自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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驚異の連日投稿。きっと明日は雨が降る……って、半ニートの住んでいる地域的には良いことでしかなかった。
そんなわけで第6話。
段々キャラが増えてきて収拾つかなくなりそうな気がしてきて戦々恐々としているのはここだけの秘密です。

それと、今回は少し特殊な感じになっています。
まぁ、あまり前書きで語るのも難なのでとりあえず本編をどうぞ。


引きこもり、少し思い詰める

「ウチのアホが迷惑かけてすみませんでした!」

 

 母さんと同年代くらいの女性が俺に駆け寄ってきてまず行ったのは、全力の土下座だった。

 どこまでも淀みない動作での完璧なソレは、文句の付けようもないほど……美しい土下座だった。

 てか正直なところ母さんと同年代っぽい相手に土下座されると少し畏れ多いんですが。

 あのジジイとかの場合は割と土下座されても平常心でいられる自信があるがこの女性に土下座されるとこっちが謝らなきゃいけないんじゃないかって気分にすらなってくる。

 なんだろうね、あまりの申し訳なさに正直ちょっと死にたくなってくるというか、母さんに面倒かけちゃった時みたいな……とにかくそんな気分だ。

 

「あ、あの、お願いですから頭を上げてください……申し訳なさすぎて辛いので……」

 

「いえ、元はといえば今回の一件、全て私のせいなんです。なのでつい巻き込んでしまった貴方には頭が上がらな……きゃっ!?」

 

 あ、まずい。

 申し訳無さすぎてお腹痛くなってきた。

 チクショウ俺さんの胃腸よ、弱すぎやしませんかね。

 母さんと同年代の女性に謝らせて死にたくなってくるのは非常に理解できるけれども。

 俺はあまりの申し訳なさから突然の腹痛を発症、その場にうずくまってしまった。

 

「あぁぁ……やっぱりあの人のせいで大変な……いやもしかして私のせい?」

 

 しかし俺がうずくまったことを先程のジジイが何かをしたせいだと勘違いをした女性は思い詰めたような表情でフラフラとよろけながら立ち上がり、先程夏目さんが殴っていた壁へと近付いていく。

 その目は何か重大な決意を秘めていた。責任を取って自害する武士みたいな決意を。

 

「あぁ……なんで俺いきなり心配かけまくって思い詰めさせちゃってんだろう物凄く自分が情けない……」

 

 ただ、その一方で俺はなんというかいきなり見ず知らずの相手にそんな悲壮な決意をさせる自分が文字通り死ぬほど情けなくなってきて、そして自己嫌悪に陥って死にたくなってくる。

 と、なると取るべき行動はただ1つ。

 

「「欝だ死のう」」

 

 俺と女性は、まったく正反対の立場でありながら同じ結論にたどり着いたようだ。やったね!

 まぁ、死ぬにしたって首吊ると吐くし眼飛び出すしでいいことないからとりあえずいい感じに死ねる場所を探して……と、俺が何気なくスマホで死にやすい高さと安全性の低さを兼ね備える場所を探し始めると。

 

「なんでその流れで二人とも死ぬ流れになってるんですか!?この家でボケる人間はあの老害だけで十分ですから!」

 

 その言葉とともに、ガスッ!という擬音が似合うのではないかと思うほど強烈な一撃を脳天にお見舞いされた。

 ……あ、居たのね夏目さん。

 ついつい意識から外していたけど、このタイミングでツッコミを入れてくるとは。

 

「ダメよ夏目……これは私が責任をとって死なないと……」

 

「母さんもあの老害には強く出られるのになんでですか!?」

 

 ふむ……今一緒に欝だ死のうという流れになった女性は夏目さんの母親みたいだな。

 道理で俺がものすごく申し訳なくて死にたくなるわけだ。

 母親力は俺に対して特効効果を持つからな。母親力の高い相手の前だと簡単に申し訳ない気分になって死にたくなる。

 

 ……いや、まぁでも大抵は自殺場所に行っただけで帰るんだけどね?

 飛び降りる予定の建物に着くといつも決まって、小学生の頃に自転車で事故って全治3週間になったときの母さんの憔悴しきった顔がフラッシュバックして『絶対思い詰めさせちゃうよなぁ……』とか思って、結局やめる訳だ。

 流石は母さん、直接会わずとも子供の自殺を止めるなんて。

 出来ればもう一生一緒に居てほしいね……そんな歌詞の歌があったなぁ、なんてことを何故か今思い出した。

 

「はぁ……次郎さん、母の乱入で場が流れてしまいましたが、説明はのちほど行いますのでひとまず屋内に移動しませんか?」

 

 わりとどうでもいいことを考えていると、夏目さんが自分の母親を後ろから抑え込みながら場所を変えようと提案してきた。

 断る理由などは特にないため、首を縦に振って提案を了承する。

 

「では、次郎さんは先に母と移動していてください。私は車をガレージに移動させますので」

 

「な、夏目、私を一人にしないで……」

 

「あとは頼みましたよ母さん」

 

「そんなぁ……」

 

