自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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2週間以上ぶりにようやく投下……
なんというか、小春さんはサブで出ているときは話を加速してくれて助かるキャラなのに主軸に据えると凄く書きにくかったです。
味の濃いつまみが酒と一緒なら美味しく食べられるのに単品だと辛いのと同じ原理ですかね?

まぁ七原家メンバー以上に濃いキャラはそうそう出ないのでご安心くださいな。


引きこもり幼女、妹との一幕

 普通の家庭ならばもうそろそろ夕飯を食べていてもおかしくはない時間、夏目と小春………若干ネジの飛んだ引きこもり姉妹は七原邸敷地内に存在する自宅で夕飯を食べようとしていた。

 だが。

 

「………なんですかこれ」

 

「メイドバイ私な夕飯ですが何か―?文句言うなよその口にギャグボール突っ込むぞ」

 

「そうじゃない、そうじゃないんです………」

 

 なんで普段まったく料理をしない小春がこんなに料理出来るんですかぁ!?

 七原邸の敷地中に、夏目の絶叫が響き渡る。

 それはいつも引きこもってぐーたらしている小春に代わってありとあらゆる家事を代行しているだけあり、夏目の料理の腕だってそれなり、いやむしろ下手なレストランよりも美味しいものを作ることが出来るほどにハイレベルだ。

 だが、そんな彼女は今日次郎に強引な方法で這いよってカウンターを喰らい撃沈した衝撃で泣きはらしていたため、料理なんて出来るはずもなく小春が仕方なく、いやいやながら、渋々と夕飯を作ったのだが。

 そのレベルが常軌を逸していた。

 作られたのは手抜きの極限を突き詰めたような卵焼きかけご飯(オムライス)、そして僅かばかりの女子力の証明としての簡素なサラダ。

 普段通り夏目が作ったのならあと一品か二品ほど出されているような簡単な夕飯だが………その一品一品のレベルがおかしかった。

 特に何か工夫があるわけでもなく基本に忠実な卵焼きかけご飯(オムライス)に乗せられた卵は素材が持つポテンシャルを余すところがないどころか限界を突破したのではと思えるほどに美味で、申し訳程度に乗せられたケチャップと絶妙に嚙み合っている。

 さらにその横に添えられた簡素な………それも作った人間のやる気のなさがうかがえるどころか露骨に見えているようなサラダも、そのポテンシャルを最大限に引き出すような切り方をされているためにただ野菜を切って盛り付けただけなのに美味しく感じられてしまう………

 

「くっくっく、夏目よ、何故私がこんなに料理できるか分かるか―?分かんねーよなー?それは私が天才だからなんだぜ?」

 

「殴りたい………というかこの引きこもりは殴らないとダメな気がする………」

 

「ふっ………所詮姉に勝る妹なんていねーのさ(キリッ」

 

 そんな料理を作り出した己の姉に、夏目は大きな敗北感を覚えていた。

 普段から料理をしている分、自分が料理の腕では大幅に勝っていると思っていたがゆえにそのダメージも相当に深刻だ。

 その上本日は失恋によってもともと深刻な精神的ダメージを受けており………もはやこれは一生残る傷になると視て間違いないだろう。

 密かに自慢できると思っていた分野においてボロ負けしてプライドを打ち砕かれたために立ち直ることも困難で………

 これはまさに『やめて!夏目のライフはもうゼロ………というかもうマイナスよ!』案件と言って差し支えないだろう。

 最初から失恋によるショックで心のライフポイントがゼロに近かったタイミングでの、自信喪失。もはやオーバーキルである。

 

「まー安心しろよ。こんな技術を身に付けたのは割とまともな理由だからな」

 

「どうせ養って貰えなくなったときに寄生する相手を見付けるためでしょう?」

 

「……いや、私を世話してくれるお前に居なくなられると困るからその相手の胃袋を侵略してNTRしてやろうと……おい待てそのフォークをお姉ちゃんに向けるな……!」

 

 挙げ句の果てにはこの技術が自分の幸せを奪うためのものだと告げられたことでさらに深い傷を刻まれ、夏目の心を怒りが支配した。

 それにより体が自然と小春を抹殺しようとサラダフォークを掴み、その小柄な体を貫通させようと動くが……当たらない。

 1日のほとんどを寝て過ごすその体のどこにそんなテクニックがあるのかと思うほどに、まったく当たらない。

 右、左、正中に三連打してから薙ぎ払い、フェイントして動きを牽制してからの突き……そのどれも当たらず、さらに夏目は椅子の脚に引っ掛かって転んでしまう。

 

