自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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まだまだ続けていこうと思うと、途端に新しくやりたいことが出来たので突然やってみた。
ちょっと古めの刑事ドラマで見て一度やりたかったものを強引にねじ込んだわけですが………どうなることやら。
いきなり犯人判明の第20話です。



引きこもり、あっさりと真相を知る

「そんじゃ、一度しか言わねーからよく聞けよー?」

 

 基本的に現実は理不尽で唐突で、さっきまでは全体像が見えなかった事件が突然入ってきた人間によってあっさり解決されてしまう事が多々ある、とは誰の弁だったか。

 きっとそれはこんな場合を指すのだろう。

 

「今回の件、こいつは単純にジジイが夏目の泣きわめく声を聞いてどこぞの引きこもりがよほど酷いことをしたんだと思い込んで、直談判に行った帰り、唐突にその引きこもりを土下座させようと思ってそのかーちゃんを浚っただけの、くだらねー事件なんだよ」

 

「「思ったより全部言ったよコイツ!?」」

 

「現実的な解決編なんてそんなもんだろー?半端に謎を残さず事件を完全に封殺してノックアウトするのが正しいリアル解決編だよ」

 

「カウントでも取ればいいのか?」

 

「いや?今回の場合は封殺した時すでに色々手遅れだったからカウントは取れないぞ?」

 

「………どういうことだよ」

 

 ここまで散々遠回りを繰り返してようやく近付いた真相が、あっさり語られた。

 何かもっと超展開的な何かがあると思った事件の原因は単純な勘違いによる私怨で、挙句の果てには時すでに遅し、と。

 これが探偵小説かなにかならばもっと時間をかけて探偵と犯人とその親友とか恋人とか家族とか刑事とかで長い時間をかけるのであろう解決編も、リアリティを追求したらきっとこうなるかそもそも存在すらしないだろう。

 まあ、ゲームにしろ小説にしろ、そういう部分でリアリティを追求し始めたら終わりだということは歴史が証明しているから仕方ないだろう。なおその歴史についてはお近くのPCで『クソゲー ヘビーファイア』と検索すると出てきたりするが、知らなくても人生の損にはならないだろう。

 とにかく、人類の歴史が証明した『リアリティばかりを追求すると面白くなくなる』という現実を知ったところでこの解決編に話を戻そう。

 

「だってよー、とりあえず夏目を向かわせて時間稼ぎしてる間に解決して『クックック………遅かったな二人とも………あまりに遅すぎて全部終わらせちまったぜ?』とかカッコつけて言うはずだったのにすでにほとんど解決してるとか思わねーじゃんかよ」

 

「………は?」

 

「つまるところ事件はもう終わってるわけだ」

 

「何を言っているかよく聞こえなかったなー」

 

「事件終了、お前の努力なんて必要なく解決しちまったわけさ」

 

 いや、ここから長々と推理を繰り広げるパートじゃなかったんですかね、ここは。

 唖然とする俺を無視して、いきなり驚愕の真実を出してきた小春はそのまま畳みかけるように驚くべきことを口にした。

 

「ちなみにお前のかーちゃんは………今、監禁されてた地下室でくつろいでるぞ」

 

「順応力高すぎませんかそれ!?」

 

「なら安心だな」

 

「そこに安心できる要素ありませんよね………?」

 

 どうやら現在、母さんはどうしてか監禁された部屋でのんびりくつろいでいるらしい。

 母さんらしいマイペースさを全力で発揮するとは、流石だと思う。

 だが、何故そんな場所でのんびりくつろいでいるんだろうか。事件が解決したなら解放されているはずなのに、どうしてそこから出ない?

 

「ただ、そこで1つ問題が発生したんだがな?ジジイが愚かにも外からしか開けられないロックのかかったドアを鍵を持ったまま通っちまったもんだからお前のかーちゃんともども出られなくなってるんだわ。それでさっきマスコミを呼ぶついでに鍵を開けるスペシャリストを呼んだから到着待ち中なんだよ」

 

「なるほど、つまりはキー閉じ込みってことか?」

 

「いんや?んなもんよりよっぽどタチが悪いぞ?たしかジジイが趣味で作らせた『理論上絶対に開けられない鍵』だし………夏目、細かい説明よろ」

 

 母さんとジジイが同じ部屋に居る、ということで少し不安にもなるが、まぁ流石に自爆してほぼ完璧なセキュリティの扉のある部屋でキー閉じ込みなんてことをやらかしたんだから、あまり変なことをしたりはしないだろう。

 きっと母さんの事だから悪意があるわけでもなく心にグサッとくることを言うだろうしな。そのダメージが大きくてきっと今は完全に意気消沈しているに違いない。

 

「私をなんだと思ってるんですか!」

 

「え?そりゃ私の妹で雷電(らい〇ん)的な立ち位置の恋愛下………ごふっ」

 

「………な ん だ と 思 っ て る ん で す か ?

