自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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8日ぶりの更新ですわい。
とりあえずサブタイは定型にした方が楽と最近学んだ半ニートです。
今回はちょっと台詞を増やしてみた結果………普段より時の分が減った気がするし、正直書いてる方は楽しいけれどこれがアリなのかどうかが分からない。
(意訳:ガチの批判でもかまわないので感想ください)

そんなわけで、本編どーぞ。


引きこもり、ジジイと談笑する

 俺は今、究極の二択を迫られている。

 ここから写真を撮って母さんに送るか、もういっそ普通に電話して割と大丈夫だったと伝えるか。

 どこに究極という要素があるかって?そりゃあ沢山あるだろ。よく見ろよ。

 母さんに写メを送る方は、すぐ終わるし確実だし言われた通りだ。

 一見写メを送った方がメリットが多いように見える。しかし電話する方にも大きなメリットがあるのだ。

 まず、母さんと話せる。

 え?何お前マザコンなのワロタwwと中学時代は同級生に散々からかわれてきた俺だからこそのメリットと言えるが、なんというか母さんと話せるだけでも利益と言えるのだ。

 心が落ち着くし、頭がスッキリするし、多少のことに動じなくなる。

 これでも高校受験の時は事前に母さんと電話で話してメンタルを最高の状態に持っていって数学だけは満点だった実績はあるんだぜ?(無論、その高校には入れなかったし他も入れなかったがな)

 それに、この状況は写メで伝えると若干誤解を生みそうだからな。

 

「……おーい、ジジイさーん。生きてますかー」

 

「…………」

 

「生きてますよねー?」

 

 ここで倒れているジジイと言う名の、力なき老人のせいで殺人事件の現場か何かと勘違いされそうだ。

 幸いにして顔とかに分かりやすい外傷がないけれど、それでもこの絵面はなぁ……

 俺は、このジジイを叩き起こすいいアイディアはないかと思って思案する。

 しかし諸事情から親戚の老人で関わりがあるのが母方の祖母、つまりおばあちゃん以外に居ない俺にとってジジイを叩き起こす魔法の言葉なんてものは非常に縁がないものである。

 唯一関わりのあるおばあちゃんの場合は昼寝中(ただし爆睡するためよほどのことがないと起きない)でも俺が近付いただけで何故か跳ね起きるから参考にならん。そんなことを言うと少々失礼な気もするが。

 つーか俺のおばあちゃん、まだ50代だからなぁ……このジジイは見るからに80越えてそうだし、そもそもの次元が違うか。

 

 となると、もうおばあちゃんは参考に出来ないし……歳だけ重ねたあのクソゴミどものえこひいき姿を参考にするしかないわけですか。

 クソゴミ、つまり老害。おばあちゃんは歳と共に優しさと知恵とその他人間として大事なものを積み重ねている気がするけれど、その逆を体現しちゃった身内(笑)の夫婦である。

 なんと御歳88歳と91歳なので偶然にもこのジジイと同年代っぽい。

 ……まぁこのジジイも、アレに比べたらマシでしょうがね。

 えぇ、あの老害どもは才能もやる気も自分に優しくない老害への慈悲の心も全部母さんの腹の中に置いてきたか兄と妹に分け与えちゃった俺を居ないように扱った挙げ句見せ付けるようにあの二人をえこひいきしてくれちゃった訳でして。

 そりゃあもう立派で有能で最強の反面教師だったね。そのおかげで小2の頃には他人の貯金箱を探し当てるスキル、中身をすっぱ抜いてから元に戻すスキル、商店街及びコンビニでの買い物スキルが大幅に成長しましたとも。

 それもこれもあの老害たちのおかげだよ。

 ……さて、かなりどうでもいい俺の身の上話やら、ちょっと違法なことをした過去やら(主に窃盗的な意味で)で気分を十分に悪くしたところで、とりあえず話題を変えよう。

 

 俺はこれまでの人生、主に前半12年のさらに前半と少しくらいの間の期間だけは、数回だが老害どもの家に行ったことがあるんだ。

 で、その数回で俺はこの手の老人の扱いを身に付けることに成功している。

 それは一部の【孫を持つ祖父母】にのみ有効な、最強にして最高の奥義。

 

「大変だおじいちゃん!アンタの孫が心配そうに向こうからアンタを見ているぞ!」

 

「なにぃ!?」

 

 名付けて【老操孫呼】。読みは知らん。

 ただただ単純に眠る祖父母を起こすだけの技。

 内容としては孫が近くにいて、そこに行くべきだと錯覚させる内容ならなんでもいい。

 この技は7歳の頃、老害どもが庭先に隠していた貯金箱というかへそくりを頂いていくためにその時おつかいに出ていた兄貴をエサに使ったのが始まりで、応用範囲が広いのが特徴だ。

