自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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実に2週間ぶりですわい。
3回書き直して自分なりの妥協点を見付けるまでに時間が掛かりすぎた……
まぁ、この誘拐パートをどんな感じで書くかを悩んでたわけで。

結論としてはちょっとやってみたいことが出来たのでここだけやたら視点があっちゃこっちゃ動きます。ものすごく混乱します。
とりあえずサブタイで誰視点かを分かるようにしていますが、多分混乱します。
ちなみに今回はおかーさん視点です。



引きこもりの母、拐われるも狼狽えず

「……人を運ぶならもう少し楽な体勢で運んでほしい」

 

「…………」

 

無視された。次郎なら素直に返事してくれるのに。

なんてかなり検討違いなことを考えながら、私は突如として連れ去られたのちに乗せられたバンの荷物用スペースから誘拐犯の三人(恐らく)に文句を言ってみた。

別に拐ったことそのものについて文句を言っているわけでもないのにこの対応は酷いんじゃないだろうか。

いきなり現れて拐うのはまぁ、誘拐を専門にしてる人たちなら仕方ないと思うし、私の子供たちはみんな色々な業界に顔が利くみたいだから私を拐うのも合理的だとは思うから納得できる。

でも、拐うにしたってもう少し丁寧な運び方をしてもらいたい。

調理中に突然囲んでから足を掴んで頭が足より下になる状態で運ばれるのは結構辛いものがある。

頭に血が昇ってくるし、足首の辺りを掴まれてるから痛いのなんの。

次郎ならもうちょっと、いやかなり楽に運んでくれるというのに……いや、誘拐犯にあのレベルを求めるのは間違いだと思うけれど、それでも少しくらいていねいに運んでくれたって良いじゃないかと思う。

優しく運んでくれたら私としても温厚で優良な誘拐犯を刺激して酷い目には遇いたくないし、次郎にあまりえげつないことをしないように言い含めるくらいのことはしようと思うのだけど……今回はあまりに目に余るってくらいになるまでは見なかったことにしてしまおうか。

きっと次郎のことだからヤクザの5、60人くらいは呼んできてもおかしくはない。

それどころかサイボーグとか宇宙人が来たって驚かない自信がある。

……まだ流石に宇宙人には会ったことがないけれど。

 

「……このあとの予定はどうなっている?」

 

「俺たちはこの女を渡したらそれで仕事終了らしいぜ?なんてことないオバサン拐うだけで終わりとかチョロいわ今回の仕事」

 

なんて風に私が意味があるようで実はまったく無意味な思考を繰り広げていると、不意に車の前方から耳障りな声での会話が聞こえてきた。

どうやらこれから何者かに身柄を渡されるらしい。

大金を積んでまで私なんかを拐ってなにが楽しいのだろう?

自分で言うのも難だけど顔は整っている方だったから昔は2、3度ほどそういう目的の奴に拐われかけた経験があるけど、今はもう美容にもそこまで気を使わなくなったし、歳も取ったから昔ほどそういう被害に遇う理由はなくなった筈なのだけど。

 

「……流石に本人の近くでそんなことを言うのは失礼だろう」

 

「良いんだよんなこた。どうせもう会うことはねーし、そもそも40過ぎたらどんな美人もババァに変わりはねーんだからよ」

 

……それにしても、さっきからかなり酷いことを言ってくれるなこの誘拐犯。

確かに40過ぎなのは認めるけれど、まだそれほど老けた訳じゃないし健康的な生活を送っているから運動能力もさほど下がってない。

なのにおばさんとかババァ呼ばわり……いくらなんでも冗談キツいんじゃないかと思う。

まだ40代はおばさんじゃない、はず。

 

「お前ら、軽口を叩くのはいいが雇い主の前で下手なことは言うなよ?次から雇って貰えなくなったらテメーらの臓器売り払うからな」

 

「結構酷いこと言うぜリーダー、仲間の臓器を容赦なく売っちまうのかよ」

 

「……売るならコイツだけにした方がいい。俺の臓器は粗方やられてるからな」

 

「お前が一番ひでぇな!?」

 

