チートサイキッカー八幡   作:モブキラー

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いらっしゃいませ。二日連続の投稿は中々ハードだという事が判明しました。2~3日に一回くらいのペースが理想的なのかもしれません。推敲したらそれどころじゃないでしょうが。


第一章・狂いゆく島
雪ノ下陽乃は絶望する


「はじめまして、かな。私は雪ノ下陽乃っていうんだけど、聞いたことない?」

 

目の前の絶世の美女は、そう言い放った。

だが、こんな美女と会ってたら忘れるわけもないので、記憶にございません。

「誰だアンタ」

「わ、私の事知らないんだ……そっかー」

あっ、この人今ちょっとイラっとした。

自分の知名度に余程自信があるんだな。国民的アイドルかよ。

(雪ノ下……雪ノ下……あっ)

思い、出した。

「この最悪な海外旅行を企画した奴か」

「そ、そうだよ。嫌な思い出し方するねぇ。とんでもない事になっちゃって。私も居心地が悪いんだ」

陽乃と名乗った女は、苦笑いをして答える。

 

それにしても、何をしにここに来たのだろう?

こいつも、さっきの俺のサイキックショーは見ていたはず。

普通の神経をしていたら、近寄りたくないはずなんだが。

「それで? 何か俺に用なのか?」

「……まず、お礼を言わせて。君のおかげで助かったわ。ありがとう」

「お、おう」

いきなり頭を下げられた。びっくりだ。

「みんな酷いよね……助けられたのに、アレは無いよ」

「……危険に遭遇した場合の、普通の反応だと思うけどな」

「おや、結構冷静なんだね。もっと傷ついてると思ってた」

中々にディープな話題を仕掛けてくる。

つまりあれか。こいつは俺に感謝し、心配してここに来てくれたと。そういう事か?

いぶかしげに陽乃を見つめるが、表情からは何も読み取れない。

 

「君、名前は?」

「比企谷八幡だ」

「比企谷くんね。お姉さん覚えたよ!」

「おわっ!?」

ぎゅ~~~。

なんだこの人。いきなり手を握ってきたんですけど!

やめて! まだ思春期なのに!

「ねぇ、比企谷くん。お姉さんの友達になってくれない?」

「はぁ? と、友達?」

何を言ってるんだコイツ。

友達っていうのは、お金を払って作るものだろう? 無償で出来るはずがないじゃない。

「正直、少し君の事は怖いけど。でも好奇心の方が強いかな。すごいじゃないエスパー!」

――ぽよん。

陽乃が抱きついてくる。胸が当たる。

臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! カーッ!!

落ち着け。いい匂い。落ち着くんだ俺。あっ、また胸が当たった。

しかし、陽乃は更にグイグイと攻めてくる。お前は千代大海か。

「ねぇねぇ比企谷くん。瞬間移動と、念動力と、空中浮遊と……他にも何かできるの?」

「ま、まぁ。色々だな」

「え~~教えてよぉ。比企谷くん、よく見るとイケメンだし……お姉さんタイプかも」

いかん。いかんぞぉ。

罠に違いないとは分かっていても、溺れたくなってしまう。

もういいや。溺れてしまおうかなぁ。甘い蜂蜜の罠に。

 

 

 

…………なんてな。

ラブコメごっこは終わりにしょうか。理性の怪物なめんなよ?

 

