とりあえず一番書きたいところへ繋ぐための重要な話です。
……なんかちょっとグダったけどね?
俺の母さんはなにをやっても完璧な人だ。
炊事洗濯掃除などの家事はもちろん、実は絵も描けるし重機も運転出来る。
歌もダンスも格闘技もカードゲームも……とにかく何をやったって完璧にこなすし、むしろ出来ないことの方が少ないんじゃないかってくらいにパーフェクトだ。
だが、それでも大きな弱点がある。
思わず俺が母さんとなんの血縁関係もないんじゃないかと疑うくらいに完璧な母さんを持った俺は、それを17くらいの時に口が滑って言ってしまったことがあったんだ。
そしたら母さんが突然泣き出して窒息するんじゃないかってくらいに抱き締められて、実際窒息しかけて気絶したんだが……それ以来、その言葉は我が家で禁句となっている。
母さんいわく、昔ちゃんとDNA鑑定をして親子関係があることは証明したけれど、それを言われると不安になって仕方がないかららしい。
しかし、そんなところでも魅力にしか思えない辺りが母さんクオリティという奴なのだろう……
それはともかく。
俺は今、1週間前くらいにパソコン(デスクトップ型。妹に作ってもらったけどやたら使い勝手がいい)でなんとなくあの家について調べていた。
あの家とは七原家のことだが……少なくとも俺の個人情報とか知れる時点でマトモな家じゃないのは明らかだ。
確かにGo○gleで調べれば昔起こした問題のおかげで多少なれど出てくるけど、あれは流石に知りすぎだと思う。
そう考えて検索した訳だがね……
【七原財閥】
明らかにおかしいもんが出てきたのですけど。
財閥って全部解体されたんじゃなかったっけ?
疑問しか浮かんでこないし、とりあえずこの七原財閥とやらについてはさらに調べる必要がありそうだな。
今はこの検索結果を見るに留めようとは思うけど。
「さー、その無駄に闇が深そうな正体を丸裸にしてやるぜー」
俺は無意味な棒読みで決め台詞的なものを言ったあと、七原財閥の項目をクリックする。
クリックする……クリックする……クリック……クリック……クリック…クリック…クリッククリッククリッククリッククリッククリッククリッククリック……ようやく読み込み始めたよ。
まぁ、このパソコンでこんなに読み込みに時間がかかると言うのならよほど情報量が多いのだろうね。
だってコイツいわゆるオンゲ用PC並みに性能高いしさ。これでしばらくは暇と縁遠くなれるかもしれないな。
俺は、どれだけ長い項目なんだとワクワクしながらページを移動して読み込みが終わるのを待った。
そして、画面が切り替わって画面に表示されたのは。
【リンクが切れています】
「ちくしょうリンク切れとか最低かよ!」
そこで待ち受けていたリンク切れという非情な現実に、思わず叫んでしまう。
うん、ここまで期待させといてなんだよこれ。期待外れとはまさにこのことか。
いやむしろ半端に情報を開示してくれちゃってるせいで不完全燃焼させられてる感じだ………一酸化炭素生み出しちゃうぞ。
「あー、なんでこんなときに限って知りたい情報のリンクが切れてんだよ……めんどくせー」
俺は誰へという訳でもなくそう呟いた。
知りたいときに知りたいことを知れるからこそのネットじゃないのだろうか。
まぁ、流石にホワイトハウスから核を飛ばすためのパスコードとかはネットでも見れないが、それでもせめてこれくらいの情報は開示してくれてもいい気がする。
だって項目がちゃんと存在しているような情報だからねぇ………いっそ今度別の方法で探してやろうか。
そんなことを考えつつ、俺はリンクを切らしてしまったサイト制作者に理不尽な怨念を送信(ただし見当違いな相手に送られている可能性は9割以上)し始めるが、不意に後方にある窓が開かれる音がして、そちらに視線を向けた。
「ねぇ次郎さん次郎さん、そんなに知りたいんですか?」
「そりゃまぁね……何故か俺のこと色々知られてるらしいし、こっちからも情報を探ってやろうと思ったまで……」
ウワーダレダロウナー。ボクシラナイヒトダナー。
というかこの部屋の窓は閉めていたのになんで入ってこれたんだよアンタ。
それに、まだ花粉も飛び始めていないこんな時期になんでわざわざバイオハザード対策も出来そうなマスク付けているんですかねぇ?
