話がまったく進まないし、グダグダだぞ!
次回から本気出すんで許してください!
次郎が買い出しを終わらせ、家に帰る途中のこと。
彼は偶然道端で話している何人かの黒服を発見した。
マンガにでも出てきそうなほど分かりやすく黒いスーツとサングラスを着用しているため、非常に怪しいが……
「ま、俺には関係無いよなー」
次郎は彼らの横を通ったりしたら面倒くさいことになる予感がしたので、さりげなく回り道して避けることにした。
今は食べ物を抱えているのだから面倒事に巻き込まれたくないのだ。
それに黒服なんてこっちから近付かなければ大したことはない。だから遠くを通っていく。
そうして別の道から家に近付こうとするのだが……
そこにも黒服が存在した。
まるで次郎の帰宅を阻止するかのように、何人かの黒服が存在していた。
もしかして何かあったのか?
そう思って次郎は少しばかり不安に駆られそうになるが、しかし昔から兄によって多数のトラブルに巻き込まれたせいで無駄に鍛え上げられた精神的リカバリー力で即座にリカバリーし、さらに別の道を模索する。
地元民でも知る人間が限られるような道も、獣道と言ってもいいような道も、そもそも道と言うべきか怪しい道も使って家に帰ろうとした。
だが、そのことごとくに黒服たちが居た。
道の上で固まっていることもあれば、塀の上に立っていることもある。
獣道の上に陣取ることもあったし、明らかにおかしい場所にすら配置されていた。
つまり鉄壁の防御。
一部の隙すらないのではと錯覚するほど、黒服たちは全ての道の上に立っていた。
(もしかして俺を家に近付けさせないようにしているのか?……クソッ、姑息な!)
そして黒服たちが邪魔で家までのルートを決めかねた次郎は、もしかしてこの黒服たちが自分を帰らせないようにしているのではと予想した。
むろんこんな予想をして外れたら厨二病もいいところなのだが。
「まぁいいさ……帰宅検定1級を持つこの俺に帰れない家はない。母さんの元に帰れない日はない」
次郎は、かなりどうでもいいことを言いながらこれまでに通った自宅までのルートを全て思い出し、まだ見ていない道を頭の中でピックアップした。
そうして頭に浮かんだ限りでまだ通っていない帰宅ルートはたったの3つ。
小学生の頃に妹と一緒に近道した行き止まり……に見せかけて意外と低い壁を乗り越えるルート。
中学時代に時折利用した屋根を駆けていくルート。
自分が産まれるよりも昔からある塀の穴を経由して家に辿り着くルート。
その3つだ。
しかしどのルートもそれぞれデメリットが存在し、中々に次郎の決断を迷わせた。
壁を乗り越えるルートだと向こう側に黒服がいた場合に見付かる危険性が高く、屋根を駆けるルートはこの8年での体重増加、運動不足、そもそも目立ってしまうなどの理由からありえない。
塀の穴を通るルートはそういった危険性が少ないが……その代わりに他人の家を通るためあとで大概怒られることだ。
いやまぁ、怒られても大抵気付いたらあれよあれよと家まで送られているのだが……
「あ、そうだ」
そこまで考えて、次郎はこの状況を越えるために最も有効なルートを思い付いた。
先程の3つのルートのどれとも違う上に、黒服たちが一部の非合法な組織(雑魚)の構成員だったりしたら通じないが、しかし多くの場合通じる頭のおかしい手段。
正直なところ気乗りはしない、しかしそれ以外にここを確実に乗り越える方法が存在しない。
次郎は覚悟を決めて、そのルートをたどり始める。
もしかしたら取り返しの付かないことになるかもしれないが、それでもその道を行く。
「おいそこのお前、ちょっと一緒に来てもらおうか」
その途中、周りの黒服よりも真面目に道を塞いでいた角刈りでサングラスの上からでも分かるほど大きな顔の傷がある黒服に呼び止められるが……
「あーうん、ちょい待ち……ほれ」