 

「……居ないじゃないか」

 

 ただし欠点として、本当に孫がそこに居るときに使わないと寝ているのを起こすくらいの効果しかないんだ、この技は。

 まぁ、引きこもり生活中は一度たりとも老害には出会ってないからしばらく使ってなかったけどな。

 

「酷いぞ、こんな無害なかよわい老人を騙すなんて、酷いぞ!」

 

「フツーのかよわい老人ならあれだけ殴られたら孫に釣られて起きるなんてことはないと思うのですが」

 

「割と正論で反論できないっ!」

 

 ……このジジイ、できる。

 なんか妙にノリが良くて私好きよ?このジジイ。

 あえておじいちゃんとは呼ばずジジイと呼び続けるが、なんか好きだね。

 おばあちゃんの旦那……つまりは母方の祖父は俺が産まれる三日前に「めでたいっ!めでたいぞォォォォォ!ワシはこの日を全力でっ!祝……」とか言って死んだらしいから実際に会ったことはないが、きっとこんな感じだと思う。

 ちなみにその死因ははしゃいで年甲斐もなく過去に数年間滞在した本場仕込みのサンバを踊って腰を痛めて転んだ挙げ句、机の角に頭をぶつけたんだとか。

 ……このジジイがはしゃいだら気を付けておくか。

 

「ところで誰じゃお主」

 

「時給5000円に釣られてノコノコやってきた引きこもりですが」

 

「人を疑うことを知らない幼児か!」

 

「違うね!見た目は20代、知能は一部を除き15、精神年齢17前後!その名も葛川次郎だっ!」

 

 俺は少々不謹慎なことを考えつつ、目の前のジジイと若者と老人がしているとは思えないような掛け合いをした。

 うん、知らん奴との掛け合いは割と苦手な方な俺だけど、このジジイとは相性がいいみたいだな。

 楽しくて仕方ない。

 

「それ完全にパクりじゃろうが!露骨なソレが許されるのはウチの孫みたいな超可愛い女の子だけじゃい!」

 

「知るかぁ!俺が通れば常識引っ込む、パクりも続けりゃギリギリセウト!つまり大丈夫だ!」

 

 その後、途方もないくらいにくだらない掛け合いを何度か全力で繰り返したのち、気付けば俺とジジイはお互いに手を握りあっていた。

 男の友情と言うには少々歳の差がありすぎる気がするが……しかし世代が違えど、自分と噛み合う相手と言うものは貴重で得難い。

 ゆえに年齢の差など考えない友情のようなものがここに成立するわけだが……

 

「ところで次郎や」

 

「なんだねジジイ」

 

「仕事の内容はもう聞いたかね?」

 

「いやまったく。何も聞かされちゃいないよ」

 

「……夏目が肝心なことを説明し忘れるなんて珍しいこともあるもんじゃな」

 

 なんとなく奇妙な縁のせいで仕事の話になっても空気がピリッとしたりピシッとしたりしないのは社会人()としてどうなんだろうね。

 俺はまだ引きこもりだし、そもそも引きこもりとニートは名誉職かつその生きざまを示すものであって、ゆえに働いていようとアグレッシブにお出掛けしようとその心が自分を引きこもりやニートとして定義する限りその人間は引きこもりあるいはニートである、とか昔中学の卒業文集に書いたからなぁ。

 まぁ、今のところ俺は自分を引きこもりと定義しているわけだから引きこもりでいいだろ。

 

「夏目さんって、さっきアンタをボロボロにしてたあの人か?」

 

「そうじゃ……なんで実の父親を容赦なくボロボロにできるようになってしまったんじゃろうな……」

 

「おぅふ。意外とワケアリっぽくて踏み込める気がしないね」

 

「まぁワシがちょっと悪ノリで変なことしたり三日前に孫と一緒に風呂入ろうとしたのが原因なんじゃけどな☆ミ」

 

 俺の遠慮を返せ。返せよジジイ。

 母さん以外には長らくしてこなかった抜けない伝家の宝刀、遠慮さんを使わせたのに無駄にさせるとか最低だな!

