陽乃が意地悪そうに笑う。

……くそぅ。そーだよ。お人好しで悪かったな。

 

「それでどうして、八幡のハーレムができるとかいう話になるんだ?」

 

静さんの疑問も当然だ。話が逸れていないか?

しかし陽乃の顔を見ると、予定通りといった様子。

黙って話の続きを聞く事にする。

 

「八幡がこの島に、しばらくは逗留する事が決定したわけよね。となると、この島には明確なヒエラルキーが出来上がる。チートサイキッカー・八幡を頂点とした、生態系ピラミッドがね」

 

確かに……単純な戦闘力で言うなら、俺に敵う者はこの島にいないだろう。

次点は例の謎の怪物だろうか。遭遇しなければ分からないが。

 

「八幡は強い。更に、超能力によって圧倒的な生活力を維持できる」

「ん? 生活力って何だよ?」

 

よく分からない単語が飛び出した。

何か専門外のセミナーを受けてる気分になってくる。

 

「八幡。あなたなら、衣・食・住を超能力で対応できるわよね?」

「まぁな。服の加工も、食材確保も、住居の建設も、別に難しい事じゃない」

「そう。それが生活力があるって事。勝手な造語だけど。まぁライフラインみたいなものね」

「なんだと……凄いじゃないか、八幡!」

 

静さんの褒め言葉がくすぐったい。

陽乃の推測した通り、俺には無人島生活に必要なものを揃える事ができる。

少なくとも俺達三人は、飢える事も、凍える事も、天候に怯える事も無いだろう。

 

「とにかく、これだけハイスペックな八幡に人が群がらないわけが無いのよ。怪物や自然の脅威、病気や怪我、食料問題、島からの脱出……それらは、八幡に頼ればクリアできる問題って事。モテモテどころか、崇拝されてもおかしくない」

 

静さんが「ううむ」と唸り、考え込む。

何か、すごく嫌な予感がしてきた。めんどくせぇ……。

 

「ここは弱肉強食のサバンナのような世界。そして、八幡には絶対的な強さがあり、富も提供できる。自然界では、強いオスをメスが求めるのは本能なの。それは人間だって変わらない。この無人島の弱者はあなたに縋らざるを得ない。つまり『ハーレム』が生まれるのは必然なのよ」

 

ここで、話がハーレムにつながってくるのか!?

そ、そんな馬鹿な……暗かった俺の人生にハーレムイベントがくるなんて……!

 

「確かにそうだな。今はみな恐れて距離を取っているが、八幡の魅力に気付いたら一気に近づいてくるだろう。そして……中には八幡の力を利用しようとする女も出てくるはずだ。ううう……想像したら腹が立ってきた」

 

静さんが自分の妄想で、怒りに震えている。

それを聞いた陽乃はバツの悪そうな顔をしている。

そうです。俺を利用しようとした最先鋒が、ここにいますよー!

 

「ま、まぁ。別に打算的な相手だったらまだマシよ。交渉の余地はあるじゃない。でも八幡を利用するために、力ずくで行動を起こそうとする奴は厄介ね」

 

陽乃の言う事はもっともだ。

俺の弱みを掴んで、脅してくる奴だっているかもしれない。

例えば、静さんを。陽乃を。交渉材料に使ってくるかもしれない。

そうなったら俺も、平和ボケした事は言ってられなくなる。

最善の結果を――――ただ願うのみだ。

 

 

そして、話はハーレムをどういう風に成立させていくのかに焦点が絞られていく。

二人の中では、ハーレムが出来る事は確定事項のようだ。

 

「しかし、どうしたものかな……やがては八幡の争奪戦になるな」

 

「うん……独占するには、八幡の力がチート過ぎるからね」

 

「ううっ……しかし、ハーレムか……女としては腹立たしいな」

 

「……そりゃあね。私だって嫌よ」

 

陽乃が、億劫そうに溜息をつく。

静さんの表情も、先程からどんどん暗くなっていく。

 

無論、原因は俺にある。

調子に乗った言い回しだが、二人は不安なのだ。

俺が二人を捨てて、他の女になびいてしまうんじゃないかと。

そんな事があるはずないじゃないか。

 

「どんな事があっても……二人を蔑ろにするつもりはないぞ」

 

「八幡……信じていいんだな?」

 

「本当は私だけを特別扱いしてほしいんだけどね~~」

 

俺が約束すると、二人の心も幾分軽くなったようだ。

というか、二人とも考えすぎなんじゃないだろうか。

そもそも俺がそんなにモテるはずがないんだ。

だって、昨日まで彼女いない歴17年だったんだぞ?