 そして夏目さんがジジイを積んだままの車に乗って去っていくと、その場に残った俺と夏目さんの母……名前はなんて言うんだろう……は数秒ほど無言で見つめあったのち、お互いに何か言おうとして相手に譲ろうとして同時に黙り、そこで喋ろうとして譲るために黙るというループを三回ほど繰り返してから、ようやくループから解放されて会話することに成功する。

 

「その……先程はうちの旦那が迷惑をおかけしまして……」

 

「とりあえず中入りません?」

 

「あ、いえいえ、私は外で夜風に吹かれて凍えるくらいがいいんです、ちゃんと手綱を握っていられないバカな私は……」

 

「というかうちの母さんと同年代の女性に謝られ続けるのって精神衛生的にあまりよろしくないというか……」

 

「そうですよね、やっぱり私なんて死んでしまった方が良いですよね」

 

 ……ただし、ものすごく噛み合っていると思いきやそこから噛み合わない状態へ移行してからマトモな会話を出来ていないことに気付くまでに二分ほどを要してしまって時間を浪費することになってしまうのだが。

 

 母さんとは話せても母さんと同年代の女性とはマトモに話せない。また1つ現実を学んだ気がするぜ。

 現実をいくら学んでも俺は本質的に現実逃避して他人の努力を無意識に否定するタイプらしいので意味があるかは甚だ(はなはだ)疑問だがね。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ………一方その頃、七原邸敷地内に存在するもう1つの家屋にて。

 

「あー………だりー………」

 

 だだっ広い部屋の隅に配置されたベッドの上で、Tシャツにダルっとしたズボンという人に見られることを一切考慮していない格好の少女が目を覚ました。

 時刻は午前3時05分。一度寝てから起きるには少々早すぎる時刻だが、この日ばかりはその時間に起きる理由があった。

 

「あのクソジジイ、また絶対にロクでもないことやらかしてるよな………」

 

 少女の名は七原小春。とある業界においてそこそこ名の通った引きこもりである。

 1日の半分くらいを寝て過ごしたり、反対に3時間くらいしか寝なかったりと実に不規則な生活リズムで生きる彼女は、少し嫌なことを思い出したような顔をしたあと軽く伸びをし、さっきまで寝ていたベッドから降りようと、立ち上がってベッドの上を歩き出す。

 しかし、高性能なマットレスの上を歩くという行為は意外にも難易度が高い。

 そして、七原小春という人間は、普段ベッドから降りるときは起き上がりたくなくて軽く30分はベッドの上でゴロゴロとして、うっかり落ちてからようやく起き上がるような人種だ。

 そんな人間がベッドの上で立ち上がるとどうなるか。

 それは火を見るよりも明らかで………

 

「あべぁっ!?」

 

 ベッドの上で踏ん張りがきかず、盛大にすっ転んだ。

 しかも普段の運動不足が災いし、受け身を取ることができない。

 挙句の果てに転んだ場所はベッドの端の方。

 その3つの要素が重なったことにより、小春は頭から地面に着地してしまう。

 

「いてて………こりゃ起きてからすっ転ぶまでの最短記録更新なんじゃないかね?………笑えねー」

 

 部屋全体に敷いてあったカーペットが厚めのものだったのでケガこそしなかったものの、それでも痛む頭を抑えながら呻く小春。

 彼女は正直言って今の状況を見られたら恥ずかしさのあまり数日はベッドから出られないんじゃないかと焦っていたが、数秒後自分のところに誰かが来るのはまだ先になるだろうということを思い出して一安心する。

 ………だが残念なことに、彼女のその予想はあくまでも『バイトに面接に来た人間が二人以上』で、『面接を行う人員がある程度予定通りに動いて』『面接希望者の誰か一人がツッコミ属性持ち』であることを念頭に置いたものだった。

 

 ゆえに彼女の予想は大外れして……

 

「小春ー?入りますよー?」

 

「今は…やめ……」

 

 声で相手が誰かを判断した小春は、こんな状態を見られたら多分マジ泣きして数日はベッドから出られないなー、と思って焦りつつ、なんとか体勢の立て直しを図った。

 だが過酷にも世界は、彼女に家族の入室という現実を突きつける。

 

「なにか言いましたか……」

 

 入室してきたのは七原夏目。彼女の妹にしてこの家の家事を基本的に一人でこなす女だ。

 そんな夏目はもちろん気遣いのスキルにも長けているため、入室して状況を悟るとすぐに退室、テイク2をすることにした。

 が、しかし。

 夏目が入室した時点ですでに小春は恥ずかしさのあまり気絶していて……

 夏目の気遣いによるリテイクは、結局なんの意味も為さなかったのであった。




メインヒロイン、登、場……?
第6話にしてようやくメインヒロイン登場です。ただし主人公との絡みがまだないという事実。
それと名前に季節を入れているのはわりと伏線……になるといいなぁ。

なお、この作品はしばらく試験的に主人公視点は一人称、それ以外の視点からは三人称と言った具合に分けていく予定……読みにくかったら教えてください。
まぁ当分は三人称があったりなかったりみたいな感じになると思います。

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