とりあえず、そんなこんなで第10話どうぞ。
※なお今回も台詞オンリー次回予告付きです。
「はーたーらーきーたーくーねー」
やたらと間延びした声でロクでもないことを言いながら、俺はリビングの床でゴロゴロと転がっていた。
あの面接から1日、つまりは逃げ出した翌日。
あれからは色々あったよ。
帰宅したとき母さんが玄関でウトウトしながら俺の帰宅をずっと待ってたらしいことを知って感動のあまり泣いたり、少々眠気が限界を超えてただいまから数秒で睡眠状態に入ったり、朝気付いたらリビングで母さんが膝枕してくれてたり………
なんか、世界は良いことと悪いことが交互に来るもんだなぁ、と感じるね。
いい感じの仕事(実際は違ったが)を見付けて母さんを安心させられたという良いことと、カオス極まりない職場という悪いこと、そして帰ったら母さんがマジで天使だったといういいこと………ほら、交互に来てる。
ただこうなると次に来る『悪いこと』がどれだけ酷いものになるか分からないし、怖いんだよなぁ………
人間万事斎藤の乳母………とかなんとかいうけれど、出来れば悪いことは起こって欲しくないモノですよ。
期待するだけ無駄かなって思ってるけどさ。
まぁ、幸いにして俺の母さんは俺を家から追い出したりは(少なくとも当分の間は)しなさそうだし、これからものんべんだらりと引きこもり生活をしますかね………
え?なんだって?『親に迷惑かけて心は痛まないのか』って?
何のことかさっぱりわかりませんねぇ。私には理解しようがありませんもの。
だって、俺の精神年齢は15歳で止まっているからね!子供だもん!
つーかそもそも我が家には親父がロクに帰ってこないという事もあって、俺が家を出たりすると母さんが独り暮らしになるし、その親父は何をしているか知らないが稼ぎはかなりいい………少なくとも食欲モンスターだった兄貴が居ても食費で困らなかったし、兄貴が月1ですり減らすか焼けるか吹っ飛ぶか溶けるか盗まれるかしていた靴の買い替えの時も超余裕という具合だった。
もちろん実際はヤバいという可能性だってあるが、前に通帳の中身を見たら1億近い(数字は覚えていないが8、9ケタはあった)預金があったから大丈夫だと思う。
つまり俺が引きこもっても家計的にあまり問題はない。証明完了。
ついでに言うと、母さんは基本的に寂しがりだから出来るだけ誰かが家に居てやれ………とは親父の6年前の手紙によるものだが、それを守るならば俺以上の適任は居ないだろう。
親離れや反抗期はなさそうだし、マザコンで甘えん坊、挙句の果てには最低辺近い経歴のせいでまともに働ける見込みがない。
まさに適任だ。
よって俺は引きこもる、誰がなんと言おうと引きこもりをやめる気は………少なくとも当分ない!
どうでもいいことを考えつつ、自宅でゴロゴロする
引きこもりisジャスティスだぜ。
「………………」
そんなとき、不意に母さんが俺の視線の延長線上に無言で座っていることに気付く。
「………………」
俺が視線を母さんの顔に向けてみると、母さんは何も言わずになにかを待っているような目でこちらを見ていた。
………母さんはどういうわけか、無言のまま目線だけで意思を伝えようとしてくる癖があるから分かりにくいんだよなぁ………
まぁ分かるんですけどね。母さんへの愛と経験で。
8年間伊達に引きこもってはいないんだ。
このパターンの場合の行動の正解は………ここからゴロっと転がって膝枕してもらうこと。
3歳くらいからずっとこのパターンを繰り返してきているので、母さんの膝に頭を乗せるまでの動きが実にスムーズだ。
「………ん」
そして母さんが俺の頭に手を置くまでの動きも流れるようにスムーズ………これはもう品評会モノですね。
だって母さんは最強で最高で俺の母さんなんだもの。何をやったって評価は最高以外に思いつかないよ。
少しばかりゲシュタルト崩壊を起こしかけているけれど、とにかく母さんisパーフェクト。
産まれて23年間も無駄な年月を生きてきた俺だけれど、こんな俺を世話してくれて引きこもらせてくれる母さんはマジで女神なのだ。
………語彙力の低下が激しいな。
「やっぱり、次郎は可愛いと思う」
「また唐突だね母さん」
ただ、ちょっと昔の無口さが影響してるらしいけど、かなりの確率でなんの脈絡もなく言葉の奇襲攻撃を仕掛けてくるのはちょっと苦手だがね。
「………そう?」
「そう」
「でも次郎は可愛い」
「さりげなくスルーされちゃったよ」
しかもなんの脈絡もない奇襲的な会話は大半が俺への誉め言葉とか、そういう悪意がない善意と両親100%で構成されているからタチが悪い。
そんなに褒められると調子に乗っちゃうだろう。
「というかこれくらい手間が掛かった方が好き……」
「遠回しにめんどくさい子供だと言われた!?」