 

 

「仕方無いけど……あのプランでいくか」

 

何かを決意したように、陽乃が呟いた。

その目は、獲物を見定めた獣のようだった。

俺を置き去りして、陽乃と静さんの議論はヒートアップしていく。

 

「ハーレム化は防げない。ならば、現実的な手段を考えるべきなのよ」

 

「現実的な手段……?」

 

「このサバイバル世界では、富と武器の独占は許されない。甘ったるい恋愛感情より、非情な生存本能が上位に置かれる事は当然の事よ。そもそもハーレムっていうのは、立派な生存戦略なんだから。恋愛的な尺度で考えるのが間違っているのよ」

 

「ううっ……そうかもしれないが。簡単に割り切れるものでもないぞ」

 

「割り切って。そしてハーレムを作ると同時に、この島をどう統べるかも考えるべきね」

 

「この島を……統べる?」

 

「うん。いずれは八幡を巡って争いが起こるのは目に見えてるからね。その前に動く」

 

 

統べるとか言い出したぞ。

なんか黒い波動が陽乃から出ている。

やっぱり、政治家とか向いてるのかもしれん。

 

 

「私が提案するのは――――江戸時代に『大奥』ってあったけど、それを参考にした秩序あるハーレム社会を作り上げて、この島を統治する事だね。つまり、八幡幕府を作るの♪」

 

 

――――えっ、何言ってんの?

大奥とか幕府とか江戸時代なの? 俺って将軍なの?

まぁ、この島の文明レベルは、中世以下だけど!

 

 

「は、ハーレム社会!? 八幡幕府!?」

 

「そう。八幡の寵愛により序列制度を制定し、この島のヒエラルキーを確固たるものにするの」

 

「序列制度? お前……一体、何をしようとしている?」

 

「八幡に愛される者には恵みを。愛されぬ者には恵まず。生活苦から逃れたいのであれば、愛されるように献身する。そうする事によって安定した社会を構築し、この島に秩序を生み出すのよ。ハーレムに入れなかった女や男も、優秀な者は公務員……じゃなくて、御家人にしましょ」

 

 

――――えっ何? 怖い。陽乃さん、怖い!

それって人間を駒として見ている人間の発想だよ!

やっぱりこの人、支配者の資質あるわー!

 

 

「そのシステムは、公平ではないな。要はハーレム関係者だけが、良い思いをする事ができる事になるのだろう? 不満を持つ者が必ず出てくるぞ」

 

「公平・平等とか言い出したら、八幡が全員に奉仕しなければ成り立たないでしょ。静ちゃんは、八幡を島民の下僕として馬車馬の如く働かせたいの? どうして力のある八幡が、へりくだって弱者の為に尽くさなきゃいけないのよ。どこぞの政治家じゃあるまいし」

 

「む……そういう事になるか。少し日本の社会観に毒されていたかもしれん」

 

「八幡は何よりも自分の幸福を優先すべきなの。建前は抜きにして、それはハーレムを作り、愛すべき人達と豊かに暮らす事でしょ? その範疇に入っていない人間だって、八幡の支配下に入ったのなら最低限の生活の保証だけはすればいい。本来なら八幡にとって、助ける義理も無い連中なのよ? それで充分満足すべきだとは思わない?」

 

「……幕府に従わない者はどうする?」

 

「それは放っておけばいいよ。でも、こっちに攻撃を仕掛けてくるようだったら、死なない程度に撃退すればいいのよ……八幡が」

 

 

――――いや、俺がかよ!!

 

しかし……陽乃の意見はぶったまげたが、かなり説得力はあった気がする。

このまま、島に救援が来れば問題無い。

しかし、救援が無かった場合、陽乃が危惧しているサバンナ世界に突入するだろう。

そうなった場合には陽乃の言うような支配者、もしくはリーダーが必要になるはずだ。

 

(――――八幡幕府)

チートサイキッカーである俺を頂点とした臨時政府。

それを作るのは、確かに不可能ではないだろう。

陽乃や静さんといったキレ者がいれば、人心掌握も滞りなく進みそうだ。

この島を修羅の国にしないためには、必要な存在かもしれない。

というか、俺にとっては非常に都合の良い組織ではある。

俺自身が先頭に立ってリードする事で、わずらわしい人間関係からは幾分解放されるからな。

他の組織と供に共同でこの島を統治しようとしたら、ストレスで胃に穴が開くかもしれん。

 

(――――ハーレム)

これは……どうなんだ?