「……離せ」

陽乃の絡んだ腕を、ぶっきらぼうに振り払う。

びくり、と陽乃の身体が硬直するのが分かった。

「え? あ、な、なんかゴメンね。ちょっと馴れ馴れしかったね」

あははーと笑ってみせる陽乃。その顔はどこか悲しげだ。

普通なら罪悪感を刺激される所なんだろうがな。

「用件はもう済んだろ? 俺はもう行く」

「行くって……比企谷くんひょっとして……自力でこの島を脱出できたりするの?」

執拗に食い下がってくる陽乃。

「まぁな」

「すごいじゃない! 私も連れてってよ~!」

くだらない茶番に、だんだん苛々してくる。

「断る」

「えっ」

「な、何でよ~。友達じゃない」

もういい。何が友達だよ。

分かってんだよお前の腹は。

「もう演技は止めろ。気持ち悪い」

「演技って何よ……ちょっと酷いんじゃない?」

「普通の人間だったら、コロリといってたんだろうな。俺もやばかったし」

「君が何を言ってるのか、お姉さん分からないなー」

あくまでとぼける気か。

すぐに引き下がればいいものを。もう……キレちまったよ。

お前が何かを企んでいたとしても、どんなに演技が上手かろうと。

たとえお前が社会の中で、どれだけの地位を得ていたとしても。俺には関係ないんだ。

だって俺は……チートサイキッカーなんだから。

 

「……俺が物理的な超能力しか持ってないと思ったのか?」

 

「え?」

「さっきの答えを一部教えてやる。俺は心も読める」

「な、なに、なにを」

その瞬間、陽乃の顔がみるみる真っ青になり、冷や汗をかき始めた。

隠されていた感情が一気に噴出し始めたようだ。

恐怖。恐怖。恐怖。恐怖の嵐が吹き荒れる。

そうだ。親しげに振舞っていたこいつも、本当は俺が怖くて仕方がないのだ。

 

「――自分の立場を悪くしてまで人助けをしたお人好しを、上手く利用してやろう」

「!?」

「――超能力者といっても所詮は高校生のガキ。傷心の所に付け込めはチョロい」

「――戦力として考えた場合、最高の切り札になる。どうにかして配下に引き入れたい」

陽乃の心を読んで得た情報の断片をつなぎ合わせ、つらつらと読み上げていく。

「――見た目ぼっちっぽいし、私の魅力ならイチコロでしょ……って、ぼぼぼ、ぼっちちゃうわ」

「あ、あ……あ……」

陽乃が目を剥いて驚愕している。

そして確信したのだろう。俺の読心力が本物なのだと。

 

「はぁ……すげえ演技だったよ。読心力が無かったら危なかったかもな……だが、相手が悪かったな」

陽乃の首に手をかける。

「ひっ」

がたがたと震えながらも、必死に逃れようとしているのが伝わってくる。

だが、あまりの恐怖で身体が動かないのだ。

どうやら、やっと後悔してくれたようだ。己の傲慢さを。

才覚に溺れ、浅はかな策を武器に意気揚々と虎の巣に潜り、その尾を盛大に踏んでしまった事に。

 

「終わりだ。死ね。お前は俺を怒らせた」

「た、たしゅけて……………………いやぁぁぁ」

か細い声を上げながら、陽乃は絶望の涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんてな! 別に怒っちゃいねーよ」

 