「ぐっ……なんで当たらないんですかぁ……」

 

「そりゃ避けてるからなー(笑)お前の攻撃はすでに見切ったー(笑)」

 

「うぅ……そうですよ私は無能ですよ素の状態じゃ恋愛もマトモに出来ないゴミ以下の存在ですよ……うぅ」

 

 得意な家事ですらボロ負け、恋愛も上手く行かず実力行使しても姉に敵わない。そんな現実を実感し、夏目は突如としてその場にへたりこんで泣き出してしまった。

 

(……あ、めんどくせぇ)

 

 そして小春がようやくやり過ぎた時にはすでに、全てが手遅れで。

 

「う……うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 夏目の絶叫が、家中に響きわたる。

 それは……そう、例えるならばジェットエンジン並みの騒音を叩き出し、もはや本当に人が出しているのかすら怪しいほどの大音量で小春の耳に深刻なダメージを与えた。

 一部のアニメなどで中身が異常に幼かったりするキャラにありがちな、泣いた瞬間周囲のものを破壊するアレに比べるとまだマシな方とも言えるが、しかしその被害は深刻だ。

 

「耳が……耳、が……」

 

 夏目の絶叫を間近で聞いてしまった小春は、耳を押さえながらどこぞの大佐のような台詞を吐き出していた。

 幸いにして流れから夏目の絶叫を読んでいたため咄嗟に耳を塞ぐことで直撃を回避したが、それでもほとんど防げず、現在は酷い耳鳴りが彼女に追い打ちをかけている。

 

「ひぐ……もうやだぁ……」

 

「それはこっちの台詞だっつー……あぅ」

 

 故に彼女特有の空気を一切読まないツッコミも耳鳴りによって妨害され、夏目には届かない。

 そしてこのままでは、セカンド・インパ(ryもとい、絶叫の第二波は確実に発生して今度こそ鼓膜を貫く。小春はそう確信していた。

 ……自業自得にしたってこれは酷い。

 そう愚痴りながら、小春が聴覚に別れを告げる覚悟をしたその時。

 

 prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!

 

 不意に、小春が着ているパーカーのポケットに入ったスマホから着信を知らせる音が鳴り響いた。

 なんとも間の悪い電話だ、小春はそう思ってその着信を拒否しようとして……やめた。

 そこに表示されていた番号に見覚えがあったのだ。

 

『……あ、もしもーし、俺俺、俺だけど。吹き飛ばされたくなかったら今すぐ門を開けろ』

 

「おめー第一声がそれとか酷すぎねーか?」

 

 その電話の相手は葛川次郎。

 昨日調べた個人情報の欄に載っていた電話番号が特徴的だったので覚えていたのだ。

 

「そんで?とりあえず聞くが何の用だよこのヴァカ。こちとらそんな場合じゃねーんだけど」

 

『へぇ、俺から母さんを奪っといてしらばっくれるとか、いい度胸じゃないの……』

 

「は?いやまったくもって何のことだか訳わかんねー」

 

『とにかく早く門を開けろ……さもなくば爆破する』

 

 だが、正直言って小春からすれば何を言っているかまったく分からないようなことを次郎は口走っているし、その上かなり苛立っているのか、ほとんど話が通じない。

 それどころか焦りで肝心な所を飛ばしてすらいる。

 とりあえず1から全部話せ。彼女が次郎にそう伝えようとした時、遠くでなにかが破壊された音がした。

 決して爆発時に聞こえるようなそれではなく、むしろそれは建物が倒壊するときなどに聞こえてきそうなもので……

 

「おいお前一体何をしやがった!」

 

『爆破しただけですが何か?』

 

 そんな明らかに異常な音について小春は問いただそうとしたが、しかし次郎は真面目に取り合わなかった。

 そしてそのまま一方的に通話は切られ……

 

「おい、聞いてんのかクズニート引きこもり童貞め」

 

『…………』

 

「今すぐに出ないとお前を地獄の底に突き落として夏目を投入するぞー」

 

『…………』

 

 小春は突然掛けて来た挙げ句一方的に通話を打ち切られたことにイラついた。

 それはもう見事なまでに理不尽とも言えるが、とにかくイラついた。

 ただでさえカオスが入ってきていた現状をさらに混沌とさせてくれた葛川次郎になにか些細なことでも良いから理不尽を運んでやりたい。

 そんな願望が小春の中に渦巻き……

 

 彼女は二秒と考えずして、次郎に届けるべき理不尽を思い付いた。

 


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