陽乃の予言は本当に当たるんだろうか。

俺は今、静さんと陽乃だけを護る事が出来たらそれでいい。

だが、そのスタンスはやがて崩壊する。

俺という存在を独占する事は、逆に戦乱の種火になるという。

これから――――どうなってしまうんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が夕暮れに染まっている。

いい加減、寝床を確保しに動かなければいけない。

まぁ、簡易式のものでよければ、十分あれば作れるから大丈夫だけどな。

 

小用を終えて現場に戻ると、静さんと陽乃の会議はまだ続いていた。

しかし、先程とはどうやら話の流れが変わって来たようだ。

静さんと陽乃は、感情剥きだしで、喧々諤々と火花を散らしている。

――――ぞくり。

何か、嫌な予感がした。

 

 

「しかし、そんな大々的なハーレムを作ったら、八幡と一緒にいられる時間が……!」

 

「……まぁ。仕方ないけど、減るでしょうね」

 

「陽乃、お前はそれでいいのか? 八幡を……独占したくないのか!?」

 

「勘違いしないで。私は……ハーレムの中で、誰よりも八幡に愛されてみせるわよ?」

 

「――――なッ!?」

 

「私の全てを。全身全霊を。八幡に愛される為だけに使うわ。ふふふ、ごめんね静ちゃん。私と同じ時代に生まれた事を呪うのね」

 

「陽乃……お前……本気かッ……!!」

 

 

なんか勝手に盛り上がってるんですけど――――!?

どうやら、ハーレムが成立した後の話をしているようだ。

女同士の意地の張り合いというか……これが修羅場か。

しかし陽乃。お前、何を言っているんだ。

もう一度言う。ドヤ顔で何を言っているんだ。

 

 

「せいぜい頑張ってね静ちゃん。静ちゃんなら、ナンバー2くらいにはなれるかもね? 何があっても、ナンバー1の座は揺らがないけどね!」

 

「負けるものか……私だって……私だって! 八幡の一番星になってみせる!!」

 

 

――――ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

二人のボルテージが異常に高まっている。

あまりの緊張感に。俺は、俺は……。

 

 

 

――――そうだ。

お城を作ろう。

遠くに見える岩山の天辺に。

岩山をくり貫いて。

うん、楽しみだ。

かっこいいのを作るぞう!

 

 

 

 

「――――どこいくのかなー? 八幡♪」

 

「――――待たせたな。話は終わったぞ~♪」

 

 

 

 

――――ギギギ、と錆び付いた機械のように振り返る。

張り付いたような笑顔を浮かべる、静さんと陽乃が立っている。

おかしい。その笑顔を見ていると、背筋が凍るようだ。

なんだろう。肉食獣に捕食される兎の気持ちってこんな感じなのかも?

 

(………うっ――――ぬおおおおおおっ!!?)

 

――――ドスン!!

またしても強烈な思念波が届く。しかも二つ同時にだ。

今までの比じゃないくらい強烈な奴だった。

まるで紅蓮。地獄の炎のように、紅い色をしている。

 

そして――――――――その心の形は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、Hしよ、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、ハチマン、』』

 

「――――うわあああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なる小町へ

 

 

八幡幕府ができた。ハーレムだって。

うん。俺も何言ってるか分かんない。

いちおう、序列1位が陽乃。序列2位が静さん。

なんか、じゃんけんでそういう事になったらしいぞ。

 

色々あって疲れたよ。なぁ、元気してるか?

お前に会えなくて、兄ちゃんは寂しいよ。

今は忙しくて帰れないけど、全部終わったらすぐに会いにいくからな。

風邪ひくなよ? 勉強がんばれよ? 兄ちゃんいなくても泣くなよ?

それと、留守の間、兄ちゃんの私物で遊ぶのはダメだぞ。

歯ブラシとか枕カバーとか持っていくなよ? 口に入れるのは完全NGだぞ?

お前はいつまでも淑女でいてほしい。

お兄ちゃんは、切に願います。

 

P.S.

お兄ちゃん童貞守れなかった。

ごめんな。あと女って怖い。

 

 

 

 

 




こうして、八幡ハーレムができましたとさ。馬鹿すぎですねw
ごめんなさい! 最後の方は完全にノリです!!
Fateとかであったテクニックを使ってみたかったんです。
決して文字数稼ぎではありません。

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