なんと今回は4回の書き直しをした結果、他の作品を更新できぬままに1週間うんうん唸っておりました。
しかも結果的にやりたかったことやったらグダったという……ね。
というか小春ちゃんの喋り方が安定しねーです。
それと今回はあとがきで思いっきりふざけました。
……とりあえず、どうぞ。
なんだろう、ものすごくどこかで聞いた声だな。
突如ドアを蹴破って参上した少女への第一印象はそれだった。
毎日毎日欠かさず朝から晩まで聞いてる母さんの声よりは聞きなれないけど、それでも時々聞くような感じの声。
もちろん、俺には目の前にいる少女のような奇抜な知り合いは居ないがね。
……まぁ、知り合いに“ドアを蹴破ってふてぶてしく参上する幼女”なんて世にも珍しいものが居るやつは教えてよ。
「幼女キター!とでも叫べばいいのかい?」
とりあえず俺は目の前に現れた幼女へのファーストコンタクトとして、引きこもり歴8年のマトモなコミュニケーション能力/zero人間的に考えて満点な疑問をぶつけてみた。
ちなみにこの質問はこの世でたった3つの状況でしか役に立たないから、真似するんじゃないぞ。
ファンタジー世界に転生して、なんか年齢不詳の幼女に出会った時、とりあえず年齢不詳の幼女に出会った時、あと俺が妹と運悪く出くわした時の3つだ。
「ふむ、それは私へのちょーせんと見ていいんだなー?夏目に危ないお薬飲ませてー、そんでもって同じやつ持たせて襲わせちゃうぜー?」
「予想以上にひどい答えが帰ってきて怖くなったよ」
「そうかー?それじゃー追加で言うけどさー、夏目は着る服で性格が変わるっつーエロゲみてーな特徴があるんだがなー?エロ的な使い道しか思い浮かばない服を着せたらもっと酷いことになるんだわー………それが今この部屋にあったりする」
非常に最悪な状況サンクス……
にしても、やっぱりこの声はどこかで聞いたような気がするんだよなぁ。
なんだろう、ここのところ5年以上会っていない伯父さんみたいな感じの引っ掛かり方だ。
どこかで聞いたような、でもそれがどこかも、そもそも相手と自分の関係も分からないような、そんな気分。
「まぁそれはそれとしてだな、私がここに来たのは他でもない」
俺が喉に魚の骨が引っ掛かったような感覚に難儀していると、幼女は突然思い出したかのように堂々と自分が来た目的を話し始めた。
「お前は面接に合格したってことを伝えに来たんだよ!」
「……ちなみに採用理由は?」
「最低限の常識があって、その上で面白いからだなー」
「……さいですか」
とりあえず、幼女によると俺は自宅警備員のバイトに合格したようですねやったーうれしーなー。
ならそれで良いが、正直この職場危険な気がしてならないぞ。
歩く破天荒であるジジイ、いつでもどこでも死亡フラグをセルフ建築&回収するお母さん(なお俺への感染も深刻)、あとよくわからんけどちょっと暴走ぎみな夏目さん……
ダメだ、マトモな人間がどこにもいねぇ。
目の前の幼女もこれまでのパターンから考えてきっと変な奴だろうからもう逃げ場がない。
ここで働けば、毎日死亡フラグを折りまくり、貞操の危機から逃亡するラノベの主人公のような日々が始まるだろう。
それはきっと俺の人生で初めて、兄貴でも妹でも出来なかったとんでもない体験になるだろうし、いつも家族の中で俺だけしか出来ない何かが欲しくて仕方なかった俺としてはとても好都合だろう。
だが……こんな職場だってことがバレたら母さんがきっとマジで心配する。
具体的には帰る度に心配して玄関で出迎えられた上で入ると同時に熱烈なハグ……
……『あれ?この職場最高じゃね?』とか考え始めたバカな俺が居たから今のはなしで。
それに、いくら時給5000円でもこんな場所で働いてたら、きっと途方もなく面倒なことに巻き込まれるだろう。
それに関してはこれまで兄貴に散々巻き込まれてきた被害者としての経験から理解できる。
この流れは……早急に断ち切らなければいけない!
