まぁ字数は大して変わっておりません。単純に他の書いてました。
てなわけでどうぞ。
引きこもり歴は5年以上ですかって面接で聞かれた件。
おい待て、何故そこで引きこもり歴を聞く。
普通答えられないぜそいつは。俺の場合は現在がたしか5月(五月病だなんだって言うが、引きこもりには5月だろうと7月だろうと関係ないよな)だったと思ったから………中3の3月から引きこもったとカウントするなら、8年と2ヶ月か。
うわぁ、まさかもう俺は引きこもり9年生だったのか。
同じことを何年も続けたらすげぇって言われることもあるこのご時世で、あと1年続けりゃ10年目に突入する鵜なんてすごくないか?え?
すごくない。か。デスヨネー。
閑話休題。
さて、ここで俺は自分の引きこもり歴を公開するべきなのか。
一応5年以上かそうでないかということしか公開することにならないが、しかし公開して後悔するなんてことにならないのか。
………いや、そもそも引きこもりであるというもっとも隠すべきものをここに来た時点で晒しているようなもんだから、俺にはもうこれ以上失うものがない。
ならば答えは1つだな。
恥じることなく隠すことなく堂々と言ってしまおう。
どんなに誇れないモノや恥ずべきことであっても堂々と胸を張って言ってみるとそれが凄いモノだと感じてしまうって明なんとか書房の本に書いてあったしさ。
「えぇ、そりゃもちろん。俺はなんと9年目ですよ9年目」
俺は、堂々と自分が今年9年目の引きこもりであることを宣言した。
あまりに堂々とした言葉に気圧されているのか、それともあまりの情けなさに呆れているのかは知らないが、夏目さんはポカンとした表情になって固まってしまう。
情けないことを言っているのに、その態度のせいでそう聞こえないってのは本当みたいだな。
お陰で情けない引きこもり9年目のカミングアウトをしても嘲笑われずに済んだ………と思っておこう。
一瞬夏目さんは単純に呆れていて、そんでもって心の中で大爆笑しつつ掲示板に載せてやろうと画策してるなんて可能性が浮かびかけたが全力で阻止。
「そ、そうですか………」
そして数秒ののち、夏目さんは頭をブンブンと振ってから愛想笑いを浮かべてそう言った。
とりあえず嘲笑われたりはしていないと考えて問題ないだろう。
もし笑われていたら自刃するしかないがね。
まぁ、きっとここからはマトモな質問の筈だから安心していいだろう。いくらなんでもこんな突飛かつ個性的過ぎる質問しかしてこない面接なんてあるはずがない。
「コホン、では次の質問です。あなたは無人島に何か1つだけ持っていけるとしたら何を持っていきますか?」
「………あ、すいません聞き取れなかったのでもう一度お願いします」
「あなたは無人島に何か1つだけ持っていけるとしたら何をもっていきますか?です」
「………………」
前言撤回。また突飛な質問が来た。
無人島に何か1つ持っていけるとしたらってなんだよ、もしかして『ドキッ!自宅警備員だけの無人島サバイバル!』みたいなもんでもやろうってのか。
いや、まぁ流石にそれは参加人数が少なすぎるから可能性としては低いよな。
だとしたらなんて答える?ライターか?簡易式の浄水器か?それともなんらかの移動手段か?
どれも素晴らしい回答だな。本当にサバイバルするという前提ならば満点じゃないかと思うよ。素人考えだがね。
でもそんなものより選ぶべきものがあるだろう?
「十全の状態の自宅、それ以外はありえないです」
そう、それは自宅。自分の家。
他の家は知らんが、俺の家には浄水器、ガスコンロがあり、そして移動手段としても運搬道具としても優秀な折り畳み式自転車付き台車(災害対策として備え付けのものがある)に3つが揃っており、その上最新式のソーラーパネルも付いている。
ほら、最高の解答だろう。
………正直言ってアホ極まりない答えだと思うがね。そもそも自宅は物理的に持てない。船にも乗らな……いや、下に台車置くとかして転がせばいけるか。アメリカで実際に行われたことがあるらしいし。
まぁ多分これできっと俺は不合格になるのだろうさ。発想の突飛さと柔軟さはともかく常識的に考えて問題の趣旨にあってないとか言われて。
「……さ、最後の質問です」
……あるぇ?
もしかして今のでおkなの?おkになっちゃったの?
面接だから一応全部やるってだけかもしれないけど、今のを聞いてなお続行しちゃうのかよ。
Q.こんな男を最後の質問まで進めて大丈夫か?
A.大丈夫だ、問題ない。
ってか?
俺は若干失礼なことを考えつつも、夏目さんが最後の質問を口にするのを待った。
「もし、どんな願いでも1つだけ叶うならなんと願いますか?死者の蘇生系以外でお答えください」
そして、わりかし真剣に聞いていた俺は、その質問のあまりのアホさにずっこけた。
それはもう見事なまでに。完璧すぎるほどのズッコケだ。
これなら今年のズッコケオブザイヤーは俺で決まりだな……じゃない。
どういうことだ。
これって就職面接なんだよな。怪しい宗教の勧誘とか、ラノベでよくあるデスゲームの始まりとかじゃないんだよな。
これに答えたら『今から無人島で、先程言っていたもののみを持って一年間過ごして頂きます。参加者同士の略奪は自由。参加者が最後の一名になった場合、期間に関係無くゲームエンドとし、生き残った参加者全員の願いを叶えます』ってなったりしないんだよな?
ものすごく怪しいぞ。
……まぁこんな時は本当に叶えたい願いを叶えることにして、もしデスゲームだったときに心の支えにするべきだろう。
それなら話は速いな。
引きこもりにして万年モラトリアム症候群患者で中卒で定義上はNEETでクズなパラサイト人間の俺にとって、人生でもっとも欠かせない唯一無二のものとはなにか。
それを自問自答してみると答えは簡単に出るぞ。パラサイトやってる人間は特に。
「それじゃあ俺の母さんに本来の寿命をまっとう出来ないような重病にかかったり、怪我や病気をして行動に制限がかかったりせず、災害に巻き込まれても決して死なず絶望しないような運命を与えてください。とでも」
それはつまるところ自分の母親の安全とか健康とかだったりするわけで。
なんたって引きこもりの生活はどんな奴でも母親に支えられてるからね。
例外も居るけど滅多に居ないよ?引きこもりで母親に支えられてないやつって。
だからこれが俺の引きこもり道的には唯一にして最高の答えなんですわ。
……そんな俺の答えを聞いた感想はいかがなものなのかな?
「…………」
あ、固まってる。なんか信じられないようなものを見る目で固まっちゃってるよ。
まぁなんというかこの視線の感じからして、きっと夏目さんは俺の答えそのものが信じられないんじゃなくて、むしろ答えそのものではないもっと大きな何か……恐らく偶然でもありえないようなレベルの偶然が実際に起こったのを信じられない感じの目だ。
これについては断言できる。これでも俺は中卒だから、周囲から様々な視線を受けてきて、それがどんなものかすぐ分かる技術を身に付けたんだ。
「……すみません、しばらくお待ちください」
夏目さんは大体30秒ほどの硬直ののち、脳内の混乱を沈めようとしたのか頭を激しく振ってから、急ぎ気味に巨大な屋敷の中に駆け込んでいく。
そして俺は、そんな夏目さんの後ろ姿を見ながらあることに気付いた。
母さんが面接会場の写真を送れって言っていたのに、今の今まですっかり忘れていたということを。