おかげで声から判断して知り合いの誰かに当てはめることも出来ないじゃないか……実はものすごく心当たりしかないけど。
「……誰だお前は」
まぁ、とりあえずここはテンプレ的にこの台詞を使ってみよう。
乗ってきて某R団的に名乗ってくれりゃあいいんだが、そこまで願うのは贅沢だな。こういうパターンは大抵ぶっ飛んだ回答が返ってくるって相場が決まってる。
「私ですか?それはもう次郎さんのお嫁さんみたいなものですね」
「予想通り頭のネジがことごとくお空の星になってるような回答をどうもありがとう!」
あ、ダメだコイツ頭のネジがぶっとんでるぜ。
具体的にはマイシスターと同等あるいは兄貴のストーカーズの1人、土御門と同等のぶっとび方だな。
もはや某ぶっとびガールは敵じゃないくらいのぶっとび方だ………全然嬉しくないけど。
「というかなんで窓から入ってこれたんだよ………もしかして外から入ってこられるように細工でもしてあった?」
「むぅ……なんでバレたんですか、あれですか愛の力って奴ですか」
「いいや?防犯はしっかりしていたのにさりげなく侵入経路を作られてたなーって思っただけさ。ところで、なんで今来たんだ?」
「それはもう次郎さんが恋しくて仕方なくなったので!」
わけがわからないよ。
さりげなく我が家に仕掛けられていた侵入経路を見つけ出して利用する辺りも、まったく悪びれずにトチ狂った理由を説明しちゃうところもさ。
………夏目さんよ、アンタを何がそこまでトチ狂わせるんだ。
そして何がマイホームへの侵入という手段を取らせたんだ。
俺は、そんな疑問を素直にぶつけてみることにした。
「まぁいいさ………それより、なんでここに来たんだ?夏目さん」
「理由ですか?まぁ実は昨日の夜からずっと門の前で次郎さんが来るのを待っていたんですが、中々来てくださらなかったので、こっちから迎えに来ちゃいました☆」
「いやお前バカなの!?それだけ待てば騙されたの分かるよね!?どんだけ人を簡単に信じてるのさ!?」
☆じゃねぇよ。そして『テヘッ』なんて幻聴が聞こえそうなくらいのあざといポーズも………か、可愛くなんてない。
まぁ、門の前で健気に待ち続ける夏目さんと聞いてちょっとだけ健気可愛いなぁとか思ったけど、流石にそれで騙されたとか微塵も思っていない感じなのは少し人を信じすぎじゃないかと思うよ。
つまりは俺は夏目さんにほだされてなんかいない。
………というか、思ったより理由がバカっぽいことについては触れない方が良いのかな。そこまでされて微塵も疑わず翌日に自分から迎えに行っちゃう辺りとかさすがに理解不能だよ。
「それにこう見えて私、惚れた相手には尽くすタイプでして……」
「なら今すぐにゴーホームしてくれ!」
「つまりは『お前を拐ってレッツ逃避行!』ということですか……!良いですよ、次郎さんのためなら地獄の果てまでお付き合いします!」
「話が通じねぇんですけど!?帰れよ!」
「嫌です!というかあんなこと言っといて何もしてこないとか生殺しもいいとこですよ!男なら責任取ってください!」
……なんだろう、すげぇめんどくせぇ。
夏目さんが超美人なのに彼氏いない歴=年齢な理由が掴めちゃったね。
そりゃ彼氏出来ないよ。
ヘヴィなんだよ……
適当に言ったことを信じて家の前で一晩待機し、挙げ句相手の家に直接侵入、わりと周りに聞かれたら俺が悪いみたいになるような台詞を乱発する。
これはもう地雷なんて言葉じゃ生温い。むしろ水爆級のとんでもない危険物件だぜ……
「まぁいいですよ、次郎さんが私を受け入れてくれないなら、受け入れざるを得ない状況を作るまでです」
「えっなにそれ不穏」
「あ、大丈夫ですよ?精々この家に一般的な熊用麻酔程度の効き目の麻酔薬を散布するだけですから」
「安心できる要素が1つもねぇ!」
てかさっきからマスク付けてるみたいな声だったのってそれのためかよ!
