自宅警備員で時給5000円の職場があるらしい。   作:秋ピザ

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なんとなく書いてみたくなったので勢いだけで見切り発車のラブコメ。
ありがちなどこにでもいる引きこもり23歳系主人公って素敵だよね。便利だ。



引きこもり、天職に出会う。

 よう!俺は葛川次郎!ピッチピチのナウでヤングな23歳親元暮らしで無職だぜ!ヒャッホウ!

 ……あ、ごめん割とマジで自分の現状認識したら死にたくなったぜいぇーい。

 つーかなんで俺にはなまじ優秀な兄貴と妹が居るんだよ……泣きてぇし死にてぇ。

 兄貴は熱血系主人公みたいなことばっかやって周りに迷惑かけて、それでもなんとかしちまうチート体質だし妹に至っては俺が昔から好んで読んでいたラノベとかの影響かは知らんがテンプレ的なダメ女になり始めてるし……

 しかもそんなズレた人間なのに優秀なんだよなぁ……!

 現実は理不尽だよ。

 そんな優秀な二人に囲まれた真ん中っ子の俺は二人に才能を吸い取られたかのように一切の才能がなく、辛うじて料理と裁縫と掃除洗濯子供の世話(二人まで)が完璧な程度で就職してから使えるスキルも就職のためのスキルも何一つない。

 その上追い打ちをかけるように母さんは家事全般の天才で子供の世話も上手いとかいう事実。本当に死にたい。

 

 その上あれだぜ?何も出来ないし就職したくても出来ないしする気も起きずにずっと部屋で時間を無駄にしてる俺に対して母さんはこう言うんだ。

『大丈夫、次郎はいつだって皆を支えてくれてるってお母さん知ってるから』

 ってね。

 あの時は母さんの優しさに危うく泣いてしまうところだったよ。言われたの昨日だからあの時ってほどでもないけとさ。

 まぁ、そんなことを言われたらいくらクズでニートで無能な親元暮らしの俺でもちったぁ重い腰を上げて就職活動しないとって思ってしまうわけで。

 

「……良い仕事、ねぇかなぁ?」

 

 現在近所の商店街の掲示板で乱雑に貼られた求人広告をダラダラと眺めております。

 無論安定した仕事なんてあり筈もないので、探すのはデスクワーク系かベビーシッター等の子供の世話系とある程度幅を取って。

 正直見付かれば恩の字、見付からなければ電話で必要なものを聞いて商店街で買って帰ることにしよう、そうしよう。

 そう思ってチラシを端から端まで眺めていく。

 給与についてはまぁ、最低賃金を下回らなきゃ大丈夫だよな。

 

【家庭教師】

 まず……これは論外。俺の最終学歴知ってる?知らないよね。ロクなもんじゃないから知らないまま死んだ方が幸せだよ。

 

【建築作業員】

 中学の頃筋力が女子平均を下回り体力テストでは毎回E判定を喰らっていた俺には無理です。

 

【コンビニ店員(深夜)】

 1日3時間くらいでやれる。時給1400円という破格の給与。

 ただしこれを貼ったコンビニに深夜訪れる人間に心当たりがあるし因縁深い相手なので出来れば避けたいところ。

 

【新薬のテスター】

 怪しいバイト。なんか見たことも聞いたこともない会社名で、日給20万。

 相場は知らんけど、なんかおかしいので却下。

 

 ……ないなぁ。俺に向いてる仕事、見付からないなぁ。

 一応隅から隅まで見てみたけど、他は条件が合わないし今挙げたやつは俺に向いていなさそう。

 こりゃ今回は縁がなかったと思って諦めようかね?

 それに、仕事が見付けられなかったからって怒られる可能性は低いさ。

 母さんは仕事を見付けようとしたという時点でちょっと進んだとか言って励ましてくれると思うし、父さんは何か思うところがあるのかそれともないのかは知らないが最近あまり俺が引き込もっていることに文句を言わなくなってきた。

 日常会話はするけど俺の引きこもりの件については触れないことを決めたみたいだ。

 実に賢明だと思う。

 

 ……よし、帰ろう。合う仕事がないなら仕方ないんだ。無理して働く必要はない。今のところ。

 だからある程度自分に向いている仕事がここに貼られるまで待つんだ。

 待って、運命の出逢いを果たすんだ。

 俺の運命の、求人広告との出逢いを。

 

 そんな字ヅラだけは格好良いことを脳内で語ってから、俺は掲示板に背中を向けて歩き出……そうとしたところで、不意に遠くからこちらに近付いてくるリムジンを見付け、珍しいと思ってスマホを取り出し、カメラを起動する。

 んでもって無許可を承知で近くまでやってきたリムジンをタイミングよく写真に納め、その場を立ち去ろうとする。

 だが偶然にしてそのリムジンは掲示板に用があったのか、その前で止まると一枚のビラを貼り付けて去っていく。

 ……なんだ?

 リムジンが急に来てわざわざ商店街の掲示板に貼っていくようなビラってなんだ?という好奇心に動かされ、俺は貼られたビラを観察する。

 

【自宅警備員募集】

【未経験者可、性別、学歴問わず】

【時給5000円】

 

 それは正に破格と言って差し支えない求人広告。

 それだけでも怪しいとしか言いようがないほど破格の条件のそれは、さらに俺にとって興味の対象たりえる業種だった。

 自宅警備員だ。

 自宅警備員、それは我が家の安全を守り家族の生活を守る至高にして家族の理解を大抵は得られないという悲しい職業。

 ニートとの直接的な関係はないが、しかしニートの多くは名誉職たるこれを名乗ることで有名だ。

 これ、もしかして文字通り自宅を警備する警備員募集ってタイプの自宅警備員募集か?

 ついつい懐疑的になりつつも、俺の目は自然と求人広告を全部読んでやろうと動いてしまう。

 時給5000円の魔力に人の身では敵わないってことさ。

 しょせん俺も俗世の人間、金と地位と女には目が眩むものよ………

 どうせ無理だろうが。

 しかしそんなことを考える脳とは反対に、俺の体はその求人広告を自分以外誰も見ていないことを確認してから剥がし、懐にしまっていた。

 クズとかそういうことは触れるなよ。俺だって流石にこんな都合の良い求人見付けたら独占したくなっちゃうのよ。

 それに時給5000円なら、前々から欲しいと思っていたいくつかのものを迷わず購入できるだけの金が手に入る。

 こりゃやってみるしかないっしょ。

 ここから俺のウハウハブルジョア生活が始まるのだッ!

 ………ところで面接どこでやるんだ?

 そんなことに思い至って、懐にしまったばかりの求人広告の面接場所を確認してみる。

 

 求人広告に表記されていた時刻は、明日だった。

 うんうん、明日ね。明日の何時かが問題だよね。

 視線を横にずらし、時間を確認する。

【午前2時】

 ……思わず過呼吸になりかけて商店街のおばちゃんに心配されるほど大笑いした。

 アホか!草木も眠る時間に面接とか、アホか!

 でもよく考えると引きこもり()にとって一番動きやすい時間帯だよね午前2時!チクショウこの職業とことん天職すぎるぜ!

 

 

 

……いや、怪しさは増したけどね?


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