そういうことだし、とりあえず話だけ聞いて、そこで余程のことがない限りは出来るだけ断る方向性……に、持っていけたらいいな。
「ついでに言うとお前がわりと良識と常識のある引きこもりだってことも影響したな………多分」
「へ、へぇ……」
「ちなみに、私考案の『思わず嘘を吐きたくなるような質問シリーズ』に嘘偽りなく答えられたのはお前が初めてだぜ?誇るといい」
この幼女は毎回いらねぇ情報をオマケするのが好きだな。
俺が面接を突破した理由を語る幼女にそんな感想を抱くも、ひとまずもうそろそろ丁重にお断りさせてもらうか、と考える。
これはどのタイミングで切り出すかが非常に重要だ。
いかにして、完璧なタイミングでお断りをするかというのは元来日本人が弱点と言ってもいいほど苦手としていることだが、俺はやる。
引きこもり過ぎて日本人的な美徳をあっさり捨て去った俺はやるんだ。
相手を思いやる訳でもなく、ただただ自分の保身のためだけにタイミングを選んで……ほい。
「その話なんだが、正直ちょっと職場環境が合わない……」
「頼むから雇われてくれよー……お願いだ」
「そう言われてもここまでヤバそうな職場で働こうなんて思えないぜ」
「今なら夏目の処女もくれてやるからさー」
「それはセットにせずとも気付いたらセットになってそうだからいらないです」
「……チッ、引っ掛からねーか」
しかもアレだよ、コイツ以外とクズい。
俺が中学時代に仲間とやらかしたいくつかの悪行に比べるとまだ健全とはいえ、十分にクッズクズだ。
躊躇なく家族を差し出す辺りとか。
……親父とか兄貴とか妹なら俺も差し出せますけどね?
「こうなったらお前に最後の手段を使ってやんよ……感謝しな」
「あばよとっつぁん!」
「あ、こら逃げんな!」
俺はそんなことを考えつつ、しれーっと擦り足で後退して窓際に移動していた。
どこぞの怪盗みたいにグライダーも空飛べる風船ガムもないから普通に落ちるしかないとはいえ、二階から落ちたくらいならばそれほど大きなダメージにはならないだろうから、いざというときはここから逃げようという魂胆である。
もちろん、8年の引きこもり生活で弱った体が耐えられるかは疑問だが、それについては日頃からそこそこ健康に気を付けている自分の生活習慣に期待するしかない。
「逃げたら交番に行って泣きながらお前を『突然侵入してきて無理矢理犯そうとしてきた不審者』として通報するぞー?」
……が、女は俺の逃亡計画を全て台無しにするような一言を発してくれやがりました。
それはアウトでしょ。
どう足掻いてもアウトでしょ。
たしか性犯罪において女性から訴えた場合は冤罪だったとしても立件されるケースが多いって聞いた気が……
はいやっぱりアウトですね分かります。
チクショウ終わりだ!詰んだぜ!
「テメェ……人としてのプライドはないのか!」
「そんなもん12の時にズタズタにされて修復できなかったから捨てたね」
「そうかい!俺もプライドは15で捨てたね!」
とりあえず、無為な問答をしつつこの女をなんとかしてここから無事に生還する方法を考えよう。
「結局お前も捨ててんじゃねーか……」
「ハッ、俺はただ必要に駆られて自ら捨てただけだからお前よりはマシだね」
「私だって必要だったから捨てただけだからなんの違いもねーなー」
今のお前というと明らかに年齢より若すぎる見た目と見た目に似合わぬふてぶてしさ、ウザさを兼ね揃えたカオスそのものとしか言えないけど?
なんて言葉がつい飛び出そうになるが、自制して上手い具合にこの状況から抜け出す術を考える。
はっきり言うが、もしもこの女にさっき言われたようなことをされれば捕まるから、それを封じないことには話が始まらない。
しかしそれを封じるなんてことが出来るのか?