 

「まぁそうカッカするでない。代わりに仕事内容を教えてやるから、な?」

 

「とりあえずウィンクは自分の年齢見つめ直してからやれよ」

 

「……ジジイはめげないしょげない強いジジイなので心にズシンと来ることを言われてもなんとも思わない」

 

 そうですかいそうですかい。

 そんじゃ仕事内容プリーズね。気になり出したの今さっきだけど。てかジジイが言い出すまで気にならなかったけど。

 それを無駄に器用なジェスチャーで伝えてみる。

 

「ジェスチャーにする必要あったか!?」

 

「答えは神のみぞ知る。なんちって」

 

「……コホン。まぁいい、とりあえず説明するぞ。強引なのは承知の上で、説明するぞ」

 

 ジジイはそう言うと車のトランクから二枚の細長い板を取り出し、その内の一本を地面に突き立てる。

 すると突き立てた板の細い方の面からレーザーのようなものが照射され、その延長線上にジジイがもう1つの板を突き立てると……二本の板の間に映像が浮かび上がる。

 

「見よ!これが我が海原財閥が技術力の全てを結集し作り上げた、ポータブル映像投射装置!その名も【カゲロウ】じゃ!」

 

「お、おぉ……」

 

 なんかよく分からねぇけど凄い気がする。

 これまでは映像を見るために固形のディスプレイやらプロジェクターやらを必要としていたのにそれが必要ないってのは純粋に凄いと思えるよ。

 でもこんな凄いものがあるなら、もっと話題になっていてもおかしくはない筈なんだがなぁ……

 

「いやぁ、恥ずかしいことにコレの開発はそこまで難航しなかったから値段を抑えられるかと思ってたんじゃが、ついうっかり海原財閥でも有数の変態開発者に任せたせいでロマンを追求してしまってな。価格が明らかに一般的なサラリーマンではどう足掻いても手に入らないようなレベルになってしまってお蔵入りしてしまったんじゃよ……」

 

 そうですかい。社内の恥をトップが見ず知らずの青年にバラすってのもどうかとは思うけど、中々に面白そうなエピソードだな。

 

「まぁ、コイツの裏話はさておき説明を始めるぞい」

 

 ジジイは自分が盛大に情報漏洩したことに気付いてか気付かずか、一瞬『しまった』とでも言いたげな表情をしてから、それを隠すように仕事の内容を説明し始めた。

 

「仕事と言ってもお主にやってもらうのは文字通り自宅警備員じゃ。ワシの孫の家で働いてもらう」

 まず告げられたのはこのアルバイトのメインの目的。

 さて、この流れだと本当に自宅を護る警備員なのか、それとも名誉職的な自宅警備員なのかが曖昧だが……

 

「そして……孫と同居して、生活を手伝ってやってほしい」

 

「それは自宅警備員じゃなくてむしろ召使いとか執事とかサーヴァントとかだと思うのですが」

 

「大丈夫じゃ、生活を手伝ってやってほしい孫は完璧に自宅警備員じゃから。12、3年引き込もってるがの」

 

【悲報】自宅警備員募集のバイトは引きこもりの先輩の召使いだった件。

 そんなテロップが脳内で流れた。

 嘘だろ、いくら時給5000円でも引きこもりの先輩の世話とか嫌ですよ。

 というか引きこもり×引きこもりとかロクな結果になる気がしないし、多分男だろうから腐のお方たちに知られたら変なことを言われる……!

 よし。このアルバイトは丁寧にお断りしよう。

 いくら時給が破格でも引きこもり先輩の世話は精神的にキツいですって。

 億が一、美少女だったら考え直すけどさ。

 俺が我ながら虫のいいことを考えていると、不意にジジイの背後から近付いてくる2つの影を発見した。

 

「ちなみに可愛いぞ。ワシが言うのも難じゃが、今すぐベッドに押し倒したくなるくらい可愛……」

 

「ふざけたこと抜かしてんじゃないよアンタァ!」

 

「ひでぶっ!?」

 

 その影のうちの1つは、ちょっとイカれた人種には耐性のある俺ですら若干引くようなことを言い出したジジイへと急接近して地面へ叩き付けた。

 その早業、まさにスピードスター。とでも言うべきその技は抵抗する間も与えずにジジイの意識を刈り取ったようで、すぐにジジイは車の中に連行されていった。

 そして数分後。

 車内からちょっと表現に困るような音(エロ的な意味か、それともグロ的な意味かは想像にお任せする。どっちにしても得する奴は居ないだろうがね)を盛大に響かせてから出てきた女………よく見るとウチの母さんと同じくらいの年齢だ………が、車から降りて俺の前に駆け寄ってくる。

 

 うへぇ、これって面倒なことになる流れだわ………




とりあえずジジイはボケ倒す係。よくわかんだね。
そんな方針で書くと段々ゲッスゲスになったり人間としてアカン感じの人間になってしまう。半ニートの悪癖ですね。

お陰で一作につき一人以上頭のおかしいキャラが混ざってきてしまう………
もうこれは持病なんじゃないだろうか(現実逃避)

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