そこは予定通り慌てず急がず、ポケットに入れておいた携帯に保存しておいた、とある文書を撮影した写真を提示し、その動きを止める。
「まさか本当にこれを使うなんてな……」
キメ顔でそんなことを言う次郎が見せたのは、とある世界最大の大企業の社長の名で書かれ、本人のサインと判子がされた書類。
内容を要約するとこうだ。
『葛川次郎は私にとってなにより大切な人だから丁重に扱え。彼に何かあればありとあらゆる手段を使って報復する』。そんな理不尽な内容の文書を見せられてビビらない人間は居ないだろう。
なんせ相手は社会の表裏どちらにも顔が利き、やろうと思えば大国の10や20を5年で潰せるとすら言われる権力者。
それが「手を出せば報復する」と言った人間に手を出せるわけがない、ということだ。
つまりこれを持つ次郎は文字通り大国の10や20を滅ぼせる力をバックに付けているのだ。
……ただ、これの価値をさほど理解していない次郎はこれを便利な万能アイテムとして使っている訳だが。
「なっ……(嘘だ、なんでこんなものが……)」
「つー訳ではよ帰らせろ、おk?」
「了解致しましたっ!」
そして、そんな凶悪なアイテムの価値を理解し、それを使われた黒服は即座に敬礼をして道の端に移動した。
サングラスのお陰で表情は伺えないが、非常に顔を青くしていることだけが理解できる……
それもその筈だ。次郎が特に悪意なくこれを見せたせいで黒服と彼の家族の運命が、黒服の行動いかんで決まってしまうことになったのだから。
「ところで黒服さんよー、なんでここら辺に張り込んでいるんだい?」
「七原宗一郎様のご命令で」
「……誰だよソイツ」
しかし気づけばとんでもない状況になってしまったと嘆きつつ、恐怖する黒服とは裏腹にリラックスした様子で思ったことを聞く次郎。
本来なら主に被害が及ばぬように黙秘するべきところなのだろうが……流石に命を懸けてまで仕えたいと思っていた訳でもない黒服はあっさりと白状した。
「そうですね……通称はクソジジイ、と言えばお分かりいただけますでしょうか」
さらにサービス精神旺盛に情報を公開し、自らの保身に走る黒服。
それは黒服として恥ずべき行動だ。だが誰も彼を責めることは出来ない……誰だって自分と家族の命や人生を捨ててまで知らない老人を守りたいとは思わないのだから。
「へぇ、クソジジイってあのクソジジイ?」
「しょっちゅうハイテンションで暴走されては物理的に強制停止させられ、それでも懲りずにロクでもないことをするクソジジイのことを指しているならば、えぇ」
「なんかもうあのクソジジイがだんだん嫌いになってきたぜ!」
そして無自覚にとんでもない権力を振り回す危険人物と、しがない黒服はほぼ一方的に次郎が喋りながら歩いた。
その間も休まず、時として黒服が戦慄するようなことを言い、黒服が恐怖するような行動をし、黒服を苦しめ続ける次郎。
これで無自覚なのだからタチが悪い。
黒服は生きた心地がしないまま、気が付けば次郎が家に着くまで同行していた。
ずっと話しながら移動していた上に、その内容次第で自分の生死が分かれるために中々離れることが出来なかったのである。
「……さーて、これで我が家に到着だな」
(しまった……ついうっかり同行してしまった……)
そして、扉の前で次郎は黒服の方に振り返って悪そうな笑みを浮かべながら腕を組み、胸を張ってとんでもないことを言い出した。
「それじゃ今からお前は帰ってクソジジイに『次こんな近所迷惑かつ母さんが困惑するようなことをやったらただじゃおかない』って伝えてくれ」
「えっ……」
「じゃあな!答えは聞いてない!」
もはやすでに生きた心地のしなかった黒服へさらに雇い主にかなり失礼なことを伝えさせることで間接的なダメージを与えにいくスタイルはもはや死体蹴りのプロと言っても差し支えないほど的確に黒服の少なくなっていた精神的HPを削り取り……
「明日から実家に帰るか……」
黒服は、とりあえず故郷に帰って療養することを決断した。