出来ますが、なにか?
「へぇ……それじゃ俺を雇いたければみんなが選んだ『理想的なロリっ娘が居たら言わせたいセリフBEST66』を超可愛く耳元で囁いてくれと言ったら?」
「舌噛み切って死ぬ」
「お前プライドは捨てたって言ったよな!?」
「だからお前の煽りを気にせずに無視して自分に都合よくやってるわけよ」
俺は女と激しい言葉のドッジボールを繰り返しながら、部屋の中のある場所に目を向ける。
……この状況から無事帰宅するには、“アレ”を利用するしかないな。
「じゃ、じゃあせめて一位だけでも……」
「断る」
「もういっそお前でなくても良いから……」
「目的から外れてねーか?それ……」
まず、ある程度流れが予想できる問答を繰り返して自然な形で目的の言葉まで持っていく。
「いっそのこと、そこで倒れてる夏目さんでも良いからさぁ!」
「おい夏目!私の快適世話されライフの為に起きろ!起きるんだよ!」
……そして、女に夏目さんを叩き起こさせる。
「なんですかもう……せっかく次郎さんと幸せなk……おやすみなさい」
「寝るな」
「運命と言っても過言じゃない千載一遇のチャンスを逃した私はもう夢の世界にしか生きる希望がないんですよ……放っといてください……」
よし、計画通りだ。
なんか夏目さんが少しお母さんと似てきている気がするのは予想外だがね。
まぁその程度の誤差は気にするほどのことではないさ。
俺はわりと大きめの計算違いを気にしないことにして、とりあえず夏目さんに接近する。
女もそれについては何も気にしていないようだ。
ここから逃げ出すためにもっとも大事な段階に入っていることに、まったく気付いていない。
チャンスだ。
俺はこの状況をそう判断し、半ば賭けでもある最大級の爆弾を投下する。
「……夏目さん、実は俺って百合大好きなんだけどさ、ちょっと夏目さんとコイツがイチャイチャしてるところ見てみたいなー……なんて」
「ふぇ……?」
「いやー、そんな光景見れたらさっきのは見なかったことにしようかなー」
我ながら非常にわざとらしいし、きっとマトモな状態でこれに引っ掛かる人間は居ないだろう、という下策中の下策。
例のアレを気にしている様子の夏目さんならばそれをエサにして動かすことも出来るはず、という考えの元実行した作戦だ。
効果はいかほどか?
………せめて俺がここから外に出るくらいの時間は稼いでもらいたいものだね。
あまり期待せずに夏目さんがどう出るかを見る。
「………覚悟ォ!」
「待つんだ、これは明らかなトラップ………」
「私の
ふむ、効果は上々ってところだな。
つーか美人姉妹(ただし片方はロリなので美人と言うよりも美少女?が近い)が目の前でくんずほぐれつしているのを見るとそういう趣味でもないのになんとなく視線が惹き付けられて………いかんいかん。
目的と手段の逆転現象は非常によろしくないぞ、俺。
今大事なのはここから逃げ出すことだ。
だから、目の前で目を奪われるような光景があっても目的を果たすために行動しないとな。
「あ、カメラ家に忘れてきたからちょっと取ってくるわー!多分15分くらいで戻るからしばらくそのままで頼む!」
……我ながらあまりに杜撰な言葉を残し、俺は女が入ってきたドアから廊下を通り、脱出するのであった。
※おまけ、一発ネタ次回予告次郎編。
「次回……母さんと家でグダッと人生と時間を無駄にする。それを今後最終回まで続けろ。いいな?」
「……え?ダメ?真面目にやらないと夏目さんを三人にする?正気なんお前?」
「あーはいはい分かりましたよやれば良いんでしょう。次回!ようやく家に帰ることができた俺に、更なる苦難困難トラブルその他が襲いかかる!……おいまさか夏目さんが本当に増えたりしないよな!?」
「ってテメェ!なんだその顔はふざけんな!俺を殺す気かっ!……えぇい、とぅ、べ、こん……訳わかんねぇ!とりあえず次回に続く!」