 

「分かった分かった………あとでジジイが隠してた惚れ薬的なモノくれてやるから、さ?」

 

 と、そんなことを考え間にも、先ほど説明を押し付けようとした小春と押し付けられた夏目さんの間ではなにか取引があったようで、少々険悪な雰囲気が一瞬だけ場に満ち、人体を殴ったような音が聞こえたものの、すぐにそれが収まった。

 そして夏目さんはあと数日で誕生日を迎える子供のような表情で俺の方に向き直ると説明を開始した。

 ………それにしても、ケンカなんかとは縁のなさそうな夏目さんが離れていても音が聞こえるくらいの鋭いパンチを放てるとは思いもしなかった………女ってのは怖いものだとよく言うが、今さたながらそれを実感させられた気がする。

 

「こほん、それじゃああんまりよく分かっていなさそうな次郎さんのために解説しますよ?今おじいちゃんたちが閉じ込められている部屋の扉に付けられている鍵は、現在試作段階でありながら現行のあらゆるピッキングツールと技を持ってしても専用の鍵以外では開錠不可能な新型のもので、いわゆる単分子カッターとかその辺りを作ろうとした技術を転用したせいでピッキングしようと思っても鍵穴にそもそもツールが入らない有様でして………」

 

「SFかよ!?」

 

 俺はツッコミを入れつつ、まだフィクションの中だけの話だと思っていたものに挑戦して、完成こそしていないとしてもかなり高いレベルで再現出来ている(多分)なんてとんでもない技術力だな、と純粋に驚きながら、単分子ブレードと言えばたしか原子一個分の厚さしかないからどんなものでも斬れる、とかいうやつだったと思ったが………そんなものが普及したら南瓜やら魚やらを切るのも楽になるんだろうなぁ、と的外れなことを考えていた。

 

「ちなみに単分子ブレードだけじゃなくて持ち運び可能な映像投射装置ってのも………」

 

 そんな中、驚いている俺を見て気を良くしたのかあっさりとさらにオーバーテクノロジー感あふれるものを紹介しようとしてきた。

 だが、残念なことにポータブル映像投射装置はこの前の面接の日、すでに見ているのだ。

 何故か一番秘密を守るべき立場に居るであろうジジイからな!

 

「あ、それは知ってる」

 

「えぇ!?お蔵入りしたからその存在自体、開発スタッフと私たちしか知らないはずなんですけど………」

 

「………ジジイがこの前普通に出してきたんだよ」

 

「またですか………またおじいちゃんが持ち出したんですか………」

 

「ちなみにその前は夏目の下着を盗んでたんだぜ?」

 

 おいジジイ、自分の孫の下着を盗むなよ仮にも血のつながった家族だろうが。

 ………まぁ下着を盗むくらいだったらまだ可愛いレベルな気もするのだけれど、ジジイの悪行がまた一つ判明した。

 だが、なんで小春はこのことを知っているのやら。

 俺がそう思って疑惑の目を向けてみると、それを敏感に感じ取ったのか、小春は目を逸らすこともせず星のエフェクトでも付きそうなウィンクを返してきた。

 それは普通の奴なら全力で勘違いを起こしそうなほどに魅力的で美しいウィンクだったが………『面白くなくなるから、あまり追求するなよ?』というメッセージが込められていた。

 たった1つのアクションなのに、そこからは本当にそれくらいの意味が伝わってくるのだから肉体言語と言うものは本当にすごいよ。

 俺がそんなことを考えている間に、小春は身内の恥を晒されて赤面する夏目さんに追い打ちをかけ始めた。

 

「そ、それは恥ずかしいから言わないでくださいぃ………」

 

「それと去年の年末には大掃除の名目で私の部屋に侵入しようとして警備員に捕まったこともあるんだよな」

 

「これ以上身内の恥を晒すのはやめ「あ、そうそうジジイを語る上でこれは外せないんだけどさー?実は私が小学校に通ってた時………」うわぁぁぁぁぁん!」

 

 ただ、まぁ………流石に泣かすほど追い打ちをかけるのはどうかと思うんだ、うん。

 ………なお、このあと俺は身内の恥を容赦なく晒されて泣き出した夏目さんをなだめるため、結構な時間を浪費することになる。

 




今回やりたかったこと、それはァ………『真相が判明したのに、一向に事件が終わらない』だァ!
参考にしたやつのタイトルは出しませんが、まぁ幽霊が見える刑事の奴です。
まぁ実際の所参考にしたかどうかは怪しいレベルなんですがね。
それではまた次回。

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