俺は、脳内でも口でもツッコミを入れつつ、流石にヤバいと思って対策を考える。
これまで何度かとはいえ命を救ってきた保身策を産み出すことに長けた俺の脳よ、なんかいい感じに夏目さんを無力化する手段を……ダメだ思い付かん。
……あ、そうだ、こういう時は一旦思考を分割して異なる側面から結論を出してみればいいって民○書房の本に書いてあったのを思い出したぞ。
つまりはラノベや漫画でいう脳内会議をすれば良いのだ。
自分の中の本能と理性とその他で別の結論が出るはずだから、その中からマシなのを選べば良いのだ。我ながら妙案。よっしゃ勝つる。
そう決まれば善は急げと、俺は脳内会議をスタートさせた。
ー脳内会議開始ー
次郎A(本能担当)「もうどっちにしろヤられるんだから振り向き様に押し倒しちまえ」
次郎B(理性担当)「この流れから押し倒せば主導権は握れるな」
次郎C(厨二病担当)「こうなったら徹底的に主従関係を刻みつけてやろうではないか!つまり押し倒せ!」
ー終了ー
……OK、分かった。
つまりは脳内会議は無駄だった。てかよく考えると全員俺なんだから考えること一緒だよね。知ってた(大嘘)。
でも脳内会議、テメェの言う事も確かに理に適ってるさ。前回あそこまで簡単に気絶した夏目さんのことだ、押し倒せばそりゃ簡単に止められるだろうよ。
だがそんなことをすればいよいよ本格的に責任取ってと言われかねないリスクが生まれる(少なくとも押し倒した事実だけでアウェー材料には十分だ)。
そんなもの、嫌だよな。
………だからここで、前回と同じく言葉だけで退散してもらうとしよう。
しかし、言葉そのものは前回より何倍も何倍も強烈でダメージを与えるようなソレを。
「さて次郎さん、次に目覚めたら色々変わっているでしょうし、今のうちに言っておきたいことはありますか?」
うんうん、ちょうどよく夏目さんが最後に言い残すことはないかと聞いてきたことだし……やらせてもらうとしよう。
「それじゃ言わせて貰うわ、実は俺……」
「私のことが好きだったとか言っても気絶しませんからね!」
「将来を誓い合った相手が居るんだ」
「……へ?」
「ちなみにそいつとは今も連絡取り合ってるし、つい最近もその話を持ち出されたな」
肉を切らせて骨を断つ作戦。一応ギリギリ嘘ではないが、正直なところあまりおおっぴらに言えるようなものでないし、それ以前にちょっとそれに関係するトラウマもあるから思い出したくもなかった出来事。
たしかに夏目さんを止めることには成功したのだが、少なからずダメージも受けた。
それはもう嫌な思い出が蘇ってきて、内心今すぐにでも気を失って現実逃避したいくらいに。
「で、でも中卒でずっと引きこもってる次郎さんにそんな相手がいるなんて信じられないです!」
「それは至極もっともな質問だな、だがこれを見ろ」
だがまぁ、それでも被害分くらいの効果はあったみたいだな。
ただ、それでも食い下がる夏目さんを黙らせて退散してもらうために、机の引き出しにずっとしまってある1つの箱を取り出す。
その中身は、やたらキラキラしていて目に悪いからずっと机の中にしまっていた、指輪。
「それはもしかして……」
「まぁ、これを見りゃ想像するのは簡単だよな?見ての通り、俺にはこんな指輪を贈ってもらえるような相手がいるってことさ」
「うぅ……」
「全部説明もしたし、ささっとお帰りくださいな」
「ひぃ……うわぁぁぁぁぁん!」
そして、とうとう夏目さんは、涙を流しながら窓から飛び出していった。
それもかなり引きずりそうな感じの泣きっぷり……うん、流石に悪いことしたかもしれない。
俺はかなり久しぶりに取り出した指輪を机の中に戻しつつ、夏目さんからは見えないように気を付けていた、箱の内側に刻まれた言葉を思い出す。
『大好きなお兄ちゃんへ』
……うん。実はあの指輪、妹が毎年何故か贈ってきたからとりあえず保管しているだけの奴なんだよなぁ……
いや、本当に悪いことをしたよ、うん(まるで他人事のごとく)。