細い首から手を離す。

「…………うぃ?」

涙目の陽乃が、間の抜けた声を上げた。

「ただ、青少年の純情を弄んだ事だけは許せん!」

そう叫んで、陽乃の美乳を思いっ切り揉みしだいてやった。

「わきゃあ!」

陽乃が悲鳴を上げる。

三秒間、思うが侭にデビルハンドを解放する。暴れ狂えデビルハンド。

「えっ、やだ、あっ……!」

羞恥と痛みとそれ以外の声が漏れた所でストップする。

「これで許してやろう」

「こ、ころさ……ないの?」

恐る恐る、陽乃が尋ねてくる。

馬鹿かこいつは。俺を何だと思っている。

「俺は良識のある人間なんだ。文句あるならもっと揉むぞコラァ」

「ひぃ!」

陽乃の策は確かにムカついた。しかし、それは悪と断じる事が出来る事だろうか。

「だって生き延びる為だろ?」

溺れる奴は藁だって掴む。蜘蛛の糸すら掴むのだ。

必死に生きようとした結果、ああいう手段を選んだ。結局はそれだけの事だ。

「それよりも、むしろ関心したわ。迷わず俺を利用しようとした事に」

「えっ?」

ぽかんと、口を開けている陽乃。

恐怖感から解放されて、少し呆けているらしい。

「情に訴えれば使えそうって思ったにせよ、なかなかそう大胆には行動できないもんだ」

恐怖を意思で捻じ伏せ、真っ先に陽乃は近づいてきた。

もし利があったとしても、なかなか出来ることじゃない。

頭も切れる。度胸もある。演技も上手い。

「保証してやるよ。アンタ将来は立派な大悪党になれるよ」

陽乃は複雑そうな顔をしている。

読心力の関係で、俺は色々な人の心を覗いてしまう事がある。

陽乃は、大物政治家や、名うての詐欺師と同じレベルの才覚を感じた。

人心を操るという事に関して、非常に長けているのだ。

 

だが――彼女は、その力を自分の欲望のためだけに使っているわけでは無い。

それが、この陽乃という女の面白い所だ。

 

「それに、アンタ自分の事だけ考えてるわけじゃないもんな」

「えっ?」

「妹さん、雪乃って言うのか。それと平塚先生。その二人はすごく大事なんだな」

「なっ! ななっ!」

「その二人を助けてやりたいって思いが強く伝わってきたよ。だからこんな危険だって冒した」

「やめっ、やめやめ!」

陽乃がバタバタと鶏のような動きを始める。

何か今日は美女の奇行を沢山見れる日だなぁ。まぁ、可愛いからいいか。

「あんたは大事な人の為だったら偽悪の仮面を被れる人間だ。そういう優しい奴は嫌いじゃないぜ」

「なっ……やさ……す、ストップ、ストーップ! もう心を覗くのやめなさい~~~!」

さっきまでの恐怖心を忘れたのか、陽乃は真っ赤になって俺に飛び掛ってくる。

信号機かこいつは。青くなったり、赤くなったり。

 

とにかく陽乃の元気も戻ったようだ。

ならば、そろそろお別れの時間だ。

他の問題が起きる前に、とっととこの島からオサラバしよう。

「約束してやるよ。陸地に着いたら、すぐに助けを呼んでやる。だから、ここでお前らは体力を消耗しないように待っていればいい。簡単だろ?」

自分でも驚く位、優しい声音が出た。

どうやら、俺はこの陽乃という女を気に入ってしまったらしい。

賢しげで気まぐれで傲慢で破滅的だが、逆にここまで純粋な人間も珍しい。

「信用……していいの?」

「しないならしないでいいよ。勝手にしろ」

「…………ふん」

ぷい、とそっぽを向いてしまう陽乃。

何を考えてるのか気になったので、読心力を使おうとする。

「今度、心を読んでみなさい。舌を噛んで死んでやるんだから」

「……わかった。使わねえよ」

なんという脅しか。さすがに死なれたら罪悪感が生まれそうなので、控える事にする。

といっても、気が緩むと自動で発動してしまうので、完全停止は無理なのだが。

まぁコレは黙っておこう。喧嘩になるだけだからな。

 

 

 

「――――姉さん!」

 

その時、背後から少女の声が聞こえた。

振り向くと、線の細い美少女が息を切らして立っている。

どうも切迫した様子で、俺の姿など目に映っていない。

少女は、どことなく陽乃に似ている気がした。

 

「雪乃ちゃん……どうしたの?」

陽乃が彼女の事を雪乃と呼んだ。そうか。こいつが妹の雪乃か。

それにしても……何があったのだろうか? 雪乃の慌てぶりは尋常ではない。

まぁ、すぐにこの島を去る俺には関係無い事だが。

などと思っていると、雪乃が思い口を開く。

その唇は蒼ざめ、細かく震えていた。

 

「ひ、平塚先生が……怪物に襲われて……死んだわ……!」




し、しずかダイーン!! 大丈夫。きっとゆきのんの勘違いさ!
そして、すいません。涙目はるのんはずっと書きたかったんです(ゲス顔)
完璧人間はるのんを上回るには、もう超人チートしかありえへんという事で。
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