私が自分はおばさんなのかそれともセーフなのかということについて悩んでいる最中、誘拐犯たちは中々に気になることを言っていた。

雇い主ってことはつまり誰かに依頼されて誘拐してるのだろう。

……にしては扱いも雑だしサービスも悪いけど。

拘束はガムテープと結束バンドを組み合わせただけの代物だし、耳栓もされてない。

それに椅子に縛り付けられている訳じゃないから身動きも取れる。

依頼されるほどのプロにしてはお粗末なものだと思う。

たしかに音も立てず気配も感じさせずに侵入して誘拐するまでの過程は速い上に確実だった。

でも私に対する拘束がお粗末過ぎないだろうか。

前に誘拐された中で一番念入りに拘束してきた変態男(顔だけ見るとそこそこではあったけど)は手錠を両手両足にかけ、それを座席に固定、さらに猿轡耳栓目隠し……それこそ完全封殺という言葉が似合うくらいに完璧な拘束をしていたのに、仮にもプロであろうこの男たちは結束バンドとガムテープと目隠しだけで私を拘束した気になっているのだ。

まぁいくらお粗末でも抜けられる訳ではないし、そもそも手錠なんかを買ったら足が付くからその対策としてこんなものを使っている可能性もあるけど。

そんなことを考えつつ、そのまま車の中で揺られること数分。

不意にバンが停車したかと思うと、エンジンの音が聞こえなくなった。

目的地に到着したみたいだ。

 

「……さて、到着したぞ。手筈通り頼む」

 

「「了解、今のうちにピザ/牛丼頼んどけ……テメェは黙ってろ!」」

 

「お前らはバカか?早くしろ……誘拐はバレると全員破滅するんだぞ」

 

私は誘拐犯たちがバカなやり取りをするのを聞きながら、雇い主さんが常識的かつリスク管理の出来る人であることを祈った。

流石に誘拐+強姦+暴行のコンボで刑務所に入ったら10年単位で出てこられないから、それを嫌って何もしてこなければ良いのだけど。

あぁ見えて次郎は可愛いだけじゃなく容赦のないところもあるから、正直言って今ですら何をしでかすか分からないのに、これ以上のことが起こったら私ですら止められるか怪しい。

そうしたらきっと次郎は刑務所行きでよくて無期、最悪死刑……

そうなることを考えるだけで辛い。

そして現実的にそうなってしまう可能性がそれなりに存在することも辛い。

 

……依頼人の人になにもされないことを祈ろう。

私は普段どころか正月も祈った覚えのない神様にそう祈りながら、誘拐犯たちに担がれてどこかへと運ばれていく。

 

「命令通りお届けにあがりましたー。報酬はどこですかね?」

 

「あぁ、いつもすまんのぉ。ほれ、報酬じゃ」

 

「まいどっ!」

 

そして先ほど声の聞こえた男と知らない老人の間で報酬がやり取りされたのち、鉄の門を閉めたような音が聞こえ、その後再び車に転がされた。

今度は荷物置き場ではなくてやたらと長い席に座らされたけど……門を通ったあと車で移動する必要がある場所なんてあっただろうか。

誘拐犯たちの車で揺られていた時間からしても家からはさほど離れていないとは思うけれど、家の近くに該当する建物があった覚えがない。

車で通れるような大きな門がある建物なんてなかったはずだし、その先に車を使うほど広いスペースのあるような建物なんて……

 

……いや、一応1つだけ心当たりがあった。

昨日次郎が面接に行って、なんだかんだで働かないことにしたと言っていた職場がたしか豪邸だった気がする。

まぁそこまで詳しく聞いた訳じゃないから豪邸と言っても庶民的な感覚での豪邸という可能性だって十分あるけれど……

だが、そうこうして考えているうちに目的地にたどり着いたようだ。

今現在居るのが豪邸の庭だと考えたら車で移動してる間にちょっとした考えごとをできる時点でかなり馬鹿げた広さだってことが推測できる。

 

「……さて、ひとまず拘束は解かせて頂くが、くれぐれも逃げ出したりしないようにお願いしますぞ?」

 

不意に、頭の中で想像を広げて予想したこの場所の広さに驚愕している私の拘束が解かれた。

ただまぁ解かれたのはあくまで足の拘束だけだから逃げるのは難しいけれど。

それに誘拐された時下手に犯人を刺激するのは下策だ。こういう時はあくまで従順を装って逃げるタイミングを伺った方が無事に帰れる。

……ただ、その場合の無事の意味は犯人によってかなり異なってくるから油断はできない。

私は拘束を外した老人に導かれてどこかに移動しつつも、このまま無事に帰宅出来ることを願うのだった。

 




おかーさんはこの作品における最大の母性的萌え要素な訳でして、ヤンデレさえ発揮していなければいつだって冷静沈着、なんてものをイメージした訳ですが、拐われても動じないなんてこれはもう……(他人事感)

みたいな。

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