「正直あの二人は気付いたら全部終わらせてて私が楽すぎて辛かった……次郎愛してる」
「そんなに褒めても何も出ないよ母さん大好きだ」
そんなこんなで、よく分からない問答を繰り返して俺と母さんはいつも通りの結論に至った。
母さんは至高。天は母さんの上に人を作らず人の下に母さんを作らず、という端から見れば訳の分からない結論だがね。
「……ワンモア」
「母さん大好き」
「捻りを加えてみて」
「母さん好きだ一生養って……」
「……あぅ」
そしてそのまま常人には理解不能な(ただし俺の家族ならなんとなく理解できなくもない)やりとりを続けること数分。
気付けば話すことに飽きていた。
というか俺も母さんも、なにか話しているよりも静かに時間を過ごすのが好きな人種だから仕方ないっちゃ仕方ないし、それにこんな何もない時間も嫌いじゃないのだけどね。
……グダグダした引きこもりライフ、さいこー。フラグっぽいけどー、兄貴みてーな主人公体質じゃねーからー、思いっきりグダるぜー。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私の息子が可愛すぎて死にそう。
9年前に私の息子……次郎は、突然「自分がなんの為に生きてるか理解できなくなった」と言って突然引きこもり始めた。
それまでは良かったの。
ただ引きこもっただけなら、社会復帰のお手伝いをしてあげたりして、ゆっくりゆったり立ち直れるから。
でも、思ったより次郎の引きこもりは……闇が深かった。
次郎の引きこもりが始まったころ、私も自分で出来る限りの手段を使って……それこそ昔に築いた人脈とか、物理的な手段も使って色々調べた。
次郎とよく遊んでたちょっとガラの悪い子たち(次郎いわくいわゆる昭和の任侠系不良、らしい)にも話を聞いて、情報の収集も手伝って貰った。
そして、なんとか分かったことは……
次郎の引きこもりは、次郎以外の誰かの思惑が絡んでるってこと。それだけ。
その“誰か”が誰かは分からなかったし、次郎に聞いてみても言わない約束の一点張り。
……幸か不幸か、次郎自身はその思惑についてちゃんと知っていて、分かった上で“誰か”の思惑通りに引き込もっていたってのは安心したけれど。
そして引きこもりを選んだ理由の1つに「母さんともっと一緒に居たかった」と言われた時は泣いた……自分が口下手で訳の分からないことを話した気もするけど、とにかく泣いていた覚えがある。
あの時の次郎の曇りひとつない表情が忘れられない。
今もほとんど曇らないから流石にちょっと心配になってきてはいるのだけれど……嬉しい。
ただ、以前そう言ってくれたとはいえ、次郎が本当に今の生活に満足しているのか不安になる時がある。
私が甘えすぎて束縛していないか、心配で仕方がなくなってしまうのだ。
口では満足しているように見えても実はまったく満足していないかもしれない。
「……ねぇ次郎、今の生活は好き?」
「もちろん!」
だから、私は毎日のようにこんな質問をしてしまう。
次郎はどんな時でも嘘は吐かないから、それに甘えて、自分を安心させている。
……これではまるで子供のようだ、と我ながら思う。
でもこうしないと耐えられない。
これでは本当に引きこもっているのが誰か分からない。
下手な小説のように、引きこもっている次郎のお世話をしているつもりが、実は自分が世話をされる側だった……なんて、今時流行りはしないだろう。
そんな事実はあってほしくない。
でも、きっとそれは事実の一側面ではある……だから私は、今日も次郎を甘やかすかのようにして甘えるわけだ。
願わくば、この日々が死ぬまで続くように祈りながら。
母親のキャライメージの変遷。
当初:無口系電波美少女が特徴そのまま理想的な親になったイメージ。
次郎視点執筆中:電波で無口で可愛い母さん。
母視点執筆中:無口系依存型ヤンデレ気味お母さん。
……何故こうなったんでしょうね。
まぁ、次郎視点から見ている限りなら結構セーフだし、最近よくある冷えきった親子関係よりはマシな気も……(適当)
以下、台詞オンリー次回予告夏目さん編。
「えーっと……なんですか?次回予告をやれと?」←スーツ着用中
「お断りします、私は今大切な仕事があるんです……えっちょ服を変えないでくだs……」
「……なんですか!私を虐めて楽しいんですか!?しかもその上でまだ次回予告をやれと!?鬼!外道!人でなしぃ!」
「ふぇ?『やれたら番外でIFルート開拓』……やりますやらせて頂きます!」
「次回、私の思いがついに届く!次郎さんと……あぁっ!冗談ですからやめてください!」
「次回!さぁ働け引きこもり!素晴らしい職場(全員非常識人かつ逆レの可能性あり)はすぐそこだ!今すぐに引っ張り出してやる!……だ、そうです」